2015年03月15日

怒り 上・下 吉田修一

怒り 上・下 吉田修一 中央公論新社

 上巻を読み終えたところで感想を書き始めてみます。
 冒頭で夫婦が殺害された事件が紹介されます。以降、殺人犯山神一也(昭和59年川崎市生まれ、高卒後立川市のアパート暮らし、無職、28歳、身長178cm、体重68kg)とおぼしき人物は、千葉県房総半島港町で暮らす田代哲也、ゲイの藤田優馬の相手大西直人、沖縄の無人島に住む田中信吾のいずれかではないかと漠然とした前提が広がります。
 複数の人間グループの話が集合したスタイルの構成です。登場人物は多い。メモしていかないと、何が何だかわからなくなります。上巻を読み終えましたが、まだまだ話の展開は少ししか動いていません。
 気に入った表現の要旨です。「やさしい男たちは、人生を切り開いていける強さはなかった。」
 千葉県房総半島を舞台にした記述があるのですが、読んでいた頃にちょうど千葉県内のホテルに宿泊していました。身近に感じることができてよかった。その後に続くページにも、ちょうどその日新幹線の中で食べた名古屋のみそかつ弁当とか、実家がある福岡県の博多駅の記述もあり、小説の内容と実体験が重なりました。
 まず、東京八王子市内で、尾木幸則・里佳子共働き夫婦が仕事から帰宅後それぞれが刃物で殺害される事件があって、その犯人が山神一也と紹介されます。最初に犯人を示す刑事コロンボ方式です。次に犯人の候補者が3人示されます。3人ともがそれぞれ孤独ですが、絶対的に孤独な環境にはありません。また、3人お互いに交流とか共通点はありません。
 山神一也は全国手配、テレビ公開捜査番組で報道されるのですが、整形しているため本人確認がむずかしい。髪の毛をあげたときの額(ひたい)が広い顔が似ている田代哲也は、千葉県房総半島にある浜崎というところで、知的障害があると思われる槙愛子23歳とアパート暮らしを始めます。愛子の父親を始めとした親族、父親の職場関係者が、田中哲也を包みます。
 右頬に3つのホクロがある東京住まいと思われる大西直人は、ゲイの相手、藤田優馬ファミリーに受け入れられています。
 沖縄では、サッカープレミアムリーグファン(犯人山神もそう)の田中信吾が、小宮山泉、高校1年生女子をとりまくファミリーに包まれています。
 実際に起きたいくつかの事件やダブル台風の襲来などの事実を素材にして推理小説、人間考察小説を成立させることを試みようとしている作品です。
 犯人山神一也の父親邦彦は、メッキ工場勤務、母景子は清掃のパート、長男一彦は3歳で病死、次男が邦彦です。親との交流は10年以上ない。
 
(つづく)

 下巻を読み、物語全体を読み終えました。上巻を読むほどの長時間はかかりませんでした。
 3組それぞれ、めんどうを見ている者たちに、もしかしたら彼は殺人犯人ではなかろうかという疑惑の気持ちが生じていきます。3人それぞれにボロ(秘密にしておきたいこと)も出てきます。物語は暗い雰囲気が続きます。70ページ付近は、次の殺人事件を予告する不気味な場面です。「足元で、さっきの虫の死骸が動いていた」はいい表現です。
 後半に近づきました。沖縄の米軍基地問題をからめてあります。政治を扱うと物語はむずかしくなります。
 相手を信じるとか、裏切るということを描いた世界でした。信じていたのに裏切られたとき、殺意が生まれる。
 最後半部は泣けました。この作品が本屋大賞を受賞するかどうかはわかりませんが、いつの日か、映像化される可能性は高いでしょう。

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