2018年01月05日

おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子

おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子 河出書房新社

 タイトルの意味は、「おらは、おらで、ひとりで、生きていく!」という意思表示ととらえて、読み始めました。(読みながら、やがて、おらは、おらで、ひとりで逝くけれどもという、反対の意味に考えが変わりました。その後、どうも、ひとりで行くが妥当らしいとなりました。)
 東北弁がきつい。全部この調子だったら、理解に苦労する。(そんなことはありませんでした。されど、わかりにくい。)
 どうも、おらは、二人いるようです。自問自答です。

 一人暮らし高齢者おばあさんのお話です。
 一人称のようで、一人称ではない。「桃子さん(主人公のおばあさん)は…」
 
 休憩場所のない長文が続きます。読むのに少ししんどい。
 8ページのジャズセッションの表現はリズミカルで良かった。おもしろい。
 詩が挿入されているのですが、うーむ。詩の挿入をすると小説の構築が崩れる気がして、わたしはお勧めしません。
 
 桃子さんを支える人として、「ばっちゃ(亡くなった祖母)」
 娘直美さんとの関係にこだわりあり。(こだわらないほうが、幸福になれると読み手は思う。)
 
 44ページあたりからおもしろくなってきました。(されど、具体的な伸びはなかった。)
 なかなか理解することがむずかしい作品です。

 孤独と付き合う内容です。
 東京オリンピック(昭和30年代開催)がからめてあるのは、2年後のオリンピックを意識してあるのかも。

 今は一人暮らしとなった75歳日高桃子さんの過去の生活内容は苦しい。
 猛烈な孤独感が満載された作品です。
 夫が病死、ふたりのこどもは家を出てしまった。
 自分は何をしてきたのだろう。

 ところどころ難しいのか、感覚の違いなのか、意味がわからない部分があります。笑いでいっぱいという作品ではありません。
 ひとりぼっちの淋しさを笑ってごまかす。心の声は、桃子本人の声以外にも亡夫の声であったり、祖母の声であったりもする。

調べた文字です。「弄う:いらう。いじる。さわる。」、「身罷う:みまかう。死ぬ」、「深く肯んずる:がえんずる。承諾する。聞き入れる。」、「独りごつ:ひとりごとを言う」、「太母たいぼ:祖母。書中ではこどもを大切に育てた母親」、「贖罪しょくざい:キリスト教。罪への償い」、「仮託かたく:他の物事を借りて言い表す」、「燭光しょっこう:火の灯り」、「屹立きつりつ:高くそびえ立つ」、「睥睨へいげい:にらみつける」、なんだか、漢字検定みたいになってきました。「恣意的しいてき:論理的でなくその場しのぎで、きままに扱う」、「けんじゅう:宮澤賢治作品の登場人物」、「朋輩ほうばい:同僚」、「歓心:よろこび」、「十全:十分に整っている」、「何如なんじょ:どうであるか」

良かった表現などです。「吐き出ほきだす」、「長年の主婦という暮らし」、「桃子さんの心情を地球の地層で表す。地学のようです。」、「この人には、この人の時間が流れている」、「(心の動きを)柔毛突起」、「早く起きても何もすることがない」、「目的がある一日はいい」、「町も老いる」、「人の期待を生きる(ことが苦行)」、「全体でもあり部分でもある」、「食べらさる(さあ、食べるぞ!)」、「まぶる(見守る)」、「自分の心を友とする」

ちょっとわたしには、むずかしすぎました。  

Posted by 熊太郎 at 18:43Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2018年01月02日

銀河鉄道の父 門井慶喜

銀河鉄道の父 門井慶喜 講談社

 宮澤賢治の父と賢治のうまくいかなかった親子関係を描いた作品との読む前情報です。
 まだ途中ですが、久しぶりに小説らしい小説を読んでいる気分です。奇抜な記述はありません。読みやすい。こうであってほしい。

 宮澤賢治に対する狭く一方的な父のやりとりかと予想しましたが、案外そうではありません。こどもたちが5人いて、父親宮澤政次郎さんの子育て小説のような流れです。
 愛情あるお父さんです。自分は受けたくても受けられなかった教育をこどもたちにほどこしてあげたい。本当に心優しいお父さんです。

 宮澤賢治が生まれた年に三陸沖大地震があった。(1896年6月15日明治29年)。内容は今から100年ぐらい前のお話です。

 男尊女卑の世界があります。女子に教育は不要、良妻賢母になればいい(男に仕えて男の世話をする。ただ現実には、女性が家族も商売も仕切っていたと思います。)
 質屋を継ぐのに教育は不要という厳しくて頑固なおじいさんも同居しています。

 質屋の生業(なりわい)に関する記述は興味深い。感心することばかりです。質屋は弱者を食い物にしているというような考えが街中にあります。人から恨まれる仕事です。対して父は、「援助」と割り切っています。社会奉仕とか仏教の心の流布に精力を注ぎます。身の安全を確保するためという目的もあったかもしれません。父は相当なお金もちです。家を継ぐ(質屋、古着屋)ために賢治の処遇でもめる。
 
 東北には2回行ったことがあります。花巻は、車で通過した地点です。雰囲気はわかるつもりです。岩手山は雲に隠れて見ることができませんでした。

 小学生の賢治が石に夢中なのは、先日読んだざんねんな偉人さんたちみたいなタイトルの本で知りました。研究者、学者タイプだったのでしょう。

 寮に入る。昔は、学ぶにも働くにも寮があった。

(つづく)

 408ページ中の263ページまできました。
 自分の中では、次回の直木賞はこの作品だといいなあという気持ちです。よく調べて、よく文章をこさえてあります。家族の温かみが伝わってくる良作です。

 宮澤賢治という人物の光の部分と陰の部分があります。主役は賢治ではなくお父さんの政次郎さんです。前半から中盤まで、そして最後まで、お父さんの気持ちがいっぱいです。息子を愛している。後継ぎとしての期待を裏切られても、資金援助はしていく。気が長くて寛容です。自分が行きたくても行けなかった学問の道に息子を導きます。
対して、息子は、親にお金をせびる。いつまでたっても自立できない。
父の影にいた賢治の姿が、徐々に見えてくる表現手法です。

 夢を追う賢治は困窮します。父や祖父の言いつけ通り、質屋を継いでいれば富豪のままでした。向いていなかった。商売人になれない資質で生まれてしまった。人生の途中経過で、そんな結論が出てしまいますが、創作で救われます。

 作家志望の人、出版界に対するエール(応援)がある作品です。

 ひらがな表記にほっとさせられることがあります。「あたらしい」、「みたされない」

 石好き賢治の記述からは、彼の作品群にあるカラフル色彩調子の文章が目に思い浮かびました。

 父子ともに偏屈で頑固です。そこにお金とか、病気が重なってきます。何が幸せかわかりません。

 だから、どうするという発想もないのですが、時系列形式は、平凡で、退屈な面がありました。ほんの少し、時間を前後させるといい感じがすると自分は思いました。

 イーハトヴが「岩手」を表すということを初めて知りました。なんとなく嬉しい。

 自宅で死ぬということについて考えさせられた作品でした。

 親は子に先立たれると悲しい。
 死んだら息子に会えるという言葉が重い。

 最後の一節の言葉は胸にズンときました。父親の深い愛情が伝わってきました。今年読んで良かった1冊です。

調べた単語などです。「えじこ:東北地方など寒い地方で使用される乳児を入れるかご」、「巴旦杏の木:はたんきょう。スモモの一種」、「渉猟しょうりょう:探し求める」、「首肯しゅこう:うなずく」、「尾籠びろう:不潔」、「頑是がんぜ:あどけない」、「欽慕きんぼ:敬い、慕う」、「チフス:高熱、発疹、伝染する」、「カリエス:骨が栄養障害となり、骨が腐る」、「国産化:なつかしい言葉でした」、「慧眼けいがん:智恵の眼」、「杣道そまみち:鷹狩り、山師の通る細くて険しい道」、「斯界しかい:この分野」、「即物的:物・金、優先の考え方」、「肋膜ろくまく:胸膜の炎症」、「懶い:ものうい。なんとなく心が晴れ晴れとしない」、「業復:ごうはら。非常に腹が立つこと」、「突兀とっこつ:高く突き出ているさま」、「依代よりしろ:神のよりつくもの」、「須臾しゅゆ:しばらくの間」、「異心:裏切り」、「詭弁きべん:いいくるめるためのごまかしの理論」、「弄するろうする:思うままにあやつる」、「帳合い:帳簿合わせ」、「寨主さいしゅ:国柱会とう宗教団体のトップ」、「よすが:よりどころ」、「惑溺:夢中になって、心を奪われる」、「含羞がんしゅう:はじらい」、「身の裡からの天寵:みのうちからのてんちょう。その状態のまま、天の恵み」、「黄水晶シトリン:黄色で柱形の水晶」、「哀吟:あいぎん。陰の悲しみ」、「永訣えいけつ:宮澤賢治の詩。永遠の別れ。死別」、「膂力りょりょく:筋肉の力。腕力」、「詞藻しそう:言葉のあや。文章や詩歌」、「喘鳴ぜんめい:呼吸器疾患患者の息の音。ぜーぜ。ひゅーひゅー」、「銅の盥(たらい)、杉の盥:なつかしい」、「宿痾しゅくあ:長い間治らない病気。持病」、「諧謔かいぎゃく:しゃれや冗談。ユーモア」

良かった表現です。「(生活というものは)つくるものだ」、「父でありすぎる」、」、「命がそこにあるのは、あたりまえじゃない」、「客は善人ではない」、「作家になったら(妹から兄への勧めとして)」、「(生計費が)政次郎(父)ひとりの肩に乗っている」、「金は出さん」、「原稿用紙1000枚の作品」、「文学形式」、「お父さんになりたかった(賢治が父を指して父のようになりたかった。)」、「自分は父になれない。」、「(宮澤賢治の)遊び、いたずら」、「父親になるということは弱い人間になるということ」  

Posted by 熊太郎 at 06:46Comments(0)TrackBack(0)読書感想文