2018年08月22日

銀の匙(ぎんのさじ) 中勘助

銀の匙(ぎんのさじ) 中勘助(なか・かんすけ) ポプラ社

 児童文学の名作ですが読みはじめてみるとけっこう言葉がむずかしい。各ページに説明が付記されているので理解できます。江戸時代が終わり、明治18年以降頃の言葉です。

 偶然、茶箪笥(ちゃだんす)の引き出しから出てきたのが銀の匙である。母親がその銀の匙の由来を語ってくれる。場所は東京神田である。

 主人公は生誕後病弱だった。頭から顔からまつかさのようなできものがあった。母親の産後の状態も悪く、主人公は叔母に育てられることになる。叔母の夫は病死していた。

 語り唄を聴くような雰囲気で読書を続けています。文章にリズム感があります。主人公自身の経歴と東京の歴史が重なりながら進行します。
 主人公と叔母のサムライごっこは楽しい。いつの時代でも同じです。対戦ごっこです。加藤清正が出てきます。
 
 主人公であるこどもに対する叔母の愛情が深い。

 古い話なので、文章を読んでも光景をイメージできませんが、明治時代の街のにぎわいとか、人のありようが、生き生きと表現されています。ことに子どもの世界の豊かさがあります。日記がベースで書かれていると推定します。

 少年期の初恋のことが書いてありしみじみします。

 日清戦争、1894年7月、明治27年から1895年3月朝鮮半島を巡る大日本帝国と大清国の戦争

 主人公の思考に寄ればこの世で立派な人はいないというところまで到達するのですが、病弱だった自分のめんどうをみてくれた叔母には感謝します。叔母が主人公にいつも銀の匙(さじ)で薬を飲ませてくれた。叔母のおかげで今の自分がある。
 
 他者を非難しながら自立心が育っていきます。

 前編が「大正元年初稿(1912年、106年前)」、後編が「大正2年初稿」古いのですが今の子どもたちの心理にも共通します。これからもそうなのでしょう。

 印象に残ったこととして、「若い時、学問にこって本ばかり読んでいたら気がふれた人がいた」、「お寺の縁日におおぜいの乞食が出る」、「教師と気が合わない記述。同様に兄と気が合わない記述。そのほかのこともふくめて、『ふしあわあせ』という表現」、「主人公は憂鬱症」

 調べた単語などとして、「帷子:かたびら。夏の麻の着物」、「章魚坊主:たこぼうず。主人公の男の子9歳のこと」、「悍馬:かんば。暴れ馬」

 年齢を重ねていくごとに老いていく。育ての親である叔母との再会シーンがクライマックスでしょう。自分の世話をしてくれた人に感謝して、自分もまただれかの世話をして老いていく。しみじみします。

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