2016年10月21日

(再読)サラバ! 上・下 西加奈子 

(再読)サラバ! 上・下 西加奈子 小学館

「僕はこの世界に、左足から登場した」
角田光代作品もこのような奇抜な出だしをとります。たしか、自分はどこそこにあるなんとかというラブホテルで仕込まれたというような始まりの作品があったと思います。女子読者にとっての受け入れたい風潮含みの独特な入り方です。

セリフの「  」の中、文末に句点「。」が入ることが小説では珍しく感じます。仕事の文書では入れます。

ページにびっしり文字が並んでいます。読み手がページをみたときにはプレッシャーを感じます。概算ですが、原稿用紙2500枚はあると思います。すごい筆力です。むずかしい漢字は少ないので読みやすい。ただし、内容は特異(特別にふつうと違う)です。巻貝(姉のストレス発散のための自室の壁への彫りもの)、エジプト生活(うんこが落ちている公衆有料トイレ)、エジプトの車線の書いてない道路、金はあるけれど愛のないファミリー、エジプトでの「神のご加護がありますように」、エジプトでの物乞いたち。

イラン国テヘラン生まれの作者の体験が生々しく作品に反映されています。生まれて、幼稚園に行って、小学校に通う。女子を男子に変えて、自叙伝がベースです。

良かった表現として、父親のこととして「何をおいても会社命だった」、「気配を消す技術」(平成時代を生きる若い人の生き方と思いました)、「心の中のピンク色のクレヨン」、「ミイラの本」、「(エジプトのこととして)どれもがショックだった」、「エジプシャンの口癖として、IとBとM:インシャラアッラー、神の思し召し(おぼしめし)のままに、ブクラ、明日やります。マレーシ、気にするな」、「いつか会えなくなる友達(一期一会。エジプト日本人学校の小学生たちの凝縮した気持ち)、「サラバ。それはほとんど魔法の言葉だった」、「こどもはおとなの都合にふりまわされる」、「サトラコヲモンサマ」、「エジプトから帰国して5年1組に入った」、「私、昔、誘拐されたことがあるんです」、「姉は死にました。二十歳のときに飛び降りました。」、「(主人公男子について)自分の意見がない。いつも頑張っている人のことを見下している。自分は努力しなくても常に選ばれる立場にあると思いこんでいる(美顔、スタイルよしだから)」、「自分が信じるものを自分で見つける」、「僕の髪は抜け続けた」、「数は関係ない」、」、「〇〇さんはずっとひとりだった。死ぬまでひとりだった。だから、自分は幸せになってはいけない」、「すくいぬし」、「(自分のこととして)312ページ付近に規模は違うけれど、過去の場所を探索する自分の姿が主人公と重なって存在します。(小学校5年生の頃に別れたエジプト人ヤコブとの再会があります。ふたりは互いに34歳です。」、「(これからは対立するのではなく)違うことを認め合うべき」、「僕の神さまはサラバだ」、「友情:(私見として)ひとりだけでもいい。信じあえる友達をもつ。それがとてもむずかしい。」

難しい漢字として、「穢れている:けがれている」、「嗜虐的:しぎゃくてき。残酷なことを好む」、「嘯く:うそぶく。とぼけて知らないふりをする

人は人のおかげで生きていける。エジプトで孤独だった主人公小学校1年生ぐらい男児の母親はエジプト人のお手伝いさんゼイナムに助けられた。
日本人とエジプト人との関係性は、「仲良し」です。
20年ぐらい前の思いでの記述が続きます。登場人物姉・弟は小学生です。今では30代でしょう。

今は、再読中ですが、これを読み終えても、月日(つきひ)をあけて、将来に、もう一度読んでみたい作品です。

こちらが好意をもっていても、相手はそう思ってはいない。世界は誤解で成り立っている。そんなフレーズを思い出しました。
ヤコブ:主人公男子小学生、歩(あゆむ)の親友。エジプト居住。日本人とエジプト人、子ども同士の絆があります。「サラバ。」と言い、「サラバ。」と返答する。気持ちが伝わる。サラバに意味はない。あるけれど、特定の意味はない。「僕らはひとつだ」ということを確認するために、互いに「サラバ。」と声をかけあう。

ヤコブの世界の人、歩の世界の人。エジプシャン(エジプト人)の世界、日本人の世界

章の下にある1項目のページ数は12ページぐらい。

 他人に本心を明かしてはいけない。他人はネタを仕入れて金儲けをしようとしたり、有名人になろうとしたりしている。

 主人公の家には、フツーの家族の営みがない。お金はある。「信頼関係」はない。

 後半は、三角関係、愛のない結婚と出産、離婚、続く不幸
 それでも、生きていかねばならない。
 なにかを信じて、すがって生きていかねばならない。
 主人公は、「サラバ!(前向きな気持ちがこもっている言葉として)」を信じていく。
 小説家は、言葉に命を吹き込む。


(2015年1月20日記事)
サラバ! 上・下 西加奈子 小学館

 「サラバ!」とは、「おさらば」というさよならだけの意味ではなく、喜怒哀楽の場面、ことに、恐怖、別れ、どうしたらいいのかわからなくなったときのおまじない(厄除け、ときに励まし)となる言葉です。お互いの気持ちをお互いに「サラバ」と発声して相手に伝えます。主人公圷歩(あくつあゆむ。両親離婚後は、今橋歩)とエジプトカイロに住む小学校同級生ヤコブとの共感と友情を生む・育む(はぐくむ)合言葉です。
 なんともむちゃくちゃな圷家(あくつけ)です。夫婦仲は悪い。母は躁鬱病ぽい、姉貴子は自閉症かアスペルガー症候群のようです。4歳年下の弟歩(あゆむ)は、もの心ついた時から、なるべく家族と関わりをもたないようにして、自分の存在を消す努力をします。
 歩は、イランで生まれて、日本に帰国ののち、エジプトカイロに引っ越して、そこで小学校時代を送っていたら、両親が離婚して日本へ帰国。中学・高校時代を過ごした大阪の家を出て、東京で大学生活を送り、きちんとした就職はせず、フリーライターで一人暮らし。まだ携帯電話が普及していなかった頃に発生した阪神淡路大震災を体験して、その後、東日本大震災も東京で経験して、34歳を迎える。作者の体験がベースになっているであろうことから、読み始めは、主人公歩が女性に思えて、なかなか頭の中のパズルが組みあがりませんでした。
 特徴ある個性的な文章の出だしは、作者の個性です。これまでに読んだ同作者の「ふくわらい」とか「円卓」、「きいろいゾウ」、「きりこについて」と同様で、最初はその奇抜さに魅力を感じましたが、今回は少し飽きが生じてしまいました。
 女性向けの小説です。セクシーな面もあります。描かれているのは、女子の世界です。以前、「東京タワー」リリー・フランキー作を読んだときのような男性的な感動が、女子がこの作品を読むと湧きあがってくると思います。また、わたしのような中高年よりも今の時代を過ごす若い人たちにぴったりでしょう。
 物語の内容は読み手の実生活とはほど遠い。家族関係が崩壊している圷家(あくつファミリー)はそれでも、海外赴任で重役をしている所帯主憲太郎のおかげでお金持ちです。(離婚後も妻子の生活費・養育費、妻方親族の借金の肩代わりもしています。)彼らが外国で暮らす家は、部屋数がたくさんあって、一部屋ずつが広い。専用の運転手もメイドもいる。お金があるから、ヨーロッパだって、アメリカだって、世界旅行だってできちゃう。読み手から見ると稀有(けう。めったにない)な世界です。すさまじい暮らしぶりです。それから、圷ファミリーは、それぞれ外見が美しいのです。夫も、妻も、ねえさんはちょっと病気だけど、主人公歩もいい男、背は高い、美人なのです。高校や大学進学でお金がないと悩むこともないのです。異性から次々と惚れられる立場なのです。書中では歩が「この家族はいったい何なんだ。」と叫びます。
 宗教に関する記述が長らく続きます。20年ぐらい前に日本で流行したり、問題になったりした新興宗教の類(たぐい)です。そのあたりから「信じる」ことへの追求が始まります。歩には生まれてからずっと精神に欠けているものがあった。彼は無責任、無関心、傍観者、自分の存在を消すことでわずらわしいものから逃げていた。
 映画、小説話が多く登場しますが、曲名、タイトル名、歌手名などは、聞いたことがない人ばかりでした。
 ユーモアはありますが、笑いが続くことはありません。むしろ、後半は重い命題が付きつけられます。夏目漱石作品を読むようでした。起承転結の転の部分は唐突でほかの表現方法があったと思います。
 作者は自分が小説を書こうと決めたきっかけを語り、そして、作者は、小説家として、書いていく信念を強くアピールします。日本民族は、本を読まなくなりました。そのうち、文章の読み書きができない人が増えるでしょう。作者の言葉には、警鐘の部分もあります。
 歩のように、自分は悪くないと主張して、自立できていないことに気づいていない人。支えがいる人。依存から抜けられない人。家族メンバーがいても、家族じゃない家族。社会問題、課題の一面をとらえています。
 上・下巻、2日間かけて読み終えて、その後入浴中に考えたのは、互いに主張しながらの「共存共栄」が本作品の主題なのだろうということでした。
 作品には、そのほかにもいっぱい独特なネタが含まれていますが、これぐらいにしておきます。
 ひとつだけ加えます。自分は、人生における偶然は必然だととらえています。それは、出会いです。縁があれば、同じ人に、どうしてこんなところでという場所で、何度でも出会います。

(数日後)
 「気持ち」を大切にする。
 法令とか規則、決まりごとが最優先ではなく、「気持ち」を大事にする。
 そんなことが思い浮かびました。

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