2016年11月23日

通天閣 西加奈子

通天閣 西加奈子 ちくま文庫

 2006年作品ですからもう10年前のものです。一人称で進みますが、登場人物はふたりです。まだ、78ページ付近ですが、感想は書き始めます。
 2005年作品に、リリー・フランキー氏の「東京タワー」がありますので、「通天閣」はその大阪版だろうかと読み始めにピンとくるものがありました。それが、合っているのかどうかは作者じゃないとわかりません。

 通天閣のそばに住んで暮らす男と女がいますが、まだ、ふたりは接触していません。

 すばらしい。言葉が泉のように次々と湧き出てきています。特徴は、狭い世界の空間に大量の言葉や表現が出ていることです。圧倒されます。おもしろい。

わからなかった言葉などです。「MA1:軍隊のパイロットが着るジャケット」、「ばったもん:正規ルートではない正規品。倒産企業のもの、荷崩れもの、包装の外観劣化など」、「ボス止め:ビス止めのようなもの。ねじ止め」、「ジム・キャリーはMr.ダマー:94年製作のコメディ映画。ジム・キャリーは俳優」

いいなと思ったフレーズ(文節)の要旨です。「義理の父親と実母がいる実家へは帰省しにくい」、「今日も死んだような気持ちで自転車をこぐ(すごい。こんな発想できません)」、「切れの悪いおしっこ」、「日々をこなす(だけの人生。底辺の生活を描く。死なないために、1日という時間を機械的に行動して経過させる)」、「(店舗名)大将で食べる塩焼きそばの大盛り」、「親子の真似事」、「古いとは、少しも前に進んでいないこと」、「あんた、無理しているんじゃないか」、「これからどうすればいいのだろう」、「今月分の給料はいりません」、「(ビデオカメラにからめて、自分には)充電が必要なのだ(すばらしい表現です)」

(つづく)

 ホモの話が出てきます。最近のニュースは、なんとかというアルファベット4文字で、人権尊重の対象と報道されています。

 人に話しかけられたくない、人と話すことがイヤな主人公男性です。

 102ページから、がぜんおもしろい展開に発展します。推理小説仕立てになっています。

 読んでいて、ちょっと、つらくなった。どん底の暮らしをしていた少年期を思い出してしまいました。

 「時計」にまつわるお話が登場します。「時」を考える。

 読み終えました。伏線が上手に張られていました。「隣人」、「時計」、「5時」、「タクシー整理の老人男性」、「銭湯で、水風呂とサウナを行ったり来たりする老人男性」
 自殺防止のメッセージがあります。生い立ち、育成歴が不遇で、不条理に満ちた人間社会があります。それでも、生きていくのです。死んではダメなんです。死にたいと思っても生きるのです。生きるのに必要なものが愛なのです。

 肯定的な立場で読むと、少し無理がある。否定的な立場で読むと、あまりに非日常的。
 映画、ジム・キャリーはMr.ダマーを観たことがないので、しっくりこない部分があります。また、各章の冒頭部分にある夢の記述はピンとこない面もあります。

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