2019年06月13日

この川の向こうに君がいる 濱野京子

この川の向こうに君がいる 濱野京子 2019課題図書 理論社

 東日本大震災の被災者を扱った小説のようです。「この川」というのは、とりあえず、東京の荒川から始まります。列車が鉄橋を渡るシーンです。川の向こうとこちらとは異なる世界、そう予想をつけて読み始め、38ページまで読んだところで感想を書き始めます。

 登場人物は、都内にある男女共学私立緑野学園高校の生徒です。
 主人公:岩井梨乃(いわい・りの)高校1年生 吹奏楽部に入部する。希望だったクラリネットをあきらめて、アルトサックス担当。埼玉県戸田市在住。母は信販会社事務パート。たぶん東日本大震災で地震・津波の被災者。あとで、津波によって当時14歳の兄を亡くしたことが判明する。時系列では、災害から3年半ぐらいが経過しています。父親はサラリーマンのようです。被災後に転校した中学の同級生女子に会いたくないという意思が伝わってきます。被災者いじめに遭ったのだろうか。少し前まで、川を見たくなかったという思いあり。家は経済的には苦しいようす。されど、私学へ進学したいということには進学するんだというこだわりあり。
 高校に入って、主人公の最初の友だちが、赤崎陶子(あかさき・とうこ)クラリネット担当。
 すらりとした美少女が、横手美湖(よこて・みこ)秋田県田沢湖にちなんだ名前。38ページ付近までで、まだ、部活には入部していません。
 向原妃津留(むかいはら・ひづる)ぽっちゃり丸顔女子。クラリネット担当。兄と弟あり。
 崎山帆波 弦バス担当、長身 全日本(吹奏楽)コンテスト出場の常連中学校にいた。
 小関真彩(おぜき・まあや)フルートなれど、指のけがで、中2に演奏を中断
 紺野遼 小柄。トロンボーン担当。福島県原発被災者
 長尾純平 吹奏楽未経験者。トランペット担当
 吹奏楽部長高校3年生:若宮詩織 テナーサックス担当
 吹奏楽部顧問:松山美耶(まつやま・みや)40代ふくよかな音楽教師
 吹奏楽部員は、2年と3年が15人、1年が9人、合計24人、そのうち女子が、15人。
 
 東日本大震災の被災関係者が三人と思われる100ページすぎを読んでいる今です。物語は、なにか、秘密をかかえている。もういちど確認してみます。
 主人公:岩井梨乃(いわい・りの) 宮城県出身。母方祖父母は山形県
 すらっとした美少女の卓球部員:横手美湖(よこて・みこ)母親が秋田県田沢湖近くの出身
 紺野遼(こんの・りょう)小柄、トロンボーン担当、福島県、原子力発電所と関係あり。付き合っている彼女が、渡辺佑香(わたなべ・ゆうか、福島県会津にいる。結婚の約束をしている。紺野遼の中学の同窓生が沢田千亜紀で、千亜紀と同じ学校の吹奏楽部員が、主人公岩井梨乃が会うことを避けたい人物として宮沢紅美みやざわ・くみとつながっている)

 出てくる人が多いので、メモをしながら読まないと、だれが、だれなのかわからなくなります。

 主人公岩井梨乃は、宮沢紅美を嫌っています。宮沢紅美の地震・津波被害者に対する善意が岩井梨乃にとっては、重荷です。被災者を受け入れる側の態度はどうすればいいのか。被災者である岩井梨乃は、自分を特別扱いしないでほしい。普通に接してほしい。それが被災者の気持ちですと言っています。人が生活していれば、誰にも苦労はつきものです。だから、特別扱いをしないでほしい。「絆(きずな)」という言葉が好きになれない。人から、かわいそうと思われたくない。
 
 読んでいるとなんだか、さみしくなってくるお話です。

 津波の影響で、同じ川のむこうとこちらで、助かった命と失われた命があります。家族を失ったほうの気持ちは深く苦しい。助かったほうの人間も負い目を感じてしまう。生き残った者にも苦しみがあります。

 先日、震災・津波被害の3月11日の夜は、満天の星空だったというテレビ番組を観ました。被災地の電気は失われて真っ暗でしたが、星空はものすごくきれいだったそうです。星が亡くなった人の魂に見えたでしょう。

 「被災者」という身分を背負いながら生活してきた。自分が被災者であることを人に知られたくない。

 川の反対側(対岸)からこちらの岸を見ている人間もいる。

 埼玉県戸田市の漕艇場からは、オリンピック競技が思い浮かびます。

 子どもの立場で、震災体験を話す。

 気持ちの面での隔たり(へだたり)を「川」ともいう。

 東日本大震災の発生が、2011年3月11日(平成23年)14時46分18秒発生。マグニチュード9.0、最大震度7(震度7が最高の階級です)
 被災者のことをわかろうとしても同じ体験をすることはできないのでわかりません。苦しいということだけが理解できます。
 3年半後、2014年9月27日の土曜日に御岳山が噴火したとあります。平成時代は大規模自然災害が多かった。この小説の設定は、震災が発生してから3年後の設定で書いてあります。
 被災地に住んでいて、2月14日のバレンタインデーに男子に好きだと告白をした。3月11日に地震が起きた。3月14日のホワイトデーはうやむやになった。
 
 被災者を励ます小説です。内容はクリスマスコンサートでクライマックスを迎えるようです。
 言葉数が少し足りないような気がします。
 
 個人情報の漏えいとして、被災体験情報の漏出がありますが、女子の世界の難しさが伝わってきます。

 苦しさの原因として、「義務を果たすために、何者かに、言わされていた」

 本で、文字の色が黒ではなくグレーなのは、「死」の途中を意味するとうけとりました。グレー、まだ浮かばれない魂があります。

 調べた言葉などとして、「(女子の制服でスカートが)ボックスプリーツ:箱ヒダ」、「信販会社;代金立替払いの業務を行う会社」、「アンサンブル:合奏」、「一枚リードの木管楽器:リードは、薄い片(へん)。クラリネット、サクソフォーン」、「ロングトーン:ひとつの音を長くのばす」、「ネックだけで音を出す:最初の息がとおる部分」、「明澄(めいちょう):くもりなく澄みきっていること」、「黒いオルフェ:映画音楽」、「保科洋作【復興】」、「買いかぶり:実際以上に高く評価する」、「辛辣:しんらつ。きわめて手厳しい」、「パート練習のときのチューナー:音を合わせる道具」、「音に色気がある:?音色?」、「スカイプ:インターネット通話、ビデオ電話」、「ベクトル:向きと大きさ」、「タクト:拍子、指揮棒」

 印象的だった表現などの趣旨として、「(高校入学後まもなくの状態として)最初、だれもがよそよそしく、ばらばらな感じ」、「荒川の土手で楽器を演奏する(タイトルから考えると、この川のむこうにいるきみに向かって演奏するのだろうか)」、「寂しさにもいろんな色がある」、「未来を奪われてたまるか」、「川の向こうは紺野遼が住んでいる東京」、「被災者という役を強いられる(しいられる強制される)」、「おれは、東京の中学で差別された」、「攻撃的防御」、「水害のニュース映像を観ていると津波を思い出す」、「二人だけに流れる空気がある」、「補償がからむとややこしくなる」、「原発事故の放射能の影響が心配でこどもをつくることをためらう」、「(兄が被災死して、きょうだいの数は)いまは、ひとりです」、「時間を戻すことはできない」、「(川から東北新幹線をながめながら)あの新幹線は東北へ行く」」、「縁があった」、「音楽ばか、トロンボーンばか」

 主人公は、長い人生の中の通過点にいて、人生という川の流れの途中でもあります。学生時代はまだその始まりの時期で、まだまだ、これから先が、とほうもなく長い。だから、くよくよしなくていい。

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