2019年07月13日

邦画DVD SUNNY 強い気持ち・強い愛

邦画DVD SUNNY 強い気持ち・強い愛(サニー つよいきもち・つよいあい) 2018年公開

 女子だらけの映画です。女性向けです。
 90年代の女子高生がいます。ルーズソックス、アムラー、小室哲也のミュージック、映画は二重構造になっていて、女高生たちのグループSUNNYの20年前と20年後の今の姿の比較となっています。
 グループの同窓会的集合です。いま、メンバーのうちのひとりが余命1か月の病気です。
 観ていて、おもしろかったシーン、印象に残ったシーンとして、
①空中を飛んでいったお好み焼き弁当
②毎日ばか笑いをしながら、すべてをさらけだして動き回る女子高生たちが、今は40歳になって、女子高生の娘がいて、いまどきの女高生は、(あけっぴろげだった自分たちとは違って)黙ってスマホを見て、集団でいても静かで、裏でなにをしているのかわからないと分析するあたり。
③阪神淡路大震災の被災者家族が、お茶の間の家族のだんらんで、いろいろと衝突するシーン。祖母、両親、兄、三世代家族です。
 該当する世代には、なつかしい曲が次々とたくさん流れてくる思い出の映画でしょう。
 昭和40年代に流れていた森田童子(もりた・どうし。女性。お亡くなりになりました)さんの曲が、ひそやかに流れていました。その後、平成の時代でも流れていました。太宰治作品と共通する存在価値があります。読み継がれていくように、聴き継がれていくのでしょう。
 物語としては、学生時代という箱の世界から、社会人というやはり箱のなかの世界に移動していくわけですが、映画製作においては、すべてが虚構であり、ちょっと無理があると感じました。そして、これから病気で亡くなる人の苦しみや悲しみの表現の部分が弱かった。
 高校生から20年後の現在、うまくいっていない人もいるけれど、長い人生には浮き沈みの波があります。いいときもあるし、そうでないときもあります。映画での年齢設定である現在40代始めは、まだ、人生の半分です。さきは長い。  

2019年07月12日

おつきさまこんばんは 林明子

おつきさまこんばんは 林明子 福音館書店

 8見開きの絵本です。
 最初にスリムなネコの黒い影絵があります。アメリカ映画のピンクパンサーみたい。かっこいい。
 黒い影の一戸建ての家があって、ネコが2匹いて、あたりは、真っ暗。室内に黄色い電灯がついている。
 屋根の上が少しだけ黄色いだ円になる。ほんの少し明るい。
 エジプト絵画みたい。明るい。太陽のような月が目を閉じている。おめめをあけてくださーい。
 金太郎顔のお月さんです。
 猫2匹がお月さんの顔に見とれています。こんばんは。
 黒い雲はどんどん月を隠していきます。お月さまの困った顔。月はすぐには動けない。
 月が、きたならしい黒雲に隠れてしまいました。おこるネコ2匹です。
 月と雲は会話ができるのか。ちょっとびっくり。
 シンプル・イズ・ザ・ベスト
 この絵本は、1986年の作品です。
 ネコ2匹は、親子だろうか。それとも恋人だろうか。
 お月さまは、黄金の輝きです。
 お月さまの笑顔がすてき。  

Posted by 熊太郎 at 06:14Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2019年07月11日

トリニティ 窪美澄

トリニティ 窪美澄 新潮社

 お気に入りの作家さんです。いつかは、直木賞をとってほしい。2012年の作品「青天の迷いクジラ」は、映画になってほしいと思い続けていますがまだなっていません。3人の自殺したい人が、浅瀬に打ち上げられて瀕死の状態にあるクジラを見に行く物語です。
 さて、「トリニティ」という言葉は、トリプル、3人の女性ということで、読み始めました。まだ、461ページのうちの33ページまでしか読んでいませんが、感想は書き始めてみます。
 72歳を迎えた宮野鈴子(若い時出版社勤務、結婚後主婦)、79歳佐竹登紀子(フリーライター、今は貧困ごみ部屋状態のひとり暮らし。宮野鈴子にお金を借りている)が出てきて、早川朔(はやかわさく。本名藤田妙子。高齢80歳ぐらいの雰囲気。亡くなる)のお葬式で一緒になります。
 宮野鈴子の孫が出版社勤務なれど、彼女はオーバーワークで、うつ病のなりかけらしく、仕事に行けません。病欠で休職中です。このふたりが、佐竹登紀子宅を訪れて、昔話が始まります。
 早川朔の訃報の知らせが、宮野鈴子には、だれからかかってきた電話なのかがわかりません。佐竹登紀子へも連絡してほしいと伝言で頼まれました。発端をつくったのはだれだろう。(これは最後まで明かされません)

(つづく)

 タバコの煙や吸い殻、灰の記述が多いことで、臭いや汚れが頭に思い浮かび、苦になりますが、しかたがありません。記述されている昭和時代はタバコ社会でした。
 歴史の掘り起こしをしていく小説です。「永遠の0」形式で、まずは、72才宮野鈴子とその孫宮野奈帆が佐竹宅を訪問して、フリーライター79才佐竹登紀子にインタビューをします。
 
 昭和39年(1964年)東京オリンピックの年に潮汐出版(ちょうせきしゅっぱん)という会社で、3人の女性が出会います。三人がからんだ雑誌名が、「潮汐ライズ」
 宮野鈴子:事務員兼雑用係。18歳
 佐竹登紀子:文章を書く人。フリーライター 祖母、母、娘、三代物書き26歳、43歳の河津浩介(こうづ・こうすけ)と入籍
 早川朔(はやかわ・さく。藤田妙子):絵を描く人。イラストレーター。(佐竹よりも4歳ぐらい年下に思えます。22歳ぐらい)
 そして、時は流れ、現在は、宮野鈴子が72歳、佐竹登紀子が79歳、早川朔は亡くっなってお葬式のところです。
 
 IT機器の発達・発展ということがあったのですが、全員がそれについていけたわけではありません。いまだに、パソコンはもたない、スマホももたないという人も案外多い。
 使いこなせているのは一部の人たちです。年齢が若いから使えるということでもありません。

 イラストレーター、フリーライターという女性アーティストの一生物語です。仕事を極めようとしたら、家庭をもたない、家庭をもったら、夫婦の形態にこだわらない。妻の役割を果たせない。家事は家政婦を雇った方がいい。そんなことを思わせる生活ぶりです。

 山場のひとつだろうか。共働き、女性が仕事をもつと子どもを産めない。女子の反発があります。
 1969年1月東京大学安田講堂で学生2000人と機動隊が激突。東大生の数は少なかった。
 女性向けの新しい形態の雑誌を出す。「雑誌馬鹿」
 
 流行雑誌「ライズ」づくりの作業は、お金だけのつながりという印象です。次の女性社会優先をめざす新しい女性誌「ミヨンヌ(フランス語で、可愛い、魅力的)目標として、ちょっととがった雑誌」はどうなのだろうか。

 ヒモのようなだんなから、「(君に迷惑をかけるから)別れないか」と切り出されて、別れることができない。生き方として、結婚しても子どもを産まないという女性の生き方もある。自分は男を食べさせる立場でもいいと思う。結婚しても互いに別の異性と交渉をもってもいいと思う夫婦関係があります。不幸なのか、幸福なのか、それは、本人が感じることで、まわりの人間は何も言えません。
 それでも、浮気相手が絵描きとしての自分のライバルならつぶす。
 
 仕事の現場に男女の性別の差はあってはならない。

 経済的に生活力がある女性が求める男性像として、お金はなくてもいい。わたしが食べさせてあげる。わたしの話し相手になってくれるなら。

 別の職業女性は、子どもを産んだけれど、子どもを育てているのは女性の母親、つまり母方祖母です。こどもとの距離感ができます。

 時代は、学生運動、政治活動、三島由紀夫氏の自決、どんどん暴力的になっていきます。暴力の向こうにあるのは、「喪失」でしかありません。

 1985年佐竹登紀子フリーライター47歳まできました。彼女のエッセイが売れています。
 その頃、イラストレーター・アーティストの早川朔(藤田妙子)は、業界のやっかいもの扱いです。出版社は早川のイラストが売れた時代は終わったと評価しています。
 主婦木下鈴子の長女真奈美は高校三年生、大学受験です。仕事をしていない主婦の鈴子は主夫の立場を責められます。寿退社が見下される時代です。もうすぐ「昭和時代」が終わります。男の人を立てなさいの時代が弱くなっていきます。鈴子は娘に専業主婦にならないように勧めます。
 
 後半になって、生活臭がにじみ出てきました。仕事優先の仕事をしてきた女性が老後を迎えるとこういう気持ちになると受け止めました。
 まだ、50歳ぐらいの女性なのに、もう過去の業績の栄光しかありません。夫・子からの愛情はありません。いくらたくさんお金があっても、「(仕事で有名になって)売れる」ってなんなんだろう。
 
 読みながら思ったことは、「仕事はお金(生活費)のためにするもの。好きなことは、お金のためにするものではなく、自分の心を満たすためにするもの。たとえていえば、水や空気のようなもの」

 2000年、佐竹登紀子は62歳です。
 長編で、読むことで得られる充実感があります。

 つらいなあ。中学生の男子が、父親の不倫相手の女性に会いに行って、「父にもう会わないでください」と言います。

 生きていることはつらい。仕事優先の人生をうらやましいとは思わない。
 重い雰囲気の文節が続きます。親も子もひとりぼっちです。

 読み終えました。
 世代をまたいで、続いていくものがあります。
 読後感は、さわやかでした。

 調べたことがらなどとして、「映画「八月の鯨」:87年アメリカ映画。老姉妹の夏の日々」、「力が漲る:みなぎる」、「釣書:縁談のときの身上書」、「ゴブラン織り:フランスのタペストリー(壁掛け室内装飾織物)ゴブランは地名」、「アールグレイ:紅茶。柑橘系の香り」、「祖母の臑を囓る:すねをかじる」、「マリナ・ヴラディ:フランスの女優」、「ショパンとジョルジュ・サンド、マジョルカ島:ジョルジュ・サンドはフランスの女流作家。マジョルカ島は地中海にある島。ふたりで逃避行をした。同棲」、「トアイアンフ:イギリスのオートバイ」、「ポートフォリオ:携帯用書類入れ。デザイナーが自分の作品をまとめたもの」、「バッハとマグダレーナ:バッハの後妻、ドイツの声楽家」、「世田谷区の用賀:渋谷の西、6キロぐらい。ようが」、「パノラマ36:霞が関ビル。36階。1968年築」、「評伝:人物評価をまじえた伝記」、「コミット:関係する」、「ノンポリ:政治運動に無関心」、「1968年10月21日国際反戦デー。新宿騒乱」、「ベイタン:米国ジェット燃料タンク輸送列車」、「権威主義:権威に服従する思想、姿勢、体制」、「誹られる:そしられる。否定される。さげすまれる。中傷される」、「六本木交差点から狸穴に向かう:狸穴というところが実際にある」、「記事をディレクションする:指導、監督、演出」、「寵児:ちょうじ。人気者」、「エコノミックアニマル:なつかしい言葉です。お金第一の日本人を批判する言葉。外国人から見た日本人の性質」、「咄嗟:とっさ」、「結界:ある一定の地域を限る」、「黒いギャルソン:ファッションブランド」

 いくつかの印象的だったこととして、「専業主婦は夫に寄りかかる生活でみっともないというような考え」、「東京の人たちがマスクの人だらけになった」、「人間、幸せな時期は、そんなに長くは続かない」、「どこに生まれても、どういう育ちでも、世に出る人は出る」、「父と母にはそれぞれ恋人がいた(その後離婚)」、「60年代の大学進学率は2割」、「わたしはイラストレーターになると、犬に話しかけた」、「テーマは、ファッション、車、そして女」、「ふたりでいるようで、ひとりひとりがいただけだった」、「描きたいものを描けるわけじゃない」、「木下さんは悪い人ではない」、「女をばかにするな。ばかな男の下で働くのはもううんざり。好きな絵を好きなだけ描きたい」、「威圧感のある視線」、「いつも頭のどこかに仕事のことがある」、「こどもがもつ原風景」、「夫になにかあったらどうするの」、「ジャズ喫茶は音楽がうるさい」、「反戦フォークが嫌い」、「夫は仕事、女は家事育児、産めよ増やせよ」、「観光海外旅行ができるようになったのは1964年」、「(時代の変化で)何かが終わる。終わっていくものの中に自分が含まれているような気がする」、「(夫婦なのに)この家には男と男がいる」、「母親のくせに仕事ばかりして子どもの世話をしないという主旨の記述いくつか」、「地上げを先導しているのは銀行」、「家で食べる食事はすべて夫がつくった」、「発展的な別居」、「同じ屋根の下に住んでいるのにめったに顔を合わせない」、「出産、子育ては、女にとって足止め」、「雑誌愛」、「自分たちは親子ではなくて、ふたりもひとりぼっちのさびしいこどもだったという趣旨の言葉」、「セレッソは、スペイン語で、桜」  

Posted by 熊太郎 at 05:19Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2019年07月09日

邦画 日日是好日(にちにちこれこうじつ) DVD

邦画 日日是好日(にちにちこれこうじつ) DVD 2018年公開

 樹木希林さんとは映像のなかでしか会えなくなってしまいました。
 原作は、作者の自伝的エッセイがもとになっていて、それが、脚本化されていると、観ている途中で知りました。
 典子役、黒木華(くろき・はな)さんの映画でもあります。7歳ぐらいから、40代始め頃までの茶道とともに歩いた、いや、あわせて、武田先生役の樹木希林さんと歩んだ人生の切り取り部分映像です。
 全編を通して底辺にイタリア映画、フェデリコ・フェリーニ監督1954年製作作品「道」のことが流れています。観たことがあります。ジェルソミーナという20代前半、知的障害があるような娘さんが1万リラで、まあ、人身売買でザンパノという旅芸人の男に売られていきます。ジェルソミーナは、ザンパノに束縛され、やがて、捨てられて、死んでしまいます。物悲しいメロディーが映画を支えていきます。自分としては第二次世界大戦の敗戦国イタリアとイタリア人の孤独を描いた作品だと解釈しました。
 この映画日日是好日(毎日がいい日だ)で、よかったなーと思ったシーンなどを並べてみます。
 樹木希林さんの正座姿が美しい。
 抹茶は最後に音をたてて飲む。それが、飲み終わりましたという合図
 「お茶って、へんですねー。すっごく、へんですねぇ」
 樹木希林さんに生徒が質問すると、「とにかくこうするの」
 黒木華さんと多部未華子さんは、映像のなかでは、女優というよりも、お茶を習う一般の方のような雰囲気でした。配役陣のバランスがとれていました。最初のうちは、お茶の研修ビデオを観ているようでした。
 映像のバックで、ピアノソロがメロディーで語ります。
 お茶はまず形、入れ物をつくってから心を入れる。
 「頭で考えていないで、同じ動作の回数を重ねて、勝手に体が動くようにするの」
 若い二人のカラオケシーンがおもしろかった。
 「たたみ、五目(ごめ)ほどあけて」
 「目のまえにあることに集中するのよ」
 おおぜいの女性の世界です。
 音、雨の音、せみがなく音、滝の水が流れ落ちる音
 (掛け軸を見ながら)文字を絵をみるようにながめる。水音が体にしみこんでいく。
 和室から障子のガラス部分ごしに見える日本庭園の緑や紅葉が美しい。
 お湯はとろとろ、水はきらきら。
 登場人物たちの就職、転勤、退職、結婚、結婚式のドタキャン。いろいろあります。女性にとって、結婚は自分が主体になることを考えないとなかなか踏み切れないものであることが伝わってきました。男に従属していては、いい結果につながりません。
 だるまさんは必勝、だるまさんは、七転び八起き
 「大丈夫よ、みんなそうだったんだから」
 一期一会(いちごいちえ)、今日という日はもう帰らない。今日あった人とはもう一生会えない、会わないかもしれない。
 太陽の光があって、雨の恵みがある。生きとし生けるものが生きている。地球とか、歴史とか、人生とかの時の流れがあります。
 「ありがとうございます」人生を感謝で終わる。
 「毎年、同じ時期に同じことができることは幸せなこと」
 「教えることで教わることがいっぱいあります」
 主人公に、人生40年間を経て、ここからが本当の人生の始まりという決意があります。確かに人生100年時代です。精神的に深い部分をもった映画でした。
 すさんだ素行、すさんだ思考とは対極にある映画でした。日本人が追求してきた茶道の「美」があります。  

2019年07月08日

メリー・ポピンズ リターンズ DVD

メリー・ポピンズ リターンズ DVD 2019年日本公開

 時間について考える映画でした。
 イギリスロンドンにある大時計ビッグベンが12時になるまでにやりとげておくべきことを人生に重ねて、永眠という期限の時刻までに、やりたいことをしておこうという積極志向の励ましがメリー・ポピンズからあります。
 また、思い出をなつかしむ映画でもありました。前作を知りませんが、前作でこどもだった男の子が今回は父親のポジションです。少女だった姉がおばさんで、今のこどもたちが、アナベル10歳ぐらい、ジョン9歳ぐらい、ジョージ8歳ぐらいに見えました。(あとで調べたら、ジョンとジョージはふたごでした)
 借金を返せないので、担保の自宅を銀行にとられるという設定で、銀行の頭取に悪意があります。こどもたちのおじいちゃんが株券を残してくれているのに、頭取は知っていて知らぬふり、家をのっとりたいのです。
 正義感を押す内容です。
 おもしろかったのは、①つえがしゃべったところ②セリフ「てごわい人だ」メリーは、性格がきつく、テンポが早く、勢いがあります③おふろに入るのが嫌だと言っていたこともだちが、おふろのなかが別世界になっていることに気づいて「いやじゃない」④いすの上においたキリンのぬいぐるみがかわいい(ギリーという名前。たしか、ママがつくってくれた)⑤ドースおじさんのセリフ「家はきみたちのものだよ」⑥イギリスロンドンの時計台ビッグベンが初めて正確な時刻を打った。
 女性やこどもたちがよろこぶミュージカル仕立てです。子どもの世界に広がりがあります。  

2019年07月07日

「レンファント」「逃げ水は街の血潮」

〇第124回文学界新人賞 2019年5月号 文芸春秋

「レンファント 田村広済(たむら・ひろなり)」

 男性育児の純文学という前知識をもって読み始めました。
 立会い出産から始まるのですが、自分もその体験があり、こんなふうだったかなと首をかしげましたが、個々で違いがあるのでしょう。
 タイトルの「レンファント」は皮膚科の薬の名称でした。まだあかちゃんの男の子に皮膚病があるようで、薬の名称が、強くなるごとに、アナファント→ベラドク→ブロバク→バリンドン→デラファントと続き、最終的にいきつく薬が、「レンファント」らしく、ほんとうは、そういう流れはいけないという書中、女医の説明が出てきます。知識がないので、よくはわからないのですが、強い薬を使うと、一生薬中毒のようになるそうです。ステロイドという薬剤は、自力で治そうとする治癒力を弱めてしまう副作用があるようです。医療関係者ではないのでよくわかりません。
 最初に戻って、立会い出産のときに、ギョーザを食べた後で口が臭いと奥さんの正子さんが怒ります。ユーモアとは思えません。小説のなかでの奥さんの存在がうすく、積極的に育児に関わりをもとうとしない奥さんです。ときに、ご主人もふくめて、これは、虐待の域に踏み入れているのではないかと思われるシーンがあります。登場してくる皮膚病患者男性の言葉に、「なんのために生まれてきたのか」みたいなものがあるのですが、それこそあかちゃんの翔太くんの言葉です。せっかく生まれてきたのに、両親には、どうも自分の誕生をよろこんでくれていない様子がある。母親は、赤ちゃんよりも仕事のプレゼンのほうが大事と言い切っています。
 翔太くんの皮膚の病気の患部の状態がひどい。スマホで育児のことを調べるのは今では一般的なのでしょうが、世代の差を感じます。スマホでそんなことをしたことはありません。昔は、病院で患者の状態を医師に見せてから医師の話を聞きました。スマホに依存しすぎではないか。
 女医からも妻からも突き放されて、弘明さんの孤独感は深まります。
 出てくる中学時代の同級生友人として、植田さんと戸山さん。
 男性の育休取得の話です。
 ロゼッタ=乳幼児向けの保湿剤
 なにかしら、奥さんの態度に腹が立ってきます。育児において、男子がここまで尻に敷かれていいとは思えません。
 弘明さん自身も右目の回りが皮膚病で赤くなっています。ストレスで、自分で、ひっかいたみたいです。
 昔読んだ向田邦子さんの「思い出トランプ」のなかの「酸っぱい家族」という作品を思い出しました。切ろうと思っても切れないものが「縁」、捨てたくても捨てられないものが、「腐れ縁」なのです。逃げられないから連れ添うのです。

 賞の発表ページをみていたら、受賞候補作の中に同じ作者が書いたらしき、「デルモベート」という作品がありました。こちらも赤ちゃん向けの皮膚軟膏のようです。

〇公募ガイド7月号 ㈱公募ガイド社
 こちらの雑誌に受賞者おふたりの文章があったので、あわせて感想を記します。
 飼い猫さんのことが書いてあります。本作品は、飼い猫さんとの合作かもとのことです。
 短編を選んだ理由、10年間のブランクなどのことが書いてあります。
 いつでも、書こうと思ったときが、書き時なのでしょう。


「逃げ水は街の血潮」 奥野紗世子(おくの・さよこ)

 地下アイドルものの短編のようです。まだ、最初の7ページ付近まで読んだところです。
 じぇじぇじぇのあまちゃんとか、最近もめたアイドルグループのことが頭をよぎります。
 ゴアゴアガールズのメンバーは5人。物語は、アイドルになりたくてなったわけではなくて、他人に求められたからアイドルになったという26歳クドゥ・モニのひとり語り一人称で進行します。私小説形式です。ほかのメンバーは、ウォー・アイ・ニー、アーバン・マイ、このふたりは外国人なのか日本人なのかはまだわかりません。ハーフもありか。そして、しゃべらない21歳星島ミグ(病気らしい)は、写真にとられるときだけ表情をつくります。
 プロデューサーとして、田村、振付師として、miHAL、文芸評論家として、田井中守、社会学者木村哲也、あと、どういう人なのか今のところわからないのですが、iPhoneとして、田中貴一、吉本誠、金城結衣、柳本智というのが出てきました。
 アイドルの個々を示すために、赤、緑、黄、水、ピンクの色分けがあります。「旅猿」を思い出しました。
 26歳の主人公はなんとなくグループのなかで浮いている。

 クドゥ・モニの名前は工藤朝子、社会学者35歳木村と付き合っている。付き合っているけれど、木村の装飾品扱いにされているような立ち位置あり。
 ゴアゴアガールズの5人目のメンバーが、ナイトメア・エミコ・スティルトン。
 まじめに努力してコツコツと暮らすということとは対極にある「退廃」のにおいがする内容です。健全な精神が失われていきます。作者は相当の覚悟をもって表現し公表しました。素材には、既視感がありますが、表現は新しくて迫力がある作品です。
 
 最近のアイドルはどうして、グループじゃないとだめなのだろう。この流行にもいつかは終わりのときがくるような気がします。

 人の生きる哀しみ(とくに女子)がにじんでいます。お金のために働く。

 26歳で、28歳とか、29歳の年齢にこだわりをもつ。年配者から見るとうーんとうなりたくなる。アイドルの世界では、ババアと呼ばれる年齢。

 上にのぼることはなく、下に深く下がっていく作品内容です。

 あらすじはあるようでありません。時間移動もあるようでありません。これぞ、純文学の文章です。

 気に入った表現の趣旨などとして、「メンバー同士の関係性は良くない」、「顔がかわいい変な女が好き」、「アイドルアンダーグラウンドクラブ」

 調べた単語などとして、「MC:総合司会者、番組の進行役、マスター・オブ・セレモニー」、「バズる:SNSで特定の話題が広まる」、「ミューズ:女神」、「ビルケンシュトック:ドイツの靴のブランド。サンダル」、「スクリレックス:アメリカ合衆国のミュージシャン。男性。髪型に特徴あり」、「タバコのフィルターについたグロス:口紅の上から塗る化粧品」、「ガールズバー:キャバクラとは違う。客の隣には座らない。女子がカウンター内でカクテルをつくる。会話を楽しむ」、「均して:ならして。平均する」、「出汁取り:だしとり」、「見せパン:見られてもいいパンツ、見せたいパンツ」、「shazam:グーグルの音楽アプリ」、「ブレードランナー:人造人間のSF映画」、「サードウェーブの果物屋:? コーヒーの場合は、ファーストがインスタントコーヒー、セカンドがスター・バックス、サードが本格コーヒー」、「ムスク:香水。ジャコウジカ」、「阿佐ヶ谷駅:あさがや。新宿の西のほう」、「中華料理屋のアネックス:別館、離れ」、「レーベルのカメラマン:レコード会社のブランド。ブランドは、価値が高い」、「クソビッチ:女性をひどくののしるときの言葉。みだら、あばずれ。英語語源、メス犬、性的にだらしない」、「ヴィトン:フランスのファッションブランド」、「毟る:むしる」、「スクショ:スクリーンショット。モニターの画像」、「サルベージ:データをとりだす」、「メンヘラ:精神的に不安定な人、心の病がある人」、「宥める:なだめる」、「三五缶:350ml缶」

〇公募ガイドの本人コメント記事から
 けがれたような作品内容とは異なって、正直で素直な受賞の感想に好感をもちました。芥川賞をとりたいという気持ちが伝わってくる作品でした。  

Posted by 熊太郎 at 06:14Comments(0)TrackBack(0)読書感想文