2012年08月31日
ナルニア国物語 C・S・ルイス
ナルニア国物語 C・S・ルイス 瀬田貞二訳 岩波少年文庫
1巻 ライオンと魔女
書き始めは暗い。ひとりの孤独な少年あるいは少女が1年中部屋に閉じこもって空想にふける姿が浮かぶ。そんなこどもたちが大人になって描いた児童向け小説という感あり。
話が進展するにつれてその暗さはおぼろげになり、明るい活動劇が始まります。そして最後はまた暗い部屋に戻るという印象を受けました。
著者も訳者ももうこの世にはいません。全7巻の本だけが残りました。きょう1巻目を読み終えました。
物語の随所に自然との関わりが登場します。動物を始めとした生き物、植物、そこにこどもの姿がからみます。小学生の頃に読んだ「ニルスの不思議な旅」スウェーデンのノーベル賞作家、セルマ・ラーゲルリョーブ(女性、1907年作)訳書であり、きらびやかな文章表現がないことが逆に新鮮でした。書かれている文章から自分自身で風景・光景を想像していく作業が楽しい。どちらかといえば同系統の映画の場面になっていく。日本の物語にはない西欧特有のキリスト教的教えが下地にあるようで、預言者の語り口調を聞いているようです。
善悪が最初から闘争するのではなく、まず善が自ら負けて、次に悪を倒すという展開は予想外でした。ライオンは、映画「となりのトトロ」の猫バスのようです。
4人のこどもたちは結局、現実社会に帰っていません。これから先はどうなるのかなあ。
2巻 カスピアン王子のつのぶえ
自然対人間の戦いを描いた物語でしょうか。ナルニア人が自然で、テルマール人が人間です。地球を支配しているのは自然であって人間ではない。人間は自然の中にある生き物のひとつにすぎない。人間はおごり高ぶってはいけないという戒めと私は受け取りました。
鉄道駅での少年たちをナルニア国へ転送するシーンは「ハリーポッター」の始まり画面を思い起こします。舞台も同じイギリスです。その後はピーターパン、ガンバの大冒険、猿の惑星、大地の子と続きます。物語というものは模倣によって生まれてくるということがわかります。第1巻ライオンと魔女で書き忘れたことがあります。魔女が敵対する人物・動物を魔法で石に変えてしまいます。これは私が小学校低学年の頃、漫画で見たことと同じです。 登場人物たちの言葉遣いがていねいです。感心させられます。お上品なのです。これが日本のアニメだと荒っぽい言葉遣いになります。イギリス人の子どもに対する言葉の躾と思います。最初は抵抗感がありましたが、だんだんそれが当たり前と感じるようになりました。
物語の中で出てくるエピソードはそれぞれ時間がかかる行動です。山を越え川を下り後戻りをしたりと目的地にゆきつくまでに長い時間がかかります。彼らは手間隙かけながら目的地へとたどりついていきます。これは現代日本人が忘れかけていることです。3分間でラーメンができる。何事でも短時間で成し遂げることが可能と思い込んでいる日本人。そしてわがままになっていく。日本人の暗い未来が見えます。
ライオンのアスランはいかがわしい存在です。呪術をもって人心を動かしていく。こういうキャラクターの登場は国の破滅を招きます。どちらか一方が正義で、他方は悪と決め付けて、片方が消えてなくなるまで戦うという設定は適切ではありません。ジャングル大帝レオのように共存していくことが大切です。後半の戦闘シーンは迫力がありました。
3巻 朝びらき丸 東の海へ
船で世界の果てを目指す冒険物語です。3巻目にきて、訳者である書き手が慣れてきたように感じます。読み手の私も慣れてきました。これまでは読んでいてもなかなか状況を把握することができませんでした。うわのそらで文字を追っているときもあり、その間に場面が変化して何が何なのかわからないまま読み続けていた感があります。世界の果てはジパングのような気がします。1271年ー1292年の旅を記したという東方見聞録マルコポーロー、1492年出航のコロンブス、1517年出航のマゼランなど。少年が竜に変わる部分は画期的です。竜といっても猛々しいものではなくて物悲しい。そんな少年を書き手は文章で優しく包んでいます。人間の心にある汚い部分をきれいにしていく。そのためには話し合いが大事と教示しています。
話が進むと内容はドラエもんのようでもあります。聖書のようでもあります。普段着の文章なのですが、説明を超えて、光景、風景の想像描写が素晴らしい。言葉をむずかしく着飾らなくても美しくかつ独創的な場面を表現できる。日本人には見受けられない外国の人たちの資質です。
4巻 銀のいす
ふくろうの会議は楽しく、読みながら空想しました。1巻から読み続けているので、登場人物であるこどもたちの成長が手にとるようにわかります。
このシリーズを読みながら日本人と外国人の感覚の違いをつくづく感じます。笑う場面、恐れる場面それぞれ違うことでしょう。根底には生活の成り立ちが日本人は多神教、外国人は一神教であることの違いだと思います。
場面の変化によって張り詰めていた緊張感が溶けていきます。登場人物の泥足にがえもんはユーモラスです。巨人が出てきたり、魔女が出てきたり、いろいろあるけれど危険の無い楽しい旅です。
ラストシーンはジンときます。長い物語を少しずつ読み継いだ者だけに与えられるご褒美です。ライオンの「アスラン」イコール、宗教と私は受け取っています。ひ弱な少年少女たちを鍛えるための教育本で、長い人生の旅が表現されています。
5巻 馬と少年
読み始めて5冊目となりました。出だしは今までの中で一番自分にあっている感じがします。文章で表現されている情景は、自分が遠い過去にみた景色です。あとがきにイギリスの風景描写があるのですが、ゆるやかな丘と農地、それは古きよき日本の野山の姿でもあります。
さて、少年と言葉を発することができる馬とのお話です。中盤は退屈で、だんだん何が書かれているのか理解できなくなりました。ただ文字を目で追っている。登場人物の名を見て、ページを戻りながらどんな人物だったのか再確認をすることが作業でした。
親のいない子どもを慰める作品でしょうか。やさしさが満ちています。
意外にもラストシーンはどんでんがえしで、ハッピーエンドでした。あとがきを読むと以前訪れたことのある北海道が思い浮かびました。
6巻 魔術師のおい
英国の物語「ハリー・ポッター」を思い出す。楽しい出だしです。ナルニア国へいかずとも、このまま他の面白いお話につなげることができます。
言葉数が多い。脚本のようですが読みやすい。
読んでいて、定型的な映画のシーンが頭に浮かんでしまう。語り手は誰?
書き方として( )かっこ書きが頻繁に見られる。括弧の中は、前述を打ち消す内容となっている。言い訳だったりもする。こどもに対する教育に関する物語でした。
7巻 さいごの戦い
タイトルどおり最後の1冊になりました。このシリーズを読み始めたのは3月、そして今は6月です。人間社会のなりわいをさるとロバの話に置き換えてある部分がおもしろい。戒めともなっています。自然と人間の関わりを大切にしようというメッセージが、この本が書かれた時代にもあったのかと不可思議ですらあります。警鐘ともなっています。
ラストシーンでこれまでの登場人物たちが勢ぞろいします。7巻最後まで読み終えたのだなあという実感が湧いてきました。主人公のこどもたちとはこれでさよならです。
1巻 ライオンと魔女
書き始めは暗い。ひとりの孤独な少年あるいは少女が1年中部屋に閉じこもって空想にふける姿が浮かぶ。そんなこどもたちが大人になって描いた児童向け小説という感あり。
話が進展するにつれてその暗さはおぼろげになり、明るい活動劇が始まります。そして最後はまた暗い部屋に戻るという印象を受けました。
著者も訳者ももうこの世にはいません。全7巻の本だけが残りました。きょう1巻目を読み終えました。
物語の随所に自然との関わりが登場します。動物を始めとした生き物、植物、そこにこどもの姿がからみます。小学生の頃に読んだ「ニルスの不思議な旅」スウェーデンのノーベル賞作家、セルマ・ラーゲルリョーブ(女性、1907年作)訳書であり、きらびやかな文章表現がないことが逆に新鮮でした。書かれている文章から自分自身で風景・光景を想像していく作業が楽しい。どちらかといえば同系統の映画の場面になっていく。日本の物語にはない西欧特有のキリスト教的教えが下地にあるようで、預言者の語り口調を聞いているようです。
善悪が最初から闘争するのではなく、まず善が自ら負けて、次に悪を倒すという展開は予想外でした。ライオンは、映画「となりのトトロ」の猫バスのようです。
4人のこどもたちは結局、現実社会に帰っていません。これから先はどうなるのかなあ。
2巻 カスピアン王子のつのぶえ
自然対人間の戦いを描いた物語でしょうか。ナルニア人が自然で、テルマール人が人間です。地球を支配しているのは自然であって人間ではない。人間は自然の中にある生き物のひとつにすぎない。人間はおごり高ぶってはいけないという戒めと私は受け取りました。
鉄道駅での少年たちをナルニア国へ転送するシーンは「ハリーポッター」の始まり画面を思い起こします。舞台も同じイギリスです。その後はピーターパン、ガンバの大冒険、猿の惑星、大地の子と続きます。物語というものは模倣によって生まれてくるということがわかります。第1巻ライオンと魔女で書き忘れたことがあります。魔女が敵対する人物・動物を魔法で石に変えてしまいます。これは私が小学校低学年の頃、漫画で見たことと同じです。 登場人物たちの言葉遣いがていねいです。感心させられます。お上品なのです。これが日本のアニメだと荒っぽい言葉遣いになります。イギリス人の子どもに対する言葉の躾と思います。最初は抵抗感がありましたが、だんだんそれが当たり前と感じるようになりました。
物語の中で出てくるエピソードはそれぞれ時間がかかる行動です。山を越え川を下り後戻りをしたりと目的地にゆきつくまでに長い時間がかかります。彼らは手間隙かけながら目的地へとたどりついていきます。これは現代日本人が忘れかけていることです。3分間でラーメンができる。何事でも短時間で成し遂げることが可能と思い込んでいる日本人。そしてわがままになっていく。日本人の暗い未来が見えます。
ライオンのアスランはいかがわしい存在です。呪術をもって人心を動かしていく。こういうキャラクターの登場は国の破滅を招きます。どちらか一方が正義で、他方は悪と決め付けて、片方が消えてなくなるまで戦うという設定は適切ではありません。ジャングル大帝レオのように共存していくことが大切です。後半の戦闘シーンは迫力がありました。
3巻 朝びらき丸 東の海へ
船で世界の果てを目指す冒険物語です。3巻目にきて、訳者である書き手が慣れてきたように感じます。読み手の私も慣れてきました。これまでは読んでいてもなかなか状況を把握することができませんでした。うわのそらで文字を追っているときもあり、その間に場面が変化して何が何なのかわからないまま読み続けていた感があります。世界の果てはジパングのような気がします。1271年ー1292年の旅を記したという東方見聞録マルコポーロー、1492年出航のコロンブス、1517年出航のマゼランなど。少年が竜に変わる部分は画期的です。竜といっても猛々しいものではなくて物悲しい。そんな少年を書き手は文章で優しく包んでいます。人間の心にある汚い部分をきれいにしていく。そのためには話し合いが大事と教示しています。
話が進むと内容はドラエもんのようでもあります。聖書のようでもあります。普段着の文章なのですが、説明を超えて、光景、風景の想像描写が素晴らしい。言葉をむずかしく着飾らなくても美しくかつ独創的な場面を表現できる。日本人には見受けられない外国の人たちの資質です。
4巻 銀のいす
ふくろうの会議は楽しく、読みながら空想しました。1巻から読み続けているので、登場人物であるこどもたちの成長が手にとるようにわかります。
このシリーズを読みながら日本人と外国人の感覚の違いをつくづく感じます。笑う場面、恐れる場面それぞれ違うことでしょう。根底には生活の成り立ちが日本人は多神教、外国人は一神教であることの違いだと思います。
場面の変化によって張り詰めていた緊張感が溶けていきます。登場人物の泥足にがえもんはユーモラスです。巨人が出てきたり、魔女が出てきたり、いろいろあるけれど危険の無い楽しい旅です。
ラストシーンはジンときます。長い物語を少しずつ読み継いだ者だけに与えられるご褒美です。ライオンの「アスラン」イコール、宗教と私は受け取っています。ひ弱な少年少女たちを鍛えるための教育本で、長い人生の旅が表現されています。
5巻 馬と少年
読み始めて5冊目となりました。出だしは今までの中で一番自分にあっている感じがします。文章で表現されている情景は、自分が遠い過去にみた景色です。あとがきにイギリスの風景描写があるのですが、ゆるやかな丘と農地、それは古きよき日本の野山の姿でもあります。
さて、少年と言葉を発することができる馬とのお話です。中盤は退屈で、だんだん何が書かれているのか理解できなくなりました。ただ文字を目で追っている。登場人物の名を見て、ページを戻りながらどんな人物だったのか再確認をすることが作業でした。
親のいない子どもを慰める作品でしょうか。やさしさが満ちています。
意外にもラストシーンはどんでんがえしで、ハッピーエンドでした。あとがきを読むと以前訪れたことのある北海道が思い浮かびました。
6巻 魔術師のおい
英国の物語「ハリー・ポッター」を思い出す。楽しい出だしです。ナルニア国へいかずとも、このまま他の面白いお話につなげることができます。
言葉数が多い。脚本のようですが読みやすい。
読んでいて、定型的な映画のシーンが頭に浮かんでしまう。語り手は誰?
書き方として( )かっこ書きが頻繁に見られる。括弧の中は、前述を打ち消す内容となっている。言い訳だったりもする。こどもに対する教育に関する物語でした。
7巻 さいごの戦い
タイトルどおり最後の1冊になりました。このシリーズを読み始めたのは3月、そして今は6月です。人間社会のなりわいをさるとロバの話に置き換えてある部分がおもしろい。戒めともなっています。自然と人間の関わりを大切にしようというメッセージが、この本が書かれた時代にもあったのかと不可思議ですらあります。警鐘ともなっています。
ラストシーンでこれまでの登場人物たちが勢ぞろいします。7巻最後まで読み終えたのだなあという実感が湧いてきました。主人公のこどもたちとはこれでさよならです。
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