2023年11月10日

恐れのない組織 エイミー・C・エドモンドソン

恐れのない組織 エイミー・C・エドモンドソン 野津智子・訳 村瀬俊朗・解説 英治出版

 人事労務管理のためのテキスト本でしょう。
 もうずいぶん前に買って読まずにそのままにしてありました。
 このさき、そのような仕事をすることもないとは思いますが、ザーッと読んでみます。

 わたしは、実用書は、まず、ゆっくりページを最後までめくりながら、なにが書いてあるのかを把握します。
 1回目の本読みです。

 第1部から第3部まであります。
 第1章から第8章まであります。
 書かれているキーワードを拾います。『土台』『研究』『回避できる失敗』『危険な沈黙』『フィアレスな職場(フィアレス:脅迫にびくともしない。恐れに動じない)』『無事に』『実現』『次に何が起きるのか』『誰が監督官を監督するのか』『沈黙の文化』『2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震 福島第一原子力発電所』『無知の人になる』『謙虚に耳を傾ける』『労働者の安全』『炭鉱労働組合』『仕事をフレーミングする(フレーミング:骨組み、構成、立案、構想、計画などする)(リフレーミング:別の視点から考える)』『とことん話し合って行う意思決定』『心理的安定性』

 文字数が多い本です。

 260ページまでページをめくって、それほど長い文章ではないと感じました。

(2回目の本読み)

 流し読みをします。(ザーッと目を通す)
 ナレッジワーカー:知識労働者(グローバル企業のトップ、ソフトウェアの開発者、医師、建築家、助言する立場の役割の人)
 成長を推進するもの:発想と創意あふれるアイデア。知恵を出して、協力して、問題を解決していく。個々の才能を活用する。
 イノベーション:新しい考え方や技術をとりいれて新しい価値を生み出す。幅広い変革

 現実として:人々が本当の考えを職場で言うことはほとんどない。

 各職場でパフォーマンス(成果)の差が生まれる原因:要因のひとつが、『心理的安定性』にある。
 ダイナミック(力強く、生き生きと)に協力する。境界を越えてコミュニケーションを図る。
 フィアレス:不安も恐れもない。
 心理的安定性:みんなが気兼ねなく意見を述べることができる。自分らしくいられる文化が職場にあること。
 率直に発言しても、恥をかかされない、仕返しされない、非難されないこと。信頼関係があること。尊敬の関係があること。ミスが隠されない。すぐ、修正ができる。チームに団結力がある。
 (統計によると、そのような職場は現実には、なかなかないようです)

 リーダーが果たすべき役割:どうすれば、フィアレス(不安も恐れもない)組織をつくることができるか。

『第1部 心理的安全性のパワー』
 上司に進言すると、上司から厳しく叱責される。部下は、何も言わなくなる。部下は未来を軽視するようになる。(未来を捨てるのでしょう。どうにでもなれです。責任は上司が負うのです)

 人にはプライド(自分を尊いとする気持ち)がある。人から馬鹿にされたくない、見くだされたくないという気持ちがある。だから、無能な人とは言われたくない。

 職場での人間関係においては、お互いに『信頼』と『尊敬』が必要になる。
 非を見つけたときは、ていねいに相手にそのことを話して諭す。(さとす:理屈で言い聞かせる。知らん顔をしたり、陰で悪口を言ったりしない)
 注意をしてくれた人には感謝する。(とかく知らん顔をする人が多い)

 率直な発言にはリスク(危険性)があるが、率直な発言をしても安全な環境がある職場をつくる。(「心理的安全性」のある職場づくりをする)
 風通しの良い職場をつくる。
 (仕事ができない人ばかりを集めるとだれもなにも発言しなくなる。知らん顔をするようになる。その業務をよくできる人と、あまりできそうにない人をうまく組み合わせてチームをつくる。平均点の能力の人の層を厚くする)
 
 正しく機能していない組織では、中間監督者の社員が、真実を最高責任者に話を上げない。
 現実はむずかしい。現実の中に理想はない。
 最高責任者は、なにかおかしいと思っても、怖くて部下にたずねることができない。
 あいまいにしておくと、どうにもならなくなったときに、真実が明るみになる。
 蔓延する(まんえんする)『沈黙』について書いてあります。
 問題点を率直に話すと自分が仕事を失うことにつながると話す製造技術者がいる。
 何を基準にして、不祥事を正していくのがいいのか。感情ではなく、理論で整理する。

『第2部 職場の心理的安全性』
 こういう言葉が示してあります。
『私は会社に、誤った使われ方をしている気がする』オリバー・シュミット (フォルクスワーゲンのエンジニア)

『誰が監督官を監督するのか』
 利害関係がある異なる会社の上層部同志は、案外、昔からの知り合いということはあります。地縁血縁とか、学校の同窓生とか。ゆえに、利害関係が交錯する者同士が助け合うグル(仲間)ということがあります。秘められた悪事が横行します。ただ、リスクは(危険性)大きくなります。いつかは、ばれる。

『危険な沈黙』
 知っているのに知らないふりをする。実施者にとって不都合な秘密は、いつかはばれる。
 この本では、ばれた事例が列挙されて、それらについての解説があります。
 会社なら倒産するかもしれない。人間だったら、命を落とすかもしれない。そんな話です。
 
 2003年2月1日(平成15年)、NASA(米航空宇宙局)のスペースシャトル・コンビア号事故(帰還時の大気圏突入で空中分解した)。七人の宇宙飛行士全員が命を落とした。前兆はあった。唐突ではなかった。発射時に、断念材が左翼を直撃していた。気づきがあった。担当者は上司にメールをしたが、とりあってもらえなかった。
 上層部の人間たちは、失うのは自分の命ではないから黙っていられたのか。事故を明らかにしても修理のしようがないから黙っていたのか。対応策はなかったのか。そもそも発射前にその事故が発生するかもしれないというリスク(危険性)が予想できていたのではないか。(できていたそうです)
 仕事のやりかた以前に、人としての倫理教育が必要です。人命尊重です。

 1977年3月(昭和52年)カナリア諸島の滑走路で2機のボーイング747が衝突した。気づきはあった。機長が副操縦士の進言を無視した。機体は炎上して、583名が死亡した。機長はベテランで自信過剰だった。時刻厳守が優先だった。

 医療現場での医療事故があります。化学療法剤の過剰投与で乳がんの患者が死亡しています。

 読んでいると、人は、死ぬときは死ぬ。人の命は、はかない。そんな気持ちにさせられます。自分の決定ではなく、他者の対応で自分が死んでしまう。もともと自分が、リスク(危険)がある立場であったとしても、無念です。

 なにかおかしいと感じたら、まず、立ち止まる。
 そして、考える、考える、考える。
 おかしい状況から離れる。

 1986年(昭和61年)、スペースシャトルチャレンジャー号の爆発事故に関する考察があります。
 打ち上げ前に担当者が機体の異常を進言しています。
 集まった人々は、彼の声を熱心かつていねいに聴いてくれなかった。
 職場に、『聴く文化』がなかった。

 2011年3月11日、日本で、東北地方太平洋沖地震が発生した。
 津波が、福島第一原子力発電所を襲った。
 津波は、低い防波堤を超えた。
 三基の原子炉が高温になり爆発した。
 被ばくを回避するために、周囲の土地には人が住めなくなった。
 『事故は明確に人災であり、事故の予測は可能だった』事前に何度も警告があったのに、組織は警告をはねつけた。
 日本は、誤った自信をもつ国になっていた。
 読んでいると、日本の組織には派閥があって、主流派でない人間、一匹狼的立場の人間の意見は、『取るに足りない人物』として存在すらも否定されると読み取れます。(コロナ禍のときを思い出します)
 日本の法律は、権力者を守るためにできている。

 『沈黙の文化』では、波風を立てないために周囲と歩調を合わせる。
 
 性的暴力、いやがらせに関する『#MeeTo』運動について書いてあります。
 日本の某芸能事務所の不祥事の話とも類似します。宗教団体にもあるのでしょう。
 
 話し合いのやり方の良さを表現する内容の紹介があります。
 アニメ洋画『トイストーリー』の製作現場の打ち合わせ風景です。
 良い人材とは:より賢く考える力をもたらし、短時間に多くの解決策を提案できる人
 良い人材になるためには、前提として、失敗を恐れ率直に話そうとしない人にならない。
 自分なりに付け加えると、失敗を恐れない。七転び八起きの精神をもつ。

 お互いの信頼関係がなくなったら、組織は維持できなくなる。お金のつながりだけになって、不祥事が起きる。

 『人間は衝突すると、つい競いたくなる。議論に「勝とう」としてはいけない』
 (自分の間違いに気づける人間になる)

 『無知の人』になる。
 謙虚に耳を傾ける。
 
 『失敗できないことが本当の失敗である』
 『従業員を大切にする』
 いろいろアドバイスが続きます。
 
 2009年1月(平成21年)、アメリカ合衆国マンハッタン上空でジェット機がバードストライク(カナダガン(鳥)の群れがエンジンに巻き込まれた)になったため、ハドソン川に着水した。奇跡的に155人が助かった。
 安心してコミュニケーションがとれるチームだった。

 『自分の言葉で話す』
 『労働者の安全のために率直に話す』
 
 鉱山における労働者の安全管理について書いてあります。
 再び、福島第一原子力発電所の被災直後の対応についての話が書いてあります。
 情報がなかったけれども、同発電所建設段階から働いていた人間の能力が発揮された。

 なにもしないリーダーはいらない。

『第3部 フィアレスな組織をつくる』
 190ページまで読んでみての感想です。
 理想なのでしょう。
 すべての職場でこの手法は無理です。
 できる職場とできない職場があります。
 できるところは、(問題がないから)あまり表には出てこない。
 できないところは、社会の表面にニュースとして登場してきます。
 事故や不祥事が起きるからです。
 世間からあれこれ指さされる話題になるからです。

 本の中では病院のことが書いてあります。大きな病院です。
 医療事故を防止するためにリーダーは、どうかじ取りをしたらいいかです。
 土台をつくるために話し合いの場への参加を求める。
 病院に限らず、大きな組織では、簡単には解決できなさそうな事故や失敗があります。小さな組織のように小回りがききません。
 その時代に、その場で働いている人間たちの安心が確保されればいい。自分たちがリタイアしたあとの世代のことまでめんどうはみきれない。不祥事となる不正や問題は、先送りにされて放置され、あとの世代がひどい目にあいます。(例として、津波による福島の原発事故)
 
 大事なこととして、『責任を問われない報告』とあります。
 内部告発をしても不利益をこうむらない保証がいります。

 本に書いてある理想を実行しようとすると、均等な能力と資質をもっているメンバーがいる職場でないと実行がむずかしい。
 採用時点からのポイントをしぼった採用基準がいります。『仕事は楽で、給料が良くて、休みが多いほうがいい』と思っているだけの人を採用すると、のちのち痛い目にあいます。『倫理観(道徳心。人間として守るべき正しい道筋の意識)』をもっている人を採用する。まじめな人であることが基本です。
 最低限のこととして、①人のお金を自分のポケットにいれない。②セクハラをしない。③情報の漏洩(ろうえい)をしない。ということが守られないと、組織はヤバイ立場に追い込まれます。

 『明らかな違反には制裁措置をとる』(懲戒処分でしょう)

 『心理的な安心感を高めるために使えるフレーズとして』
・わかりません。(わからないものは、わからない)
・(わたしには)手助けが必要です。(助けてください。アドバイスをください)
・(一生懸命やりましたが)間違ってしまいました。
・申し訳ありません。

  そして、助けてもらったときには、『ありがとうございます』

 困っているメンバーを見捨てない。
・どんな手助けができますか。(どうしたの?)
・どんな問題にぶつかっているのですか。
・どんなことが気がかりなんですか。

 リーダーは、上司である必要はない。リーダーでなくても、リーダーの役割を果たすことはできる。

 『上司が、トップダウン型の横柄な独裁者で、誰の言葉にも耳を傾けず、従業員を泣かせることもある。ただし、業績は良い。』
 業績が良いのは、リーダーのおかげとは考えない。たまたま運が良かった。いずれ破たんする。

 ポイントを押さえながらの流し読みを終えました。
 もうわたしは組織で働く労働者ではないので、距離を置いた立場での読書になりました。
 おそらく今も現在進行形で放置されているリスクがあるのでしょう。
 黙っている人が多い職場は要注意です。組織が倒れるリスクが内在しているところもあるのでしょう。黙っている人は、『了解しているから』黙っているのではない。不満があるから黙っている。怒りがたまって、あげく、自分は当事者じゃないと主張している。関係ないと思っている。あるいは、怒りの相手がいないところでは悪口をいっぱい並べながら吠えている。(ほえている)。自分が思っていることの意思表示の表現がじょうずにできないということはある。不器用ということはある。  

Posted by 熊太郎 at 07:18Comments(0)TrackBack(0)読書感想文