2019年01月08日

信長の原理 垣根涼介

信長の原理 垣根涼介 角川書店

 直木賞候補作のうちの1作です。この本だけを読むことにしました。

 なじみの地名が次々と出てきます。親族関係はメモして理解します。最初の30ページぐらいが、読んで理解するのに時間がかかります。
 物語のなかでは、戦国時代であり、ぼやぼやとしていると、殺されてしまう雰囲気です。
 
 蟻の話は統計学を思い浮かべます。
 「鉄砲」は、現代のウィンドウズ95とか、スマホを想像します。
 
 信長は劇薬、弟の信勝は平凡。

 信長の父、信秀は42歳で病死。葬儀の席で有名な焼香時の投げつけ行為があります。
 信長は坊主が嫌いです。

  信長は新しいタイプの戦(いくさ)の手法をします。戦上手です。このあたりが、タイトル「信長の原理」につながっていくのでしょう。

 戦に勝った者が「正義」の世界と感じながら読んでいます。
 信長は感情に流されません。自分の好き嫌いは後回しにして組織のメリット・デメリットを判断します。科学的です。500年ぐらい前の当時では、ない発想と判断だったでしょう。能力があって、実績があれば引き上げる。木下藤吉郎(豊臣秀吉)という個性を産み出しています。
 2割、6割、2割という蟻の理論が続きます。働く、引っ張られる。働かない数の割合です。
 多勢に対して少数精鋭で戦う信長ですが、彼が完全に思うようには戦えません。

 跡取り最優先候補としてのすさまじい信長の執念があります。天下統一につながっていく意志を感じます。

 物語は、「桶狭間の戦い」へ進んでいきます。
 織田信長の敵である今川義元の軍勢の数は2万5000人以上とあります。対して信長は、かき集めても1万人、なおかつ全員が真剣というわけでもない。一族が生き残るためには寝返り(裏切り)もあります。信長は、まず、わずか六騎で早朝の城を出て熱田神宮へ向かいます。
 信長は神仏を信じないが、軍勢の心理を高めるために信じるふりはする。
 
 のちの徳川家康「松平元康」も出てきました。

 裏切った家臣への報復の気持ちは強い。人々は信長の荒々しい気性を恐れて従う。

 お金が要ります。軍事と政治。有能な指揮官の養成。

 国盗り物語の様相です。

227ページあたりに書いてある信長の思考が大事なのでしょう。
 神仏に意味はないからこそ尊いという言葉は、人間の根幹に近づくものです。

 階級社会、身分制度、温情人事、下剋上、裏切り、人事評価、会社組織にも似ている。

 明智光秀が織田信長に披露した理論は的を射ています。そして、そのふたりを冷ややかに評価する木下藤吉郎がいます。真理を追究しても無駄な時間だ。状況分析結果をすみやかに物事に生かせばよい。
 信長は明智光秀に投資して利を得ようとする。
 
 信長は復讐の鬼です。

 三方ヶ原の戦いで、家康は大失態をしでかします。信長の命に従いません。武田信玄の軍に追い立てられます。

 信長は時勢とともにある。だれも止めることができない。

 追い払われた室町幕府将軍足利義昭。

 明智光秀との関係において、信長は、光秀の能力をかいながらも、自らの命を光秀によって絶たれています。光秀に限らず、信長は、裏切り行為を予測できなかったのか。

 2・6・2の原理の最初の2に明智光秀と豊臣秀吉は入っていた。利用する。最後は裏切られる。

 侵略して、家来に土地と民を与える行為を続けていかなければ組織が成り立たない時期。

 信長は、数よりも質に重きを置く。

 自慢の鉄砲隊は雨の中では使えない。

 松永弾正久秀(まつながだんじょうひさひで)1577年68歳没。信長に討たれる。

 損得勘定のあるところに、「愛情」や「友情」はない。

 信長は常に孤独な人だった。

 読んでいる途中力が抜けたような雰囲気が続いていましたが、426ページ、松永弾正久秀のあたりからクライマックスが始まったと感じました。緊張感が高まってきます。
 
 武田信玄。1573年。53歳没。

 武田信玄も上杉謙信も天下統一の野心はなかった。

 織田信長は、世界観を自分で作り上げてきた。
 織田信長は、この世の根本を疑う。

 ここまで読んで、「信長を殺したのは信長だった」と悟ります。

 秀吉が天下を治めていた期間が、8年間ぐらい。
 上杉謙信が亡くなったのが、48歳。

 みな、狸じじい(たぬきじじい)ばかりです。

 明智光秀は苦悩している。最愛の妻を亡くし、今度は信長の命令で最高の部下を失おうとしている。

 50歳という年齢を過ぎると、当時の寿命を達成したという感覚があったのではないか。だから、あきらめもつきやすかったと考えてしまいます。

 側近たちが、「信長を人としてどう思うか」という疑問の海に浸っています。
 
 外に敵がいなくなったあとは、内に敵が発生する。
 内部に信頼関係がない組織は滅びる。過去、現在、未来の経過においてもその法則は生きる。

 信長は、「人ではなかった」、あるいは、「信長だけが人だった」。答えのない疑問に突入しそうです。
 信長は、人を虫(蟻あり)として見ていた。人として見ていなかった。

 後半は、明智光秀が主役のように見えますが、信長の物語でした。描き方として、信長自身を色濃く描くのではなく、信長の周囲にいる人間を浮き彫りにすることによって、信長という人間の特性を引き出しています

 調べた単語などとして、「陪臣:下の下。家臣の家臣」、「惣領:そうりょう。家督相続予定者」、「打擲:ちょうちゃく。叩く、殴る」、「料簡:りょうけん。考え」、「有識故実:ゆうしきこじつ。先例に基づく行事、法令など」、「恬淡:てんたん。物事に執着しない」、「旭日の勢力:朝日のように勢いが盛ん」、「馬廻り:大将の乗っている馬の周囲を警護する騎馬武者」、「乞胸:ごうむね。雑芸人」、「内憂外患:内にも外にも問題が多いやっかいな状態」、「威武:いぶ。威力と武力。強く勇ましい」、「譜代:代々味方。外様と区別する」、「可憐:かれん。守ってやりたくなる者」、「傳:めのと。仲立ち。この本の場合は後見役」、「毀誉褒貶:きよほうへん。ほめたりけなしたり」、「燻らせる:くすぶらせる」、「評定:みんなで相談して決めること」、「傳育:ふいく。貴人の子を第三者が養育する」、「茶筅:抹茶をたてるときの道具」、「知行地:ちぎょうち。権力者が服従者に与えた土地」、「倨傲:きょごう。おごりたかぶる」、「睥睨:へいげい。睨みつけて威圧する」、「諫言:かんげん。目上の人の過失を指摘して忠告する」、「諫死:かんし。死んで目上の人をいさめる」、「放埓:ほうらつ。勝ってきまま」、「梟雄:きょうゆう。残忍で強く荒々しい。悪者の首領」、「反駁:はんぱく。反論」、「虚仮:こけ。愚かな人」、「白兵戦:至近距離での戦闘」、「誅殺:ちゅうさつ。罪をとがめて殺す」、「本貫:氏族集団の発祥の地」、「衛門府:えもんふ。役職」、「謁見:えっけん。目上の人に会う」、「弑し奉る:しいしたてまつる。目上の者を殺す」、「息災:そくさい。元気なこと」、「切所:せっしょ。なんしょ」、「嚇っとなる:かっとなる」、「癪:しゃく。むしゃくしゃする」、「料簡:考え」、「蔵人:くろうど。役職。文官」、「余禄:予定外の利益」、「讒言:ざんげん。うそをついて、その人のことを上に悪く言う」、「簒奪:さんだつ。家督を奪い取る」、「擡頭:たいとう。進出する」、「近習:きんじゅ。主君のそば近くに仕える者」、「宿直の間:とのいのま。警備」、「陋劣:ろうれつ。卑劣」、「忸怩:じくじ。自ら恥じ入る気持ち」、「詮なきこと:しかたのないこと」、「殲滅:せんめつ。皆殺し」、「昵懇:じっこん。懇意」、「宇内:うだい。世界、天下」、「太守:領主」、「宗家:そうけ。一族の中心となる家柄」、「調略:計略」、「靡く:なびく」、「徒立ち:かちだち。本書では、信長が乗っていた馬の前足を斬られて、馬から降りて、地面の上に立った状態ととりました」、「追い縋る:おいすがる」、「僥倖:ぎょうこう。思いがけない幸い」、「泉下:せんか。死後の世界」、「兵站:へいたん。総合的な軍事業務」、「橋頭堡:きょうとうほ。拠点、陣地」、「阿闍梨:あじゃり。模範となる高僧」、「阿諛物:あゆもの。相手の顔色を見て相手の気に入るように振る舞う」、「滝川一益:たきがわいちます、かずます。織田信長の家臣」、「麾下:きか。将軍じきじきの家来」、「徒手空拳:としゅくうけん。素手。資金地位なく身ひとつ」、「敬虔:けいけん。敬い慎む」、「自儘:じまま。わがまま」、「股肱:ここう。最も頼りになる家来」、「卒爾:そつじ。突然ながら」、「杣道:そまみち。細くて険しい山道」、「潰走:かいそう。敗走」、「掛人:かかりゅうど。居候」、「元亀:げんき。年号」、「面妖:めんよう。怪しい」、「奸計:かんけい。悪だくみ」、「情誼:つきあい上の義理」、「搾め木:しめぎ。板で種をはさんでつぶして油をしぼる」、「険阻:けんそ。地勢が険しい」、「俄か:にわか」、「讒言:ざんげん。うそをついてその人のことを目上の人に悪く言う」、「眷属:けんぞく。一族郎党」、「磊落:らいらく。小事にこだわらない」

 良かった表現などの趣旨として、「戦は勢い、集団として機能したほうが勝利を手にする」、「人間は生まれる場所を選べないが、死にざまは選ぶことができる」、「ゆき詰まったとき、ただひたすらにがまんをして時をやり過ごす。状況が変わって、良案が浮上するときを待つ」

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