2021年04月13日

図書館の神さま 瀬尾まいこ

図書館の神さま 瀬尾まいこ(せお・まいこ) ちくま文庫

 冒頭の「清(きよ)。私の名前だ」を読んだ瞬間に先日読んだ夏目漱石作品「坊ちゃん」が頭に浮かびました。坊ちゃんの家で働いていた女中さんのお名前です。そして次の瞬間、「両親が『坊ちゃん』に傾倒していたわけではない」と文章が続きます。やられたという感じがして、次の読みに入りました。
 文章は読みやすい。2003年の作品です。登場人物は少ないです。一人称ひとり語りで進行していくので、世界は狭く感じられます。

 高校国語講師かつ文芸部顧問の早川清さん22歳です。128ページまで読んだところです。あと70ページぐらいで終わります。
 早川清さんは、いろいろわけありです。高校バレーボル部での活動時代に、彼女の厳しい言葉で、部員だった女子高生の同級生がひとり、飛び降り自殺をしているようです。
 早川清さんは、さらに今は、奥さんのいる男性と不倫の関係を続けています。相手を愛しているけれど結婚したいとは思わないそうです。
 妻の立場と気持ちはどうなるのか。早川清というこの人は、教師としてどうなのか。こういう人に子どもを預けたくはないと思いながら今は読んでいます。
 早川清さんは、男にいいように利用されているようにしか見えません。洗脳されているのだろうか。
 そのほか、物語の下地として、この方は、無気力な教員です。

 本当の主役は、高校三年生文芸部ただひとりの部員垣内君かもしれません。彼が文学で早川清さんにからんできます。彼にもなにか秘めた過去がありそうです。彼の良かったセリフとして「僕は毎日違う言葉をはぐくんでいる」「黙るべき時を知る人は言うべき時を知る」「とにかく走りましょう」(勝つために走るのではなくて、目標意識をもたずにただ走る)

 ふたりがいるのは、4年後には統廃合される鄙びた(ひなびた。田舎っぽい)高校です。校舎は、海のそばに建っています。
 
 若いころに、人から「先生」と呼ばれるようになったら人生は終りだという気持ちをもったことがあります。ほかに呼びようがないから「先生」と呼ばれるのです。そこに尊敬の気持ちがこもっているかいないかは微妙です。

 「勝つ」ということはどういうことなのだろう。考えてみました。「勝つ」ということは、勝負の相手が「泣く」ということです。

 不倫です。会うのは女性の部屋だけです。外で会うと(田舎ゆえに)ばれる。
 早川清は、何が楽しいのだろう。

 後半の展開は予測がつきました。
 まともな人間なら、そうします。
 
 調べたことなどとして、
 川端康成:1899年(明治32年)-1972年(昭和47年)72歳没。自死。1968年ノーベル文学賞受賞。「伊豆の踊子」「雪国」ほか。
 シスコン:シスターコンプレックス。この話の場合、姉さん頼り。早川清さんには大学生の弟として拓実(たくみ)がいます。弟が姉を頼る。
 はだしのゲン:被爆体験の漫画。1973年(昭和48年)-1987年(昭和62年)
方丈記(ほうじょうき):鴨長明(かものちょうめい)1155年-1216年 鎌倉時代初期の随筆。
 バルカン半島:ギリシャがある半島
 スカンジナビア半島:スェーデン、ノルウェー、フィンランド
 さぶ:山本周五郎作品
 サナトリウム:長期療養者が入る施設

 本を読むことで救われることもあります。
 読み終えてみて、胸に深く沁みる(しみる)いい作品でした。
 今年読んで良かった一冊です。

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