2021年11月08日
こちらあみ子 今村夏子
こちらあみ子 今村夏子 ちくま文庫
別の本でこの本が紹介されていたので興味をもち取り寄せて読み始めました。
「あみ子」変わった名前です。どういう意味なのだろう?
本のカバーには、次のとおりあります。
あみ子:風変りな女の子
優しい父
一緒に登下校してくれる兄(その後、兄は不良になる。こーちゃん。孝太)
母親は妊娠中で、書道教室の先生をしている。(さゆりさん。その後やる気がなくなる)
(あみ子さんが所属するのは田中家です)
あみ子のあこがれる男子同級生が、のり君(鷲尾佳範)です。
短編3本です。
「こちらあみ子」
途中まで読みました。あみ子という女性の小学生時代のふりかえりです。
あみ子さんは、いま、17歳か18歳ぐらいに思えます。
あみ子さんは、知的障害があるのだろうか。
大きくなったあみ子さんのそばに、さきちゃんという小学生がいます。
いまは、あみ子さんは祖母と暮らしている。どうも、あみ子さんが15歳のときに、あみ子さんが祖母宅へ引越してきたらしい。
心に響いた文節などとして『あみ子の馬鹿(あみ子の父親の車に付けられた傷)』『赤い部屋(母親が書道教室をしている赤いじゅうたんが敷かれた部屋』『「こめ」書道の練習文字(「こ」の下の棒から墨がたれて、よだれのように見える)』
あみ子さんの小学一年生から五年生ぐらいまできました。
二十四枚撮りの使い捨てカメラ:なつかしい。写ルンです(うつるんです商標名。1986年昭和61年発売開始)
(つづく)
『あみ子さんはおねえちゃんになるのよ』
(その後:母は流産したのか)
あみ子さんも、孝太さんも、お父さんも優しい(母は無理して自分を納得させようとして忍耐して心が折れました。心が壊れました)
死産して『弟のお墓』
死産は、母の人格を変えることもあるようです。母はうつ病になったようです。『母が寝てばかりいるのはこころの病気のせいなのだと……』波が広がるように母親の周囲にいる人の性格も変化していきます。
あみ子は小学五年生になります。
気持ちを上手に表現してある文章です。
文学を愛する人は、うわべだけを重視する人たちとは違う世界にいます。
『境遇(きょうぐう。家庭環境、経済状況、親族・人間関係)』があります。『不幸』に対峙(たいじ。向かい合った)したときの『不幸』との向き合い方について、読みながら、いろいろと考えます。
兄は十二歳でたばこを吸い始めます。加えて、暴力的になります。
今年読んで良かった一本です。
壮絶です。
あみ子は、中学生になりました。
悲しみがただよっています。どうすることもできない哀しみです。(哀れ(あわれ)さを伴った悲しみ)
あみ子に幻聴が聞こえ始めます。霊がいるのです。
心の具合が悪い人は、お風呂に入らない人が多い。
あみ子は、自分がいじめにあっていることを実感できていません。
「文字書き」が、美しいとか汚いとかいう話があって、こだわりがあります。
徐々に家族関係の秘密が表面に出てきます。
あごの左下の大きなほくろという記事に心臓がどきっとしました。(身内にそういう女性がいました。今は医者で切除してもらって、ほくろはなくなりました)
そうか、そういう展開なのか(ここには書けません)
同作者の作品『星の子』が頭に浮かびました。
『離婚だ。(でも離婚はありません)』
重厚です。(内容がぶ厚くてどっしりとしている)
渾身の一作です。(こんしん。全神経を注ぎ込んだ)
『中学を出たら引越す』
110ページでタイトル『こちらあみ子』の意味が判明します。ちょっとした感動があります。
標準ではないことで、いつも、はばちょ(仲間はずれ)にされてきた。
『共存』ではなく、『排除』された。
すごい。凄みがありました。(すごみ。ぞっとする迫力)
「ピクニック」
『ローラーガーデン』という男性接客向けのアルコール提供店舗があって、若い女性たちが、ビキニ水着を着て、ローラースケートにのって飲食物を運んでくれるのです。
ローラースケートにはのれないけれど、アルバイトで接客をする七瀬さん37歳ぐらい女性が主人公です。
彼女の彼氏が、お笑いタレントの春げんき(はる・げんき)という男性という設定で、お話が始まります。ルミさんほかの女性たちが、七瀬さんをとりまきます。
七瀬さんが十二歳ぐらいだったころの出来事として、春げんきさんが、川に大事な自分の靴を落としたことが縁で、十四年後に付き合いが始まったという七瀬さんと春げんきさんの恋話です。
文章にリズム感があります。読みやすい。
春げんきさんが持っていて川に落としたという携帯電話は、スマホではなくガラケイなのだろう。
鋤(すき):川をさらうために七瀬さんが購入した農具
虫刺されの跡とされるものは、副乳だった。(自分も昔皮膚科で複数の細かなものをとってもらったことがあります。なんとかという液体で焼いてもらいました)
お店に若い新人女子が登場します:『その言い方には明らかに悪意がこめられていた』『放っておくのが一番だと思います』憎たらしい新人ですが、真実を知る人でした。
読み手は、何が本当のことなのかわからなくなって混乱します。人間社会は、誤解と錯覚で成り立っています。
176ページまできて、仕掛けがわかりました。『虚言』があります。作者は、話をどう落とすのだろう。悲しみ、いたわり、優しさがあります。
みんなは、事実を知っていて、遊んでいたのでしょう。
人間の残酷な一面を表現した秀作でした。
「チズさん」
難解です。ショートショートのようでもあります。(短い作品。ユーモア、サスペンス、読後感がすーっとくるもの)
思うに、登場する「わたし」は、ネコではなかろうか。あるいは幽霊、亡霊です。
チズさんという認知症らしきひとり暮らしのおばあさんがいます。東海林チズ(しょうじ・ちず)というお名前で米寿ですから八十八歳です。
思い出話ですから、チズさんはもう亡くなっています。
チズさんには、千葉に住むみきおさんというお孫さんがいます。チズさんは、近所で遊ぶ子どもさんを見ると、だれかれとなく、みきおさんと呼びかけます。チズさんは、ぼけているのです。
昔自分が入院していたころ、同じ大部屋に入っていた高齢の男性が娘の顔を見たいとせつなく訴えました。娘が見舞いに来ると「違う!」と言い出しました。男性が会いたかったのは、幼児期の娘さんであり、大人になった娘さんは男性の思う娘さんとは別人でした。
孤独死の確認のようなぞっとする場面が出てきます。
新聞ではたまに報道がありますが、現実にはこの国では、日常茶飯事の出来事です。
チズさんには、親類筋をたらいまわしにされた形跡があります。
『おらおらでひとりいぐも』という作品を思い出しました。同系列の作品でしょう。若竹千佐子作品で2017年芥川賞受賞作です。なおこちらの作品は2014年の文庫にあるものです。
自分が自分を自分と理解できなくなったとき、もうこの世に自分はいない気がします。
別の本でこの本が紹介されていたので興味をもち取り寄せて読み始めました。
「あみ子」変わった名前です。どういう意味なのだろう?
本のカバーには、次のとおりあります。
あみ子:風変りな女の子
優しい父
一緒に登下校してくれる兄(その後、兄は不良になる。こーちゃん。孝太)
母親は妊娠中で、書道教室の先生をしている。(さゆりさん。その後やる気がなくなる)
(あみ子さんが所属するのは田中家です)
あみ子のあこがれる男子同級生が、のり君(鷲尾佳範)です。
短編3本です。
「こちらあみ子」
途中まで読みました。あみ子という女性の小学生時代のふりかえりです。
あみ子さんは、いま、17歳か18歳ぐらいに思えます。
あみ子さんは、知的障害があるのだろうか。
大きくなったあみ子さんのそばに、さきちゃんという小学生がいます。
いまは、あみ子さんは祖母と暮らしている。どうも、あみ子さんが15歳のときに、あみ子さんが祖母宅へ引越してきたらしい。
心に響いた文節などとして『あみ子の馬鹿(あみ子の父親の車に付けられた傷)』『赤い部屋(母親が書道教室をしている赤いじゅうたんが敷かれた部屋』『「こめ」書道の練習文字(「こ」の下の棒から墨がたれて、よだれのように見える)』
あみ子さんの小学一年生から五年生ぐらいまできました。
二十四枚撮りの使い捨てカメラ:なつかしい。写ルンです(うつるんです商標名。1986年昭和61年発売開始)
(つづく)
『あみ子さんはおねえちゃんになるのよ』
(その後:母は流産したのか)
あみ子さんも、孝太さんも、お父さんも優しい(母は無理して自分を納得させようとして忍耐して心が折れました。心が壊れました)
死産して『弟のお墓』
死産は、母の人格を変えることもあるようです。母はうつ病になったようです。『母が寝てばかりいるのはこころの病気のせいなのだと……』波が広がるように母親の周囲にいる人の性格も変化していきます。
あみ子は小学五年生になります。
気持ちを上手に表現してある文章です。
文学を愛する人は、うわべだけを重視する人たちとは違う世界にいます。
『境遇(きょうぐう。家庭環境、経済状況、親族・人間関係)』があります。『不幸』に対峙(たいじ。向かい合った)したときの『不幸』との向き合い方について、読みながら、いろいろと考えます。
兄は十二歳でたばこを吸い始めます。加えて、暴力的になります。
今年読んで良かった一本です。
壮絶です。
あみ子は、中学生になりました。
悲しみがただよっています。どうすることもできない哀しみです。(哀れ(あわれ)さを伴った悲しみ)
あみ子に幻聴が聞こえ始めます。霊がいるのです。
心の具合が悪い人は、お風呂に入らない人が多い。
あみ子は、自分がいじめにあっていることを実感できていません。
「文字書き」が、美しいとか汚いとかいう話があって、こだわりがあります。
徐々に家族関係の秘密が表面に出てきます。
あごの左下の大きなほくろという記事に心臓がどきっとしました。(身内にそういう女性がいました。今は医者で切除してもらって、ほくろはなくなりました)
そうか、そういう展開なのか(ここには書けません)
同作者の作品『星の子』が頭に浮かびました。
『離婚だ。(でも離婚はありません)』
重厚です。(内容がぶ厚くてどっしりとしている)
渾身の一作です。(こんしん。全神経を注ぎ込んだ)
『中学を出たら引越す』
110ページでタイトル『こちらあみ子』の意味が判明します。ちょっとした感動があります。
標準ではないことで、いつも、はばちょ(仲間はずれ)にされてきた。
『共存』ではなく、『排除』された。
すごい。凄みがありました。(すごみ。ぞっとする迫力)
「ピクニック」
『ローラーガーデン』という男性接客向けのアルコール提供店舗があって、若い女性たちが、ビキニ水着を着て、ローラースケートにのって飲食物を運んでくれるのです。
ローラースケートにはのれないけれど、アルバイトで接客をする七瀬さん37歳ぐらい女性が主人公です。
彼女の彼氏が、お笑いタレントの春げんき(はる・げんき)という男性という設定で、お話が始まります。ルミさんほかの女性たちが、七瀬さんをとりまきます。
七瀬さんが十二歳ぐらいだったころの出来事として、春げんきさんが、川に大事な自分の靴を落としたことが縁で、十四年後に付き合いが始まったという七瀬さんと春げんきさんの恋話です。
文章にリズム感があります。読みやすい。
春げんきさんが持っていて川に落としたという携帯電話は、スマホではなくガラケイなのだろう。
鋤(すき):川をさらうために七瀬さんが購入した農具
虫刺されの跡とされるものは、副乳だった。(自分も昔皮膚科で複数の細かなものをとってもらったことがあります。なんとかという液体で焼いてもらいました)
お店に若い新人女子が登場します:『その言い方には明らかに悪意がこめられていた』『放っておくのが一番だと思います』憎たらしい新人ですが、真実を知る人でした。
読み手は、何が本当のことなのかわからなくなって混乱します。人間社会は、誤解と錯覚で成り立っています。
176ページまできて、仕掛けがわかりました。『虚言』があります。作者は、話をどう落とすのだろう。悲しみ、いたわり、優しさがあります。
みんなは、事実を知っていて、遊んでいたのでしょう。
人間の残酷な一面を表現した秀作でした。
「チズさん」
難解です。ショートショートのようでもあります。(短い作品。ユーモア、サスペンス、読後感がすーっとくるもの)
思うに、登場する「わたし」は、ネコではなかろうか。あるいは幽霊、亡霊です。
チズさんという認知症らしきひとり暮らしのおばあさんがいます。東海林チズ(しょうじ・ちず)というお名前で米寿ですから八十八歳です。
思い出話ですから、チズさんはもう亡くなっています。
チズさんには、千葉に住むみきおさんというお孫さんがいます。チズさんは、近所で遊ぶ子どもさんを見ると、だれかれとなく、みきおさんと呼びかけます。チズさんは、ぼけているのです。
昔自分が入院していたころ、同じ大部屋に入っていた高齢の男性が娘の顔を見たいとせつなく訴えました。娘が見舞いに来ると「違う!」と言い出しました。男性が会いたかったのは、幼児期の娘さんであり、大人になった娘さんは男性の思う娘さんとは別人でした。
孤独死の確認のようなぞっとする場面が出てきます。
新聞ではたまに報道がありますが、現実にはこの国では、日常茶飯事の出来事です。
チズさんには、親類筋をたらいまわしにされた形跡があります。
『おらおらでひとりいぐも』という作品を思い出しました。同系列の作品でしょう。若竹千佐子作品で2017年芥川賞受賞作です。なおこちらの作品は2014年の文庫にあるものです。
自分が自分を自分と理解できなくなったとき、もうこの世に自分はいない気がします。
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