2022年06月20日

クジラの骨と僕らの未来 中村玄

クジラの骨と僕らの未来 中村玄(なかむら・げん) 理論社

 本の帯に『クジラ博士の研究航海記』と書いてあります。
 今年5月、自分は長野県松本市にある旧制松本高等学校の校舎を見学しました。亡くなった作家・精神科医の北杜夫さん(きたもりおさん)が在籍していた学校です。(1945年6月から(昭和20年)当時18歳。1947年に東北大学へ進学)どくとるマンボウという愛称で『どくとるマンボウ航海記』シリーズを高校生のときに楽しみました。きっとこの帯のキャッチフレーズは、そこからきているものなのでしょう。

 まずは、全体のページを1ページずつ最後までゆっくりめくります。
 プロローグがあって、第一章から第三章まであります。最後が、エピローグです。
 プロローグ:はじめに
 第一章:墓あばきから始まった
 第二章:南氷洋航海記
 第三章:クジラの骨と僕
 エピローグ:おわりに

 第一章の目次に『そうだ、南米に行こう!』とキャッチフレーズ(目に留まる文節)が書いてあります。
 観光旅行を誘うコマーシャル『そうだ、京都行こう!』からきているのでしょう。(JR東海、1993年からのキャッチフレーズです。平成5年)

 『骨』です。
 なんとなく、『解剖(かいぼう)』のにおいがします。

 第一章 『墓あばきから始まった』です。さし絵には『ハムの墓』と書かれたお墓を少年がシャベルで掘り起ししています。ハムはハムスターなのでしょう。
 その絵を見て、思い出したことがあります。
 自分の娘や息子たちがまだ小学生だったころ、ペットとして飼っていた亀が死にました。
 こどもたちは、当時住んでいたマンションのそばにある里山に亀の死体を埋めてお墓をつくりました。
 その後、何か月かたったあと、何をどう思ったのか知りませんが、こどもたちは、死んだ亀を埋めたお墓を掘り起こしました。相当不気味なものを見たようで、こどもたちは、ゲロを吐きそうになったと恐れおののいていました。

 なんだか、ホラー(恐怖小説)作品を読む前のような心理で、この本を読み始めます。

 ざーっと文章に目をとおしながら読んでいますが、作者は、かなりユニークな人のような感じです。(ユニーク:あまりいない人)

 99ページにクジラのさばき方の絵があります。
 解体ショーです。
 
 最後に作者紹介があります。
 小学生のころは、ダンゴムシが好きだったようです。
 先日読んだ読書感想文の課題図書『セカイを科学せよ! 安田夏菜(やすだ・かな) 講談社』にダンゴムシが好きな少年少女のことが書いてありました。

 さて、それでは、これから最初に戻って読み始めます。

(つづく)

 読み終わりました。
 狭い世界の出来事を深く語る本の内容でした。
 これから、大学関係で学者になりたい人、公益組織で研究者になりたい若い人向けのアドバイス書物です。
 いわゆるオタク(特定のことを極める人)を励ます本だと受けとめました。
 著者の大学卒業までの二十年間ぐらいのことが書いてあります。

 『鯨類額(げいるいがく)』を極める。(きわめる)
 自分が小学校低学年ぐらいまでのこどものころ、クジラをよく食べていました。
 熊本県の当時離島だったところで暮らしていたのですが、(現在は橋がかけられている)半農半漁の集落でした。
 冷凍クジラ肉をスライスした刺身が、冷たくておいしかった記憶が残っています。
 今どきは、捕鯨反対運動もあってか、クジラを食べたことがある人は少なくなったと思います。

 学者になるということは、学問の分野にもよるのでしょうが、一般サラリーマンとは暮らし方が違う暮らしを送ることになる人もいます。
 調査のために家をあけることが多いと、家族との交流をする時間が少なくなります。
 そういうことも考えながら学者をめざしたほうが無難です。

 中学生の時の著者のあだ名が、爬虫類(はちゅうるい)が由来の(ゆらい、起源)の『ハチュウ』でイヤだったそうです。
 先日テレビで、あだな使用禁止の小学校のことが出ていました。賛否両論あるのでしょうが、いやな人がひとりでもいれば、やめたほうがいいのでしょう。
 うちの妻も小学生のときに、肌の色が白かったので「しろぶた」と呼ばれるのがイヤだったそうです。わたしは肌の色が白い人が好きだったので、妻を好きになったと話したことがあります。

 『カナヘビ』のことが出てきます。トカゲのような姿をしたヘビです。同じく読書感想文コンクールの課題図書になった『セカイを科学せよ! 安田夏菜(やすだ・かな) 講談社』で、昆虫類生きもの好きの女子中学生がカナヘビがらみの言動をしていました。
 あわせて、グリーンイグアナのことが書いてあります。たしか、名古屋の東山動物園に自然動物館という建物があって、そこで飼育されています。爬虫類(はちゅうるい)や両生類(りょうせいるい)をおもに展示してある建物です。
 
 著者は、中学2年生で『フトアゴヒゲトカゲ』を飼います。オーストラリア原産です。
 本体1万9800円、必要な水槽等を準備して3万円以上を自分の貯金でつぎこみました。
 中学校で変わり者扱いをされますが、その後、大学へ行くと、もっとすごいメンバーがゴロゴロいます。全国からお仲間集合です。
 
 師弟関係があります。中学校の理科の女先生がすごい。牛や豚を生徒の前で解体します。
 すごい授業です。
 牛や豚は、一般的には『食べるための家畜』です。商業用家畜というようなことを聞いたことがあります。愛玩動物(あいがんどうぶつ。ペット)ではありません。

 25ページに著者が飼育した動物類の絵と文章があります。
 わたしも小学生の時はたくさん生き物を飼っていましたが、その数は、全然負けています。

 『ハムの墓』は、やっぱりハムスターのお墓でした。
 ゴールデンハムスターです。
 うちで小学生だったこどもたちが飼っていたのは、ジャンガリアンハムスターだったような記憶です。
 著者は、死んだハムスターの墓を掘り起こして、白骨化したハムスターの骨格標本をつくりあげています。著者は当時中学生です。すごいなあ。

 意外だったのは、高校受験で第一志望の公立高校で不合格になっていることです。第二志望の私立高校へ入学されています。高校受験の失敗が、人生全体の失敗になるわけではないのです。
 著者は、高校一年生の秋に、交通事故死したタヌキの骨格標本をつくっています。タヌキとアナグマの食べた時の味の違い、ムジナという呼び方については、初めて知りました。

 高校の理科室にあるウシガエルのオタマジャクシの液体漬けの標本のことが出てきます。
 昔、うちの息子が小学生だった時に、愛知県の佐久島(さくしま)というところで夏休みのこども向け一泊二日の活動に参加してつくったウニのホルマリン漬けみたいなビンが、今も本棚にあります。そんなことを思い出しました。
 透明骨格標本というものの説明が本にあります。自分はそういうものを見たことがありません。もう、オタク(マニア、ファン)の世界です。
 大学の話が出てきたところまで読んで、大学は、目的をもって行くところだと判断します。資格をとるとか、学者で食べていくとか、学閥(がくばつ)を利用して就職するとか、目的が必要です。ただなんとなく行くのならやめたほうがいい。

 『そうだ、南米にいこう!』という文章の項目からは、南米には生き物がたくさんいるからだという理由と意欲が伝わってきます。
 母親が高校時代に外国に留学していたことがあるそうです。たいていは、親がしたことをこどももします。
 著者の行き先は、アルゼンチンです。生き物の宝庫だそうです。アルゼンチンは、治安が良くて、美人が多くて、お肉がおいしいそうです。
 同じ南米でもブラジルの都市は治安が悪そうです。アルゼンチンの治安がいいのはちょっと意外でもあります。首都ブエノスアイレスの意味は「いい空気」だそうです。
 スペイン語が出てきます。
 テンゴ アンブレ:おなかがすきました。
 ソコーロ:助けて!
 ドンデエスタエルバーニョ:トイレはどこですか?
 同じく読書感想文の課題図書で、スペイン語がちょこちょこ出てきた本に『海を見た日 M・G・ヘネシー/作 杉田七重(すぎた・ななえ)/訳 すずき出版』がありました。
 世界各国から来た60名近くの留学生です。そのうち日本人は6人だったようです。
 ホストファミリー:外国からの留学生を受け入れて世話をしてくださるご家族

 アルゼンチンでの滞在期間は長い。高校三年生のときです。一年間の外国留学でした。
 著者は帰国して高校三年生を2回体験しています。
 東京水産大学に合格できて良かった。

 ビスカーチャ:うさぎみたいな生き物
 マリネ:肉、魚、野菜をつけ汁(酢やレモン汁)につけこむ。ビスカーチャを食べるときマリネにする。パンにはさんで食べる)

 49ページに、骨を観察する絵があります。

 アルゼンチンで見られるクジラとして『ミナミセミクジラ』:体長18メートル、体重18トン以上になる。

 著者は、自宅の台所で、魚の骨格標本をつくります。
 大きなカツオの頭蓋骨が始まりでした。
 同じもの(カツオの頭)をふたつ用意して取り組んでおられます。同じものがふたつあれば、心の余裕も十分です。
 多種多様なお魚がいますが、構成している骨の種類と個数はみんな同じだそうです。知りませんでした。祖先が同じなのです。

 マグロの解体ショーが出てきます。
 次回のテレビ番組『旅猿』のテーマが、和歌山でマグロの解体ショーに挑戦でした。ジミー大西さんと岡村隆史さんがチャレンジします。
 岡村隆史さんは、大阪堺の包丁づくりの会社で、何万円もするいいマイ包丁を購入しました。
 見るのが楽しみです。

 64ページに『ないわホネホネ団』による『ホネホネサミット』と書いてあります。
 いろんな世界があるのだなあと感心しました。
 『ホネの水族館』という展示があります。ふーん。たくさんの魚の骨が展示されています。

 大学4年生で、マッコウクジラの解体に立ち会います。
 場所は茨城県大洗海岸です。(おおあらいかいがん)
 自分は小学生の時に大洗海岸へ行ったことがあります。思えば、放浪癖のある亡くなったオヤジに連れられて、こどものころは、日本各地のいろんなところに行きました。

 輪読(りんどく):同じ本を複数で読んで、感想を各自が発表して、本の内容を分析、検討する。勉強会です。

 沖縄美ら海水族館(ちゅらうみすいぞくかん)が出てきます。
 沖縄海洋博(昭和50年)のあとの水族館を見学したことがあります。
 
 ブリーチ:クジラのジャンプ

 文章を読んでいて思ったことがあります。
 先日の知床半島遊覧船沈没事故以来、観光地での乗り物に危機感をもつようになりました。人に対する不安感も同時に生まれました。
 信頼関係がなくなったら、この世ではなにもできなくなります。

 クジラというのは、目が見えているのか。
 クジラのほうが人間に寄ってきます。クジラの観察会ではなくて、クジラによる人間の観察会みたいな雰囲気になってきました。
 クジラには知能があります。

 朝が早い生活です。
 クジラとかお魚の研究は早起きでなければなりません。
 鮎川(地名):宮城県牡鹿半島の南にある港
 
 きちんと記録をとって残す人の文章です。

 今度は、ミンククジラです。小型。体長7メートルぐらい。
 深さ2メートル、3×4メートルぐらいの穴をほって、肉がついたクジラの骨を埋めます。
 2、3年後に掘り起こして、クジラの骨格標本にします。いいものをつくるのには時間がかかります。

 尾籠(びろう):不潔、無作法(ぶさほう)

 98ページから99ページにかけて、クジラの解体のしかたが絵で描いた説明があります。
 死んでいるからモノ扱いです。

 第一章が終わりました。
 第二章から南極です。
 大学4年生の中頃に南氷洋行きの話が舞い込みます。前向きな著者ですから当然申し込みます。
 南極海鯨類捕獲調査船団(なんきょくかいげいるいほかくちょうさせんだん)によるクジラの調査に参加します。調査母船、三隻(せき)の目視採集船、二隻の目視専門船、けっこう大所帯なことに驚かされました。総勢230人ぐらいです。
 日本の山口県下関市を2006年11月に出発して、翌年3月末に帰国します。帰国まで、日本の港を出たら、船から地上に降りることはありません。好きでなければやれないことです。5か月かかります。
 山口県下関の港の話あたりには、旅のだいご味があります。(期待、おもしろさ、楽しみにしている気持ち)。下関あたりは何度か行ったことがあるので、文章を読みながら、光景を想像することが楽しい。
 106ページにある調査母船の構造図は、まるで、ひとつのまち(町、街)のようです。
 
 南極まで、時速約26キロメートルで船は進みます。1か月ぐらいかかっています。南半球ですから、12月ころは夏です。
 なんでもそうですが、まずは好きでないと続きません。対象物が好きだったり、その行為が好きだったりします。
 お金はその次です。
 根気がいります。(こんき:続ける気持ち。長く続ける気力)

 118ページのおふろに入っているときの絵がおもしろい。
 船ですから揺れます。おふろも揺れます。

 フィールドワーク:現地調査

 調査捕鯨でクジラを捕獲して観察、分析をします。クジラの命は失われます。3か月で800頭を調べるそうです。(この部分を読んでいて、なんとなく、捕鯨反対団体の活動のことが頭をよぎりました)
 読んでいると、調査員のほうも命がけです。
 クジラも暴れます。
 先日読んだ課題図書『建築家になりたい君へ』を書いた建築家の隈研吾さん(くま・けんごさん)も若い時にアフリカで原住民の住む住宅調査をされています。
 運が良かったのだと思います。殺されても仕方がないような立ち入った調査を現地の集落で行っておられました。

 一頭目のクジラの体に日本酒をかけて、これからの調査の無事をみんなで祈ります。
 太古の時代、おそらく卑弥呼(ひみこ)がいたときには必ずあった祈りの儀式です。
 神さまは目には見えませんが、神さまは存在すると信じたほうが安心して暮らせることもあります。
 儀式は大事です。

 クジラを始めとした南氷洋の生きものの食べ物がナンキョクオキアミです。
 エビのように見えます。体長が4センチほどだそうです。
 どうしてオキアミという名前なのだろう。
 調べました。『アミ』は、日本の古い言葉でエビのことだそうです。沖にいるエビだからオキアミだそうです。驚いたのは、ナンキョクオキアミは、名古屋港水族館にいるそうです。何度も行ったことがある水族館です。ペンギンばかりを見ていました。

 ほーっと感心したことがあります。
 クジラは眠らないというような記述があります。正確には眠るのですが、『半球睡眠』というそうです。右脳と左脳が交互に眠るそうです。

 いろいろ読み進めていると、クジラ解体のグロテスクなシーンも出てきます。
 捕鯨反対の人が読んだら、さらに捕鯨に反対する気持ちが強まりそうな記述内容です。調査捕鯨の必要性と重要性を補記しておいたほうがよさそうなこの本です。
 そう思いながら読んでいたら、やっぱり、141ページで、『シーシェパード』が出てきました。2月9日のことです。
 かなり過激な抗議行動があります。シーシェパードの人たちは、クジラがかわいそうという人情で動いているのでしょう。
 臭い爆弾みたいなものが調査船に投げ入れられます。びんの放り投げ攻撃です。発煙筒も投げ込まれます。
 読んでいると、捕鯨に反対しているというよりも、騒いであばれて、ストレス解消をしているようにも思えます。さわぐことで、気持ちすっきりです。
 シーシェパードの乗組員が海に転落して、捕鯨団が乗組員を救助に向かっています。それでもシーシェパードのメンバーは、調査船への攻撃をやめてくれません。なんなんだろう。そのことは、テレビニュースで見た覚えがあります。

 それも、過去のことになってしまいました。
 2018年12月に日本は国際捕鯨委員会を脱退して、南極での捕鯨をやめて、日本近海だけの捕鯨をすることになりました。
 著者の考えでは、南氷洋のクジラ資源は、世界の食糧不足に備えるための資源だと残念がっておられます。
 ウクライナが戦争で穀物輸出ができず、世界の貧困地域での食糧危機が予想されている今、クジラの食料資源が必要になるかもしれないとこの本を読んでいて思いました。

 最後は、クジラの骨の話に戻ります。
 アルゼンチンでの活動と表彰歴について書いてありました。

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