2020年09月25日
2020太宰治賞 「空芯手帳(くうしんてちょう)」 八木詠美
2020太宰治賞 筑摩書房
「空芯手帳(くうしんてちょう)」 八木詠美(やぎ・えみ) 受賞作
最初は、タイトルの意味がわかりませんでした。まず、読めませんでした。
植物の茎の中が空洞。手帳は、「記録」なのか。
読む前の情報として、女の人が、男社会である勤務先の会社に対抗するために「偽装妊娠」の報告をすると知りました。そうか、おなかの中にあかちゃんがいないから「空芯(くうしん)」か。
ちょっと読み始めると妊娠週ごとのようすが書いてあるので、「手帳」に日記のように記録してあるという意味だと理解しました。あわせて、未婚の母です。(でも妊娠していませんけど)。
主人公独身女性は、妊娠していないのに来春から産休に入ります。さらに、勤務先の製紙会社の業務は、紙管(しかん)製作です。やはり、中身が空洞です。
村田沙耶香作品「コンビニ人間」の類(たぐい)だろうかと思いながら読み始めました。
出産までの週数は40週です。作品は、「妊娠5週目」から始まりました。でも、妊娠していません。
出だしの記述で、文章作成が達者なことがわかります。
会社では、今どき、事務室内でたばこが吸えます。相当古いタイプの会社のイメージです。所属における女性の社員は主人公の柴田さんひとりだけです。男尊女卑の世界があります。男社会の中の女です。女性は、たばこの吸い殻の後片付けが嫌で、妊娠していると会社に申告しました。でも、妊娠していません。
「妊娠7週目」
意味を調べました。カットソー:ニット(編み物)素材の生地でつくったもの。Tシャツ、ポロシャツ。キャミソール(細い肩ひも、つるし肩)、タンクトップ(そでなし。えり幅広)
「妊娠8週目」
東中野さん:男性社員。同じぐらいの年齢か、後輩にみえます。糊の臭いがする人だそうです。でも糊はもっていない。(あとで、子どもさんがなかなかできない夫婦であることがわかりました)
主人公の女性は、柴田さん。34歳です。
「妊娠10週目」
妊娠しているけれど(実際はしていないけれど)女友達との飲み会ではアルコールを飲む主人公です。
アートアクアリウム:光と陰で美しい光景を演出する。金魚の展示が多い。
「妊娠11週目」「妊娠13週目」
想像妊娠の主人公を通して作者が表現したいものは何なのか。
6年前にこのアパートに引っ越してきた。
会社や友人のこともひっくるめて、すべてが幻覚のようなもので、主人公女性は、メンタル病院に入院中なのだろうか。
「妊娠14週」
11月下旬。いちょうの葉っぱの色変わりがきれいです。
サブコンテンツ:メインを補完する。メインにつなげる。
デニール80:タイツ。デニールは、糸の太さ。妊娠中を偽装するために、おなかをふくらませるための道具がいります。
パンプス:足の甲の部分が大きく開いている革靴
「妊娠15週目」
なんでもかんでもネットショッピングでそろいそうです。
45ページぐらいから話がおもしろくなります。
女性にとって、いろいろ不満が出てくるのですが、どこでもありがちな勤務状態です。うまかった文章表現として、「こうした名前のない仕事は減らなかった」
主人公の女性には、「孤独」がただよっています。
ピースボート:国際交流を目的とした非政府組織が企画する世界一周の船旅
偽装妊娠の申告は犯罪になるのだろうか。なんらかの利益を得て、他者に実害が出れば詐欺で賠償責任が発生するような気がします。ただ、嘘で妊娠したと公表しても軽い罪のような気がします。あとは、本人が、真実を公表後も同じ会社で働くという太い神経をもっていれば就労は継続できそうです。けっこうつらいですが。
マリアさまとか、キリスト、クリスマス、聖書のお話になって、宗教的になってきました。
「妊娠20週目」
柴田さんは実家へ。親には偽装妊娠は内緒。東北弁が響きます。
「妊娠21週目」
不思議なこと。主人公の偽装妊娠をしている柴田さん34歳に虚しさ(むなしさ)とか、罪悪感がないのです。感情がない。
印象的な言葉として、「想像上の子ども」
妊娠もしていないのに、生まれてくるのは男の子として、名前がつけられました。「柴田空人(しばた・そらと)」名前まで空洞です。
現実にあるとは思えない話なので、小説そのものの作品です。
「妊娠24週目」
むかしはやったゲーム「たまごっち」を育てるみたいなものか。
レギンス:下半身にぴったりした外出用の衣類。ストッキング素材。色は黒が多い。
妊婦さんたちのエアロビダンスの記述が秀逸で楽しい。
「妊娠26週目」
主人公の柴田さんも男性社員の東中野さんも人形のようです。
キリム:トルコの平織物。じゅうたん
サコッシュ:フランス語。かばん。肩掛けタイプの小さなバッグ
「妊娠27週目」
この部分のちょっと前を読んでいたときに、バカリズムさんの邦画「仮想OL日記」を観たのですが、どちらの作品も日記風であり、会社内のことも書いてあるので重なる部分があるのですが、この小説作品の場合は、所属に女子社員が主人公しかいないので、主人公単独のようすの描写で、映画作品のほうは、OLさんたちグループのようすを描写ですので、似ていても違いがあるという感想をもっていました。しかし、こちらの小説作品は徐々に変化してきました。偽装妊娠女性の人間関係が広がりをみせています。
妊婦向けのエアロビクスダンスグループに参加しました。(妊娠していないけど)
保活:こどもを保育園に入れる活動
「妊娠28週目」「妊娠29週目」「妊娠30週目」
偽装妊娠をしている主人公女子の柴田さんはエアロビクスダンス(妊婦用)活動で、「しばたっつぁん」と呼ばれます。リアルです。ありそう。
フリクション:消せるボールペン
チェスタコート:長めの丈のコート
ツィード:荒く厚い織物
妊婦エアロビ仲間が出産しますが、ようすがおかしい。生まれてきたあかちゃんの世話が大変です。夫の協力がありません。
この作品では、女性の立場で、男性優先社会における女性の労働環境と暮らしぶりに関する不満、不公平感、性差別への反発が表現されています。
Scye:サイ。ファッションブランド。洋服
この先の展開を予想します。種明かしとして、本当は、「妊娠していました」というのもアリではないか。
「妊娠32週目」
東中野さん(男性)の苦悩が語られます。こどもがなかなかできないそうです。だんだん、こどもをもつことの大変さが強調されてきました。
東中野さんの良かったセリフとして、自社製品をさして、「どれもそこそこいい紙管(しかん)に思えませんか?」
「妊娠34週目」
ついに柴田さんは産休に入りました。(妊娠していないけど)
「妊娠36週目」
もうすぐ妊娠40週目が満了です。さあ、どうなるのだろう。
偽装妊娠が、想像妊娠みたいになってきました。
「妊娠37週目」
このへんからさきは、ここには書かないほうがいいのでしょう。
自分としては、自分の何人かのこどもたちと、何人かの孫たちが、あかちゃんだったときのことを思い出すような記述が続きました。
夫の適切な手助けがない。手助けがほしい。すごい。産婦3か月後の怒り爆発があります。
女性の宿命としての苦しみはあるけれど、出産は、いいこともあると思いたい。
いい本でした。おおぜいの共感を呼ぶ作品になると思います。
良かったセリフとして、「だから私は嘘を持つことにした」
「妊娠38週目」「妊娠39週目」「妊娠40週目」
そうか。すごいなあ。
いまは、こういうことができる時代なのか。
いやいやたしか、妊娠している証拠として、会社に対して、母子手帳の提示か、医師の診断書の提出が必要だから無理か。
それでもまあ、最近は、なんでもかんでもネットで電子処理だから、巧妙に偽装もできるような気がします。
「空芯手帳(くうしんてちょう)」 八木詠美(やぎ・えみ) 受賞作
最初は、タイトルの意味がわかりませんでした。まず、読めませんでした。
植物の茎の中が空洞。手帳は、「記録」なのか。
読む前の情報として、女の人が、男社会である勤務先の会社に対抗するために「偽装妊娠」の報告をすると知りました。そうか、おなかの中にあかちゃんがいないから「空芯(くうしん)」か。
ちょっと読み始めると妊娠週ごとのようすが書いてあるので、「手帳」に日記のように記録してあるという意味だと理解しました。あわせて、未婚の母です。(でも妊娠していませんけど)。
主人公独身女性は、妊娠していないのに来春から産休に入ります。さらに、勤務先の製紙会社の業務は、紙管(しかん)製作です。やはり、中身が空洞です。
村田沙耶香作品「コンビニ人間」の類(たぐい)だろうかと思いながら読み始めました。
出産までの週数は40週です。作品は、「妊娠5週目」から始まりました。でも、妊娠していません。
出だしの記述で、文章作成が達者なことがわかります。
会社では、今どき、事務室内でたばこが吸えます。相当古いタイプの会社のイメージです。所属における女性の社員は主人公の柴田さんひとりだけです。男尊女卑の世界があります。男社会の中の女です。女性は、たばこの吸い殻の後片付けが嫌で、妊娠していると会社に申告しました。でも、妊娠していません。
「妊娠7週目」
意味を調べました。カットソー:ニット(編み物)素材の生地でつくったもの。Tシャツ、ポロシャツ。キャミソール(細い肩ひも、つるし肩)、タンクトップ(そでなし。えり幅広)
「妊娠8週目」
東中野さん:男性社員。同じぐらいの年齢か、後輩にみえます。糊の臭いがする人だそうです。でも糊はもっていない。(あとで、子どもさんがなかなかできない夫婦であることがわかりました)
主人公の女性は、柴田さん。34歳です。
「妊娠10週目」
妊娠しているけれど(実際はしていないけれど)女友達との飲み会ではアルコールを飲む主人公です。
アートアクアリウム:光と陰で美しい光景を演出する。金魚の展示が多い。
「妊娠11週目」「妊娠13週目」
想像妊娠の主人公を通して作者が表現したいものは何なのか。
6年前にこのアパートに引っ越してきた。
会社や友人のこともひっくるめて、すべてが幻覚のようなもので、主人公女性は、メンタル病院に入院中なのだろうか。
「妊娠14週」
11月下旬。いちょうの葉っぱの色変わりがきれいです。
サブコンテンツ:メインを補完する。メインにつなげる。
デニール80:タイツ。デニールは、糸の太さ。妊娠中を偽装するために、おなかをふくらませるための道具がいります。
パンプス:足の甲の部分が大きく開いている革靴
「妊娠15週目」
なんでもかんでもネットショッピングでそろいそうです。
45ページぐらいから話がおもしろくなります。
女性にとって、いろいろ不満が出てくるのですが、どこでもありがちな勤務状態です。うまかった文章表現として、「こうした名前のない仕事は減らなかった」
主人公の女性には、「孤独」がただよっています。
ピースボート:国際交流を目的とした非政府組織が企画する世界一周の船旅
偽装妊娠の申告は犯罪になるのだろうか。なんらかの利益を得て、他者に実害が出れば詐欺で賠償責任が発生するような気がします。ただ、嘘で妊娠したと公表しても軽い罪のような気がします。あとは、本人が、真実を公表後も同じ会社で働くという太い神経をもっていれば就労は継続できそうです。けっこうつらいですが。
マリアさまとか、キリスト、クリスマス、聖書のお話になって、宗教的になってきました。
「妊娠20週目」
柴田さんは実家へ。親には偽装妊娠は内緒。東北弁が響きます。
「妊娠21週目」
不思議なこと。主人公の偽装妊娠をしている柴田さん34歳に虚しさ(むなしさ)とか、罪悪感がないのです。感情がない。
印象的な言葉として、「想像上の子ども」
妊娠もしていないのに、生まれてくるのは男の子として、名前がつけられました。「柴田空人(しばた・そらと)」名前まで空洞です。
現実にあるとは思えない話なので、小説そのものの作品です。
「妊娠24週目」
むかしはやったゲーム「たまごっち」を育てるみたいなものか。
レギンス:下半身にぴったりした外出用の衣類。ストッキング素材。色は黒が多い。
妊婦さんたちのエアロビダンスの記述が秀逸で楽しい。
「妊娠26週目」
主人公の柴田さんも男性社員の東中野さんも人形のようです。
キリム:トルコの平織物。じゅうたん
サコッシュ:フランス語。かばん。肩掛けタイプの小さなバッグ
「妊娠27週目」
この部分のちょっと前を読んでいたときに、バカリズムさんの邦画「仮想OL日記」を観たのですが、どちらの作品も日記風であり、会社内のことも書いてあるので重なる部分があるのですが、この小説作品の場合は、所属に女子社員が主人公しかいないので、主人公単独のようすの描写で、映画作品のほうは、OLさんたちグループのようすを描写ですので、似ていても違いがあるという感想をもっていました。しかし、こちらの小説作品は徐々に変化してきました。偽装妊娠女性の人間関係が広がりをみせています。
妊婦向けのエアロビクスダンスグループに参加しました。(妊娠していないけど)
保活:こどもを保育園に入れる活動
「妊娠28週目」「妊娠29週目」「妊娠30週目」
偽装妊娠をしている主人公女子の柴田さんはエアロビクスダンス(妊婦用)活動で、「しばたっつぁん」と呼ばれます。リアルです。ありそう。
フリクション:消せるボールペン
チェスタコート:長めの丈のコート
ツィード:荒く厚い織物
妊婦エアロビ仲間が出産しますが、ようすがおかしい。生まれてきたあかちゃんの世話が大変です。夫の協力がありません。
この作品では、女性の立場で、男性優先社会における女性の労働環境と暮らしぶりに関する不満、不公平感、性差別への反発が表現されています。
Scye:サイ。ファッションブランド。洋服
この先の展開を予想します。種明かしとして、本当は、「妊娠していました」というのもアリではないか。
「妊娠32週目」
東中野さん(男性)の苦悩が語られます。こどもがなかなかできないそうです。だんだん、こどもをもつことの大変さが強調されてきました。
東中野さんの良かったセリフとして、自社製品をさして、「どれもそこそこいい紙管(しかん)に思えませんか?」
「妊娠34週目」
ついに柴田さんは産休に入りました。(妊娠していないけど)
「妊娠36週目」
もうすぐ妊娠40週目が満了です。さあ、どうなるのだろう。
偽装妊娠が、想像妊娠みたいになってきました。
「妊娠37週目」
このへんからさきは、ここには書かないほうがいいのでしょう。
自分としては、自分の何人かのこどもたちと、何人かの孫たちが、あかちゃんだったときのことを思い出すような記述が続きました。
夫の適切な手助けがない。手助けがほしい。すごい。産婦3か月後の怒り爆発があります。
女性の宿命としての苦しみはあるけれど、出産は、いいこともあると思いたい。
いい本でした。おおぜいの共感を呼ぶ作品になると思います。
良かったセリフとして、「だから私は嘘を持つことにした」
「妊娠38週目」「妊娠39週目」「妊娠40週目」
そうか。すごいなあ。
いまは、こういうことができる時代なのか。
いやいやたしか、妊娠している証拠として、会社に対して、母子手帳の提示か、医師の診断書の提出が必要だから無理か。
それでもまあ、最近は、なんでもかんでもネットで電子処理だから、巧妙に偽装もできるような気がします。
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