2017年05月16日

霧のなかの白い犬 アン・ブース 2017課題図書

霧のなかの白い犬 アン・ブース あかね書房 2017課題図書

 たくさんの登場人物が出てくるので、いらない紙のうしろに名前と特徴を書きながら、読みながら、その紙の内容を確認しながらまた読むという作業を続けています。

 舞台はイギリス国のようです。移民や難民の話が出てきます。まだ、79ページまで読んだところで、感想文は書き始めてみます。

 何年生かわかりませんが(中学3年か高校生ぐらい)、主役のジェシー・ジョーンズという女学生がいます。
 彼女のいとこが、フラン。「比較」とか、「いじめにまではいたらないけれど、いじわる」、「ジェーシーのベン・グリーン(母は獣医)に対するほのかな恋心」があります。
 それから、ジェーシーの別居の祖母がどうも認知症のようです。彼女が買い始めた犬がスノーウィで、小さな白オオカミみたいな見た目です。その犬がタイトルの白い犬なのでしょう。

 これまでのところ、祖母の認知症、犬を飼いたい話、いとこ同士の軽い不仲なんかが書いてありますが、登場人物たちはそれぞれ、十分な環境にあるわけではありません。あるものは、家庭に恵まれず父親がだれなのかはわかりません(ケイト)。車いすの少女(これもケイト)もいます。おかねがあったり、なかったりもします。

 4人が介護施設「ローズ・ロッジ」に取材に出かける計画が浮上しました
 ジェシー・ジョーンズ(主人公)、ケイト(ジェシーの親友。車いす。イギリス人。父と祖父母がいない)、ヤスミン(アフガニスタンから亡命)、ベン・グリーン(祖父母は外国暮らし)

 祖母の家に細い少女の写真あり。

(つづく)

 読み終えました。
 作者は、移民差別、障害者差別、民族差別(ユダヤ人)について書きながら反戦のメッセージを読者へ送っています。
 差別した側の人間の心理も描写してあります。仕方がなかった。そういう大衆の流れに勝てなかった。反論すれば、自らが命を落とすことになった。それは、いまも、地球上のどこかの国では行われていることです。ひとりひとりの気持ちが、なにかいま間違っているのではないかとあっても、それを集合体に形成することがむずかしい時期もあります。独裁者が生まれる前に、それを防がなければなりません。独裁者が完成したら、戦力でつぶすという選択肢が生まれてきます。犠牲を伴います。

 不良少女が出てきます。家庭に問題があったからぐれた。同じような人間たちと仲間を形成した。だけど、仲間が何人いてもそれぞれは、「孤独」だっただろう。

 障害に関しては、明日は我が身です。老いてくればだれしも目は見えなくなるし、耳も遠くなります。からだのあちこちが痛みます。
 
 アンゴラウサギの毛がドイツ軍の軍服製作に役に立っていた。

 面白かったりした表現です。「仕事は失わなかったが、正気(しょうき。正常な精神状態のこと)を失った」
 自分の幸運3点。好きな男子と話せた。好きな男子と介護施設に行けることになった。あしたの午後は好きな男子と半日いられる。

 じんときたセリフです。「移民は孤独だ」
 「人生は、しあわせでも安全でもない」

 1812年に出版された残酷な面ももつ「グリム童話」例として、赤ずきんちゃん、そして、盗賊の花嫁。  

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2017年05月13日

応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱 呉座勇一

応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱 呉座勇一 中公新書

 よく売れている本です。
 冒頭付近から100ページまで読んだところで、感想を書き始めます。
 40代の頃、たびたび訪れた、奈良、京都、大阪河内地方が舞台で、権力闘争のための争いが続きます。詳しい対立構図を把握できるまでの精読は、今はできないので、ゆっくり流し読みをしています。
 時は、1467年から1477年ぐらいの10年間が応仁の乱とあります。以降100年間戦国時代が続く。学者のひとりは、その効果として、最下級の者が古来の秩序を破壊してのしあがることができた時代としています。下剋上(げこくじょう)です。
京都を二分して西軍山名宗全と東軍細川隆元の対立。8代将軍没後の足利義政の弟義視と義政の妻の子義尚との対立。一条院と大乗院の対立。奈良興福寺(北朝方、武家方)がからみます。
京都相国寺(しょうこくじ)も出てきます。
僧呂「経覚きょうかく、実家は九条家。西軍寄り」と「尋尊じんそん、父は一条兼良」の日記がこの本の根拠になっているとあります。
 僧侶は武装集団の兵隊で、仏の道を説くイメージとはかけはなれています。
 出自とか血筋、系図が重要視される時代です。(下剋上とは食い違います。)
 人(人事権)、物(領地)、金(年貢)をめぐる激しく厳しい権力闘争があります。だれかを象徴として立てて盛り上げていく手法です。

(つづく)

 越前の朝倉(この頃からあったのか)

 「身分秩序の維持強化が社会の安定、平和につながる」、そのために無駄に見える公共事業を実施する。その尋尊(じんそん)の考えには一理あります。

 「厭戦気分:えんせん気分。もう戦いはいやだと思う。だれしもそうです。」

 西暦1400年代のことです。虚偽の情報が流れたりもします。現在のように、ネットワークシステムはありませんし、テレビもラジオも新聞もありません。
 この人がだれなのかを特定したり証明したりすることも難しかったのではないかと察します。
 読みながら「組織の寿命」について考えました。

意味不明だった言葉として、「別当:別にそのことを担当する。書中では、興福寺別当」、「調略:ちょうりゃく。政治的攻略」  

Posted by 熊太郎 at 17:11Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2017年05月09日

がん消滅の罠 完全寛解の謎 岩木一麻

がん消滅の罠 完全寛解の謎 岩木一麻 宝島社

 タイトルだけ見るとなんのことかわからない。(正直、別のタイトルのほうがいい)
 カバーの裏を読みました。がんにかかって、保険金が生存中に支給される。しかし、がん細胞が消滅する。保険加入者はまる儲け。保険金詐欺ではないか。そういう推理小説のようです。

 2016年と2006年を行ったり来たりします。2006年にとある大学の先生が退職される。これがきっかけになるようです。そして、2016年に事件の活動がある。ただし、まだ、それは事件として発見されていない。医師が術中に犯罪行為を行ってもなかなか表面には出にくい。そんな記述があります。読者には、その内容はまだわかりません。

(詳細に)
 作者は、「寛解かんかい」という言葉にこだわりがあります。がんの症状部分が薬で治癒されることで、一部寛解と全部寛解があると解説にあります。

 最初のトリックは、種明かしの前に気づけました。しかし、そのあと、本題のトリックに入っていくのですが、わかりません。「がん治療薬が進化した」は、解答ではないでしょう。この先、作家はどうするのか。

 ここまで読んで(57ページ)自分の考えは、「がんではない人にがんの診断をして(CT写真とか嘘のもので)、がん保険をもらえる対象者にする。治療はしたようにみせかける」

 たぶん将来の推理のために、「慈恩会・じおんかい」、「殺人事件ではなく、活人事件(かつじん・人を生かす)」、「救済!」、「腫瘍崩壊症候群:TLS」、「医師にできない。医師でないとできない。これまで医師に成し遂げられなかったこと」、「自分たちがしていることは正しいが、犯罪である」、「Aは肯定、Bは否定」、「憂鬱な人には想像力がある」、「情緒と認知との関係」、「先生の娘は強姦された(作品中に「復讐」の目的あり)

(つづく)

 読み終えました。
 癌の教本を読むようでした。
 仕掛けは巧妙です。

 世間の人は、こういう作品を望んでいるのだろうかと考えました。
 自らが癌、あるいは、親族が癌で、親しき人を亡くす人は多い。
 作中、登場人物が思う「自分はあと何度桜の花を見ることができるだろうか」は、自分自身も同じ季節に同じく思うことであり、他の方も同様でしょう。

 地名は身近です。浦安、湾岸、市川市、上野など。

 わからなかった言葉として、「臨床はやってない:現場」、「喧伝:けんでん。いいふらす。販売の宣伝とは異なる」、「プラセボ:偽薬」

 不思議だったこととして、「大学の研究者(先生)も学食で食事をとる」

 いいなあと思った表現として、「裏社会」

 ショックだった文節として、「ふたりにひとり、一度はがんになる」
  

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2017年05月07日

幼児向け「おべんとう」の絵本

幼児向け「おべんとう」の絵本

「おべんとうばこのうた」 さいとうしのぶ ひさかたチャイルド
 思い出してみれば、この歌は、はるか昔、自分が十代の頃にはあった。
 バス旅行で、保育園の保母さんたちが両手を動かしながらのジェスチャーで歌いながら場を盛り上げてくれていた。(この歌を聴かされる若い男たちは、自分たちはこどもじゃないといきがっていた。)
 この絵本に描かれているお弁当箱は木製らしく、これまた古い。
 明治・大正時代の楕円形をしたお弁当箱に見える。
 歌詞の中身も古い。古いが楽しい。
 おにぎりさんが喜びながらお弁当箱に入っていく絵がいい。そして、お弁当箱にも手と足がある。
 きざみしょうが、ごましお、にんじん、さくらんぼ、しいたけ、ごぼう、穴のあいたれんこんさん、ふき、野菜の煮物がおかずである。純和風。体に良い。
 レシピ本である。料理が好きなこどもさん向けの絵本である。

「おべんとうバス」 真珠まりこ(しんじゅ・まりこ)
 バスをお弁当箱に見立てて、おかずを乗客に見立てて、現代版お弁当箱です。ハンバーグ、えびフライ、たまごやき、ブロッコリー、トマト、おにぎり、みかん。
 おにぎりは日本のお弁当に必要不可欠。
 装丁は、カバーも絵本の一部になっていて、斬新でした。
 右から左方向への動きが感じられる絵本で、最後は、箱で、固定という流れは良かった。  

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2017年05月06日

犬が来る病院 2017課題図書

犬が来る病院 大塚敦子 角川書店 2017課題図書

 大人になる前に消えていく命があります。
 どの時代にも、そういうこどもたちがいます。
 だから、そういったことを題材にした本を読むのはつらい。

 タイトルにある「犬」は、セラピー犬です。
 病気入院中のこどもの心をいやします。
 それでも助からない命もあります。
 ある空間の中で、ホスピス(安らかに旅立ってもらう)を行う。

 2007年から数年間の記録です。
 病院や関係者の宣伝本とか取材協力のお礼本にも思えますが、それは、大人の感想です。大人とはそういうものです。しかたがありません。
 セラピー犬に関する記事は、最初にあり、その後、犬の話題はなくなり、後半に復活しますが、生き物を病人のそばにおくというのは、かなりハードルが高いものがあります。清潔な動物はなかなかいません。人は感染を心配します。

 セラピー犬がいます。そして、音楽療法士がいます。いろいろな方法、手法を用いて病気の治療にあたります。
 読んでいて、遅い早いはあるけれど、人間は、「死ぬこと」を最終目標として、今日を生きている。では、今日をどう過ごすのか。その答えは、人それぞれです。宗教に関する記事も少しあります。宗教を否定することは無理ですが、全面的に肯定することも無理です。

 思い出づくりのためにテーマパークのホテルに2泊した記事がありました。だれもが楽しき気分で宿泊しているわけでもないことがわかり、しんみりしました。
テーマパークに感謝です。いい人生だったというのはどういう人生だったかの定義としての答えのひとつに、思い出多い人生があります。いい思い出もよくない思い出も該当します。

(つづく)

 読み終えました。
 自分の人生をふりかえってみて、自分の周囲では、癌で亡くなる人が圧倒的に多かった。事件に巻きこまれてというのはひとつもありません。事故は交通事故死が1件のみです。
されど、癌は多かった。余命を宣告されてそのように短期間でこの世を去っていかれるのをみていて、いつかは、その順番が自分にも回ってくると怖れました。

 写真にある病気のこどもたちは丸坊主です。痛々しい。薬の副作用と世間では噂しています。
 絵を描いて気持ちをおさめる人がいます。その絵をながめて、なんと感想を言っていいのかが、出てきません。  

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2017年05月05日

くろねこのどん 2017課題図書

くろねこのどん 岡野かおる子 理論社 2017課題図書

 登場人物であるえみちゃん、それからくろねのどんは、この世にいるようで、じつはいません。ねこのどんも、小学1年生のえみちゃんも、「妖精」です。物語は現実の出来事ではなく、ファンタジーです。作者の頭のなかにある空間に存在して動いているのです。どんも、えみちゃんも東北の民話に出てくる座敷わらしのようです。不思議なタッチ(感触)の作品でした。えみちゃんは妖精で、この世にいたけど今はもうこの世にいない。亡くなっている。あるいは、すでにおとなになっている。

 作者は、1929年生まれですから、現在、88歳です。巻末を読むと82年から83年の作品を今回合体したとありますから、創作当時の作者の年齢は、35歳ぐらいです。作家は、のちの世に作品を残して消えていきます。魂のかたちを残していきます。

 さみしがりやとかひとりぼっちとも思えませんが、えみちゃんは、空想をしなければならなかった。最初は、えみちゃんだけが空想していたのが、えみちゃんがねこになるあたりから、作者自身の空想が始まった。幻想的です。

 ねこが「ちがわい」としゃべります。ドラえもんを思い出しました。
 よーいどんだから、名前の由来は「どん」。名付け方が素敵です。
 雨の日じゃないと、どんに会えないという設定もいい。
 ねこと女の子がままごとをします。
 スマホ社会の今、単体の「魚屋」は少なくなりました。
 にぼしという言葉も現代の会話にはあまり出てこなくなりました。

気に入った表現として、「とびこんできたのは、雨まじりの風」、「とりかえっこはもうおしまい」
 
わからなかったこととして、「うの花:うつぎという木の花。低木。垣根にしたりする」

 のどかさが良かった。  

Posted by 熊太郎 at 06:07Comments(0)TrackBack(0)読書感想文