2024年10月21日

傲慢と善良 辻村深月

傲慢と善良(ごうまんとぜんりょう) 辻村深月(つじむら・みづき) 朝日文庫

 昨年の秋ごろはやった文庫本の小説だと思います。やっと読む順番が回ってきました。(わたしは、ダンボール箱に読みたい本が何冊もあらかじめ入れてあって、基本的には購入した順番に読んでいます)

 最初の数ページを読みました。
 なんだかうっとおしい話が始まりました。
 『(男への)依存』、そして、ストーカーに追われているような女性の気持ちが書いてあります。
 『助けて。私を助けて。』です。

『第一部』 と『第二部』があります。
全体で、493ページある長編です。

西澤架(にしざわ・かける):男性です。39歳。東京都江東区豊洲のマンション303号室に住んでいる。(坂庭真実との結婚後の新居になる予定だった)。
33歳のとき父親から継いだブリューイング・カンパニーという会社を経営している。輸入業の代理店である。従業員5人。父親はくも膜下出血で急死した。実家は東京三鷹市にある。

あいつ:男性でしょう。ストーカー、さらには、ストーカーされる女性を殺したのではないかという殺人犯人のような雰囲気の書き方です。

坂庭真実(さかにわ・まみ):主人公となる女性でしょう。あるいは、西澤架(にしざわ・かける)のほうが主人公かもしれません。
英会話教室の事務員をしていた。うりざね顔。ひとえまぶた。和風な顔立ち。黒髪。父親似。35歳。結婚式を控えている。婚活で相手の西澤架(にしざわ・かける)を見つけた。

坂庭陽子:坂庭真実の母親。群馬県前橋市居住。二重まぶた。丸顔。パーマをかけた茶髪。

ミサキ:坂庭真実のいとこ。東京都内住まい。

岩間希実(いわま・のぞみ):坂庭真実の姉。東京都江戸川区小岩住まい。顔は、母親似。都内の証券会社勤務。夫剛志はデザイナーで、3歳の娘桐歌(きりか)がいる。
 
 単行本は、2019年3月(平成31年)発行です。今から読むのは文庫本です。

 2月2日深夜二時。坂庭真実が行方不明です。消えてしまいました。
 スマホは、電波が届かないところか、電源が入っていないそうです。
 
 不安をかりたてる文章がつづく。26ページ付近です。
 なにか、(読者をだます、あざむくための)しかけがあるのではないかという疑いをもちながら読んでいるわたしです。

大原:西澤架(にしざわ・かける)の友人。妻ミキと子2人(2歳児ゆうみともうひとり小学一年生)がいる。無精ひげ。彫りが深い顔立ち。

美奈子:西澤架(にしざわ・かける)と付き合いが長い。
梓(あずさ):美奈子とつるんでいる。

アユちゃん:三井亜優子。西澤架(にしざわ・かける)の元カノ。ほかの男と結婚した。西澤架(にしざわ・かける)より6歳年下。
 
 行方不明になったという坂庭真実は、なにか、本人の性格に問題があるのではなかろうか。
 読んでいて、本人の意図で、姿を消したようにも思えるのです。
 ストーカーという存在は、もともといないのではないか。
 
ペリエ:フランス起源の炭酸入りナチュラルミネラルウォーター

マリッジブルー:結婚する前の不安。

 58ページ付近、もうこれ以上読んでも得られるものはないような気がしてきました。

 坂庭真実と西澤架(にしざわ・かける)の結婚式の予定は9月です。
 場所は、麻布のミランジェハウス(西澤架(にしざわ・かける)の元カノ三井亜優子が結婚式をあげた場所であることがあとから判明する)

 西澤架(にしざわ・かける)は、坂庭真実を婚活で見つけた。
 
坂庭正治(さかにわ・しょうじ):坂庭真実の父親。元群馬県前橋市市役所職員。長身。

縁結び小野里(おのざと。群馬県県会議員の名前です。屋号かもしれません。(個人事業主が使う時の名称)):前橋市の結婚相談場所。県会議員の妻がひとりでやっている。元市職員の坂庭正治とつながりがある。

 坂庭真実は実家の群馬県で積極的に婚活をしていたが、断られたり断ったりで、かなりの人数の男性と面談をしたが、なかなか結婚相手が見つからなかった。
 (愛情のない、あるいは、愛情の薄い、結婚願望が見えます。西澤架(にしざわ・かける)の側にも同様のことがあります。西澤架(にしざわ・かける)も多数の女性と婚活をしていたが、元カノのことが忘れられず結婚に乗り気になれなかった)
 
 本音(ほんね)を突く。きれいごとを許さないところが、作者の特徴と持ち味でもあります。
 
 坂庭真実に紹介された男性はふたり。ひとりはすでに結婚している。(ふたりともストーカー犯人とは思えないタイプ)。ふたりの居住地は、前橋市と高崎市。紹介は、もう、6年前の話です。

 女性は出産できる時期があるから、いつまでも男を待てない。

 『高慢と偏見』:イギリスの小説。ジェーン・オースティン作。恋愛小説。結婚小説。
 
 結婚がうまくいかない理由として、傲慢さ(ごうまんさ)と善良さが要因になっている。
 自分と相手を比較する。自分は、何点の人間だからと仮定して、相手にも同様の点数を求める。(70点ではだめなんですとか)。点数的に自分にふさわしくない相手は、結婚相手にしない。
 
 143ページあたり以降を読んでいてですが、なんだか、お昼のラジオ番組である『人生相談』を聞くようです。
 母親が、娘の結婚相手をお見合いで、自分好み(職業とか収入、家柄においての母親好み)の男性を娘に夫としてあてがおうとしています。
逆に、お見合いにおいて、娘が好む相手男性は親に拒否されます。そこに見合い相手を紹介してくれた県会議員夫婦への恩義がからんできます。
 まあ、娘は苦しい立場です。
 この点を、小説では、『(親の)傲慢(ごうまん。相手を見下す(みくだす)。バカにする)』と位置付けます。
 でも、現実的な話ではあります。

カナイ・トモユキ:坂庭真実の見合い相手だった男性。前橋市内居住。市内の電子メーカー勤務のエンジニア。のちに、『金居智之 既婚』と判明します。
金居智之は体格がいい。体育会系に見える。日に焼けている。東日本大震災でボランティアの経験あり。金居智之が32歳、坂庭真実が26歳のときに見合いをした。金居智之は、坂庭真実には陰(かげ)があると気づいたとのこと。(見た目と中身が違うということ)。

 わたしの考えとして、そもそもこの話で設定されている坂庭真実に対するストーカーはいないのではないか。

傲慢とは(ごうまん。見合い相手の品定めをする):坂庭真実の母親である坂庭陽子のこと。自分好みの男性を、次女である坂庭真実の夫にしようとするから。

善良とは:傲慢な母親の言うことをきこうと努力する坂庭真実のこと。

 さらに、見合い相手である(結婚相手でもある)西澤架(にしざわ・かける)の実母が、息子夫婦との同居をさきざき希望している。(わたしが孫のめんどうをみてあげると言う)
 いろいろプレッシャーが、坂庭真実33歳にはあります。加えて、男性経験が33歳までなかったという事情が出てきます。
 坂庭真実はかなり苦しい。ストーカーに追われているというのは、口実で、じっさいは、ひとりで姿をくらましたような展開です。

 199ページまで読んで、これから先のページをペラペラとめくってみました。
 327ページから第二部が始まります。
 どうも、第二部は、行方不明になっている坂庭真実のひとり語りのようです。

(つづく)

 群馬県庁が出てきます。33階建て、上に展望台。自分に、なにかしら記憶があります。
 路線バスで鬼ごっこ太川陽介さんとEXILE(エグザイル)松本利夫さんの対決で、ゴール地点になった場所ではなかろうか。調べてみます。調べたら、違っていました。テレビ番組のほうは、前橋市役所21階展望室でした。群馬県庁は、高崎市にあります。
 群馬県の県庁所在地は高崎市です。以前、高崎か前橋か、どちらが県庁所在地になるかでかなりもめたという記事を読んだことがあるのを思い出しました。

 県の職員採用、その後の共働き結婚生活などを話題にして、地方で暮らす人間の暮らし方に関する記述が続きます。その標準的な暮らし方になじむことができなかった女子は、土地にいづらくなって、東京へと逃げるように出て行くのです。

有阪恵:群馬県庁の臨時職員(1年更新で継続就労中)。25歳で職場結婚した。坂庭真実と同じ年齢。35歳。

 お見合いにおいて、自分は、選ばれるほうの人間だと思いこんでいる(誤解している)。
 お見合いの相手を見下すことがある。(自分が断ったその相手が、その後別の女性と結婚してこどもができて幸せに暮らしているという事実がある)。

 坂庭真実は、ストーカーするほどの価値がある女性ではなさそうです。

 『(お見合いで)いい人がいない』→あなた自身が、いい人ではないという裏返しの言葉です。

 『在庫処分のセールワゴン』→30歳を過ぎて、売れ残り同士(男女)のお見合いと結婚のことをいう。

泉ちゃん:坂庭真実のにがてな相手。同級生女性35歳。高校は坂庭真美の姉である岩間希実と同じ。大学は、西澤架(にしざわ・かける)と同じ大学。商社で働いていたが出産子育てで高崎市に帰郷している。

 学歴とか、卒業校をばかにしている。学歴の優越感で生きている人がいる。

(そして、第一部を読み終えました)

 ジャネット:坂庭真実が結婚のために退職した英会話教室での同僚台湾人女性。

 花垣歯科医院(群馬県高崎市にある)→代替わりして、フラワー・デンタル・クリニックに名称変更をする。坂庭真美が6年前に見合いをした相手の弟が後を継いでいる。見合いをした相手(長男)が歯科助手をしている(わけあり。長男が跡継ぎになれていない。次男が跡を継いでいる)。

 坂庭真実が行方不明になってから3か月が経過している。今は、5月です。

 美奈子、梓、渚、多佳子:西澤架(にしざわ・かける)の友人。男女の友人で、恋人関係はない。

 坂庭真実は、西澤架(にしざわ・かける)の元カノ三井亜優子(みついあゆっこ)のことを知ったのではないか。(当たりでした)

 坂庭真実は、お見合いの相手であったふたりの男性に、傲慢(ごうまん)な態度をとった。自分よりもレベルが下と、見下した(みくだした)。

 『皆が行くから大学に行き、親が決めたから就職し、そういうものだからと婚活する』

 西澤架(にしざわ・かける)という男性は、婚活の場において、『(坂庭真実にとっての)掘り出し物(いい商品、物件)』だった。

 『自己評価は低いくせに、自己愛が半端ない……』(坂庭真実に対する厳しい人物評が続きます)

 読んでいると、(30歳過ぎの男女の結婚って)何なのだろうなあという気分になります。
 まわりがそういうから(結婚しろと言うから)、婚活をする。
 
 坂庭真実のストーカー話は、つくり話であることが判明しました。

『第二部』
 ストーカー事件に巻き込まれたというウソつき話を西澤架(にしざわ・かける)に持ち出した坂庭真実の語りでしょう。

 自立できない女子の悲しい話です。
 母親の言いなりになって育って、大人になって、自分の脳みそで自分のことが決められないのです。
 男(西澤架(にしざわ・かける))に依存しようとしますが、彼は坂庭真実のことを自分にとっては、70点と点数付けした人間です。せめて、80点は欲しかったと坂庭真美がつぶやきます。西澤架(にしざわ・かける)にとっての100点満点の女性は、彼の元カノの三井亜優子なのです。

 『いつ結婚するんだって、親にせかされるのは、もう嫌なの……』
 坂庭真実はあせっていた。西澤架(にしざわ・かける)で手を打つことにした。ふたりとも打算(ださん。損得勘定をすること)で結婚するのです。
 
 西澤架(にしざわ・かける)に恋愛感情をもつ女性たちは、西澤架(にしざわ・かける)の婚約者である坂庭真実を激しく攻撃します。彼女の人格を貶めます。(おとしめます。さげすむ)。ありがちな人間的社会です。人の不幸が嬉しい、悪人がいます。

 これは、女の生きづらさを書いてある本だろうか。

 母親の言いなりです。世の中での生き方を知らない、母親にコントロールされた自主性のない女性が坂庭真実です。坂庭真実は、現実を知りません。
 
 『真面目でいい人』→結婚相手の対象にはなっても、恋愛の対象にはなりにくい。

 31歳にもなって、親から、帰りが遅いと言われる坂庭真実です。(親がおかしい。娘を高校生扱いしています)
 
 居場所がない坂庭真実です。

 坂庭真実の部分を読みながら、この人は、結婚には向いていないと判断します。『無理』です。『無理』が完成しています。今は、374ページ付近を読んでいます。

 偽名を使って、仙台市内で生活する。東日本大震災復興のためのボランティアスタッフとして生活する。

 プロセスネット:震災復興の民間組織。
 谷川ヨシノ:プロセスネットのスタッフ。三十代はじめぐらいの明るい美人。背が高い。
 樫崎写真館(かしざきしゃしんかん):館長が、樫崎正太郎、白髪の老人。芸術家っぽい。その孫が、樫崎耕太郎、彼女あり。
 樫崎写真館で寝泊まりしているスタッフが、早苗(38歳)とその小学生のこども男児で力(ちから。11歳)。
 震災で汚れた写真を洗ってきれいにする作業をする。

 仙台は観光で去年訪れたので、読んでいてイメージがつくれます。

直之:坂庭真実のいとこ。離婚した。

板宮:五十代の男性。地図製作会社の社員。ベテラン地図調査員。地図づくり担当。震災で、家がなくなって、新しい建物がそこにできる。地図でそのことを表示していく。

花垣学:坂庭真実のふたりめのお見合いの相手だった人。しゃべらない人だった。朴念仁(ぼくねんじん。無口で愛想がない(あいそがない))だった。花垣学は、こどものようにオレンジジュースを飲む。

高橋:30歳。地図づくりのアルバイト。背が高くて肩幅が広い。茶髪、ピアスをしている。

 震災で被災した写真をきれいに洗って持ち主に渡すという内容は、邦画、『浅田家』を思い出します。
 『浅田家』という家族の看板を掲げて、写真家が、『家族』のありかたについてこだわる映画でした。

仙石線:仙台駅から石巻駅。(わたしは乗ったことがあります。読んでいると実感が湧きます)

ネルシャツにチノパン:表面を起毛させた暖かいシャツ。綿やポリエステルのズボン。

(ストーカーの話から、うまくいっていない婚活の話になって、話題は突如、東日本大震災に飛んで、う~む。これでいいのだろうか……)

幸子(さちこ):被災写真の花嫁さん。

健太:幸子さんのこどもさん。

 石母田(いしもだ)とその娘:三波神社(みつなみじんじゃ)の人

メグちゃん:坂庭真実が、群馬県庁で働いていたときの同僚。既婚者。

 なんというか、亡くなった人が大事に保管していた昔の写真というのは、扱いが難しい。
 子孫にとっては、知っている人がだれも映っていない白黒写真もあります。
 最終的には処分することになるのですが、簡単そうで、そうでもないのです。放置することが多い。そうすると、時が流れて、さらに縁遠い子孫は困ります。ここにある古い写真を届けるという発想は、届ける人の側の自己満足の感情があります。届ければ、喜ばれると思いこまないほうがいい。相手にとっては迷惑なこともあります。

権禰宜(ごんねぎ):神社の役職。禰宜(ねぎ。役職。一社にひとり。責任者ということか)の補佐役。複数設置可。

 472ページあたりから先、ひょうしぬけするような結末へ移行しました。(力が抜ける)。
 坂庭真実にとっては重大なことであっても、読み手である傍観者にとっては、その程度のことで、そのような気持ちになるのかと、主人公の思考に寄り添えなくなります。やはり、まだ、気持ちがこどもなのです。

 自分に70点という点数をつけた男とこれから先、どうするのか。
 傷ついた自分の気持ちをどうするのか。

 物語の結末は、わたしには、そうなるとは思えません。

 人生は、しんどい。(骨が折れる。難儀(なんぎ)だ)

 『私とお母さんは違う人間だということを、どうしてわかってくれないの……』
 『母にとっては、私は一生自分の一部のようなもので……』

 486ページの展開、うまい!
 こういうふうに話をもっていくわけか。

 されど、この先は、けっこうしんどい。
 親族・身内を拒んで(こばんで)、個別単体で生きていけるほど、世の中は甘くない。

 『結婚』というものは、たいてい、こんなはずじゃなかったと思うものです。
 そこを乗り越えて、これはこういうものだと、気持ちに折り合いをつけて、やっていかないと結婚生活は長続きしません。

 親戚づきあいをしたくない人、親戚づきあいがにがてな人は、結婚は、思いとどまったほうがいいです。
 戸籍の届を出して、戸籍ができると、法的に権利義務関係が発生します。扶養の義務も発生します。
 
 人生は障害物競争みたいなものです。
 病気や事故、自然災害や事件に巻き込まれることもあります。
 一生元気で健康な体を維持できる人はほとんどいません。
 ひとり、あるいは、夫婦ふたりだけでは生きにくいのです。
 助け合いが必要です。精神的・金銭的援助を親族同士ですることはふつうのことです。そこを割り切れない人は、戸籍をいっしょにせずに、事実婚状態のほうがベターです。

 読み終えてわたしは、坂庭真実は、自分をバカにした女友だち複数をもつ西澤架(にしざわ・かける)とやっていけるとは思えないのです。
 尻すぼみの終盤でした。

 辻村深月作品の特徴は、本当のことを追求して、本当のことを把握して、じゃあどうするんだと考えることです。
 例として、作品、『琥珀の夏(こはくのなつ)』があります。
 善人とされていた男性指導者の脳みそにあったのは、エロ(性的興味が強い)だったと暴かれています。(あばかれています)。

(その後のこと)
 こちらの小説作品が映画化されて現在公開中であることを知りました。
 う~む。わたしは観に行かないと思います。  

Posted by 熊太郎 at 07:32Comments(0)TrackBack(0)読書感想文