2018年10月09日

男はつらいよ(11-14)

男はつらいよ 邦画DVD

第11作 寅次郎忘れな草 1973年 昭和48年8月
 浅丘ルリ子さんです。これまでのマドンナ役とは雰囲気が異なります。これまでは、「お姫さま」扱いでした。今回は、自立した女性として描かれています。浅丘さんは、親分肌です。底辺の暮らしが背景に置いてあります。濃厚なドラマがあります。
 ロケ地は北海道網走で、劇中ひろしさんが言うのですが、地平線が見えます。話のつなぎかたが上手な脚本です。北海道の景色と蒸気機関車の映像が貴重です。
 冒頭付近、法事風景で、笠智衆さんのお坊さんがお経をあげているときに渥美清さん演じる寅さんがふざけるわけですが、演じている皆さんが演技で笑っているのではなく、本当におかしくて笑っていることがわかります。
 押したり引いたりの話運びがうまい。わらえます。外面は良くても内面はぼろぼろ、寅さんのような人物は本来やっかい者ですが、親族のなかにはひとりぐらいこういうタイプがいそうです。
 まんなかに廊下があって、両側に部屋がある昔のアパートの構造、寅さんの老眼鏡をかける様子、まだ舗装されていない北海道の真っ直ぐな道、バックグラウンドミュージックなど、浅丘さんが出るシーンはイタリア映画を観ているような雰囲気でした。
 サブストーリーとして、印刷工場の水原君と女子の恋愛話があります。神経質すぎる気もするのですが清純な付き合いです。
 フーテンの男女が意気投合して、「自分たちは、あぶくのようなもの」 のちのバブル経済の破綻を思い出しました。


第12作 私の寅さん 1973年 昭和48年12月
 赤ちゃんのときから出演していたひろしさんとさくらさんの息子満男くんが演技をします。「おならぶー」と寅さんに電話ごしに言うシーンです。名シーンとして残るのでしょう。
 珍しく、旅先で美女に出会うのではなく、友人の妹という設定で岸恵子さんが画家として登場します。前田武彦さんも津川雅彦さんも若い。津川さんは「相棒」で老人役で出ているのでなおさらです。もうおふたりともあの世の人です。
 だんだんパターンに飽きてきたところで、寅さんの例のひがみ根性は観ていて嫌悪感をもちます。本音と建前がコロコロ変わる。個性的な顔立ちは一度見たら忘れられない。いろいろな要素があります。美女二人を「らっきょときりぎりす」とからかいます


第13作 寅次郎恋やつれ 1974年 昭和49年8月
 第9作で登場した吉永小百合さんが再登場です。このとき吉永さんが29才、渥美清さんが46才です。
 島根県津和野が舞台で、まだ、蒸気機関車が走る映像があります。トロイメライの曲が流れています。ラジコン飛行機もなつかしい。
 吉永さんが帝釈天のだんご屋に来て、「わたし、来ちゃった」、2年前の「バターの話し(写真撮影時のチーズ)」が出て笑います。笑いのパターンとして、言ったこととそのあとの対応が正反対になる(本音とたてまえ)、言葉遊び(洋酒のナポレオンとワシントン)があります。
 吉永さん親子(父親は小説家)はともに同じ性格です。がんこで強情っぱり(自分を主張して他人を受け入れない)です。

 今回の映画は、「父親の娘に対する謝罪」を描いた映画です。

 車寅次郎については、同じ場所に根を張って、地道に働けない人物を描いています。


第14作 寅次郎子守歌 1974年 昭和49年12月
 赤ちゃん置き去り騒動の話から始まって、看護婦さんとコーラスグループの指揮者との恋愛成就にまで至ります。
 寅さんの口上に出てくる「熊坂長範:くまさかちょうはん。平安末期の盗賊。牛若丸に討たれた」
 おいちゃんが下条正巳さんで、車家の良心が伝わってきます。満男くんは5歳ぐらいに見えます。たまに演技をするのがいい。
 ロケ地は佐賀県唐津です。映像を観ていると福井県若狭の風景にも似ている。日本海側の漁港なので似るのでしょう。  

Posted by 熊太郎 at 05:32Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2018年10月08日

6才のボクが大人になるまで 洋画DVD

6才のボクが大人になるまで 洋画DVD 2014年11月公開

 実際の本人の成長に合わせて撮影された映画だと読みました。姉がいて、両親がいるところからスタートなので、全員が本人さんだろうかと疑問をもちました。
 姉サマンサ、弟メイソンで、メイソンくんが7才から始まります。最後は18才、高校卒業までです。ふたりとも本人で、姉は本作の監督・脚本者の実子です。実父母役も本人で、だんだん歳をとっていきます。
 
 人生とは何かと、哲学的な映画です。そして、答えはありません。
 映画のなかの設定は、実父母のもとで暮らせない姉弟です。最初の離婚があって母に引き取られて、結局母親は3回結婚します。2回目の夫にはふたりの連れ子がいて、夫にはDV、虐待をする性質があります。両親が不仲だと子どもは苦労します。
 血のつながっていない男から、「ここは俺の家だ。俺がルールだ。従えないなら出ていけ」と言われたら、力のない子どもはたまりません。
 肉体単純労務者の男性の話が良かった。こどもたちの実母のアドバイスに従います。努力は報われる。(夜間大学に通って勉強する。きちんと就職して働いて役付きになる)

 小さい頃は口うるさい姉も成長するに従って静かになります。実父役はおしゃべりです。外国人の父親ってこんなにしゃべるものなのか。うるさい実父ですが、こどもたちには好かれています。大好きな車GTOなのに、ツードアで、3人が乗るときには乗りにくそう。母親がしきりにシートベルトの着用にこだわることが不思議でした。

 子どもたちは映像の中では急速に成長していきます。色恋にも目覚めます。実父は子どもたちに避妊するよう説きます。なにせ、実父はあからさまで明るい。されど、離婚して、再婚して赤ちゃんがいます。
 
 ラストの女子大生の言葉、「チャンスはきっといつもすぐそこにあるもの」という趣旨は、大学に合格したメイソン君にわたしにラブコールしてという女子の求愛の言葉だったと思いたい。


 最近、映画「男はつらいよ」をずーっと観ているのですが、劇中に出てくるさくらさんとひろしさんのお子さんである満男ちゃんは、あかちゃんのときからずーっと同じ子役さんで、第2作昭和44年~第26作昭和55年の間に成長していくわけで、これもまた記録だと思うのです。  

2018年10月07日

水の匂いがするようだ 野崎歓

水の匂いがするようだ 野崎歓(のざき・かん) 集英社

 小説家井伏鱒二(いぶせ・ますじ)氏の研究書です。
 井伏鱒二:1993年平成5年95才没。山椒魚、黒い雨ぐらいしか知りません。明治31年生まれ

 井伏鱒二氏は、魚が好きらしい。だから、「鱒(ます)」という字が名前に入っている。先入観とはいけないもので、優等生だと思っていたら、そうでもないらしき経歴が書かれていました。魚を主題として書く作家ともあります。

 「山椒魚」を読んだのは2012年のことでした。太りすぎて岩の間から出ることができなくなった山椒魚と、山椒魚がいじわるで意図的に自分のいる場所に閉じ込めたカエルのやりとりがありました。それを人間に置き換えて考える。井伏自身もひきこもりではなかったのか。

 面白かった記述主旨として、「大学には、絶望した人、病人は来ない」、「質屋に行くような貧窮作家になりたい」

 子ども好きな面もあるようです。戦場で我が子を楽しませる童話を書いた外国人作家に親しみを述べています。

(つづく)

 井伏鱒二氏の漢詩の翻訳がすばらしい。漢字だけなのに上手に日本語に転換されています。

 『さざなみ軍記』という作品に長文が使用されています。

 よくわからないのですが、架空の翻訳として、原作がないのに、翻訳本を作成したとか、よそから話をもってきたとか、そういう不可解、不思議な手法で書かれた作品もあるようです。

 1930年代に肥満で悩む。30代です。作品に太った自分のかわりを登場させる。

 旅人になる。釣り師になる。

 太宰治が弟子。

 作品の内容の背景がこの本では詳しく書かれています。戦時中のこととして初耳のことも多い。大阪城に作家、画家、漫画家、マスコミ関係者が兵隊として集められた。

 1年間の輸送船への乗船で戦地体験あり。やはり小説家は体験が大事だと感じる。
 戦争は正しくありませんとあります。

 「日記」の重要性、習慣性が書いてあります。

 昭和45年70才でも魚釣りと創作意欲は盛り上がっています。釣りに熱中するのは、弟子の太宰治が入水自殺したからであるという説です。太宰治との関係を「水」を素材にして濃密に表現してあります。これが、この本のタイトル「水の匂いがするようだ」につながります。続いて太宰の故郷青森の記述へと流れていきます。
 
 印象に残った言葉として、「井伏文学の『川』」

 調べた単語類として、「ヴェクトル:物事の向かう方向と勢い」  

Posted by 熊太郎 at 06:20Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2018年10月06日

ハドソン川の奇跡 洋画DVD

ハドソン川の奇跡 洋画DVD 2016年9月公開

 いい映画でした。感動しました。
 実際の航空機事故をニュースで知ったのは、2009年1月でした。旅客機が川に着陸するなんて、しかも、全員が無事なんて、なんという機長の機転と腕だろうと驚いたことを覚えています。
 映画はその快挙を讃える内容だろうと観始めましたが、様子がおかしい。川への着陸は無謀で、離陸したばかりの空港に戻るか、近くの別の空港に着陸できた。つまり、機長の判断は間違っていたのではないかと機長、副操縦士は指摘を受けるのです。検証委員会みたいなところにかけられます。びっくりです。現実にあったことのようなので、ノンフィクションを映画にしてあります。乗客を救ったのに、航空会社と保険会社は保険金等の支出をしたくないらしい。
 トムハンクスがトムハンクスに見えない。あとでわかるのですが、実際の機長に似せたメーキャップです。
 航空機事故シーンが最初だけかと思ったら、途中、細切れで出てきます。どうやって撮影したのだろうかとか実際のニュース映像を使用してあるのではないかとか推察しました。
 当初は、追及に押され気味ですが、機長が毅然と、自分の判断に誤りはないと意思を貫き通します。ここにも仕事の鬼がいます。
 7月に成田空港近くの航空博物館を見学したばかりだったので、映像が身近に感じられました。  

2018年10月04日

相棒 シーズン1 DVD 第6話~最終話

相棒 シーズン1 DVD 第6話~最終話

第6話
 美術館を舞台にした1億5000万円の詐欺事件です。
 すごいなぁ。
 証拠を理屈で立証していく過程がすばらしい。
 ほかの作品を含めて脚本家さんたちの能力レベルが高い。(ただ、ネットを見るとだんだん質が落ちていくようです)
 一定のパターンになっている映像もあります。(特命係の事務室内のやりとり)それでも、男くさい職場ではあります。
 女性の父親である画家が描いた「光る風の少年」という絵を好んでいた男性が殺害される。犯人はだれかなのですが、ラストシーンでドラマになります。

第7話
 カクテルをシェイクするバーが舞台で殺人事件が発生します。
 冒頭にメロン色のカクテルが強調されます。以降、そのカクテルが証拠に強くからんできます。
 カクテルの中身の理屈付けがいい内容です。
 ぎゅっと気持ちを凝縮してある作品でした。

第8話
 フランケンシュタインの仮面をかぶった強盗が登場します
 容疑者は自白を強要されたと主張し、裁判で無罪になります。
 途中、「どういうこと?」という疑問が湧きますが、進展を観ていて、「そういうことか」と納得いきます。

第9話
 一風変わった作品でした。
 集団催眠モノです。
 「メアリ・セレスト号事件:ポルトガル沖で無人の船が航行していた。乗組員全員行方不明」「ハーメルンの笛吹き:笛を吹いてこどもたちを洞窟に導いた」
 着ぐるみの推理、他部署から本件は特命の担当でないと言われると、「余計なこと以外をします」、「パイドパイパー」、「おっしゃってい意味がわかりません」、そのあたりの話が充実していました。
 犯人は2億円を手にするわけですが、お金は焼失する運命にあります。お金はいらない。復讐が目的です。

第10話
 右京と薫のふたりがひき逃げに遭ったようなシーンから始まりますがひき逃げではありません。
 映画撮影スタジオでの監督インタビューシーンで、「電飾さん」が耳に残ります。
 電気カーペットを使った仕掛けにはすぐ気づけます。
 これまでの作品よりはトリックが簡単です。
 スタンガンというものがどういうものかがわかりました。
 信頼関係が崩れたことが殺人の動機です。やはり、仕事は給料だけではない。
 最後の詰めがすばらしい。

第11話
 最終回前の作品なので、次の最終回につながる内容になっています。
 「特命係」は廃止ですが、その由来がわかります。
 15年前の外務省要人人質事件というのが浮かび上がります。
 
 仕事人間のドラマです。右京さんは、妻とは離婚、子どもなし。家庭の匂いはありません。

第12話 最終回
 脚本にムラがあるような印象をもちました。いいところはいいのですが、そうでないところもあります。無理やりな部分を多々感じました。脚本家ひとりのことではないと思います。周囲からいろいろ変更を注文されるのでしょう。
 杉下右京も小野田も冷たい。仕事の鬼。
 良かったセリフとして、「人生は帳尻があうようにできている」  

2018年10月03日

妻に捧げた1778話 眉村卓

妻に捧げた1778話 眉村卓(まゆむら・たく) 新潮新書

 文芸つながりで結婚した高校の同級生である妻が癌になって亡くなる5年間の間、妻の病気の気分をまぎらわせるために、ショートショートを毎日書き続ける。せつない愛妻物語、夫婦の歴史物語です。著者はSF作家です。
 奥さんは60代で亡くなっています。ご本人は現在83歳で、同級生ですから67歳のときに配偶者を亡くされています。
 ほかの方の実名も入っていますので、ノンフィクションの側面があります。

 平均400字詰め原稿用紙6枚ぐらいの作品群です。この本では1778話全部が紹介されているのではなく、著者の感想や思いと作品10数篇が掲載されています。

 美しい文章です。
 お金のことも含めて正直に書いてあります。
 1778話はすごい量でとても真似できません。執念もあるでしょうし、習慣もあるのでしょう。作中にもありますが、それが仕事で給料がもらえるというものでなければなかなか続きません。
 「14騒音吸収板」は防音室とか防音工事を思い浮かべました。
 「101作りものの夏」では、60代になると20代の頃の半分も光を感じなくなるとあり、実感があります。
 
 発想の訓練です。すべての作品が心に響いてくるわけではありません。オチがなくて、これはどうかと思うものもあります。(作中では、戸惑いが感じられるという他者の評価があります)

 73ページ付近、妻から「わたしの葬式はどうするの?」あたりの記述はつらい。小説家の妻というポジションに奥さんは満足しておられた。

 もう14年前に出た本ですが、ロングセラーを重ねています。

 「1449書斎」はGoodです。途中、話をどうおとすのか気になりました。

 心の面で、俳句で毎日の生活を支える。

 「次のバスまで20分もある」という部分では都会の人という印象をもちました。田舎の人にとってはたった20分です。

 1778日ふたりで生きた。
 文中にあるのですが、「そんなことをして(一日一話つくって)、どうなるんだ?」それしかできないからということもあるし、妻のためだけではなくて、自分のためにということもあります。
 日記替わりということもあろうかと。
 
 204ページの記述は力強い。夫婦だからと言ってなにも相手の心の隅々まで知る必要はない。めざす方向が同じであればいい。

 印象に残った文節は、「端的に答えるのはむずかしい(はっきり答える)」

 調べた言葉として、「ジュブナイル小説:少年少女向き小説」、「星間文明:宇宙における文明?」  

Posted by 熊太郎 at 05:32Comments(0)TrackBack(0)読書感想文