2018年07月22日

さざなみのよる 木皿泉

さざなみのよる 木皿泉 河出書房新社

 読む前の情報として、小国ナスミという女性43歳が亡くなったところから物語が始まるらしい。どうやって、死んだ後の世界を描いて感動を呼び起こすのか。そこに注目しながら読み始めました。
 全体で14話の短編がくっついて成立している物語です。

第1話:癌で死ぬ。本人に実感なし。過去形の記述が続きます。朝、目が覚めると、まだ死んでないじゃんと思う。なんだかすごいなあ。命は一個きりだから気持ちに迫るものがあります。ナスミさんはご主人の日出男さんと富士ファミリーという屋号のコンビニみたいなスーパーを自営している。ナスミさんの1人称記述が続く。周囲のみなさまに感謝している。動きのない場所が、ここ。ラストの「ぽちゃん」うまいなあ。

第2話:ナスミの夫、日出男の目線で話は進む。ひらがな表記が上手に使ってある。ぽちゃんは、伏線になるのだろう。(読み終えて:伏線にはなりませんでした。)

第3話:おんばざらだるまきりっくそわか。ナスミさんの妹である月見さんが語る。義母と月見さんのこと。そしてナスミさんが亡くなる。「ちぃ姉ちゃん:複数の姉のうち、自分の年齢に近い姉をさす。」。ナスミさんの上にもうひとりの姉、鷹子さんがいる。

第4話:ナスミさんの夫、日出男さんの目線。日出男さんには、人間が文字に見える。東京での夫婦生活スタートの思い出話が良かった。

第5話:母親とナスミの対立があります。されど、もう、ふたりとも亡くなっています。ナスミの父方おばの笑子さんが、それを語ります。「アーモンド型の目」、それは窓の記述、設定が良い。死ぬのはそんなに悪くないもいい。

第6話:床屋店主の清二、食堂経営マンボの登場。清二とナスミの中学生当時の家出話。それぞれが、そのとき、本当に好きだったものは、お互いではないものだった。

第7話:佐山啓太の登場。この部分、偶然ですが、最近の事件で、近隣に住む小学生をさらっての殺人事件やお金目的ネットで募集後の女性殺害事件と重なります。この本のこの部分を読んだら、人殺しなんてしなくて済んだのにと思わせてくれる記述です。こんにちは、さようならの四行詩が光っています。「私たちは本当は危うい世界に生きている。」の部分がいい。「よいことも悪いことも受け止めて最善を尽くす。」もいい。

第8話:加藤由香里の登場。セクハラ上司との対決です。悲しい話でした。読んだ人が明日もがんばろうと思える本をつくろうが良かった。あげたりもらったり、繰り返しながら生きてゆくが良かった。

第9話:床屋の清二さんの妻利恵さんが語ります。結婚後、家を出ようとしたことがあるが、ナスミに止められた。そのことを、今もだれも知らない。味わいがあります。今年読んで良かった1冊になりました。

 ここまで、読んで、以前読んだことがある同作者の「昨夜のカレー、明日のパン(ゆうべのカレー、あしたのパン)の感想文を読み返しました。この本と類似の内容でした。ブラッシュアップしてあるのかもしれません。ただ、カレーの物語のあらすじをもう覚えていません。2014年の2月に読みました。

第10話 兄啓介、妹愛子です。最初にふたりはだれの子? 既婚者ナスミと啓介の男女交際です。さいごは、まあ、びっくりです。

第11話 漫画家さんが出てきます。「続け!」が良かった。

第12話 夏美はナスミ45歳。加藤由香里が登場。

第13話 「めんどくさいから、とりあえずそういうことにしておこう。」は、よくあることです。最初、光は8歳の男の子だと固定観念で思いこんで読んでいたので、途中、わけがわからない部分にぶつかり、しばらくして、光は女の子だと気づきました。「いのちがやどっている。」

第14話 最後は厳しい話です。うーむ。どうかなあ。物語のスパン(期間)がとても長い。私の好みの終わり方ではありません。

タイトル「さざなみのよる」を見ていて、「さよならのよる」のほうがしっくりくると思いました。

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