2018年01月02日

銀河鉄道の父 門井慶喜

銀河鉄道の父 門井慶喜 講談社

 宮澤賢治の父と賢治のうまくいかなかった親子関係を描いた作品との読む前情報です。
 まだ途中ですが、久しぶりに小説らしい小説を読んでいる気分です。奇抜な記述はありません。読みやすい。こうであってほしい。

 宮澤賢治に対する狭く一方的な父のやりとりかと予想しましたが、案外そうではありません。こどもたちが5人いて、父親宮澤政次郎さんの子育て小説のような流れです。
 愛情あるお父さんです。自分は受けたくても受けられなかった教育をこどもたちにほどこしてあげたい。本当に心優しいお父さんです。

 宮澤賢治が生まれた年に三陸沖大地震があった。(1896年6月15日明治29年)。内容は今から100年ぐらい前のお話です。

 男尊女卑の世界があります。女子に教育は不要、良妻賢母になればいい(男に仕えて男の世話をする。ただ現実には、女性が家族も商売も仕切っていたと思います。)
 質屋を継ぐのに教育は不要という厳しくて頑固なおじいさんも同居しています。

 質屋の生業(なりわい)に関する記述は興味深い。感心することばかりです。質屋は弱者を食い物にしているというような考えが街中にあります。人から恨まれる仕事です。対して父は、「援助」と割り切っています。社会奉仕とか仏教の心の流布に精力を注ぎます。身の安全を確保するためという目的もあったかもしれません。父は相当なお金もちです。家を継ぐ(質屋、古着屋)ために賢治の処遇でもめる。
 
 東北には2回行ったことがあります。花巻は、車で通過した地点です。雰囲気はわかるつもりです。岩手山は雲に隠れて見ることができませんでした。

 小学生の賢治が石に夢中なのは、先日読んだざんねんな偉人さんたちみたいなタイトルの本で知りました。研究者、学者タイプだったのでしょう。

 寮に入る。昔は、学ぶにも働くにも寮があった。

(つづく)

 408ページ中の263ページまできました。
 自分の中では、次回の直木賞はこの作品だといいなあという気持ちです。よく調べて、よく文章をこさえてあります。家族の温かみが伝わってくる良作です。

 宮澤賢治という人物の光の部分と陰の部分があります。主役は賢治ではなくお父さんの政次郎さんです。前半から中盤まで、そして最後まで、お父さんの気持ちがいっぱいです。息子を愛している。後継ぎとしての期待を裏切られても、資金援助はしていく。気が長くて寛容です。自分が行きたくても行けなかった学問の道に息子を導きます。
対して、息子は、親にお金をせびる。いつまでたっても自立できない。
父の影にいた賢治の姿が、徐々に見えてくる表現手法です。

 夢を追う賢治は困窮します。父や祖父の言いつけ通り、質屋を継いでいれば富豪のままでした。向いていなかった。商売人になれない資質で生まれてしまった。人生の途中経過で、そんな結論が出てしまいますが、創作で救われます。

 作家志望の人、出版界に対するエール(応援)がある作品です。

 ひらがな表記にほっとさせられることがあります。「あたらしい」、「みたされない」

 石好き賢治の記述からは、彼の作品群にあるカラフル色彩調子の文章が目に思い浮かびました。

 父子ともに偏屈で頑固です。そこにお金とか、病気が重なってきます。何が幸せかわかりません。

 だから、どうするという発想もないのですが、時系列形式は、平凡で、退屈な面がありました。ほんの少し、時間を前後させるといい感じがすると自分は思いました。

 イーハトヴが「岩手」を表すということを初めて知りました。なんとなく嬉しい。

 自宅で死ぬということについて考えさせられた作品でした。

 親は子に先立たれると悲しい。
 死んだら息子に会えるという言葉が重い。

 最後の一節の言葉は胸にズンときました。父親の深い愛情が伝わってきました。今年読んで良かった1冊です。

調べた単語などです。「えじこ:東北地方など寒い地方で使用される乳児を入れるかご」、「巴旦杏の木:はたんきょう。スモモの一種」、「渉猟しょうりょう:探し求める」、「首肯しゅこう:うなずく」、「尾籠びろう:不潔」、「頑是がんぜ:あどけない」、「欽慕きんぼ:敬い、慕う」、「チフス:高熱、発疹、伝染する」、「カリエス:骨が栄養障害となり、骨が腐る」、「国産化:なつかしい言葉でした」、「慧眼けいがん:智恵の眼」、「杣道そまみち:鷹狩り、山師の通る細くて険しい道」、「斯界しかい:この分野」、「即物的:物・金、優先の考え方」、「肋膜ろくまく:胸膜の炎症」、「懶い:ものうい。なんとなく心が晴れ晴れとしない」、「業復:ごうはら。非常に腹が立つこと」、「突兀とっこつ:高く突き出ているさま」、「依代よりしろ:神のよりつくもの」、「須臾しゅゆ:しばらくの間」、「異心:裏切り」、「詭弁きべん:いいくるめるためのごまかしの理論」、「弄するろうする:思うままにあやつる」、「帳合い:帳簿合わせ」、「寨主さいしゅ:国柱会とう宗教団体のトップ」、「よすが:よりどころ」、「惑溺:夢中になって、心を奪われる」、「含羞がんしゅう:はじらい」、「身の裡からの天寵:みのうちからのてんちょう。その状態のまま、天の恵み」、「黄水晶シトリン:黄色で柱形の水晶」、「哀吟:あいぎん。陰の悲しみ」、「永訣えいけつ:宮澤賢治の詩。永遠の別れ。死別」、「膂力りょりょく:筋肉の力。腕力」、「詞藻しそう:言葉のあや。文章や詩歌」、「喘鳴ぜんめい:呼吸器疾患患者の息の音。ぜーぜ。ひゅーひゅー」、「銅の盥(たらい)、杉の盥:なつかしい」、「宿痾しゅくあ:長い間治らない病気。持病」、「諧謔かいぎゃく:しゃれや冗談。ユーモア」

良かった表現です。「(生活というものは)つくるものだ」、「父でありすぎる」、」、「命がそこにあるのは、あたりまえじゃない」、「客は善人ではない」、「作家になったら(妹から兄への勧めとして)」、「(生計費が)政次郎(父)ひとりの肩に乗っている」、「金は出さん」、「原稿用紙1000枚の作品」、「文学形式」、「お父さんになりたかった(賢治が父を指して父のようになりたかった。)」、「自分は父になれない。」、「(宮澤賢治の)遊び、いたずら」、「父親になるということは弱い人間になるということ」

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