2021年06月09日

アーニャは、きっと来る マイケル・モーパーゴ

アーニャは、きっと来る マイケル・モーパーゴ作 佐藤見果夢(さとう・みかむ)訳 評論社

 全体で9章あるうちの1章を読み終えたところで、本の表紙の絵を見ました。
 ベレー帽をかぶって、つえをもって、肩から鞄を斜めに下げているのが、ジョー・ラランデという羊飼いの少年であることがわかります。
 彼の左隣にいる犬が、牧羊犬のロウフで、話の内容から察すると歳をとっている犬です。
 ふたりの背景にある場所は、フランス国の山間部レスキュンというところです。スペイン国との国境に近いというような情報があります。グーグルマップで調べたらやはりそうでした。かなり山深い。南側がスペイン国です。地図を見ていたら、コロナウィルスが終息したらいつかフランスに行ってみたいと思いました。
 それから、本のタイトルを見て、「アーニャ」って、だれだろうと思いました。
 第2章を読み終えて、「アーニャ」がだれなのかがわかりました。
 それとは、別の情報で(本のカバーの裏に書いてありました)「ユダヤ人の子ども12人の亡命に手を貸した村人たち」のようなことが書いてあります。
 第二次世界大戦:1939年-1945年。連合国対日本・ドイツ・イタリア。連合国軍の勝利。この本では、戦争が始まってから2年ぐらいが経過したところと説明がありました。現地のフランス人村人たちは、まだ、ドイツ兵を見たことはないそうです。
 亡命:他国に逃げる。
 ユダヤ人差別:ドイツ軍による大量虐殺(たいりょうぎゃくさつ。ホロコースト)ユダヤ人は、ユダヤ教を信仰する人々で、ユダヤ教は一神教(いっしんきょう)といって、ユダヤ教以外を宗教として認めません。この世に登場した最初の宗教がユダヤ教で、ユダヤ教からキリスト教が生まれて、ユダヤ教とキリスト教からイスラム教が生まれています。イエス・キリストが十字架にかけられたことで、キリスト教徒がユダヤ教徒を許せない心情があります。シナゴーグ(ユダヤ教の会堂)

 読みながら感想メモをつくっていきます。

 ジョー・ラランデ:12歳。母親リズと祖父アンリ・ラランデとヒツジの群れを飼育する農業を営んでいる。父は戦争に行ってドイツ軍に捕まって捕虜になっているそうです。
 クリスチナ・ラランデ:ジョー・ラランデの妹。
 ムッシュ・サートル:レスキュン村の村長
 ユベール・サートル:村長の息子。村一番の大男。知的障害がある。この物語において、この息子さんの存在が大きい。この息子さんがこの物語を太く強く支えていきます。
 牧羊犬ロウフ:白いグレートピレニーズ(大型犬。原産地フランス)年寄り。ブタが大嫌いだそうです。
 ジャン・マーティ:ジョー・ラランデの従兄(いとこ)
 ラサール神父
 アルマン・ジョレ:食料品店の店主(野生のクマを仕留めた(しとめた。鉄砲で撃って倒した))
 オルカーダばあさん(アリス):農場経営。村人からは好かれていない。あだなが「クロゴケグモ(メスはたてよこ4cm×6cmぐらい、おなかの大きな黒いクモ。オスのほうが小さい。」ただし、ジョー・ラランデのおじいさんはオルカーダ―ばあさんをかばう。おじいさんとおばあさんは昔、恋人同士だったそうです。祖父アンリの娘(ジョー・ラランデの母親)は、オルカーダばあさんを嫌っている。まあいろいろあります。
 謎の男(第1章で)ベンジャミン:オルカーダばあさんの娘婿(むすめむこ。赤いひげの男)娘のフローレンスはお産がうまくいかなくて亡くなった。第2章で名前が判明する。彼は、ユダヤ人です。
 アーニャ:ベンジャミンとフローレンスのこども。オルカーダばあさんの孫娘。赤い髪の女の子。6歳ぐらいのイメージです。
 ローラン:ジョー・ラランデの親友
 リア:ポーランドから逃亡中の少女。兄弟姉妹が8人いた。ユダヤ人
 オーダ先生:学校の先生
 ローラン(男子):知的障害があるらしきユベールのものまねをするこども。
 アルマン・ジョレ:学校の児童
 ヴァイスマン中尉:ドイツ軍司令官。中尉(ちゅうい):将校。大尉の下、少尉に上。
 ドイツ陸軍の伍長(ごちょう):ドイツのバイエルンに妻と娘が三人いる。長女はベルリンの電話会社で働いている。伍長は、現地では、林業を営んでいる。
 マダム・スーレー:パン屋で働いている。
 マダム・ローベ
 ジョー・ラランデの父親。戦地で結核になって帰郷
 ミッシェル・モローワ:ジョー・ラランデの父親の同郷の戦友。こちらも結核で帰郷

 良かったセリフとして、オルカーダばあさんの
「ここの人たちは田舎者(いなかもの)だけど、愚か者(おろかもの)じゃないんだ」
 不思議だったセリフとして、ベンジャミンの
「どっちの神さまに?」(ユダヤ教の神さまかキリスト教の神さまかという選択だろうか)

 娘婿と義理の母親との関係の強さに違和感をもちましたが、娘であり、孫娘である「アーニャ」の存在がふたりをつないでいることがわかり納得できました。

 戦乱期の情報収集がラジオです。ラジオロンドンからの放送を頼りにしています。現代だとSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)の利用なのでしょう。

 ペタン:フランスの軍人、政治家
 ドゴール:イギリスロンドンのいる将軍。シャルルドゴール。フランス大統領

 35ページの「おれだよ」がおもしろかった。笑いました。

 ポワチエ:フランス西部にある都市。人口約26万人

 アーニャ―はいないのです。だから、アーニャがくるのを待っているのです。ゆえに本のタイトルが「アーニャは、きっと来る」であることがわかりました。

 レスキュン村にドイツ軍人たち22人がやってきました。
 フランスから国境を越えてスペインに逃げようとするユダヤ人を捕まえるための派遣です。
 逃亡に協力するフランス人もドイツ軍に捕まえられてしまいます。

 ノスリ:鳥。鷹(たか)

 「ジェンクゥーヤ」(ポーランド語で、ありがとう)
 
 夜間外出禁止令が出ました。午後9時30分以降の外出は禁止です。破ると逮捕されます。
 豊臣秀吉の刀狩り(1588年)のように、鉄砲狩りも始まりました。鉄砲はドイツ軍に差し出さなければなりません。
 
 今は5人。

 第一次世界大戦ベルダンの戦い:1914年(大正3年)-1918年(大正7年)ドイツ、オーストリア=ハンガリー、オスマン帝国、ブルガリア対連合国。連合国の勝利。ベルダンの戦いは、1916年にフランスの都市ベルダン(ベルギー、ルクセンブルク、ドイツの国境に近い)であった戦い。
 26万人ぐらいの死者、行方不明者が出た。

 将校 伍長:将校は少尉以上の軍人もしくは、部隊の指揮官。伍長は、最下級の指揮官。5人程度の集まりの長。

 よかった表現として「ユーベル(障害者)を幸せにする者は、村人たちに受け入れられる」

 子どもが8人。納屋に隠れている。

 バイエルン:ドイツの州。チェコ、オーストリア、リヒテンシュタインとの国境。州都がミュンヘン

 ドイツ軍の中尉も伍長も人間味があって優しい。だけど、軍の上層部からの命令もあって、ユダヤ人には厳しいのでしょう。

 納屋にいる子どもの数が10人になっています。
 12人までいくのでしょうが、ふと、戦争を扱った日本の児童文学作品である壷井榮さんの名作「二十四の瞳(にじゅうしのひとみ)」を思い出しました。12人のこどもたちの瞳の合計が二十四です。そのうちのひとり岡田磯吉くん(ソンキ、とうふやの息子)は戦争に行って戦闘で眼球を失って失明してしまいました。それでも彼は、自分たちが小学一年生のときの白黒集合写真を指さしながら自分にはみんなの顔が見えると同級生や担任だった大石先生に語るのです。

 ついに12人になりました。

 下ばえ:木の下に生えている草
 洞穴:ほらあな

 ユダヤ人のこどもたち12人のうち、少なくとも女の子が3人。女の子のうちのひとりは「リア」、チェスがうまい小さな男の子が「マイケル」6歳ぐらいに見えます。(あとでわかるのですが、本当は15歳です。飢餓状態で育ったので発育がうまくいっていないのです。彼がジョーに伏線になるチェスの「白の女王」のコマをもたせてくれます。彼は、ポーランド語、フランス語、ドイツ語、英語を話すことができます。賢い少年です)

 ユダヤ人は戦時中、いつでもどこでもドイツ軍に見つからないように隠れて暮らしています。小説でも映画でも暗くて狭い場所にたくさんで隠れています。気の毒です。

 生き延びるための国境越えです。フランスからピレネー山脈を越えてスペインに逃げます。スペインに手助けをしてくれる人たちがいます。
 ただ、病気やけがで動けない人もいます。それでもドイツ兵は迫ってきます。GO!(ゴー)かSTOP(ストップ)か。迷います。
 
 ドイツ軍の伍長(ごちょう。五人ぐらいのグループの班長ポスト)は金曜日のたびに休みをもらって双眼鏡でワシを見るために山に登ります。
 伍長は、戦争の加害者であるとともに、被害者でもあります。三人の娘さんのうちのひとりをドイツベルリンの空襲で亡くします。
 彼の言葉です。「戦争をするなら、兵隊同士で戦うべきだ。(自分の娘が空爆で死んでから悩んでいるという話が続きます)」
 後半は、ドイツ軍人である伍長とフランス人12歳のジョー・ラランデとの強い友情が表現されていきます。伍長はドイツ軍ヴァイスマン中尉から見ると反逆者です。昨年読んだ同作者であるマイケル・モーパーゴ作品「フラミンゴボーイ」でもドイツ軍伍長はいい人でした。庶民同士は仲良くなれるのに、国家同士は対立しようとする。いけないことです。
 こちらの物語の伍長もジョー・ラランデも秘密をかかえて生きていくことになります。人間はむずかしい生き物です。昔は「(秘密を)墓場までもっていく」と表現しました。最近はどういうわけかバレバレです。SNSの発達が明白をサポートしているかのようにみえます。

 マーモット:リス科の小動物。ねずみのようにも見える。ワシの獲物(えもの)

 だんだんピンチが迫ってきます。

 戦地で捕虜になっていたジョー・ラランデの父親が結核という肺の病気で帰還してきますが、戦争で精神状態がよくない方向へと変わっています。無事に帰って来てもアル中状態です。家族は嬉しくありません。
 ちょっと不思議なのは、結核は人に感染する肺の病気なので通常は専用の療養所に隔離されるような気がします。
 
 逃亡のアイデアは素敵です。昔から伝わるお話(物語とか民話)には、役立つヒントがあります。

 一蓮托生(いちれんたくしょう):複数のひとたちが最後まで運命をともにすること。

 ヨハン・セバスティアン・バッハ:1685年-1750年。65歳没。ドイツ人作曲家

 ベンジャミンの良かったセリフとして「……希望が見えなくなっていたとき…… ただ、待って、祈ろう……」

 ホエー:チーズをつくるときに出る透明な液体。糖分とタンパク質
 ハフリンガー:馬の種類。ドイツ、イタリア、オーストリアが原産地。体高130cmぐらい。ポニー
 
 最後を迎えて、物語は最初に戻ります。
 大きな伏線(後半で大きな感動を呼ぶために前半に置くネタ、情報)が仕掛けてありました。
 
 良かったセリフとして、「(ドイツ軍の)伍長は善良で親切な人だ……それでもやはり敵側の人間だ……」
 たしか、洋画「戦場のピアニスト」でユダヤ人ピアニストを救ったドイツ人兵士は戦後収容所で早くに亡くなりました。
 死ななくてもいい人たちがたくさん死んでいったのが「戦争」です。

 村人たちがフランス国家「ラ・マルセイエーズ」を合唱するシーンが本に出てきますが、たしか洋画「カサブランカ」にもそういうシーンがありました。歌は国を象徴します。洋画「サウンドオブミュージック」では、エーデルワイスがオーストリア国家を意味していました。

 良かったセリフとして、おじいちゃんの「また、やりなおすために」

 最後の一行を読んで、胸にずんとくるものがありました。

(訳者あとがきから)
 原語の作品は、1990年に出版されているそうですから、かれこれ31年前の作品です。

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