2016年07月25日
わたしの宝石 朱川湊人
わたしの宝石 朱川湊人(しゅかわ・みなと) 文藝春秋
この作家さんの作品で、「オルゴォル」というのをずいぶん前に読んだことがあります。味わいありです。記憶にあるのは、両親が離婚した小学生男児が、離婚後東京から大阪に移り住んだ父親にひとりで会いにいくのです。鉄道で大阪まで行ったところ、父親は女性と再婚・同居しており、女性はふたりの赤ちゃんを妊娠していて、異母きょうだいが生まれるのですが、周囲の人々は、少年を温かく迎え入れてくれたのです。さらに、少年と暮らしている実母には彼氏がいるのです。何かをどうすることもできない小学生男児の姿が切ない。少し違うかもしれませんがそんな記憶です。魅力的な文章と文脈の流れが心地よく、作者のもち味のひとつとなっています。
さて、短編6本です。
「さみしいマフラー」
幼児期5歳のときの交通事故(父事故死)の後遺症なのか、その後、幻覚が見える女性のお話です。ただ読んでいると男言葉に感じるのが自分だけかと疑心暗鬼になりました。彼女は、さみしそうな人の首にありもしないマフラーが大人になった今も見えます。彼女のお母さんは看護師です。
マフラーが見えるところまでの発想はできます。その後の展開作成ができません。以下読書の経過です。
舞台は東京足立区のTというところ。主人公は、小学校5年生で2歳年下の小学校3年生男子不二彦(プチ彦)と出会う真奈美さん(パナミ姉ちゃん)です。
途中何度か「あなた」という人への語りが出てきますが、最後まで読まないとその「あなた」がだれなのかがわかりません。わかったときには、ずしんと胸に落ちるものがあります。純愛は、かなわぬと憎悪に変わる怖さが描き出されています。
けっこう読めない字が多かった。「鎌をかける:誘導する」、「傾げる:首をかしげる」、「教条主義的:状況・現実無視。応用の効かない考え、態度」、「学校が疎か:おろそか」
「ポコタン・ザ・グレート」
痛快でした。読み終えたときには、自分の心の中で、おもしろい!、サイコーと声が出てしまいました。
柔道家父に似てブサイクに生まれついてしまったポコタンこと北岡奈保子(なおこ)の恋物語です。
良かった表現です。「女の世界はまず顔ありき」、「(こどもに)なんでも買い与えていたら(そのこどもは)ダメになる」、「自分の誠を尽くす(新選組にからめて)」
読めなかった漢字群です。「掠めた:かすめた」、「小賢しい:こざかしい。生意気」
本作者の作品は、小学生時代を扱ったものが多いことが、本作者の特徴です。
「マンマル荘の思い出」
記事中に「巨泉×前武ゲバゲバ90分!」の記事あり。先週、大橋巨泉さんの訃報が流れました。
昭和45年夏、日本万博の記事(こちらも夜のNHK歴史秘話で流れていました。)
竹内浩三という人の戦争の詩「骨のうたう」での「ひょんと死ぬるや」が胸に痛みをもって響く。骨から芥川賞候補作「指の骨(戦地で遺骨集め)」を思い出しました。
昔は問題にされにくかった夫から妻子に対する暴力・虐待(夫はそとづらが、温厚、誠実そうに見える真面目人間であることが多い)への憎しみが流れています。そこに愛情物語ありです。
昭和30年代に成育歴をもつ世代として、共通体験があり、記述内容のあれこれがなつかしい。ただ読み終えてみると、感傷にひたりすぎかなとも思う。遠ざかった昭和時代の風景です。いいこともあったし、いやなこともあった。過去を輝くようにはとらえきれない現在があります。
「ポジョン、愛してる」
40代未婚男性が韓国のアイドルグループ「プリシラ」のメンバーであるユン・ポジョンに入れ込むお話です。
これまでの短編、たぶんこれからの短編も、前文があって、「1」から始まり、その後いくつかの章で終わる形式・構成です。この作品では、背が低い、アイドルにしては目立たない判官びいき・ほうがんびいき(弱者に対するひいき。もとは、源義経に対するひいき)の流れです。
わからなかった言葉です。「常夜鍋:毎日食べても飽きない。ほうれん草または小松菜、白菜、豚肉の鍋。ポン酢で食べる」、「キャッチー:人気になりやすい」
気に入った表現です。「(主に役所仕事を指して)この世界は、多くの事務作業と、ムダな会議でできている」、「人生の運を使い切った」
この物語は、けっこうつらい終わり方ですが、有りうることです。
「思い出のセレナーデ」
天地真理さんの曲です。この短編を読み終えたあと、私事での遊びの旅先だったのですが、この曲が流れてきてびっくりしました。のってます。もってます。
短編内容は、曲の内容と同様にしんみりきました。世間には出せない暗部を家族とか家庭はかかえています。友人とは名ばかりで、本当に相手のことを考えてくれている人は少ない。
気に入った表現の要旨です。「30年間は、あっという間」、「独善的な感傷(自分のことだけ、ひとりよがりな感じやすく悲観的な気持ち)」、「卑怯者(ひきょうもの)」
ぱっと読めなかった漢字などです。「小狡い:こずるい」、「顔を顰める:しかめる」、「鬼籍:地獄の閻魔帳(えんまちょう)に記載される」、「竦み上がる:すくみあがる」、「面映ゆい:おもはゆい」、「躓いた:つまずいた」、「沽券:こけん。体面」、「全キャン連:全国キャンディーズ連盟」
「彼女の宝石」
この本の作品群の共通項として、恋愛感情が生まれないおさななじみの男女関係があります。基礎には、男と女が人生において、最後まで愛し抜けないつらさや悲しみがあります。各編、読み終えると、生きている実感が湧いてくる作品群でした。
最後のこの作品「彼女の宝石」は、短いお話ですが、最後は泣けました。男と女はこんなものなのだろう。縁があるかないかです。
むずかしかった漢字です。「綽名:あだな」、「眉を顰めて:まゆをひそめて」
この作家さんの作品で、「オルゴォル」というのをずいぶん前に読んだことがあります。味わいありです。記憶にあるのは、両親が離婚した小学生男児が、離婚後東京から大阪に移り住んだ父親にひとりで会いにいくのです。鉄道で大阪まで行ったところ、父親は女性と再婚・同居しており、女性はふたりの赤ちゃんを妊娠していて、異母きょうだいが生まれるのですが、周囲の人々は、少年を温かく迎え入れてくれたのです。さらに、少年と暮らしている実母には彼氏がいるのです。何かをどうすることもできない小学生男児の姿が切ない。少し違うかもしれませんがそんな記憶です。魅力的な文章と文脈の流れが心地よく、作者のもち味のひとつとなっています。
さて、短編6本です。
「さみしいマフラー」
幼児期5歳のときの交通事故(父事故死)の後遺症なのか、その後、幻覚が見える女性のお話です。ただ読んでいると男言葉に感じるのが自分だけかと疑心暗鬼になりました。彼女は、さみしそうな人の首にありもしないマフラーが大人になった今も見えます。彼女のお母さんは看護師です。
マフラーが見えるところまでの発想はできます。その後の展開作成ができません。以下読書の経過です。
舞台は東京足立区のTというところ。主人公は、小学校5年生で2歳年下の小学校3年生男子不二彦(プチ彦)と出会う真奈美さん(パナミ姉ちゃん)です。
途中何度か「あなた」という人への語りが出てきますが、最後まで読まないとその「あなた」がだれなのかがわかりません。わかったときには、ずしんと胸に落ちるものがあります。純愛は、かなわぬと憎悪に変わる怖さが描き出されています。
けっこう読めない字が多かった。「鎌をかける:誘導する」、「傾げる:首をかしげる」、「教条主義的:状況・現実無視。応用の効かない考え、態度」、「学校が疎か:おろそか」
「ポコタン・ザ・グレート」
痛快でした。読み終えたときには、自分の心の中で、おもしろい!、サイコーと声が出てしまいました。
柔道家父に似てブサイクに生まれついてしまったポコタンこと北岡奈保子(なおこ)の恋物語です。
良かった表現です。「女の世界はまず顔ありき」、「(こどもに)なんでも買い与えていたら(そのこどもは)ダメになる」、「自分の誠を尽くす(新選組にからめて)」
読めなかった漢字群です。「掠めた:かすめた」、「小賢しい:こざかしい。生意気」
本作者の作品は、小学生時代を扱ったものが多いことが、本作者の特徴です。
「マンマル荘の思い出」
記事中に「巨泉×前武ゲバゲバ90分!」の記事あり。先週、大橋巨泉さんの訃報が流れました。
昭和45年夏、日本万博の記事(こちらも夜のNHK歴史秘話で流れていました。)
竹内浩三という人の戦争の詩「骨のうたう」での「ひょんと死ぬるや」が胸に痛みをもって響く。骨から芥川賞候補作「指の骨(戦地で遺骨集め)」を思い出しました。
昔は問題にされにくかった夫から妻子に対する暴力・虐待(夫はそとづらが、温厚、誠実そうに見える真面目人間であることが多い)への憎しみが流れています。そこに愛情物語ありです。
昭和30年代に成育歴をもつ世代として、共通体験があり、記述内容のあれこれがなつかしい。ただ読み終えてみると、感傷にひたりすぎかなとも思う。遠ざかった昭和時代の風景です。いいこともあったし、いやなこともあった。過去を輝くようにはとらえきれない現在があります。
「ポジョン、愛してる」
40代未婚男性が韓国のアイドルグループ「プリシラ」のメンバーであるユン・ポジョンに入れ込むお話です。
これまでの短編、たぶんこれからの短編も、前文があって、「1」から始まり、その後いくつかの章で終わる形式・構成です。この作品では、背が低い、アイドルにしては目立たない判官びいき・ほうがんびいき(弱者に対するひいき。もとは、源義経に対するひいき)の流れです。
わからなかった言葉です。「常夜鍋:毎日食べても飽きない。ほうれん草または小松菜、白菜、豚肉の鍋。ポン酢で食べる」、「キャッチー:人気になりやすい」
気に入った表現です。「(主に役所仕事を指して)この世界は、多くの事務作業と、ムダな会議でできている」、「人生の運を使い切った」
この物語は、けっこうつらい終わり方ですが、有りうることです。
「思い出のセレナーデ」
天地真理さんの曲です。この短編を読み終えたあと、私事での遊びの旅先だったのですが、この曲が流れてきてびっくりしました。のってます。もってます。
短編内容は、曲の内容と同様にしんみりきました。世間には出せない暗部を家族とか家庭はかかえています。友人とは名ばかりで、本当に相手のことを考えてくれている人は少ない。
気に入った表現の要旨です。「30年間は、あっという間」、「独善的な感傷(自分のことだけ、ひとりよがりな感じやすく悲観的な気持ち)」、「卑怯者(ひきょうもの)」
ぱっと読めなかった漢字などです。「小狡い:こずるい」、「顔を顰める:しかめる」、「鬼籍:地獄の閻魔帳(えんまちょう)に記載される」、「竦み上がる:すくみあがる」、「面映ゆい:おもはゆい」、「躓いた:つまずいた」、「沽券:こけん。体面」、「全キャン連:全国キャンディーズ連盟」
「彼女の宝石」
この本の作品群の共通項として、恋愛感情が生まれないおさななじみの男女関係があります。基礎には、男と女が人生において、最後まで愛し抜けないつらさや悲しみがあります。各編、読み終えると、生きている実感が湧いてくる作品群でした。
最後のこの作品「彼女の宝石」は、短いお話ですが、最後は泣けました。男と女はこんなものなのだろう。縁があるかないかです。
むずかしかった漢字です。「綽名:あだな」、「眉を顰めて:まゆをひそめて」
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