2014年12月21日

寄居虫女(ヤドカリオンナ) 櫛木理宇

寄居虫女(ヤドカリオンナ) 櫛木理宇(くしきりう) 角川書店

 読んでいる途中も、読み終えても、気持ちが晴れる内容ではありません。ある日、男児が家に迷い込む、しばらくしてその母親という女が家に入りこむ、というようにして、家を乗っ取られていく物語です。
 DVとか虐待とかが下地にあって、とある国のような洗脳(思考をコントロールされる)とか互いを監視し合う手法が記載されています。
 皆川ファミリーが崩壊していきます。不在がちな父親孝治は浮気をしている。末子男児を交通事故で亡くして気持ちが沈んでいる母親留美子、三人娘の長女琴美大学生は無口でおとなしく学力はある。次女美海高校生は3人姉妹のまんなかで、無関心に扱われ、周囲の家族から見ると、空気のように存在感がない。三女亜由美は中学生で祖母に甘やかされて育ったためわがままで精神年齢が低い。長男智未は、たしか5歳ぐらいで交通事故死でした。まず、智未の代わりとなる山口朋巳が皆川家に入りこみます。
 学校の教室活動を素材にした小説で、女子学生向きかと思いながら読んでいましたが、途中、これは「侵略」であり、家族とか家を超えて、地域、さらに国家への侵略、国の乗っ取りにまでも範囲が広がる内容であることに気づきました。力関係が逆転すると、自分の家が自分の家でなくなってしまいます。最初は頭を下げていた相手は、徐々に強気になっていき、権利を主張し始めます。防波堤が必要です。
 母親は男児を亡くして心の病をかかえていました。そこにつけこんだ山口葉月の出現で、もろいながらも家族を維持していた皆川家の秩序が乱れ、家庭の平和は崩壊へと向かいます。母親による姉妹間差別と姉妹間の対立があります。女性同士の心理世界を扱った作品でもあります。
 3人娘の心情が交互に描写されていきますが、3人の母親や加害者山口葉月の心情は書かれていません。そこが恐怖をあおる秘訣です。書き遅れましたが、これはホラー小説です。
 以下、読んでいて、心に引っ掛かったフレーズです。
・たかがお役所になにを期待する。(児童相談所を例にあげて)
・被害者が加害者を責めずに自分を責めるというDVとか児童虐待のパターン
・次女は「透明人間」
・事無かれ主義(事があっても事としない)の警察、学校関係者
・家族の壊し方、あるいは壊れるときの家族の経過として、それぞれが顔を合わせなくなる。会話をしなくなる。→侵略者あるいは他人を信用するようになる。→眠れなくなる、あるいは眠らせない。→理性をはぎ取っていく。
・崇拝→畏怖(いふ、恐怖)→隷属(れいぞく、どれい)
 情に流されると不幸が訪れる。その不幸を体験して、克服できると幸福が訪れる。自分の体験です。

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