2020年08月10日

げんきなマドレーヌ

げんきなマドレーヌ ルドウィッヒ・ベーマルマンス作・画 瀬田貞二・訳 福音館書店

 絵本のなかの風景は、1930年代ぐらいのできごとに見えます。
 たぶん、いまから90年ぐらい前のフランスはパリを舞台にした絵本です。絵本は1972年日本での初版ですが、1939年にニューヨークで発表されています。作者ご本人は、1962年に亡くなっています。

 外国のこどもたちが読んだ絵本はどんなものなのだろう。絵は、パリの風景として、コンコルド広場、オペラ座、バンドーム広場、アンパリッド廃兵院、ノートルダム寺院、リュクサンブール公園、サクレ・クール寺院、エッフェル塔、チェイルリー公園、ルーブル美術館。一冊読んだだけで、パリの街中を散歩できた気分になれました。絵本のなかのパリは、芸術と文化、そして歴史に満ちた街でした。

 『パリのつたのからんだ、あるふるいやしきに、12人のおんなのこがくらしていました』から始まります。くわしくはかいてありませんが、自分なりに、こどもたちはみな孤児で、教会の施設のようなところで生活しているのだろうと想像しました。以前、そういう小説を読んだことがあります。たしか、『ピエタ』大島真寿美さんの作品で、舞台はイタリアでした。

 今回の絵本では、パリの風景が、絵本いっぱいに広がっています。いわゆる写真風の美しい絵画ではありませんが、シャガール風ではあります。色彩も豊かです。個性的、独創的な絵です。絵本の1ページが、一枚の絵画のようです。12人のおんなのこたちの一体性が強く、12人そろって同じ動きをするところに一定のリズムが感じられて心地良い。12人が一体になっている不思議さがあります。きちんと二列になって、まるでひとりの人間の動きのように動きます。

 登場人物は、12人のおんなのこのうちのひとりとして「マドレーヌ」それから先生として、「ミス・クラベル」あともうひとりが医師で男性の「コーン先生」が関与することになりました。マドレーヌが、盲腸にかかってしまったからです。
 11人のおんなのこが、盲腸の手術をしたマドレーヌのお見舞いに病院を訪れました。手術後、10日間が経過しています。
 その部分を読んでいるときに、こどものころの体験として、中学一年生のとき、学校帰りにクラスメイトたちと、学校の近くにある病院に入院している級友をお見舞いに行ったことを思い出しました。でも、結局、病室のベッドで寝ていたその男の子は病気で亡くなってしまいました。この世では、こどものままで人生を終える命があります。遠い過去のことを思い出してしみじみしました。だから、こどもに愛情をそそぐのだという気持ちをうけとれる絵が34ページにありました。
 11人のおんなのこのだれもが、人から優しくされたいと願っています。
 12人いたうちのひとりのマドレーヌが広い寝室にいなくなってさびしいとほかの11人のおんなのこは感じています。
 親代わりのミス・クラベルさんの心理が伝わってきました。
 親に甘えたい時期のおんなのこたちでした。

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