2021年12月20日

ハツカネズミと人間 スタインベック

ハツカネズミと人間 スタインベック 新潮文庫

 スタインベック:1962年(昭和37年)ノーベル文学賞受賞者。1902年(日本だと明治35年)-1968年(昭和43年)66歳没 代表作として、「怒りの葡萄(ぶどう)」「エデンの東」本作(ハツカネズミと人間は、1937年(昭和12年)の作品。

 衛星放送だか、ケーブルテレビの番組だかで映画が放映されて、内容が良かったと聞きました。
 動画配信サービスで映画が見当たらなかったので、小説を読んでみることにしました。

 アメリカ合衆国にあるソルダートというところの南にサリーナス川というのが流れていて、ギャラビラン山脈が見える。ヤナギ、スズカケ、アライグマ、ウサギ、自然に囲まれた地域です。
 小柄な男性がジョージ・ミルトン、大柄な男性が、レニー・スモールで、レニーは知的障害者でしょう。『おらたち、どこさ行くんだ?』
 ふたりは、相棒です。兄弟のような、親子のような、夫婦のような、ジョージ・ミルトンが、レニー・スモールの世話をしています。大柄なレニーいわく『おらには、おめえがついているし、おめえにはおらがついていて、たがいに世話をしあう』ふたりの夢が、いつの日にか、お金を貯めて、小さな家を手に入れて、土地をもち、ウシとブタを飼う。さしあたって、レニーはウサギを飼いたい。
 ふたりは、農場で働く労務者で、肉体労働現場を転々としていることがわかります。大柄なレニー・スモールが仕事場でトラブルやチョンボをくりかえしていることが文脈からわかります。
 タイトルにあるハツカネズミというのは、なにかのたとえなのでしょうが、60ページまで読んだ今は、まだわかりません。レニー・スモールがハツカネズミの死骸を大事にもっています。殺したというのではなく死んでいたのを見つけたそうです。レニーはウサギがほしい。

 マレイ・アンド・レディの職業紹介所
 労働カードとバスの切符。

 ジョージ・ミルトン(小柄)とレニー・スモール(大柄な体格)
 クララおばさん:レニー・スモールのおばさん。ジョージ・ミルトンは、クララおばさんと親しかった。
 ホワイティ:鍛冶屋
 スミッティ:ラバ使い(ラバ=ロバとウマの交雑種)
 親方:ずんぐりした小柄な男
 カーリー:親方の息子。新婚の美人妻あり。ただし、妻には浮気性あり。悪女と噂されている。
 カールソン:大男。老いぼれた犬の汚らしさが許せない。
 老いぼれた犬がいます。悪臭を放っている。キャンディという人が子犬のから可愛がっている犬です。
 キャンディ:老人の掃除夫。農作業中の事故で片腕をなくしている。
 子犬を九匹産んだメス犬の名前がルル。
 スリム:労務者グループのグループリーダ。「組(くみ)」のリーダーなので、組長でしょう。背の高い大男のラバ使い。
 スリムは、知的障害のあるレニー・スモールのめんどうをジョージ・ミルトンがみていることが不思議です。
 従来、転々とする労務者は一匹オオカミ的で、人のことは考えません。
 スリムの名言として『(知的障害のあるレニー・スモールについて)あいつはいいやつだよ。頭がにぶくたって、いいやつはいる。どうもその反対のことがちょいちょいあるようだ。ほんとうに頭の切れる男で、いいやつはめったにいないからな』
 ホイット:若い男
 ビル・テナー:三か月前まで農場で働いていた。
 スージーかあちゃん:売春店の店主
 クララの家:スージーの店とは違う売春店
 アンディ・クッシュマン:ジョージ・ミルトンとレニー・スモールの初等中学校時代の同窓生。今は女性関係のトラブルで刑務所に入っている。
 クルックス:黒人男性。馬屋係。人種差別されるがゆえに孤独を好む。
 ウィード:たぶんレニー・スモールの犠牲者

 労務者たちが寝泊まりしている飯場(はんば)のようすを読みながら、自分が高校生時代に長期休みが続くときに土方(どかた)のアルバイトをしていたことを思い出しました。
 朝8時から夕方5時まで働いて、10時と3時に30分の休憩、一日2800円でした。
 建物の基礎をつくる作業をしていました。穴掘り、セメント運びです。もちろん週休二日制ではありませんでした。当時、朝刊の配達もしていたので、いまさらながら、よく働いていたと過去の自分に感謝します。

 小説では、穀物運び、大麦運びが主な仕事です。
 雰囲気として、貧困、無教養、不安定な暮らしがあります。
 うちひしがれる者や、やっかい者に愛情を注ぐ小説だろうか。

 農場の風景からは、作品『アルプスの少女ハイジ』が思い浮かびます。
 ヤギ飼いのペーターがいました。

 エアデール犬:ヨークシャーテリア。猟犬。この小説では羊の番をする。
 ルーガー拳銃:ドイツでつくられた拳銃
 ユーカー:トランプゲーム

 いらなくなったら消す。老いて役に立たなくなった犬は、これまでにどれだけ貢献をしてくれていたとしても射殺する。
 知的障害のある人間もまわりの人間たちに迷惑をかけるようならば追い出す。
 厳しさが迫る内容です。
 まだ、80ページ付近を読んでいるところですが、いらないものは消す。
 これから、人間の残酷さが表現されるようです。

(つづく)

 全体を読み終えました。
 悲しい話でした。
 幸せな暮らしをしたいのにできない境遇があります。
 レニー・スモールの相棒であるジョージ・ミルトンは、結果はこうなると、ことの結末を予期していたのでしょう。
 読んでいて、昔観たサムライ映画で、野武士の強盗集団に村を襲われて野武士に脅迫された父親が、村人全員の命を守るために、自分の息子の命を奪ったシーンがあったことを思い出しました。
 この小説にも、厳しいつらさがにじみ出ています。

 エーカー:面積の単位。1エーカーが、4046.85642㎡

 途中、恵まれない環境にある者の未来への夢があります。
 お金を貯めて自分たちの農場と家をもって家畜を飼育することです。
 自営業で生活の糧(かて。収入)を得て食べていきます。
 未来には、移動の自由があります。職業選択の自由もあります。『自分の土地に住んで、自分のところで働くんだ』(だれの指示も受けなくていいという嬉しい気持ちあり)
 
 黒人差別、障害者差別、老年者差別の国、アメリカ合衆国の実態が浮き彫りにされます。

 うさぎを飼う話がひんぱんに出てくるのですが、昭和12年ころのアメリカ合衆国のこととして、うさぎを肉食用で販売できたのだろうと推測しました。

 仮面夫婦がいます。
 案外、お互いに嫌でもいろいろあって、しかたなく家庭内別居みたいにしているカップルは多いのでしょう。

 164ページで伏線があったことに気づきます。
 
 スリムは事実を知っていて、ジョージ・ミルトンもそのことを知っている。
 ジョージ・ミルトンとレニー・スモールのあいだに友情とか愛情があったのか、なかったのかを判断することはとても難しい。  

Posted by 熊太郎 at 06:59Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2021年12月17日

世界最高の話し方 岡本純子

世界最高の話し方 岡本純子 東洋経済新報社

 よく売れている本らしい。
 仕事用の話し方なのでしょう。
 自分はリタイアした身なので、話し方以前に、脳の働きが加齢で弱ってきています。固有名詞(人名、地名、店名)が口から出てきません。困っているようでそうでもありません。困るのはまわりにいる人のほうでしょう。
 これからこの本を読みますが、本には、会話をするときの気持ちのもち方が書いてあることでしょう。
 リタイアした身で考えると、良かれと思って話したことや、いいことをしてあげたと思うことが、相手にとっては迷惑であったであろうということが、歳をとってからわかりました。
 これからは、相手に対して何もしないことが基本です。
 頼まれたらやる。したいことがあったら、選択肢を提案して、選択してもらえたらやる。選択してもらえなかったら何もしないことが相手に対する思いやりです。

 さて、実用書を読むときの自分のパターンです。
(1回目)
 ゆっくり1ページずつめくって最後のページまで目を通します。
 118ページに前アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ氏のことが書いてあります。過去の人になってしまいましたが、自分は、彼の復活はありうると思っています。
 本を読むと、トランプ氏は、聴き手の気持ちを尊重しながら話をしているという文脈に見えます。
 148ページには、高田明という方が登場します。自分は知らない方です。よく読んだらジャパネットたかたの創業者の方でした。自分も知っていました。テレビショッピングの番組で見たことがあります。「シーン(場面)」を聴き手に見せる話法をとるそうです。
 ジェフ・ベゾスという人は、アマゾンのCEOだそうです。CEOは社長とか会長という最高権力者みたいなポスト(地位)なのでしょう。聴き手にストーリーを話す話法だそうです。
 いずれも素人が真似するにはむずかしそうです。まずは、度胸がいりそうです。記憶力とくりかえして体で覚える練習も必要でしょう。

(2回目の読書)
 わかりやすくするために、本では、文字数を少なくしてあるようです。
 文章をずーっと指でなぞりながら読めそうです。やってみます。
 
 自分はもう人生最後のステージまで来てしまったという実感があります。
 必要なのは人間関係の整理です。
 だいぶ整理ができました。
 最後に残るのは、やはり血を分けた血縁関係と姻族関係がある親族です。
 会話をする相手も限られてきました。
 
 スピーチトレーナーという職があるのかどうかわかりませんが、政治家には必要な気がします。
 テレビでは政治家が、官僚や部下が書いたペーパーを棒読みするシーンばかりが流れます。まるで朗読大会のようです。(あとからこの本の113ページにそのことが出てきました)
 自分の言葉で自分の気持ちや考えを話してほしい。
 ただ、はっきり本音を言えないとき、はぐらかさなければならないとき、明言しにくいとき、言いにくいときは多々あります。

 著者が自分の実績を披露するマニュアル本(手引き)です。
 自信に満ちていて、読んだ人が、しっかり生きていくためという願いがこめられています。

 『伝説の家庭教師』がキャッチフレーズなのでしょうが、ピンときません。(人心をとらえる言葉)

 『雑談が苦手』ということはあります。何を話せばいいのか頭に浮かんでこない時があります。
 ただ、歳をとってくると、無理して話さなくてもいいやと思うことはあります。
 雑談というのは、聞いていると、ただ、だらだらとしゃべっているだけと気づきます。結論はありません。聞いているようで聞いていない。同じことを何度も話している。時間つぶし。そんなものです。まじめに考えると疲れます。

 外国には、『地球が平たいと信じている人がほんの少しいる』『地球のまわりを太陽が回っているという人が案外いる』とあります。
 ありそうな話です。自分の頭の中にあることが相手の頭の中にもあると思ったら違います。目には見えませんが『気持ち』とか『知識・体験』は、それぞれの頭のなかにある風景です。お互いが理解し合うことはとてもたいへんです。

 正論が通らないことがままあるのが人間社会です。
 人間は感情と欲の生きものです。
 『自分が何を言うかではなく、相手をどんな気持ちにさせるか』がポイントだとアドバイスがあります。コツとして、『相手にマイクを渡す』
 加えて、日本社会は、地縁、血縁、学閥などでつながっていたりもします。初対面の人とは自分との共通点を見つけることにやっきになったりもします。末端にいけばいくほど、仲間意識、村意識からの脱却はなかなかむずかしい。

 ソフトバンクの孫正義氏のお話が出ます。
 ほかにも有名な人の名前がいっぱい出ているのは、何かのねらいがあるからでしょう。
 
 『自分の話が止まらない人』自分にもそういうときがあります。反省するときもあります。語りだしたら止まりにくいのです。

 相手もある程度知識と経験がある人でないと会話のキャッチボールが続かないということはあります。

 『言いたいことをひとことでまとめる』むずかしい。センス(優れた感覚)や素質がいります。

 いまどきは、面と向かっての会話に加えて、リモートとかメールのやりとりもあるのでしょう。(あとから112ページにリモートのことが出てきました。そのあと、203ページにも出てきました)
 契約とか、交渉事の合意は、やはり、直接会って、力強く握手をしてでないと信頼関係が築けない気がします。

 現役だったとき、自分は最初に結論を言って、あとから説明する手法が好みでした。
 
 カルロス・ゴーン氏が出てきました。
 なんだかひどい人です。
 労働者の首は切って、自分は大富豪です。
 専属のスピーチライターがいたそうです。
 世の中にはいろんな人がいます。
 詐欺師みたいな人が偉くなるのです。
 本の趣旨とは相反しますが、スピーチにだまされないようにしなければと警戒します。

(つづく)

 『教官』から『共感』へ。
 納得はできますが、組織をコントロールする側のむずかしい立場もあります。
 相手の言うことに流されていたら統治できなくなってしまうこともあります。
 全体主義と民主主義の対立のようにもなってきました。

 ZOZO創業者の前澤有作氏のことが出てきました。これを書いている今、ご本人は宇宙のステーションにいます。たいした人です。

 ただの『いい人』では、組織の維持運営はできません。
 悪役が必要なときもあります。
 パワハラの恐怖支配が続く理由が、組織をつぶさないためということはあります。
 資本主義も社会主義も、基本は弱肉強食の人間世界なのです。

 アメリカ合衆国ニューヨーク州前知事アンドリュー・クオモ氏が出てきました。セクハラ行為もあって辞任されています。
 こうしてみると、雄弁な人には二面性があります。ひとつの体に複数の人格が宿っているようです。

 感情に訴える。相手を許せないと攻撃する。連帯感をつくりだして、ユーモアでまとめる。痛快な快感を聴衆に提供する。ひとつのショーです。ヒトラーを思い出します。恐ろしい。

 現在のグーグルの最高責任者ピチャイ氏が、インドの貧しい家の出身者だということは初めて知りました。
 アマゾンの共同創設者ベゾス氏も生まれた時、母親がまだ17歳の女子高校生だったという体験をもつそうです。
 ふりかえってみれば、偉人たちのうちの多くは、子ども時代は貧しかった。
 子ども時代に苦労をしても、努力をすれば、年齢を重ねるごとに上へと登っていくことができるという夢をもらえる本です。
 ただ、読んでいると、人生に落とし穴はつきもので、本に書いてある人たちは、隆盛を極めたのち、いったん転落したように見える人も多い。
 アリババの創業者であるジャック・マー氏が登場します。
 
 メタファー:たとえ(話)

 選挙に立候補した人の演説原稿を読むようでもあります。

 プレゼンテーション(演説、PR説明)では、聴き手に伝わるように、声をはって話す。
 第一には、人間は、お金(生活の糧(かて)を得るための収入)のためにがんばるのでしょう。(そう思いながら読んでいたら、199ページに年収の話が出てきました。この本の読書は、このパターンが多い。頭にヒントが浮かぶと数ページあとにその項目のことが出てきます)

 『言葉』を伝えるのではなく、『意味』を伝える。

 『スライド』と表現があるものは『パワーポイント』と読みかえて読みました。

 基本はやはり、①あいさつ ②ほめる ③あいづち ④笑顔 ⑤感謝 だということを再確認できました。
 人間の気持ちの動きはシンプルです。

 若い人たちには、これからを生き抜いていくための参考にしてほしい本です。
 年金生活者となったうちらのような者にとっては、なるべくまわりからかわいがられる年寄りになるための参考にさせてもらいます。  

Posted by 熊太郎 at 07:22Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2021年12月16日

僕の人生には事件が起きない 岩井勇気

僕の人生には事件が起きない 岩井勇気 新潮社

 お笑いコンビ「ハライチ」の岩井勇気さんです。
 澤部佑(さわべ・ゆう)さんのほうが目立つので、単体でお名前だけ聞くとだれかな?と思ってしまいます。
 「ハライチ」というのは、ふたりが生まれ育った埼玉県上尾市(あげおし)にある地域の名称で、その点で好感をもっています。

 岩井勇気さんは、テレビ番組「鶴瓶の巷の噺(つるべのちまたのはなし)」でゲストに出た時の澤部佑さんの婚姻届け呈出話で爆笑しました。
 突然澤部佑さんに役所に来るように呼び出されて行ったら、澤部佑さんとこれから奥さんになる女性がいて、ふたりが出す婚姻届の証人欄に署名を求められたというような経過でした。
 それまで、岩井勇気さんは、澤部佑さんに付き合っている女性がいるということを知らず、澤部佑さんはこれまで、女性体験がまったくない男だと信じ込んでいたそうです。
 奥さんになる女性は、そのとき妊娠されていました。
 
 この本は書評の評判が良かったので読んでみました。
 よく売れている本です。

 『文字書きが苦手です』から始まりますが、読んでいて、そんなふうには思えませんでした。
 接続詞が少なく、読みやすい。文章にリズムがあります。
 編集担当の人が、手を入れてくれていたのかもしれません。

 変化の少ない人生を送っておられるそうです。
 お笑いの仕事をしていても、埼玉県の実家から都内の職場へ通勤されていたそうです。ゆえに下積み時代と呼べる苦労した時期がない。
 大都市周辺で生まれ育った人というのは、地方で生まれ育った人間からみるとうらやましい。
 いなかだと、進学するにしても就職するにしても、高校を卒業したらいったん家を出なければならないことが多いのです。
 お金も手間もかかります。新生活に慣れるための苦労も伴います。
 みかえりは『夢』を追う楽しみがあることです。

 ご本人は、30歳にして初めて家を出て、東京都心にあるメゾネットタイプ(長屋二階建て)のアパート住まいをされています。ふつう、なかなかそうはいきません。
 新居の隣地にある墓地と幽霊話が出てきます。
 シラカシの木の話は、うちの庭にも二本植わっているので、親近感をもちました。

 母親の得意料理がペスカトーレ:魚介類をつかったトマトソースのスパゲティ

 気楽に読める芸人さんのエッセイという位置づけの本です。

 芸人の生活パターンのレクチャーを受けているようです。(講義)

 焼き肉店でのタブレットによる注文についてあれこれうまくいかないと書いてあります。
 自分にも同様の体験があります。生ビールをタブレットで注文しようとしたら画面に生ビールがなくて、若い男性店員に聞いたら、理由はわかりませんが、自分も知らないと言うので、じゃあ一緒に勉強しなきゃと言って、しばらくして、奥から出てきた別の店員に使い方を教えてもらいました。
 それにしても、ジョッキで飲む「生ビール」は、タブレットの最初のページにあるべきではなかろうか(なんどか画面をスクロール(タッチしてなでて)してようやく生ビールほかの飲み物の画像が出てきました)
 
 予約したことを忘れることが多い岩井勇気さんです。
 こういう人っています。
 直りません。
 脳にあるべき手順のプログラムがなされていないのです。
 だれしも、人間としては不完全な部分があります。

 岩井勇気さんは、どんくさい人でもあります。(不器用。通販とかホームセンターで購入するDIY自分でつくる木製の棚をつくれない)

 珪藻土(けいそうど)製品に、はまる記事があります。
 だれしも中毒気味の買い物をする時期があります。
 自分にも覚えがあるので、岩井勇気さんを責める気にはなりません。

 『錯覚(間違えている)』の世界があります。『想像(頭の中につくりだす)』の世界ではありません。
 
 文章には、なくてもいいオチを求めている部分もあります。

 野球の話は共感する部分が多い。
 昔の少年たちは遊びが野球ぐらいしかありませんでした。
 長い年月の経過により時代は変わりました。
 日本全国にたくさんある野球場はだんだん別のスポーツ施設ほかに変わっていくであろうと自分なりに未来予想をしています。

 昔まだこどもだった息子とプロ野球観戦で球場に行ったら、そばにいたおばあさんたちが嫁さんたちの悪口を延々と言い続けるので閉口したことを思い出しました。
 なにも、プロ野球観戦のスタンド席まで来てそんな話をしなくても。なにかで手に入れたタダのチケットだったのでしょう。野球のことはなにも知らないのでしょう。

 読んでいて、人間ってなんだろうという気持ちになりました。
 人間は不完全な生き物で、なにごともうまくいかないという前提に立って、折り合いをつけながら人生を楽しめたらいいという着地点を見つけました。

 学校にしても職場のものにしても、同窓会というものは、成功した人間の集まりなのでしょう。
 自分はあまり行きたくありません。親しい人とだけ楽しく飲食するならいいけれど、自慢話を聞かされるのは著者同様に苦痛です。でも、自慢話をする人は多い。しかたがありません。だれしも人から認められたい。
 体験談を読むと、芸能人が親族の冠婚葬祭に顔を出すのも場の雰囲気として、むずかしいものがあります。
 芸能人は、ちょっと特殊な仕事です。

 著者の心は冷めています。
 
 親戚づきあいはめんどくさいというのは、今どきの若い人たちの感じ方なのでしょう。昔は、親戚同士で助け合わないと生活していくことが大変だった時期がありました。今はいい時代になりました。

 相方の澤部佑さんに関する分析と評価が鋭い。
 村田紗耶香作品(むらた・さやか作品)『コンビニ人間』に登場する主人公女性の個性が澤部佑さんの個性です。
 澤部さんに人気があっても『澤部が一番好き』という人はいないのです。著者いわく彼は『真似(まね)』であって『素(す。実体。本質)』がないのです。
 昔読んだ本で、永六輔(えい・ろくすけ)さんの娘さんが、父は「永六輔」という個性(人格)を演じていたと語られていました。芸能関係の仕事をする人は、だれだれという人物を演じることが仕事なのです。
 よく考えると芸能人でなくても、人は、職場で、その職場に応じた人格を演じているということはあります。職場にいる全員が役者なのです。

(その後のこと)
 この本を読んだあとしばらくして、今は、お笑いコンビ『オードリー』の若林正恭さんの本を読んでいます。『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込み』という本です。
 『ハライチ』の岩井勇気さんとは対照的で、下積み期間が10年間もある若林正恭さんです。
 読みながら、「売れる」ってなんだろうって考えています。苦労しなくても売れる人は売れる。苦労して売れる人もいる。苦労しても売れない人もいる。
 お金があるから成功者なのかという、幸せの基準についての考察もあります。
 たぶん正解はさがしても見つからないのでしょう。  

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2021年12月15日

三日間の幸福 三秋 縋(みあき すがる)

三日間の幸福 三秋 縋(みあき すがる) メディアワークス文庫

 ショートショートの連作だろうか。
 短い文章が、15本あります。

「十年後の約束」「終わりの始まり」
 10歳小学生の「ヒメノ」という女子と「俺(あとでクスノキと判明する)」がいます。

 10年後のクスノキがいます。ヒメノは小学生の時に転校してしまいました。
 10年前のヒメノは、密か(ひそか)に、クスノキにプロポーズをしました。

 二十歳になったクスノキは、寿命(あと30年と3か月あったらしい。50歳で死去する予定だった)をブックオフで本を売るように査定を受けて、自分の命の期間を買取り店で売ってしまいました。
 クスノキは、30年分の自分の命を売却したので、あと3か月間しか生きられないという設定です。
 作者は顛末(てんまつ。オチ)をどうもっていくのだろうが、目下(もっか)の読書の興味です。

「三角座りの監視員」「答えあわせといきましょう」「これから起こることすべて」「変わってしまった人、変われなかった人」
 100ページまで読み進めました。おもしろい内容です。今年読んで良かった一本になりそうです。
 映像化も望めます。調べたら、小説は2013年の作品で未映像化ですが、同作者の別の作品が映画化されて、現在上映中だそうです。タイトルは『恋する寄生虫』だそうです。

 主人公二十歳男子クスノキのつぶやきが延々と続きます。
 彼の死をみとどける役割を果たす監視員女子ミヤギも二十歳ぐらいだそうです。ミヤギは死神的存在です。ミヤギは、クスノキ以外の人間には目視で見えません。
 「ミヤギ」に既視感あり。どこかの小説作品で登場した人物の名前と同じではないかと思いつきました。
 クスノキの余命が三日間になると、監視員ミヤギの監視がはずれるそうです。

 いい文章が続きます。『いつだって俺は、救いがたく間の悪い人間だった』『期限はとっくに過ぎていたのだ』『以後、あなたを好きになろうとしてくれる人は、二度と現れません』『家族というものが、誰にとっても心温まる存在であるとは限らない』『人生に負け続けてきた人は、非現実的な幸せを望むようになるんでしょうね』『負けの中に勝ちを見いだす生き方の方が……』『そこにあるのは、いたって平凡な絶望です』
 
 人間がもつイヤな部分を浮かび上がらせる小説です。
 目の付け所がいい。

 『夢をかなえるゾウ』水野敬也(みずの・けいや)パターンの展開です。
 同作品に出てくるガネーシャの立ち位置にあるのがミヤギでしょう。

 虚構なのでしょう。たとえば病気で死を間近に控えた人は、本に書いてあるようなことは思わないでしょう。
 100ページまできましたが、主人公は最終的に「生きる」を選択するのでしょう。

「タイムカプセル荒らし」「不適切な行動」「できすぎた話」「私の、たった一人の幼馴染へ」「自販機巡りのすすめ」
 流れとしては、アガサクリスティーの作品『春にしてきみを離れ』のテーマと同じで、自分では相手に対して良いことをしていると思っていても、相手は迷惑だと感じているという、人間がもつ自意識過剰な人格を浮き彫りにするものです。(自己中心的で自己愛が強い)

 クスノキには、他者への責任転嫁(せきにんてんか。人のせいにする)をするものの考え方があります。わたしの嫌いな考え方です。
 主人公のクスノキは、不幸をミヤギのせいにします。
 クスノキは、自分が何者なのかを考えたほうがよい。

 『時間を売る』
 わかりにくいシステムです。
 
 『人生の一番いい時期』が、若いときとは限りません。

 情に流されて、メインテーマからはずれた人生を、クスノキとミヤギのふたりは歩んでいます。

 『彼女を心の拠り所(よりどころ)にしてはならない』

 いじめられていた者同士、仲間はずれにされていた者同士のLOVEがあります。
 妄想です。

 読んでいると、自分が高校生だったときのなつかしいシーンが脳裏によみがえってきます。
 五十代になったころ、同窓会の話がぽつりぽつりと出てくると、すでにクラスメートのうちの何人かが亡くなっていたことに気づかされます。
 (自分は)よくぞここまで長く、なんとか生きてくることができたと『運(うん)』に感謝します。

 『自分が死ぬ前にどんな本を読みたくなるのだろう』(わかりません。老化で目が見えるだろうかということのほうが心配です)今までできていたことが、だんだんできなくなっていくことが老化です。

 ミヤギは、ドラえもんともいえます。クスノキがのび太です。

 157ページ付近にいます。
 この小説は、ラブストーリーだったのか。
 スリラーか、ホラーのつもりで読んでいました。(いやいやまだわからない)

 人づきあいで、相手に『はけ口』を求めると失敗します。
 だれしも『負担』を嫌います。

 いい文節として『音楽鑑賞と読書は、どうしようもない人生と折り合いをとって『生きていくための』の手段だったんだ』

 たばこ小説なのか。失望しました。甘えを感じるのです。自己愛です。

 フィルム式カメラの現像はいまどき珍しい。

 良く出てくる文節が『答え合わせといこう』

 デフラグ:デフラグメンテーション。データーファイルの位置を再配置すること。最適化。

 昆虫の蛍(ほたる)にも寿命がある。人間にも寿命がある。

 幽霊相手のラブストーリーになってきました。

 『いつだって賭け事は、金が余っている人間が勝つものだ』
 的を射ている言葉です。
 幸運は追いかけるものではなく、来るのを待つものです。

 「『やれること』を、一つ一つ堅実にこなしていくこと……」が自分の価値を高める。(この作品には名言がたくさんあります)『何かを成し遂げたいなら、まず健康は欠かせない』

 亡くなったオリンピックチームの監督の言葉を思い出しました。『思い出がたくさんある人生が、いい人生だよ』

 何をやるにしても、賛成してくれる人が半分、反対する人が半分ということはあります。

 考えてみれば、淋しい主人公男子のクスノキです。
 
 洋画「ゴースト」の世界です。

 歳をとらないと気づけないですが、遅かれ早かれ、男女のカップルというものは死別します。

 かぐや姫物語のようです。

 死後の名声は、死んでしまった本人にはわからない。

 内容が濃厚になってきました。

 アメリカ映画『素晴らしき哉(かな)! 人生』が思い浮かびました。

 読み手の自分は、クスノキは、三日間では死ねないと思う。

(作者あとがきを読んで)
 最近、自分が、若い人に対して感じていることが書かれていました。
 自ら転落していくことを是(ぜ。よいこと)とするのです。不可解です。
 作者による分析は的確で安心しました。
 若い人は誤解しているのです。  

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2021年12月14日

むれ ひろたあきら

むれ ひろたあきら 角川書店

 『よのなかには さまざまな むれがあります。』から始まります。
 意味深いお言葉です。
 群れのなかにいないと、孤独が口を開けて待っています。
 群れのなかにいると、自分の思いどおりにできないこともあります。
 さて、はじまりはじまり。

 ひつじのむれ。
 異端児がいます。
 (正統からはずれ、特異な存在)

 きりんがいます。
 一頭だけ首が短い。

 魚のむれ。

 鳥のむれ。

 まちがいさがしの絵本のようです。
 『ミッケ』という写真絵本のようでもあります。
 見つけるのです。

 どんどん続いていきます。

 おもしろい。
 ユーモアがあります。

 とうめい人間のむれ。

 かみなりのむれのなかに
 ひとつだけ 『やさしい』があります。

 ありのむれのなかの、ひとつさがしは わかりませんでした。
 わたしは老眼で、見つけきれません。

 最後のページ。
 本当は、これが、現実の世界なのです。
 ひとりひとりが違うのに、みんなで群れのふりをしている。
 ひとりがいやだから、演技をしながら、むれのなかにいる。
 意味は深いのです。
 
(付けたしとして)
 この絵本を読んだころに、同時進行で読んでいた本にオーソン・ウェルズの『一九八四年』があります。全体主義に関する小説です。個人の自由を認めない。国家が政治と思想を統治する。国家の利益を最優先とする。
 『一九八四年』もこちらの絵本も言いたいことの根っこは同じでしょう。
 みんな同じように見えるけれど、個々は個々の個性をもつ個体なのです。  

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2021年12月13日

まいごのたまご アレックス・ラティマー

まいごのたまご アレックス・ラティマー・作 聞かせ屋。けいたろう・訳 角川書店

 孫のうちのひとりが、恐竜好きなのでこの絵本を購入しました。
 裏表紙に恐竜の絵がたくさん並んでいるので、ひとつずつ指さして、これはなんという名前の恐竜だという遊びができます。
 
 背景の風景は、何億年前かの地球上です。
 人間の姿はありません。でもチョウチョは飛んでいます。
 火山と海と葉っぱがたくさんです。

 桃太郎の桃が川の上流から流れてきたように、山の上から恐竜のたまごがひとつ、ころころと落ちて来たのです。
 岩の上にはトカゲみたいな生き物がへばりついています。
 たまごはたまごだけれど、しゃべります。
 『ぼくはだれ?』みたいに。
 背中にお魚のひれみたいなビラビラがあるステゴサウルスがいます。
 お首が長くて大きなブラキオサウルスがいます。
 動物園のサイみたいに角(つの)があるトリケラトプスが出てきました。
 コリトサウルスの頭には、ニワトリみたいな、とさかがあります。
 絵本の絵は静止画のようです。コラージュ(貼り絵)のようにも見えます。
 こわーいティラノサウルスの絵が出てきました。
 ページをめくっていますが、ころがってきたのが、なんの恐竜のたまごなのか、いまだにわかりません。
 読み手である自分は(もう鳥の恐竜であるプテラノドンしか思い浮かばない)となります。
 そして、ページをめくって、正解に達したことを確認するのです。
 
 たまごはパパとママのところに届けられます。
 親子の愛情を記す絵本でした。
 周囲の者たちの協力と優しい気持ちも示してありました。
 ゆったりと落ち着いた流れのストーリー展開でした。  

Posted by 熊太郎 at 06:33Comments(0)TrackBack(0)読書感想文