2020年04月02日

海よりもまだ深く 邦画DVD

海よりもまだ深く 邦画DVD 2016年公開

 今年観て良かった映画でした。最後は観た人にこの親族の未来を想像してもらう終わりかたです。それぞれ、こうなってほしいと思うところがあるのでしょう。家族関係の修復ができるとか、できないとか、一発なにか良いことで大当たりがないかとか、ハッピーエンドの未来を想像したい。

 最初のうちは、主人公の篠田良多(しのだりょうた。阿部寛さん、離婚して、13才の息子に養育費を支払う義務と面会の権利あり)のいいかげんな生活ぶりが熱演で、観ていて嫌気がさすのですが、それも監督の意図するところでしょう。
 後半、台風のために、祖母、長男、長男の元妻、孫の四人が、ひとり暮らしをしている祖母宅で一夜を過ごします。家族の「回復」を求める風景がかいま見られる優れた作品へと発展していきます。

 篠田良多は島尾敏夫賞を受賞して、その後、売れない小説家をしながら、興信所で人の弱みを握った写真で、不正なポケットマネーを手に入れつつ、その金を競輪につぎ込んで失うというような生活をしています。あわせて、ひとり暮らしをしている母親の部屋からもお金を盗んでばくちにつぎ込んで失います。まあ、いいかげんな男ですが、こういう人はいます。ものすごくひどいというわけではありません。暴力がないだけいい。篠田良多は息子をよく可愛がります。息子も父親になついています。父親本人も人格的にはこどもで、まだ、大人になりきれていない部分があるのでしょう。あるいは、本人も気づいていない状態で父親の深層心理として、大人になりたくないのかも。
 彼の受賞話を聞いて、島尾敏夫作品の内容は第二次世界大戦中の話で、高校生のころに読んだことがあるのを思い出しました。

 母親役の樹木希林さんが発信する言葉の意味が深い。樹木希林さんと長女役の小林聡美さんとのふたり芝居、同様に、希林さんと阿部寛さん、希林さんと真木よう子さん(長男の元妻)の各シーンで、希林さんのセリフが光っていました。
「(子どもの数が減って団地内の公園に子どもがいない)静かだね。もう遊ぶ子どもがいないからね」
「(花も実もつけない木に水をやりながら、息子に対して)あんたみたいだね」
「(だれでも)なにかの役には立っている」
(13才の息子が父親に向かって)「お金だいじょうぶ?」
(同じく孫が祖母に)「宝くじが当たったらいっしょに暮らそう」
13才の息子が、父親の篠田良多と連れションをするのですが、そのときのトイレでの父親の姿が情けない。
(孫が父親篠田良多が買ってくれた野球のスパイクを家ではいて、床が傷だらけ。祖母の樹木希林さんが)「おばあちゃんといっしょ。傷だらけ」
「(台風の)こんな日に、おばあちゃんをひとり残して帰っていくの?泊っていきなさいよ」(孫が泊ることになって)「ほら(わたしは)急に元気になっちゃった」
「文才はとってもステキなもの」
(元妻の言葉)「愛だけじゃ生きていけないのよ大人は」
(孫の言葉)「ヒーローはおばあちゃん」

 祖母宅でみんなが集まっているところで孫が作文を読むシーンを観て、そういえば、自分もそういうことがあったと、もう忘れていた小さいころの記憶が呼び起こされました。父が病死する少し前のことでした。

 不倫を盗撮されるのは芸能人やタレントばかりだと思っていたら、映画のなかでのことですが、興信所の職員がバンバンそういう写真を撮っているのを見て一般人もかと驚きました。

 BGMの口笛の音色に気持ちが落ち着きました。

 昭和40年代の大規模団地の生活の記憶がよみがえりました。タコのすべり台がなつかしい。

 父親になるってどういうことだろうと主人公が思うシーンがありました。
 母は子を産んだことから母親になれますが、父は父になる努力をしなければ父親にはなれないのです。

 相手の至らないところを許していっしょに生活していくのが家族

 先日NHKのテレビ番組で観た愛知県内で暮らす89才のひとり暮らし高齢者女性が決断した時の言葉を思い出しました。施設入所か、東京に住む娘さん夫婦と同居するのか迷うのですが、「人生の最後は、他人に迷惑をかけるのではなく、身内に迷惑をかけることにしました」という言葉が名言として心に残っています。