2020年06月11日

アーモンド ソン・ウォンピョン 矢島暁子 訳

アーモンド ソン・ウォンピョン 矢島暁子 訳 祥伝社

 本屋大賞の翻訳小説部門第1位作品です。毎年、翻訳部門では、質の高い作品が選ばれています。この本は、韓国の作品です。

 本にかけてある宣伝のための帯を読みました。生まれつき、「喜怒哀楽」の感情がない青年のお話のようです。偏桃体(アーモンド)が人より小さいとあります。原因は、脳の仕組みにあるようです。ちょっと、作品「コンビニ人間」を思い出しました。

 ユンジュ:韓国人の16歳高校生。主人公
 ゴニ:ユンジュと同い年。こどものころに誘拐されて、身元不明のまま施設で育って成長したのちに父親の元へ引き取られた。実母は病死した。

 いきなり、ユンジュの目の前で、通り魔大量殺傷事件が起こったというお話で始まりました。ユンジュの母、祖母、止めようとした大学生、50代男性、警官が刺されたようです。犯人もその場で自殺しました。6人が死にました。偶然でしょうが、一年前、神奈川県川崎市で起きた現実の事件を思い起こさせてくれます。怖い。高校1年生ぐらいに成長したユンジュは、感情がないので、母と祖母を助けることができません。

 偏桃体:神経細胞の集まり。側頭葉内側の奥に存在する。情動反応の処理と記憶の役割を果たす。ふたつある。

 お話はさかのぼり、ユンジュの数え年6歳(実年齢4歳)から始まりました。

(つづく)

 ユンジュのひとり語りで進行していきます。
 12歳ぐらいの男子が、けんかなのか、おおぜいの人間に撲殺されそうです。このときユンジュはまだ満4歳です。
 なんだか、人が死ぬ話が重なって、でも感情がないからどうにもならなくて、豪快な出だしです。

 ほんの数ページ読んだだけですが、お母さんのユンジュに対する愛情が感じられる文脈です。
 障害児をもった母親のことを読んでいると、「産むのもたいへん、産んでからもたいへん」という気持ちが伝わってきます。失感情症(アレキシサイミア)感情がないというよりも、感情を表現する力が乏しいようです。それにしては、この物語は、ユンジュの舵取りひとり語りで進んで行っているわけで、違和感があります。成長して、感情表現を上手にできるようになったのだろうか。

 人はユンジュを、「普通の子じゃない」
 本人いわく、「僕は笑うことがなかった」
 祖母は、いい意味でユンジュを「怪物」と言って可愛がります。
 
 母親による、「ふりをする」教育が始まります。喜怒哀楽があるような演技をするのです。目標は、「目立たないこと」
 「喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲」のポーズとセリフを教える教育が始まりました。
 秘訣として、「沈黙は金なり」

 ソン・ユンジュの両親の出会いと別れの内輪話があります。母は祖母の反対を押し切ってできちゃった婚をした。父親は、ソン・ユンジュが母親のおなかの中にいるときに交通事故の被害者で死んだ。母と祖母はケンカ別れをしていて、母は、夫を亡くしたことが理由で、7年ぶりに祖母に再会して、ソン・ユンジュも入れて三人で生活を始めた。家族は、古本屋「ジウン書房」を営み始めた。祖母は母を指して、「この腐れ女(あま)」と言う。同じく祖母は、ソン・ユンジュを指して、「世界で一番かわいい怪物」と、愛情を込めて言う。

 スユドン:ソウル市内
 トッポッキ:韓国料理。餅炒め
 チョンゲチョン:ソウルの中心部にある河川(自分自身が、韓国旅行に行ったときに観光バスの車窓からこの川を見たことがあるのを思い出しました。市街地のなかにあって、護岸がコンクリートでしっかり固められていました)
 デミアン:ヘルマン・ヘッセの小説。脅されていた10歳の少年がデミアンに救われる。
 100万ウォン:約10万円
 デリムドン:ソウル市内
 カカオトーク:韓国企業のカカオが開発したスマホ用の無料通話

 数行で、惨劇が表現されます。片手にナイフ、もう片方の手にハンマーをもった40代に見えるスーツ姿の男が群衆に向けて襲い掛かりました。幸せそうに笑っている人間が彼にとっての標的です。家は半地下の部屋とあるので、観ていませんが映画「パラサイト」の住人なのでしょう。本人も自殺したので、救いようがない通り魔連続殺人事件です。

(これからどうなるのだろうか)
(もうひとりのだれかが、登場してくる)
 
 経営している古本屋の2階で、元心臓外科医で、パン屋を営むシム教授が、ソン・ユンジュに接触してきました。彼は妻を心臓病で亡くして医師を辞めています。ソン・ユンジュは、シム教授の知り合いのユン教授の息子ユン・イス(ゴニ)と中学で、同じクラスになります。それまでにすったもんだがあります。そして、そのあとも、すったもんだがあります。

 ゴニがどうして、ソン・ユンジュのクラスに転校してくるという展開になるのか理解できません。
 現在16歳のゴニが、13年前に母子二人で行った遊園地のメリーゴーランドで行方不明になったということにリアリティがありません。母親がすぐそばにいたのにゴニは消えたのです。誘拐されたのかどうかはまだ説明がありません。母親は有名な記者だった。記者ゆえに人からうらまれることもあったのか。うらんだ人間がこどもを誘拐してどこかにこどもを移したのか。
 ゴニとソン・ユンジュは、顔が似ているという理由で、ゴニの父親にソン・ユンジュは利用されました。ふたりのこどもの不幸の始まりとあります。ふたりのこどもの顔は似ているらしいのですが、体格はぜんぜん違います。ゴニは浮浪児のようです。されど筋肉質で小柄なれど手足が長かった。ボクサーのようだった。

 『アーモンド』に関する詳細な話はあまり出てこない。(生まれつきの小さい偏桃体、覚醒水準の低い大脳皮質と後記にありました)

 少年ゴニは、生物学上の父親であるユン教授を父親とは思っていない。

 韓国では児童誘拐が多いのだろうか。
 
 ソン・ユンジュは、ゴニから世の中を学ぼうとした。暴れん坊のゴニが、感情のないロボット状態のソン・ユンジュに感情を教えます。乱暴者のゴニだけど、小さいころに拉致されて他人から世話を受けたり、施設で育ったりした彼のつらさが伝わってきます。彼は自分を親から捨てられた人間だと思い込んでいます。

 ソン・ユンジュの人間らしい感情がこもったセリフが、「母さんにそういう人(こどもの障害の秘密を相談した相手であるパン屋の経営者元心臓外科医のシム教授)がいて、本当に良かった」

 8月末に新学期が始まります。
 ソン・ユンジュは、イ・ドラという女子に恋をします。恋をして、感情の芽生えがみられます。恋をすることで感情が生まれます。

 新しい出会いがあれば、別れがあります。ゴニは、ソン・ユンジュの前から姿を消しました。人々から無実なのに犯罪者と疑われたこと、歳をとったこと、これから新しい世界に挑戦したいこと。そんなことが、ゴニがいなくなった理由です。

 読み終わりましたが、期待した内容とは異なっていました。
 ソン・ユンジュが、感情をもつことができない人間として、脳科学的に変わることができないという設定でずっといくと思っていましたが、そうではありませんでした。もともと、感情はあったと考えられるような記述の流れでした。最後は、ソン・ユンジュとゴニとの『友情』で結びます。現実味のない創作作品で自分の好みには合いませんでした。

 まだ、未成年のこどもの世界です。いっぽう、おとなたちのことを見ると、親の役割を果たすことができないおとなたちです。こどもは悩んでいる。だから、こどもは、自活を目指す。

 「そして僕は死んでしまった」というところは、よくわからない。
 
 気に入った表現として、「人が痛がっているのを見れば自分も痛いと思う子」「そもそも人間とはどのように設計されているのか」

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