2021年12月20日

ハツカネズミと人間 スタインベック

ハツカネズミと人間 スタインベック 新潮文庫

 スタインベック:1962年(昭和37年)ノーベル文学賞受賞者。1902年(日本だと明治35年)-1968年(昭和43年)66歳没 代表作として、「怒りの葡萄(ぶどう)」「エデンの東」本作(ハツカネズミと人間は、1937年(昭和12年)の作品。

 衛星放送だか、ケーブルテレビの番組だかで映画が放映されて、内容が良かったと聞きました。
 動画配信サービスで映画が見当たらなかったので、小説を読んでみることにしました。

 アメリカ合衆国にあるソルダートというところの南にサリーナス川というのが流れていて、ギャラビラン山脈が見える。ヤナギ、スズカケ、アライグマ、ウサギ、自然に囲まれた地域です。
 小柄な男性がジョージ・ミルトン、大柄な男性が、レニー・スモールで、レニーは知的障害者でしょう。『おらたち、どこさ行くんだ?』
 ふたりは、相棒です。兄弟のような、親子のような、夫婦のような、ジョージ・ミルトンが、レニー・スモールの世話をしています。大柄なレニーいわく『おらには、おめえがついているし、おめえにはおらがついていて、たがいに世話をしあう』ふたりの夢が、いつの日にか、お金を貯めて、小さな家を手に入れて、土地をもち、ウシとブタを飼う。さしあたって、レニーはウサギを飼いたい。
 ふたりは、農場で働く労務者で、肉体労働現場を転々としていることがわかります。大柄なレニー・スモールが仕事場でトラブルやチョンボをくりかえしていることが文脈からわかります。
 タイトルにあるハツカネズミというのは、なにかのたとえなのでしょうが、60ページまで読んだ今は、まだわかりません。レニー・スモールがハツカネズミの死骸を大事にもっています。殺したというのではなく死んでいたのを見つけたそうです。レニーはウサギがほしい。

 マレイ・アンド・レディの職業紹介所
 労働カードとバスの切符。

 ジョージ・ミルトン(小柄)とレニー・スモール(大柄な体格)
 クララおばさん:レニー・スモールのおばさん。ジョージ・ミルトンは、クララおばさんと親しかった。
 ホワイティ:鍛冶屋
 スミッティ:ラバ使い(ラバ=ロバとウマの交雑種)
 親方:ずんぐりした小柄な男
 カーリー:親方の息子。新婚の美人妻あり。ただし、妻には浮気性あり。悪女と噂されている。
 カールソン:大男。老いぼれた犬の汚らしさが許せない。
 老いぼれた犬がいます。悪臭を放っている。キャンディという人が子犬のから可愛がっている犬です。
 キャンディ:老人の掃除夫。農作業中の事故で片腕をなくしている。
 子犬を九匹産んだメス犬の名前がルル。
 スリム:労務者グループのグループリーダ。「組(くみ)」のリーダーなので、組長でしょう。背の高い大男のラバ使い。
 スリムは、知的障害のあるレニー・スモールのめんどうをジョージ・ミルトンがみていることが不思議です。
 従来、転々とする労務者は一匹オオカミ的で、人のことは考えません。
 スリムの名言として『(知的障害のあるレニー・スモールについて)あいつはいいやつだよ。頭がにぶくたって、いいやつはいる。どうもその反対のことがちょいちょいあるようだ。ほんとうに頭の切れる男で、いいやつはめったにいないからな』
 ホイット:若い男
 ビル・テナー:三か月前まで農場で働いていた。
 スージーかあちゃん:売春店の店主
 クララの家:スージーの店とは違う売春店
 アンディ・クッシュマン:ジョージ・ミルトンとレニー・スモールの初等中学校時代の同窓生。今は女性関係のトラブルで刑務所に入っている。
 クルックス:黒人男性。馬屋係。人種差別されるがゆえに孤独を好む。
 ウィード:たぶんレニー・スモールの犠牲者

 労務者たちが寝泊まりしている飯場(はんば)のようすを読みながら、自分が高校生時代に長期休みが続くときに土方(どかた)のアルバイトをしていたことを思い出しました。
 朝8時から夕方5時まで働いて、10時と3時に30分の休憩、一日2800円でした。
 建物の基礎をつくる作業をしていました。穴掘り、セメント運びです。もちろん週休二日制ではありませんでした。当時、朝刊の配達もしていたので、いまさらながら、よく働いていたと過去の自分に感謝します。

 小説では、穀物運び、大麦運びが主な仕事です。
 雰囲気として、貧困、無教養、不安定な暮らしがあります。
 うちひしがれる者や、やっかい者に愛情を注ぐ小説だろうか。

 農場の風景からは、作品『アルプスの少女ハイジ』が思い浮かびます。
 ヤギ飼いのペーターがいました。

 エアデール犬:ヨークシャーテリア。猟犬。この小説では羊の番をする。
 ルーガー拳銃:ドイツでつくられた拳銃
 ユーカー:トランプゲーム

 いらなくなったら消す。老いて役に立たなくなった犬は、これまでにどれだけ貢献をしてくれていたとしても射殺する。
 知的障害のある人間もまわりの人間たちに迷惑をかけるようならば追い出す。
 厳しさが迫る内容です。
 まだ、80ページ付近を読んでいるところですが、いらないものは消す。
 これから、人間の残酷さが表現されるようです。

(つづく)

 全体を読み終えました。
 悲しい話でした。
 幸せな暮らしをしたいのにできない境遇があります。
 レニー・スモールの相棒であるジョージ・ミルトンは、結果はこうなると、ことの結末を予期していたのでしょう。
 読んでいて、昔観たサムライ映画で、野武士の強盗集団に村を襲われて野武士に脅迫された父親が、村人全員の命を守るために、自分の息子の命を奪ったシーンがあったことを思い出しました。
 この小説にも、厳しいつらさがにじみ出ています。

 エーカー:面積の単位。1エーカーが、4046.85642㎡

 途中、恵まれない環境にある者の未来への夢があります。
 お金を貯めて自分たちの農場と家をもって家畜を飼育することです。
 自営業で生活の糧(かて。収入)を得て食べていきます。
 未来には、移動の自由があります。職業選択の自由もあります。『自分の土地に住んで、自分のところで働くんだ』(だれの指示も受けなくていいという嬉しい気持ちあり)
 
 黒人差別、障害者差別、老年者差別の国、アメリカ合衆国の実態が浮き彫りにされます。

 うさぎを飼う話がひんぱんに出てくるのですが、昭和12年ころのアメリカ合衆国のこととして、うさぎを肉食用で販売できたのだろうと推測しました。

 仮面夫婦がいます。
 案外、お互いに嫌でもいろいろあって、しかたなく家庭内別居みたいにしているカップルは多いのでしょう。

 164ページで伏線があったことに気づきます。
 
 スリムは事実を知っていて、ジョージ・ミルトンもそのことを知っている。
 ジョージ・ミルトンとレニー・スモールのあいだに友情とか愛情があったのか、なかったのかを判断することはとても難しい。  

Posted by 熊太郎 at 06:59Comments(0)TrackBack(0)読書感想文