2019年06月11日

赤い蝋燭と人魚(あかいろうそくとにんぎょ) 小川未明

赤い蝋燭と人魚(あかいろうそくとにんぎょ) 小川未明・作 いわさきちひろ・画 童心社


 1921年、大正10年の作品です。人魚が人間に復讐します。恩をあだで返された(恩に感謝されず、逆に害を加えられる)ことに対する復讐と信頼関係の裏切りに対する復讐です。
 出だしがいい。「人魚は、南の海にばかりすんでいるのでない」から始まります。人魚と聞いてイメージするのは、アンデルセン童話の人魚姫です。(1837年発表。江戸時代後期)たしかにアンデルセンの人魚は南の海にすんでいるではありません。北の方、北欧の海にすんでいます。この物語「赤いろうそく…」では、日本海に面した新潟県がモデルとなっているそうです。
 人魚の母親が考える人間は、「かわいそうなものや頼りないものはけっしていじめない」。誤解があります。人間は自身を守るために、耐えきれなくなって、最後に最愛の人を捨てる面ももっています。そんなことは知らず、人魚姫は人間をいいほうに誤解して、産んだばかり娘を、ろうそく屋を営む人間の老夫婦に託します。(どうして、若い夫婦ではないのだろう。そこが民話です。)
 場所の状況は、岬の突端の小高い山にお宮があるという日本各地で見られるような風景です。捨て子として、人魚の女児あかちゃんが、お宮の階段下に置き去りにされます。
 老夫婦は、人魚の子を人間のこどもではないけれど育てていくことにしました。
 下半身は魚ですが、顔立ちは美しい。彼女が赤い絵の具で書いたろうそくは、厄除けになります。災難を避けることができます。それは、人魚の母親の人間に対する恩返しでしょう。
 小さな点だったきっかけが、だんだん広い世界に広がっていきます。
 老夫婦はお金がほしくて良心を失い、人魚の娘を見世物小屋の経営者に売ってしまいます。人身売買です。怒った人魚の実母は、こらしめのために人間たちに「嵐」という罰を与えるのです。船は荒海で難破します。
 子ども向けの童話ですが、「復讐」という素材にしにくい素材を上手に作品化してあります。善意を裏切ると仕返しが待ち受けているのです。
 
 巻末の解説で、小川未明さんの次女で、岡上鈴江(おかのえすずえ)さんという方が文章を寄せておられるのですが、その内容が味わい深い。英語で「亡くなる」ことをパス・アゥエイというのですが、巻末の解説を書かれた当時、ご友人らがパス・アゥエイされています。(1975年頃)そして、ご本人は、2011年に97歳でパス・アゥエイされています。人は死んでも作品は残るということを記されています。作者はいなくなっても本は残る。「芸術不老」という言葉で文章を結んでおられます。
 この作品の場合、「復讐」とか、「仕返し」とか、永い時を経ても変わることのない悪ある心理を作品にこめてあることがわかります。信頼を裏切られると「憎しみ」が生まれます。だから、信頼を裏切ってはいけないという作者のメッセージが代々伝えられています。

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