2017年01月04日

室町無頼 垣根涼介

室町無頼 垣根涼介 新潮社

 朝から読み始めて、夕方読み終えました。足利尊氏の時代の終わりがけ、戦国時代突入あたり、応仁の乱(1467年から10年間ぐらい)の手前1461年がスタートです。冒頭にある当時の京都の地図をながめながら、40代の頃に複数回訪れたことがある場所の数々という記憶が呼び起こされました。とくに糺の森(ただすのもり)は思い出深い。歳を重ねた今となっては、また訪れるのはおっくうです。

 主人公は武家の筋であったけれど、捨て子同然の才蔵17歳です。両親は他界しています。生きるために棒術を身につけます。彼の教育を骨川道賢(ほねかわ・どうけん。苗字とは思えない)とか、蓮田兵衛(はすだ・ひょうえ)が務めます。そうなのです。この本の特徴は、「教育」にあります。また、人が混乱の世を生き抜くための「手段」とか「心構え」があちこちに記されている異色の本です。そんな例の趣旨として、以下のことがらがありました。生き方の教えです。その点でこの本は名著です。珍しい書き方の教育本です。
「自分の身は自分で守らないとだれも守ってくれる人はいない」
「善悪は、見る側の都合で決まる」
「自分の頭で考えろ。自分の未来は自分で自己決定せよみたいな趣旨」
「寝ていても食える人間は頭を使わないからばかになるという趣旨」
「盗られたからといって、だからどうしたという開き直り。それまでだというあきらめ。人を見る目が自分になかったという分析と解釈」
「欲得でしか動かない人間ばかり見てきたが、この人物は違うという趣旨」
「探すのではなく作るという趣旨」
「女はだれのものでもないという解釈」
「無駄死にはご免だ」
「(生き続けていくために)縁切りをするという趣旨」
「人は生きていくためには、知らなくていいことがある」
「人はみなそれぞれ自分の都合で生きているという趣旨」
どれも、厳しい愛情が流れている名文句です。孤児で生きていくために師匠たちが弟子の才蔵に教えてくれたのです。

「膂力:りょりょく。時代ものなので、とかく意味不明な単語が多い。筋肉の力とか腕力」、「無聊:ぶりょう。たいくつ。わだかまりがあって、楽しまない」、「口なし:無口」、「鐺で鳩尾を激しく突く:こじりで、みぞおちを突く。刀の鞘の末端の部分で胸のみぞおちを突く」、「尾籠にする:おこにする。ばかにする。」、「走狗:そうく。人の手先で使われる者。猟犬」、「胡乱:うろん。怪しく疑わしい」、「悍馬:かんば。暴れ馬」、「鵺:ぬえ。妖怪」、「長広舌:ちょうこうぜつ。よどみなく長々としゃべり続ける」、「徳政:債権破棄の政策」、「卒塔婆:そとうば。供養のための細長い板」、「情夫:夫以外の愛人である男」、「二町:にちょう。200mぐらい」、「膾にされる:なますにされる。生のまま酢であえた(混ぜた)料理」、「常在戦場:じょうざいせんじょう。いつでも戦場にいる心構えでことをなせという教え」、「礫を投げる:つぶてを投げる。石ころを投げる」、「兵法者:へいほうしゃ。いくさの方法の精通者」、「料簡:りょうけん。考え」

 かなり荒れた世の中です。犯罪が横行している。それは、物語の中だけのことと思いたい。以前読んだ、日本を訪れた外国人の手記には、日本ほど平和で落ち着いた国はこの世にないと書かれていました。秩序をもって、地方自治が機能している。自然界にはおいしい食べ物があふれている。身分制度はあるけれど、個々人は気にしないで仲良くしている。
 幕府側も盗賊側も、ならず者たちの目標は天下統一で、その道程ははるかに遠い。この物語の場合、百姓一揆が出来事として、そこに彼らの精神が集中していきます。

 会話で進行していく形式です。この本もまた、映像化を意識して書いてあります。
 今回の直木賞候補の中では、好みの1冊でした。


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