2022年02月24日

海馬 脳は疲れない 池谷裕二 糸井重里

海馬(かいば) 脳は疲れない 池谷裕二 糸井重里 新潮文庫

 脳についての対談集です。
 2002年(平成14年)当時のこととして、次の状態でスタートします。
 池谷裕二(いけがや・ゆうじ):脳の研究者。31歳。東京大学薬学部に所属する学者。小学生の時は、漢字の成績が極端に悪かった。漢字の読み書きがにがてだった。また、算数の九九ができなかった。おとなになった今も九九はあまりできない。電卓を使用している。九九のまる暗記ができない。ひとつずつ計算して答を導き出す脳みそになっている。公式を暗記しない。9かける8は、90から9を2回引いて、72という答えを導き出す。それでも一番得意な科目は数学である。(問題をつくる側の人間としての能力が優れている(すぐれている))親からは、一度も勉強しなさいと言われたことがない。中学生になって、英語を学び出したことがきっかけになって、勉強の能力が花開いた。

 糸井重里(いとい・しげさと):コピーライター(広告文案作成者)。53歳。こどもの頃塾で「あなたは来なくていい」と言われたことがある。

 表紙をめくります。脳みその絵、脳の説明図から始まります。
 脳みその中身の名称と位置図です。
 大脳、小脳、脊髄(せきずい)、延髄(えんずい)、扁桃体(へんとうたい。好き嫌いを判断する部位)…… そして、海馬(かいば。情報が必要か不要かを判断する部位。小指ぐらいの大きさ。長さ5センチぐらい。直径1センチぐらい)です。
 (タイトルの「かいば」。海の馬、語源は何だろう。調べてみました。ギリシャ神話に出てくる海の神ポセイドンが乗った馬車を半分馬、半分魚の動物が引っ張っているのですが、その馬のしっぽの形(すがたかたち)に海馬の形状が似ているそうです。ほかには、タツノオトシゴの形に似ているという説もあるそうです)

 目次に目を落とします。
 『ウソをつくのが脳の本性』とあります。
 瞬間的につじつまの合う嘘をつける人がいます。だまされたほうは、人間不信になります。
 この世は、上手にイメージづくりをした人が、金もうけができる仕組みになっています。詐欺(さぎ。だまし)です。気をつけましょう。
 
 この本の趣旨です。『よりよく生きるために、頭を良くする』

 高齢者がすぐに思い出せないのは、長く生きてきて、たくさんの情報を脳にためたからだそうです。(そうだったのか。こどもは、ためた情報量が少ないから、簡単に思い出せるそうです)

 脳は、手を動かすことによって活発に活動するそうです。
 最近、手書きや手処理をばかにするコマーシャルをテレビで見て不快になりました。手仕事で社会を支えてきた高齢者世代を見下しています。製作者の気持ちが映像に表れています。

 今年読んで良かった本になりそうです。

 新鮮な情報に触れ続けることで、若さを保てる。

 『物知り』と『頭がいい』は違う。

 『バランス』の話が出ます。何事も相反する(あいはんする)ふたつの力があって、安定を保っています。アクセルとブレーキです。

 文脈は、理屈をこねくり回して楽しんでいるような雰囲気です。自画自賛のやりとりで満足するおふたりです。褒め合う(ほめあう)

 『こどもは、(自由な時間がたっぷりあって)根気があるから、ポケモンカードを一日中見ていられる。だから、ポケモンの名前を何百も憶えられる(おぼえられる)』(自分は、そういうちびっこを知っています)

 本のサブタイトルにある『脳は疲れない』という言葉が出てきました。
 脳にとって、休憩は良くないそうです。(体は休めても)脳の中では、考え続けたほうがいいそうです。『脳はいつでも元気で、ぜんぜん疲れない』そうです。疲れるのは目を始めとした姿勢がらみの体のほうだそうです。
 『人間は眼に頼る』自分は、老眼と片目が病気になってから、目が見えにくくなり、そのことが、脳にも不都合な影響があって、物事を考えることがすんなりいかなくなりました。本に書いてあることについて、実感があります。

 いろいろ書いてあるのですが、どこまでが本当だろうかという懐疑心が生まれます。(かいぎしん:疑う心。信用していいのだろうかという迷い)
 
 問題集を全部解けても、最高の能力ではない。問題をつくる側の人間になれなければ、人に使われているだけのポジションというような意味合いの文章があります。(なるほど。お金持ちになるには、雇われサラリーマンではなく、個人事業主で、人を雇う立場にならねばならないということはあります)

 脳の錯覚について書いてあります。95ページ以降に続く図や絵は不思議です。
 だまし絵です。
 『人間はものを両目では見ていない(脳が見える物を調整処理している。脳は自分の都合のいいように見なかったことに処理するそうです)』
 そういえば、昔読んだ外国の本に、目の手術をした盲人の人が、手術をして見えるようになってから、それまで目が見えなくてもできていたことが、できなくなったとありました。
 見えるということは、目だけではなく、脳神経や脳細胞の理解がつながっているそうです。結局、目の手術をした人は、見えていても見えないと意識して生活したそうです。

 『情報を保存する(記憶する)』
 単なる暗記が「意味記憶(暗記メモリー)」
 体験で記憶するのが「方法記憶(経験メモリー』
 経験メモリー同士がつながると爆発的に頭の働きが良くなるそうです。
 
 記憶で大事なことが『可塑性(かそせい)形を変える。変化したものが変化した状態で残る』
 可塑性とは、記憶をすることができるという状態。そうでないと、人間は環境に適応できない。
 可塑性に富んだ場所が『海馬(情報の取捨選択を行う部位)』
 
 本に書いてあることと類似の自分の事例として、『あのときは、たいへんだったなあ』という思い出があるのですが、具体的に何がたいへんだったのかという記憶が残っていません。
 海馬が記憶の取捨選択をしたのでしょう。

 偏桃体(へんとうたい):脳にある。感情の記憶を担当している。以前読んだ本があります。『アーモンド ソン・ウォンピョン 矢島暁子 訳 祥伝社』生まれつき喜怒哀楽の感情を表現する力が乏しい(とぼしい)青年のお話でした。偏桃体(豆であるアーモンドの形をしている)です。
 人の名前は忘れても、その人が自分にとっていい人かそうでないかは思えている。
 偏桃体は危険から自分の身を守るためにあるようです。偏桃体がなくなると『恐怖心』がなくなるそうです。
 
 認知症の状態のようなお話が出てきます。
 自宅へ帰れない高齢者というような話が出てきます。
 
 海馬への入力が大事(経験をするということと理解しました)
 喜怒哀楽の刺激をたくさん受けることが大事とあります。
 病院のベッド上でずっと寝ていると海馬の働きが衰える。

 ほどよい旅は、頭をよくするそうです。
 糸井重里さんのお母さんは、80歳でアフリカのケープタウンに行かれたそうです。すごい。あやかりたい(そのようになりたい)ものすごくお元気だそうです。

「第三章 脳に効く薬」
 この部分を読んだあと、化学兵器とか、毒という言葉が思い浮かびました。脳の機能を薬物で破壊するのです。例として、フグ中毒。
 逆に、認知症をよくするとか、長寿になるという効果の話もあります。
 薬というものは恐ろしい。人を生かしも殺しもします。

 シナプス:脳にある神経細胞同士をつなぐ。神経細胞が都市で、シナプスが交差点。シナプスには、可塑性がある。かそせい。変化したあとの形を維持する。
 
 薬は、薬が効いている間だけ効果がある。

 一部の機能だけ上昇させて、知性のバランスがとれなくなってしまってはいけない。
 ドーピングという言葉が出てきます。もめた冬季オリンピックの女子フィギュア選手を思い出しました。
 
 薬局で売っているサプリメントのような話も出てきます。
 朝鮮人参、イチョウの葉、漢方薬、DHA(栄養素)など。
 大学の薬学部とか薬剤師とかの仕事を思いうかべる文脈です。

 サムゲタンは韓国に行ったときに食べました。
 食べ方がよくわからなくて、塩をかけすぎてしまいました。
 丸裸の鳥が、スープのなかで、鳥の姿で沈んでいました。

 やる気を生み出す脳の場所が『側坐核(そくざかく)』リンゴの種みたいな部位。

 睡眠の大切さについて書いてあります。
 眠らないと幻覚、幻視が発生するそうです。
 サーカディアンリズム:寝て起きて生活するリズム。
 眠っている間に、海馬が『夢』をつくる。寝ないと、起きているときに夢をつくってしまう。
 睡眠は無駄な時間ではないとあります。よく眠りましょう。

 2002年のことなので、『認知症』という言葉ではなく、『痴ほう症』という言葉が出てきます。2004年に厚生労働省が、『認知症』という言葉を言い出しています。
 脳神経細胞が死んでしまう。死んだ細胞は生き返らない。治療としては、生き残っている神経細胞の可塑性を高める(能力を高める)、もうひとつが、生き残っている神経細胞を死なないようにさせる。
 アルツハイマー型認知症:脳神経細胞が早く減る。もの忘れ。時間や場所がわからなくなる。暴言、暴行、不安な行動心理状態になる。やがて寝たきりになって死亡する。
 パーキンソン病:手の震え。動作緩慢。ころびやすい。

 225ページまで読みました。この本は、脳を科学で研究する本です。
 自分も脳の病気で手術をして入退院を繰り返したことがあるので、身近に感じながら読み続けています。

 ドーパミン:神経伝達物質。脳内ホルモン。やる気が出る。
 
 ひと安心できる言葉として『ミスをしたサルのほうが記憶の定着率がいい』間違えることは、脳にとっては飛躍のチャンスだそうです。やはり、失敗は成功のもと。ピンチはチャンスなのです。

(つづく)
 全体を読み終えました。
 わかったことです。
 脳は疲れない。疲れたと感じるのは、目の疲れと、姿勢による体の疲れ。脳は疲れないので、どれだけ使ってもいい。長時間使うと、すごいこともできる。(例として、手塚治さんと宮崎駿(みやざきはやお)さんのマンガ・アニメ製作仕事時間がとても長い。膨大な量をつくれば、それらの中から選び出されて、いいものが残る)

「第四章 やりすぎが天才をつくる」
 経験メモリー(「方法記憶」「HOWの記憶」)
  経験メモリーを得れば得るほど、能力は飛躍的に高まる。(2の何乗という飛躍的な割合)
  脳細胞のつながり、組み合わせの話があります。
  『てんかんは、脳神経細胞の重婚状態』
  『頑固(がんこ)が頭を悪くする』頑固は、パターンの組み合わせが少ない。

「あとがき」から
 『心とは、脳が活動している状態を指す』
 大事なのは、脳神経細胞のつながり。
 つながりから、新しい物事を発見する。
 『試行錯誤、探求と失敗の繰り返し、人生とは、「編集作業」』とあります。
 
(その他)
 池谷裕二さんは世界中を旅されたそうです。
 貧困は、即、不幸ではないという光景を見たというレポートがあります。
 食べ物や薬や衣類がなくても、子どもたちや親たちは、そこにある物や環境のなかで、最高に幸せそうに暮らしていたそうです。(幸せの基準は千差万別ということでしょう。(せんさばんべつ。ありとあらゆる状態がある))
 以前、江戸時代に日本を訪れた外国人の手記を読んだことがあります。世界中を旅したけれど、日本は、楽園のような素晴らしい国だという評価でした。海の幸、山の幸に恵まれ、豊かな食生活がある。こどもの顔はまるまるとしていて笑顔がある。自然は美しく、ことに富士山が美しい。支配している武士は、よその国と違って、質素な暮らしをしている。士農工商という身分制度はあるけれど、当事者たちは、身分の上下を意識しないで仲良く暮らしている。世界で一番幸福に暮らせる国だというものでした。読んで、とても嬉しかったです。

 『目に見えているものだけが、すべてではない』

 『人間にとって「神さま」という存在は必要である』(人間の脳は、『神』の存在を認めている。側頭葉に「神さまが見える領域」があるそうです)

 今年読んでよかった本でした。
 既成概念を壊す良書でした。(きせいがいねん。そいういうものだという考え方の枠組み(わくぐみ)を壊す)

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