2024年11月03日

宙わたる教室(そらわたるきょうしつ) 第3話と第4話

宙わたる教室(そらわたるきょうしつ) NHKドラマ10 毎週火曜日午後10時放送 第3話と第4話 全10話

『第3話 オポチュニティの轍(わだち。車輪の跡)』
 火星の話です。
 ソル:火星における一日のこと。約24時間40分
 ハブ:火星での宇宙飛行士の居住施設
 星を継ぐもの:イギリスのSF(サイエンス・フィクション)作家ジェームス・P・ホーガン(1941年(日本だと昭和16年)-2010年(平成22年)69歳没)のSF小説。
 EVA(エバ):宇宙服を着ての船外活動(施設外活動)。
 火星の人:アメリカ合衆国のSF作家アンディ・ウィアー(1972年生まれ(昭和47年)51歳)の作品。アメリカの小説家。火星の人は、2011年発表(平成23年)。洋画で映画化されています。『オデッセイ アメリカ映画 2時間21分 2015年(平成27年)公開』です。オデッセイは、『長い冒険旅行』という意味です。

<来室ノート>:保健室に置いてあったノート。4年間ぐらいだれも書き込みをしていなかった。保健室登校をしている名取佳純が書き込んでいる。(定時制高校にも保健室登校というものがあるのかと驚きました)。
 名取佳純(起立性調節障害。父母離婚。母が親権者なるも、母は、姉をひいきして、妹の佳純を差別する。佳純をやっかい者扱いする)。

 定時制高校の教室を火星とし、保健室をハブとする。名取佳純は、ハブ(保健室)でしか、呼吸ができない。
 名取佳純は、EVAで(宇宙服を着ての施設外活動)、教室に行く。決死の覚悟がいる。
 過換気:発作的に息苦しくなって、呼吸が早くなる。
 過呼吸:緊張、ストレスで、呼吸の深さが増加する。

 現実にあった火星探査の記録です。アメリカ合衆国のNASA(ナサ)がかかわっています。
 オポチュニティ:火星で活動する無人探査車の名称。英語の直訳は、『チャンスとか、機会』とか。
 オポチュニティの轍(わだち。左右に3つずつの車輪の2本の跡(あと))が、人生の軌跡と重なります。火星探査船オポチュニティを擬人化してあります。リストカット(カミソリによる自傷行為によってできた腕の傷。自殺企図(じさつきと)、されど死なない)とオポチュニティの車輪のあとを重ねてあります。

 火星探査車である『オポチュニティ』は、地球から遠く離れた火星で、ひとりぼっちでがんばったのです。火星の写真をたくさん撮って、地球に送ってくれたのです。ドラマでは、オポチュニティが撮影した火星の青い夕焼けが紹介されます。

 オポチュニティは、2003年(平成15年)7月に打ち上げられ、2004年(平成16年)に火星に到着した。運用期間3か月の予定だったが、気がつけば、15年間火星での旅を続けてくれた。
 2018年(平成30年)、オポチュニティは、大規模な砂嵐に襲われて、太陽電池がダウンして、機能が停止した。
 2019年(平成31年)2月、NASA(アメリカ航空宇宙局)は、ミッション終了を宣言した。

 オポチュニティは、調査中に、前輪を一つ失ったり、砂だまりにはまりこんだり、原因不明の電力低下に見舞われたり、数々の困難に直面したが、克服し続けた。
 『この子(オポチュニティ)は、自分の後ろに続く轍(わだち)を見て、ただ孤独を感じたわけではないのだ。きっと、もう少しだけ前へ進もうと思ったに違いない……』。
 オポチュニティの背後には、地球に応援してくれる仲間がいた(NASAのスタッフメンバー)。この子(名取佳純)にも、仲間が必要だ(定時制高校科学部の生徒が仲間です)。

 保健室の先生は、原作の小説では、髪を真っ赤に染めています。ドラマではつやつやの黒髪でした。赤いほうが良かったのに。
 保健室の先生は、過去に、生徒をひとり死なせています。

 連絡ノートを使って、生徒と理科担当藤竹先生の交流が始まります。
 
 名取佳純の再起の足を引っ張る女子がいます。
 『依存』のかたまりのような女子です。人のせいにします。人を巻き込まないでほしい。自分のことは、自分の脳みそで思考してほしい。自分がすることを他人に判断させてはいけません。ましてや、あなたがこうすればいいと言ったからそうしたのにうまくいかなかった。うまくいかなかったのはあなたのせいだと相手を責めることは卑怯者がすることです。ひきょうもの:心が卑しい(いやしい)人間。

 火星探査車であるオポチュニティの存在は、『願い』でもあります。
 オポチュニティは、人間の人生のように、長い旅をしていたのです。
 
 名取佳純から、両親が離婚してから会わなくなった父親との夜空を見上げた宇宙観測の思い出話が出ます。楽しかったそうです。名取佳純は、父親に会いたい。自分を差別する冷たい母親からは離れたい。

 火星には、今もなお、壊れたオポチュニティがいる。

 『育てる(そだてる)』とか、『育む(はぐくむ)』、『学ぶ(まなぶ)』という人生の基本があります。
 轍は(わだちは。車輪の跡は)、懸命に生きた証(あかし)なのです。


『第4話 金の卵の衝突実験』
 イッセー尾形さんの熱演が光っています。
 先生役の窪田正孝さんもうまい。
 
 シーンは、病院見舞いの先生の姿で始まり、だれの見舞いかは、あとから判明します。イッセー尾形さんの奥さんが、じん肺で長期継続入院中です。

 小説では細かく経歴が紹介されていますが、ドラマは時間の制限もあるのでそこまでは情報提供されていませんので、ここに書いておきます。

長嶺省造:定時制高校二年生。昭和23年生まれ。74歳。金属加工の会社を自営で経営していたが、70歳で会社経営を閉じた。子どもはふたりで、孫がいる。福島の常磐炭田(じょうばんたんでん)の炭鉱町で育った。炭鉱が斜陽化したためもあり、中卒で、集団就職で東京に来て町工場でがんばった。37歳で独立した。父親は10歳のときに炭鉱事故で亡くなった。

長嶺江美子:長嶺省造の妻。『じん肺(仕事中に大量の粉塵(ふんじん。ほこり、金属の粒(つぶ)などを長期間吸い込んで肺の組織が壊れた)』で現在は入院中。退院はいつになるのかわからない。学歴は中学卒業。青森から集団就職で上京して、タイル工場で10年間粉まみれで働いた。高校に行きたかった。

 集団就職の話が出ます。15歳で列車に乗せられて、遠くの都会へ労働力として運ばれていきます。就職するときに、企業は親にお金を払います。こどもは労働に縛られます。(しばられます)。
 ドラマでは、中卒で、福島から東京へ来た長嶺さん(ながみねさん。イッセー尾形さん)と青森から東京へ来た長嶺さんの奥さん(朝加真由美さん)について語られます。

 本が一冊あります。『集団就職 高度経済成長を支えた金の卵たち 澤宮優(さわみや・ゆう) 弦書房(げんしょぼう)』です。
 大手紡績会社、繊維会社、陶器会社、鉄鋼会社、自動車工場、大手スーパー、いろいろあります。寿司屋とか、床屋とかの、職人仕事もあります。
 地方出身をばかにされた。
 会社の寮暮らしです。事業所への住み込みもあります。
 邦画、『ALWAYS 三丁目の夕日』を思い出します。青森から集団就職列車に乗って東京へ出て来たという設定の堀北真希さんが熱演でした。『鈴木オート』という自動車屋で工員として働くのです。泣けました。
 こちらの集団就職の本では、定時制高校への通学話も出てきます。みんなが高校に行きたかった。でも学力があってもお金がなくて高校に行けないこどもがたくさんいた時代です。

 タバコ吸いの柳田岳人(やなぎだ・たけと 21歳。演者は、小林虎之助さん)を長嶺さんが注意します。喫煙は、お金と時間の浪費です。体も家庭も壊れます。
 長嶺さんはヘビースモーカーだった。じん肺の奥さんを気づかってやれなかったことを深く後悔しています。長嶺さんは今は非喫煙者です。

 この話は、藤竹先生が企画した、『壮大な実験』なのです。
 背景には、『無念』があります。優遇される人たちや、上層部が得をする組織運営に対する『怒り(いかり)』が、壮大な実験を実現させる原動力です。

 長嶺さんの言葉に、藤竹先生の気持ちがこめられています。
 『はいあがってやるという気概はないのか!』(気概(きがい):困難に屈しない強い気持ち)
 真剣なやりとりがあります。

 『学ぶ』ということを、真剣に考えさせられるドラマです。

 『あんた食えんな』(ずるがしこい。気を許せない。長嶺さんが、藤竹先生に言った言葉です。藤竹先生は策略家です。かけひき、戦術家)。

 実験結果を学会で発表する。『火星をつくる』。