2020年02月25日

白狐魔記(しらこまき) 天保の虹 斉藤洋

白狐魔記(しらこまき) 天保の虹 斉藤洋 偕成社

 本の帯をみると、鼠小僧次郎吉(ねずみこぞうじろきち、金持ちの武士から小判を盗んで、ばくちで使って経済効果を果たす。ニセの鼠小僧次郎吉は、小判の一部を屋根の上から庶民にばらまくが、庶民は小判をふだんもたないので、幕府に目をつけられるからもらった小判を使えない)という話があります。
 大塩平八郎の乱のお話もあります。平八郎の乱が江戸時代1837年ですからいまから180年ぐらい前の出来事です。天保の大飢饉とか天保の改革がありました。それから、江戸町奉行所に遠山の金さんがいました。ペリーが浦賀に来るのが1853年ですから開国は近い。
 
 化け狐白狐魔丸(しらこままる)の登場です。タイムトラベラーのごとく、130年ぶりに江戸に来ます。前回は、忠臣蔵の時期でした。いつものように人間に化けて、上方(かみがた、かんさい)の商人九十九小吉(つくもこきち)を名乗ります。白狐魔丸のお師匠さんである仙人さまと呼ばれる狐もちらりと登場しました。

 赤い雌狐(めすぎつね)同じく化け狐の雅姫(つねひめ)もいます。森田座という芝居小屋で6代目市川桜花(いちかわおうか)に化けて役者をしています。九十九小吉と市川桜花は表向きいとこという関係になっています。ふたりが滞在する宿屋は千川(せんかわ)で、主人は、千川伝兵衛です。宿の番頭が伊助です。

 小笠原信濃の守(おがさわわらしななのかみ)の屋敷の先に鼠小僧次郎吉36才が住む屋敷があります。

 火盗改め:放火、盗み、ばくちの取り締まり役
 密偵:みってい。密かにさぐる。スパイ
 盗人に追い銭:ぬすっとにおいせん、損を重ねる。盗人にほかにも何かないかと問われ正直にあると答えてそれも盗人にもっていかれること。

 本能寺で死んだ織田信長が60才過ぎの風貌で現れました。亡霊か。榊原忠之という男です。最初の名前は、織田忠之で、榊原家の養子になったとのこと。

(つづく)

 北町奉行所の榊原忠之(さかきばら・ただゆき)は、賄賂(わいろ)を受け取らない。物語のなかでは、偽物の鼠小僧次郎吉を獄門(ごくもん、さらし首)にかけます。

 南町奉行所の筒井
 同心:どうしん、下級役人
 知行:領主の所領支配権
 為一先生:いいつせんせい。葛飾北斎のこと。
 経師屋:ふすま屋、書画を掛け軸に仕立てることもする。
 朱子学:儒教、自己修養
 市川團十郎(いちかわ・だんじゅうろう)、尾上菊五郎:歌舞伎役者
 鼠小僧次郎吉の衣装は黒ではなく濃い紺色:黒は虹の色ではないが、紺は虹の色に入るとのこと。
 路銀:旅費
 道楽:どうらく、趣味に熱中して楽しむこと。道楽が嵩じる:はなはだしくなる。
 酔狂:すいきょう、もの好き。
大塩平八郎:江戸時代後期の儒学者。物語の中にいる仙人の狐は彼が嫌いなようです。
縛につけ:ばくにつけ、江戸時代、お縄になれ。罪人としてしばられる。
山くじら:猪肉
勘助:本物の鼠小僧次郎吉の別名。物語では、偽物が処刑された。
咲楽:さくら、役者である市川桜花の別名ですが、本物は、人間ではなくて、雅姫(つねひめ、赤い女狐が化けている)です。
火桶:木製の火鉢、内側には金属がはってある。
東町奉行所の大塩格之助:26才、大塩平八郎の養子
与力:江戸幕府の職名。町奉行の補佐
同心:与力の下
洗心洞せんしんどう:大塩平八郎が開いた私塾。大塩平八郎が学者として陽明学を教えている。
陽明学:儒教のひとつ。知行合一(ちぎょうごういつ、知っていて行わないのは、知らないのと同じ)
酒吞童子:平安時代から鎌倉時代の酒飲みの盗賊、関西にいた。
庵:いおり、質素な草ぶきの小屋、僧侶、風流人が利用する。
蹂躙:じゅうりん、ふみにじる、侵害する。
謀反:むほん、そむく、反乱、暗殺
暴徒:ぼうと、集団で暴力をはたらく者
救民:困っている人を助ける。

 庶民が盗んだ小判を使えば不自然なので犯行がばれてしまう。だからばくちで使って小銭にして市中の経済を活性化させる。鼠小僧次郎吉の手法です。

 武士はほかの武士を襲って領土を増やす。

 「にせの鼠小僧」は、赤い化け狐の雅姫(つねひめ)ではないか。
 
 仙人は、白狐魔丸に大鷹に化ける訓練をしますが、なかなかむずかしそうです。

 白狐魔丸は山中で、10歳と8歳ぐらいの男の子に出会います。「魔物の好物は人間の子どもの肉だ」の部分あたりがおもしろい。兄は弟思いです。

 山中で出会った兄弟のことや、自分が、元寇のときに嵐を呼んだことを思い出して、せっぱつまると、日頃できないことが、できてしまうことがあると白狐魔丸は悟ります。

 雅姫(つねひめ)は、京都で、芸者に化けます。彼女の新しい思いを寄せる人は、彦根藩三十五万石(さんじゅうごまんごく。いっこくが、人ひとりが1年間に食べるコメの量だから35万人分養える)井伊家の家老の弟宇津木矩之允(うつぎ・のりのすけ)です。長崎に遊学(故郷を離れてよその土地で勉学する)したこともある学者です。

 雅姫(つねひめ)と白狐魔丸(しらこままる)ふたりの会話の連続部分は、落語を聴くようです。

 大塩平八郎の乱は、2月19日の一日のみとあります。読むと、一揆というよりも盗賊のような、集団はお金を盗むと散って、逃げていきます。テロリストのようでもあります。死者は、一揆側に3名のみです。

 本の最後に年表があります。ながめながら思いついたことです。栄華は永久には続いていません。
平清盛:1181年没。1185年平氏滅亡
源義経:1189年殺害される。
源頼朝:1192年征夷大将軍、1199年没
足利尊氏:1338年征夷大将軍、1358年没
鉄砲伝来:1543年
桶狭間の戦い:1560年
本能寺の変:1582年
豊臣秀吉:1586年太政大臣、1598年没
関ケ原の合戦:1600年
徳川家康:1603年征夷大将軍、1616年没
  

Posted by 熊太郎 at 06:53Comments(0)TrackBack(0)読書感想文