2016年07月22日

希望荘 宮部みゆき

希望荘 宮部みゆき 小学館

 書店に大量に平積みされており、勢いよく売れていく本です。ベストセラーでしょう。初期の頃の宮部作品が好きでした。今回は、売れ行きの勢いに押されて早く手に入れなければなくなってしまうと購入しました。

「聖域」
 読み終えて、「深い」と良い意味でため息がこぼれました。
 私立探偵杉村三郎の人となりです。彼のこれまでのシリーズで読んだ本もあるのですが、印象に残っていないのは、自分の読解力のなさでしょう。「誰か」と「名もなき毒」は読みましたが内容を覚えていません。「ペテロの葬列」は読んでいませんが、この短編以降の作品中に主人公に関する記述がよく出てきます。彼は、現在38歳、独り暮らし、離婚歴あり。女の子ひとりは嫁が引き取っている。今多コンツェルンというお金もち宅の娘と結婚した。出身は山梨県の山間部にある町、東京の大学に通って編集者になった。現在は、私立探偵と下請けの調査員で食べている。
 「聖域」の内容です。高齢者女性が死にますという言葉を残して姿を消した。街中で彼女を見た。幽霊という証言が出てくる。そこを杉村三郎氏が調べていきます。
 ありうるとはいえ、なきに近い事例で、文末は収まろうとしていたときに、くるりと転回して、人情話になります。うまい。
わからなかった単語です。「しもたや:もと商店、今は専用住宅」、「ヴィンテージもの:年代物の高級品。洋服」、「宗教カルト:反社会的な悪しき宗教集団」

「希望荘」
 秀逸です。本が売れる理由があります。殺人の要因は、憑(つ)きものがとりつくと表現がありますが、殺人の要因は、むしゃくしゃした気持ち。ストレスです。そして、事後には、後悔してもしきれない責任が襲ってきます。
 作者の個性である「戸籍」、「住民票」、「弁護士がからむ事件」、「親族関係」などが、持ち味を生かして、成功している作品です。
 老人ホームに入所していた78歳武藤寛二が、昔、人を殺したことがあるという意味深な言葉を残してこの世を去っていきました。殺人の真偽を調査するのが私立探偵の杉村三郎です。冤罪裁判事件の真犯人が武藤寛二ではなかろうかという推理も発生します。
 「希望荘」というアパート名がけっこうつらい。過去の掘り起しです。過去から見た未来に希望があったかというと生きていく苦労があった。それを希望と思うか、しかたがないと思うかは、その人の心のもちようです。
わからなかった単語です。「リノリウムの廊下:床材料」、「扼殺:やくさつ。手で首をしめて殺す」
印象に残った文節です。「恋は冷める」、「暴走老人」

「砂男」
 読み終えたときに、「徹底的」という言葉が頭に浮かびました。あまりにもぎゅうぎゅうで、体力的に、そして、精神的についていけない加齢化した読み手の自分がいます。当分の間、宮部作品は読まなくていいかなという気になりました。もうひとり「徹底的」な女流作家さんがいます。その人の作品は読みません。そこまでやるかと否定的する気持ちになります。
 社会の秩序に従えないけだもののような人間がいます。化け物です。悪を悪とも思わぬ奴です。短編ではありますが、焦点を当てた人間の悪行は異常です。死してなお悪を連鎖させていきます。
 オフィス蛎殻(かきがら)というのが出てきます。牡蛎(海のかき)ではなく蛎(かき)という単漢字が珍しい。
 「砂男」の意味はそれなりに不気味でした。ヘビメタの歌に登場する。サンドマンが来るから眠る前に祈る。何を祈るのだろうか。
意味がわからなかった単語です。「ラクロス:棒の先のかごが付いた道具を使って、相手のゴールにボールを入れると得点になる」、「胡乱な人物(うろんなじんぶつ):怪しく疑わしい人物」、「兜町のぬえ(かぶとちょうのぬえ):証券市場の相場師。ぬえは鳥。怪鳥、トラツグミ。能楽に出てくる」、「チノパンツ:綿パンの一種」、「違うベクトルで解釈する:方向性や目的を変えて考える」、「サイコパス:反社会的な人格をもち良心や善意をもっていない人。極めて特殊な人」

印象的だった表現の要旨などです。「癇癪(かんしゃく)を起こして手に負えない」、「可塑性(かそせい):力を加えられたあと、もとに戻らない」、「(日常的な親子・親族間の争いをとらえて)その平穏さのなかで…」、「インターネットがなかった頃のほうが世の中は平穏だった(総じて、生きづらい社会になりました)」

「二重身ドッペルゲンガー」
 自分自身の読解力のなさかもしれませんが、この章はあまり良くありませんでした。話があちこちに飛んで、読み手としての集中力を保てませんでした。
 東日本大震災が背景となっています。タイトルは覚えていませんが、青函連絡船が台風に巻き込まれた事故を思い出しました。
 ドッペルゲンガーの説明はやめておきます。本を読んでください。なげやりですいません。

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