2019年05月16日

新美南吉「てぶくろをかいに」「あかいろうそく」「ごんぎつね」

新美南吉(1913年大正2年-1943年昭和18年29歳没)「てぶくろをかいに」「あかいろうそく」「ごんぎつね」「でんでんむしのかなしみ」



「てぶくろをかいに」 いもとようこ・絵 金の星社
 冬が来て、森に雪が降って寒いから、子ぎつねに手袋を買おうと、母ぎつねと子ぎつねが人家のある里へ下りていくのですが、母ぎつねは、以前人間に追いかけまわされたことを思い出して、怖くなって体が動かなくなり、手だけ人間に化けた子ぎつねだけが帽子屋さんに行くのですが、間違えて、人間の手のひらを出さずに、きつねの前足を出してしまうのです。それでも、人間であるお店の人は、お金はくれるので、きつねだとわかっていて、手袋を子ぎつねに売ってくれたのです。こんな流れです。
 生れて初めて見る空から降ってくる雪が、「目に刺さった」と思う子ぎつねです。
 もみの枝から雪がどさりと落ちてきます。モミの木の高さは10メートルぐらいかなと勝手に想像するのです。
 文章が美しくて優しい。絵も同様です。
 「くらい夜が、ふろしきのようなかげをひろげて」 素敵な文章です。
 作者は、山から見下ろした夜の人家の灯りを「星」とたとえる感性をもっています。
 いくら人間が怖いからといって、子どもだけに買い物に行かせる母親ぎつねのすることはどうなのか。
 15ページの人間の手になった自分の右前足を見る子ぎつねの絵が美しい。
 
 調べた言葉などとして、「シャッポ:帽子」、「白銅貨:はくどうか。大正時代の白銅貨」、「コバルト:金属。作品では、白銀色を「コバルトのかげ」と表現していると解釈しました」


 印象に残った言葉などとして、「にんげんはほんとうにおそろしいもの」

 人間は、お金次第という面も表現してあります。母子の愛情と人間のブラックな面が出ていますが、悪人ばかりではないという救いがあります。

 25ページのおじいさんの顔は外国人に見えます。アンデルセンを思い出しました。北欧の男性の顔です。

 人間の親子の会話がよかった。母親の愛情が伝わってきました。そして、子は母親を慕います。

 父親きつねはどこにいったのだろう。

 最後の文節、「ほんとうににんげんは、いいものかしら。」は、意味が深い。

 15見開きの童話でした。


「あかいろうそく」 いもとようこ・絵 金の星社
 間違った情報による誤解とそれがもとで起る騒動があります。そして、取り巻く仲間たちは人間界の村のようでもあります。なにかしら教訓めいたお話しが隠されているのでしょうが、絵が美しくて、理屈よりも絵の美しさに気持ちがいく絵本です。
 14見開きの絵本です。さるが、あかいろうそくをひろいます。ろうそくは通常白いものなので、さるは、あかりろうそくはろうそくではなくて、打ち上げ花火だと勘違いします。
 しか、しし(いのしし)、うさぎ、かめ、いたち、たぬき、きつね、ろうそくをひろってきたさる。いっぱいいます。
 「打ち上げ花火」について、聞いたことはあるけれど、みたことがない動物たちです。
 好奇心がふくらみます。でも、打ち上げ花火を爆発物ととらえる動物たちです。
 なにせ、絵がきれいな絵本です。
 うつくしいはなびとやらを見たい。やまのてっぺんに集合。やまを登る動物たちの姿は、あとのページにあるしっぽだけの絵と並べて、これは「だれのしっぽかな?」と考える遊びにつながります。
 爆発が怖い。
 火の点火役をくじ引きで決めます。
 その後の展開がおもしろい。
 猪突猛進のいのししくん登場です。こういうポジションをやれる人って、どこの組織でも必要なのでしょう。ばかにされることもあるけれど。
 たくさんのしっぽの絵が素敵です。かめのしっぽがどれなのかはわかりません。
 緊迫感があっていいなあ。
 耳も目もふさいだら、聞こえないし見えません。
 誤った情報を信じる思い込み。とはいえ、実害はありません。話題にはなります。
 あっけない結末でした。
 されど、静かで落ち着いた時間が流れていきます。ろうそくの炎の灯りが温かい。彼らの心を表しています。目標をかなえた心のともしびです。思い出づくりです。
 初出昭和11年の作品です。


「ごんぎつね」 黒井健・絵 偕成社
 作者が18歳のときの作品で、1932年(昭和7年)初出です。
 時代設定は、江戸時代の終わりでしょう。舞台は愛知県半田市あたりです。彼岸花の記述があります。毎年秋になると半田市内の河川敷では彼岸花が咲くことで有名です。
 絵のタッチが優しい。柔らかです。ほんとうにキツネや人間が生きているかのようです。
 よかれと思ってやっても嫌がられる。疑われる。うとまれる。よくあることです。昔世界中を旅行した人が書いた本に、「世界は誤解で成り立っている」というフレーズがありました。
 「兵十(ひょうじゅう)」という男性が登場します。「ごん狐(きつね)」というキツネが登場します。ふたりとも「孤独」です。
 ごんぎつねを人間のこどもとたとえて考えてみます。発想のヒントをさぐってみます。ごんぎつねのしているいたずらは、人間の幼児もします。いたずらざかりのこどもが亡くなったと想像するとさみしく、つらくなります。この物語は、モデルとなったこどもを悼むお話かも。それが、あんがい若くして亡くなった作者と重なります。
 調べたこととして、「はりきり網漁:刺し網漁。魚が通る場所に網をはって、魚の頭が網にはさまるようにする」、「川魚 きす:カマツカという魚。どじょうみたい」、「はんの木:落葉高木。高さ15メートルぐらい」、「車:自動車ではなく、大八車。木製の車輪が2個。二輪車」
 気に入った表現として、「ひがん花が、赤い布のようにさきつづいていた」
 兵十が川で捕まえたうなぎをだいなしにしたごんぎつねは、うなぎを食べたかったのに食べきれずに病死した兵十の母親と兵十に思いやりの気持ちをもち深く反省します。通常、故意過失で相手方に被害・損害を与えたときは、謝罪と損害賠償をします。書中では、「つぐない」とあります。ごんぎつねのつぐないは、「栗とまつたけ」です。
 兵十はごんぎつねを見て、殺したいほどごんぎつねを憎んでいたのか、怒っていたのかという疑問が湧きました。復讐とはいえ、鉄砲で撃ち殺すほどの悪事だったとは思えません。いたずらです。案外、最初に書いたときは、きつねを殺害する設定ではなかったのかも。つらい終わり方です。
 生きるとは、思いどおりにいかないもの。それでも生きていかなければならない。けっこうきびしい内容の物語になっています。
 

「でんでんむしのかなしみ」 かみやしん絵 大日本図書
 美智子さまの愛読書と聞き読みました。
 1935年、昭和10年の作品です。いまから85年ぐらい前のものです。ずいぶんたっていますが、内容は今も変わらぬ人の心を表しています。これからも変わらないのでしょう。
 「でんでんむしがいました」ではなく、「でんでんむしがありました」という表現がいい。
 いっぴきのでんでんむしは、自分が背中に背負っている殻の中には「かなしみ」がいっぱいつまっているのではないかと気がついてしまった。
 でんでんむしは、かなしみに耐えきれず自殺を考えます。
 ともだちのでんでんむしが、わたしのせなかにもかなしみがいっぱいですと答えます。
 みんなが、かなしみを背負って生きている。
 「わたしはわたしのかなしみをこらえていかなきゃならない」 でんでんむしは、もうなげくのはやめました。
 皇室の世界というなかで暮らしていくことを決心された決意が伝わってきました。
 かなしみと背中合わせによろこびがあると思います。

ほかに掲載されていた童話として、
「一年詩集の序」 1939年 昭和14年
 でんでんむしへの愛着があります。
 でんでんむしとして生まれてきて、触角で初めて知る世界があります。
 雨しずくの音に驚く。新鮮な表現です。
 風が吹く。光を感じる。からだがほてって熱くなる。
 花の匂いに酔いしれる。

「里の春、山の春」 1942年 昭和17年
 親子の鹿のお話です。
 野原に春は来たけれど、山にはまだ春が来ない。
 山の奥に住む1歳に満たない坊やの鹿は春を知りません。
 春ってなに? 花ってなに? と両親の鹿に聞きますが実感が湧きません。
 小鹿は麓(ふもと)にあるお寺の鐘に誘われて、山を下りて、春を体感します。
 あったかい雰囲気の優しいお話でした。

「木の祭り」 1936年 昭和11年
 木に白いはながいっぱい咲いたけれど、めったに人が通らないところに立っているので、美しいとほめてくれる人がいません。だから、木は、つまんないのです。
 花の香りが流れて、遠くにいた蝶が花の存在に気づきます。
 ちょうたちは、花を讃えるためにまつりを企画します。
 ちいさなしじみちょうは、木の花のところにいくまでに、ほたると出会いほたるも蝶の連れになります。
 明るいうちはちょうが集まってお祭り気分です。日が暮れて暗くなってからは、ほたるの群生が木の花を照らします。

「でんでんむし」 1933年 昭和8年
 たぶん、大きなおかあさんでんでんむしの上に小さくて透きとおった小さなぼうやのでんでんむしがのっかっているのです。
 あめはふっていません。かぜも吹いていません。
 葉っぱの先にあさつゆの水玉があります。
 ちょうちょがいます。
 ちょうちょうの向こうに「空」があります。
 はじめていろいろなものを見るこどもの発見が生き生きと表現されている良作です。

 以前愛知県半田市内にある新美南吉記念館を訪れたときのことを思い出しました。
 でんでんむしの彫刻がたくさんありありました。

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