2020年03月16日

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー ブレイディみかこ

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー ブレイディみかこ 新潮社

 書店で手に取って、ページを少しめくって、内容は遠い国、イギリス国のことであり、タイトルから察するとたぶん肌の色で人種差別のことだろうと、あまり身近なことではないので、そのまま書棚に戻しましたが、その後なんとなく気になり、売れている本でもあり、まずは読んでみるかと、数日後手に入れました。まだ最初のほうしか読んでいませんが、アイルランド人でカトリック教徒、現在はダンプの運転手さんと結婚された日本人女性著者が、中学生の息子さんについて事実のこととして書いてあるようです。ノンフィクションのエッセイ集です。タイトルで、イエローは、黄色人種であり、ホワイトは、ハーフによる白人であり、ブルーは通常、憂鬱なのですが、著者の息子さんは誤認していたらしく、「怒り」ととらえたのち、沈んだ気持ちと理解されています。
 作者は保育士で、文筆家です。ご自身では、自分たち家族は元公営住宅地域に住む貧民と位置づけをされています。いわゆるスラムのような扱いです。
 本は、「はじめに」のあとに、16本のコラム(柱)を立てたエッセイがあります。本を読みながら感想を書き足していってみます。

わからない言葉や人名がたくさん出てきます。
ギター・リフ:低音、繰り返し、覚えやすいリズム
英国の中学生:11歳-16歳
ブライトン:イギリス、人口28万人の街。ロンドンから電車で1時間。ロンドンの南、海辺の街
波:新潮社が発行する文芸雑誌
レイシズム:優等人種が劣等人種を支配するのは当然という考え方
トリッキー:人と違うことをして人の気を引こうとする。
オスカー・ワイルド:アイルランドの詩人。1854年生まれ。46歳没
蛮勇:非力なれど向かっていく。
コンサバな家族:古くからの習慣、考え方を尊重して、急激な改革に反対する。伝統的な文化を守る。保守的、地味、伝統的
セックス・ピストルズ:イングランドのパンクロックバンド。反体制派
マリアンヌ・フェイスフル:イギリスの歌手、女優。
ザ・スミス:イギリスのロック、パンクバンド
ザ・ストーン・ローゼズ:イギリスのロックバンド
オアシス:イギリスのロックバンド
ファットボーイ・スリム:イギリスのDJ、ミュージシャン
ショー・ビズ的:ショービジネス。娯楽の興行
菊地凛子:きくちりんこ。女優。著者の息子さんが7歳のときに、きくちりんこさんの子ども役でイタリア映画に出演したことがあると紹介があります。
チャヴィ:白人の労働者階級、下に見られるらしい。
Mumsnet:SNS。イギリスの子育て掲示板
gleeグリー:大喜び、歓喜、歓声、ほくそ笑む、幸福、愉快、痛快
ファッキン・チンク:アジア系人種を差別する言葉
レイヤー:層。この本の場合、次々と書き込みができる掲示板のようなものを指しているのだろうと思いました。
ア・ホール・ニュー・ワールド:アラジンの主題歌
チャヴ:高層団地に住む白人労働者階級の総称
ポリティカル・コレクトネス:差別、偏見帽子のための表現、言葉
スクール・ポリティクス:学校での権力作用
ダニエル:ハンガリー移民の両親。ハンガリーは地図でいうとオーストリアの右側。首都ブタペスト
ティム:チャヴ(元公営住宅の高層団地に住む低所得白人労働者階級の両親)
無知:知識がない。知恵がない。
アイデンティティ:個の性質
イギリスの学校制度:5才~16歳が義務教育。11歳が6年生でここまでが小学生。16歳が11年生でここまでが中学生。この本のなかでは、息子さんが12歳、7年生(中学1年生)の設定
分断:相手を自分より見下す。祖先、財産の有無、片親などをその理由とする。
エンパシー:相手の立場になってみる。
ポッシュ校:上流階級の人間が通う学校
エスタブリッシュメント:社会的に確立した体制・制度
アイロニック:皮肉な。遠回しにからかう。
チンク、チンキー:中国人に対する差別用語だが、日本人に対しても言われることがある。
シティズンシップ・エデュケーション:市民教育
パキ:パキスタン人をさす差別用語。中東の人や南アジアの人をさすこともある。
オルタナティブ:二者択一
ファクト:事実
SMS:ショートメッセージサービス
アナキスト:無政府主義者
IVF:体外受精
ステレオタイプ的:先入観、思い込み、固定観念

 息子さんは、夫の信仰が理由で、厳格で格調高いカトリックの小学校へ通っていたが、中学は近所の公立中学に入った。英国では、自宅の近くの学校に通う制度。白人が集まった元底辺中学校と書いてあります。いじめ、けんか、服装の乱れ、化粧あり。

 日本人ではなく、外国人視点でのような書き方です。最初のうちはなにか、読んでいて、見おろされているような、自慢話を聞かされているような気配が感じられたのですが、途中からだんだんおもしろくなってきました。

 荒れたらしき中学で鍵を握るのはどうも『音楽』のようです。音楽で生徒の意識がいい方向へ向いたようです。

 10歳の息子さんは、高尚なカトリック系中学を蹴って、元底辺中学への進学を希望しました。

 白人が9割以上だから底辺にある学校という表現が、日本人の自分にはピンときません。白人が有色人種を見下すという先入観があるからなのでしょう。

 英国の小中学校には、入学式と卒業式がない。

 昨年英語版と日本語版の二回観た映画アラジンのお話が出てきます。息子さんが中学校で魔法のランプから出てくる大男のジーニーを演じたそうです。

 イギリスという国は、固定化が進んだ結果、EU離脱の動きが始まったというような書きぶりで、そうなのかと理解しました。どこの国でも、裕福は、だれかの貧困の上に成り立っているのでしょう。

 英国の実情が具体的によくわかる良書です。貧富の格差がきつい。貧民はいつまでたっても貧民でしかいられない体制があるようです。それが、EU離脱の大きな理由のようです。政党として、労働党、保守党。現在は保守党政権。
 
 コラム10「母ちゃんの国にて」の部分は強く印象に残りました。日本語のできない中学生の息子さんを連れての帰省話でした。日本人なのにフィリピン人じゃないかと日本人スタッフに冷遇されたり、日本人おっさんビジネスマンからテレビ番組にひっかけて中国人がらみの外国人差別を受けたりします。
 日本人は、東南アジアの人たちを馬鹿にして見下す民族という話を外国人から見た日本人の話として聞いたことがあります。だから、外国人は日本人を信用していません。日本人は外国人にやってあげているという態度があるそうです。そういう人もいるし、そうでない人もいると思うのですが、この本の記事に書いてあることを読むとそういうことが伝わってきます。
 ことに年配のビジネスマンのあたまの中は、仕事のこと、稼ぎのこと、お金のことばかりで占められています。泥酔して文句を言う姿は哀れでもあります。テレビ番組の話が出るのですが、本当に働いている人は、テレビをゆっくり観る時間はありません。偽物の仕事人なのでしょう。
 今年読んで良かった1冊になりました。

 LGBTQのお話が出ます。レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クエスチョニング。英国では中学生向けにその旨の教育があるようです。中学生たちが自分はどれにあてはまるかと話をしています。ちょっとびっくり。いろんな家庭の子どもがいて、同性愛者の両親もいます。義理の母もいるし、実母もいます。ややこしい。

 英国では、「里親制度」が一般的に普及しているようです。それだけ、養育能力に欠ける親がいるということでしょう。
 本を読んでいて、スラムの生活があって、EU離脱の希望が主に大人(老齢者)に多い印象です。逆に、若い世代はEU残留の意識が強いそうです。

 中学生の息子さんの意識です。ぼくは日本人ではない。自分が東洋人という意識がないから東洋人差別の言葉を浴びせられても当事者意識がない。(その部分を読んで納得しました)

 環境保護活動家のグレタ・トゥーンベリさんらしき女子の話もちらりと出てきます。

 本のタイトルは、自由につけていいんだと安心しました。最後は、「グリーン」で終わっています。息子さんは、ただ今、成長中です。

良かった言葉や驚かされた言葉などの趣旨として、
「他人にしたことは、ぜんぶ自分に返ってくる」、「英国の公立小学校は保護者のボランティア活動によって成り立っている」、「生徒が貧しさで制服を買うことができない」、「貧困地区にある学校は、教育をする前にこどもたちの衣食住を確保することから始めなければならない。まず、ごはんを食べさせることが最優先」、「この国の緊縮財政は、教育を福祉にしてしまった」、「母親が日本人であることを隠したがる子ども」、「強いチームには多様性が必要」、「中学生の息子さんが福岡に住むおじいちゃんのことが好き。息子は日本語ができない。おじいちゃんは英語ができない。会話はできないけれど、心は通じ合う」、「女性の人生は、夫になる人の親切さにかかっている」、「いじめられても、いじめられても、ぜったいに学校は休まない」、「人間はよってたかって人をいじめるのが好き。人間は人を罰するのが好き」、「違う人種の両親から生まれたこどもは自分の所属(アイデンティティ)に悩む」、「人生は(長く)生きてみなければわからない」、「行方不明と家出は違う」


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