2015年04月04日

どこから行っても遠い町 川上弘美

どこから行っても遠い町 川上弘美 新潮文庫

 11篇の短編集です。互いの短編に多少のからみがありますが、大勢に大きな影響を与えるものではありません。舞台は「遠い町」です。
 同作者の「センセイの鞄」同様、年齢差のある男女の淡い恋がしたためられている作品集です。恋には、体の関係も含まれます。
 風情(ふぜい)を文章化してあります。道徳とか、倫理とか、それらを否定するところまではいかないのですが、常識にとらわれない、いい世界を描く才能が作者にあります。
 それぞれの能力、学力、環境に応じた暮らしがある。法令等の決め事から少しずれた位置にある生活です。しみじみしました。穏当に暮らす人もいれば、そうでない人もいる。1編は短く、それぞれ20分もあれば読めます。
 中盤にかけては、(いいなあ、この短編集)という気分になるのですが、言ってみれば、だらしないわけで、途中からこんないいかげんでは、いけないと、気持ちが変化します。
 浮気、不倫、誰とでも寝る。男と女がそこにいれば、どうなのだろう。全部が全部そうなるわけでもなく、規律なく、こういうものかと、流されるのか、拒むのか。
記述にある行為が読み手に許されるのなら、読み手は楽になれる癒しの小説群です。
「小屋のある屋上」魚春という魚屋さんに男がふたり暮らしている。亡くなった女性の夫、平蔵とその女性の彼氏だった男、源二さんで、夫が亡妻の彼氏に同居を懇願した経過となっています。
「夕つかたの水」ぐっときたフレーズとして“お父さんとお母さんは、家庭内別居をしている”
「長い夜の紅茶」前篇と同じく印象に残った部分として、“言いたいことをこらえなければならない近所づきあい”
「四度目のなにわ節」央子(なかこ)さん35歳と廉ちゃん(れんちゃん)20歳の肉体関係を伴った男女関係です。こういうことってあるのだろうなあ。そのときはいいかもれないけれど、人間、歳をとるからなあ。
「貝殻のある飾り窓」元カノが、新婚の元カレと浮気をするお話です。もてる男は大変です。女の情愛はいちずです。最後のほうにある言葉が良かった。“みんなこうやっていつかはいなくなる”
「ゆるく巻くかたつむりの殻」どんでんがえしっぽい結末です。詩的です。

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