2020年09月12日

お手がみください 髙森美由紀

お手がみください 髙森美由紀 産業編集センター

 読む前の知識として、お孫さんが、ひいおばあちゃんに何度も手紙を出したけれど、返事をもらえませんでしたという情報を得ました。
 そこで、ああ、その理由は、ひいおばあちゃんが、文字を書けなかったからだろうと推測しました。だから本のタイトルが、「お手紙」ではなく、「お手がみ」にしてあるのだろうと。
 第二次世界大戦後に義務教育が完備される前の年配の人たちは、学校に行きたくても行けず、学校教育を受けられなかった人もいます。
 先日映画「愛を読む人」を観て、この本に興味をもちました。映画の原題は、「朗読者」で、15歳の少年が、文字の読み書きができない30代の女性に物語を朗読するものでした。
 第二次世界大戦の暗い影があるナチスドイツがらみのお話でした。

 読み始めたら、少し驚きました。登場してきたのは、こどもさんではなく、31歳未婚女子、さらに会社が倒産して現在無職になってしまったという田中眞子(たなか・まこ)さんだったからです。
 この物語は、彼女の回想になるのでしょうか。

 ずいぶん昔の話から始まります。23年ぐらい前に亡くなった田中眞子さんのひいおばあちゃんの話です。
 ご家族は、これから、ひいおばあちゃんが生活していた部屋を片付けて、部屋のリフォームをするようです。
 ひいおばあちゃんが亡くなった当時、田中眞子さんは小学2年生だったそうです。
 部屋に残っているのは、こたつ、たんす、戸棚、ブラウン管テレビ、冷蔵庫などです。
 田中眞子さんが生まれたとき祖父母はすでに他界していて、家にはひいおばあちゃんがいた。おばあちゃんは、高齢になったので引き取られた。

 13ページまできて、四行あけて、時代背景は過去へと飛びました。
 田中眞子さんは小学2年生で、1年生の時は下校後、夜間保育園(保育園の延長)に通っていましたが、1年生の3学期からひいおばあちゃんのかずさんが同居するようになり、夜間保育園を卒園しました。

 小学校での朗読の宿題があります。
 童話の「ふたりはともだち」は読んだことがあります。がまがえるとかえるのふたりが出てきます。同じかえるなのに、がまとふつうのかえるで、わかりにくいところがありました。
 お話自体は、思いやりの物語でした。

 孫の眞子ちゃんの宿題朗読が終わって、ちゃんとやったという証拠のサインをひいおばあちゃんのかずさんにお願いしましたが、ひいおばあちゃんが「たなかかず」のサインを書き終わるまでがひと苦労です。動作の表現が豊かで笑いました。
 かずさんのセリフ「(うまく署名できないから)困った先生だこと、教え子を疑うとは」が良かった。

 かずおばあちゃんは、眞子さんに「回覧板」の朗読を頼みます。

 こどもさん向けのお話かと思っていましたが、おとな向けでした。むずかしい漢字がたくさん出てきます。
 共働き家庭の小学2年生女児と80歳ひいおばあちゃんの心の交流です。
 ひいおばあちゃんにとってみれば、長生きは幸せなのかという本人がもつ疑問のようなお悩みが潜んでいます。
 ふつうは、幼児が文字を覚えていく手順をひいおばあちゃんが覚えるパターンになっています。
 「わくわくあいうえお」というテレビ番組があるそうです。
 「づ・お・り・ほ・か・い・つ・れ・ぢ・し」は、「であいは、かいてんずし」ちょっとわかりませんでした。

 2年1組女子のいやらしい世界があります。いじめです。
 いろいろちょっと話のつくりに無理があります。

 難をいえば、文章にリズム感がないので少し読みにくいです。あと、シーンとしての文章の固まりの区切り目がわかりにくいです。
 72ページの二行目に誤植があるような。「布団」の間にアルファベットのSが横向きになっています。全体的に推敲とか点検が不十分な印象が残りました。

 ギャグみたいなやりとりのいくつかには笑いました。
「参観日」「晩餐会(ばんさんかい)」
「お手上げってこと?」「バンザイってことだ」

 ひいおばあちゃんが話す文字の読み書きに関する思い出話の部分を読んでいるとなんだかせつなくなってきます。文字学習の基本は、絵本読みからです。チャンスがなかったのは残念です。

 読んでいて、ひらがなの成り立ちとして、「変体仮名」を習ったのを思い出しました。

 調べた言葉などとして、
咽る(むせる):めんをすすってむせる。この部分は、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん。気管支に水や食べ物が入る)のことだろと思いながら読みました。
ピンチハンガー:せんたくばさみがいっぱい付いているハンガー。タオル、下着、靴下などを吊り下げる。
慇懃(いんぎん):礼儀正しい。ただし、慇懃無礼(いんぎんぶれい)になると失礼なことになる。わざとらしく丁寧にして相手を馬鹿にしている。
麺を啜る:めんをすする。
伸し餅(のしもち):板状のもち
肥後森(ひごのもり):小刀(こがたな。ナイフ)
賑々しい(にぎにぎしい):たいへんにぎやかなようす
射程に収める:ねらいをつける。
破顔(はがん):顔をほころばせて笑う。
逸らす:そらす
言い方を諫める:いいかたをいさめる。過ちや悪いところを忠告する。
瞠目(どうもく):驚いたりして目をみはる。
斟酌(しんしゃく):相手の事情や心情をくみとる。
相田みつを(あいだ・みつお):男性。1924年-1991年 67歳没 詩人・初夏 代表作として「にんげんだもの」
金子みすゞ(かねこ・みすず):1903年(明治36年)-1930年(昭和5年) 26歳で自死 童謡詩人 「わたしと小鳥と鈴と」の一節として、「みんなちがって みんないい」
凹む:へこむ
検める:あらためる。検査する。
険が抜ける:けんがぬける。とげとげしさがぬける。
揶揄が滲む(やゆがにじむ):皮肉めいた批判が広がる。
迸ばしる:ほとばしる。勢いよく飛び散る。
綿埃:わたぼこり
精進落とし(しょうじんおとし):お寺の儀式のあとなどに食べる食事
一張羅(いっちょうら):一番上等な衣類もしくは、一枚だけの衣類
滔々と(とうとうと):よどみなくどんどん流れていく。
辛うじて(かろうじて):ぎりぎりのところで

良かった文節などとして、
「感情に勝ち負けも、いいも悪いもない」
「字に謝りなさい(あやまりなさい)」
「(字を知らないばあちゃんに)大好きだよ」
倒産で、潰れた(つぶれた)のは会社で、人間じゃないという趣旨のセリフ

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