2023年05月06日

週刊文春 シリーズ昭和④哀悼篇 昭和の遺書 魂の記録

週刊文春 シリーズ昭和④哀悼篇 昭和の遺書 魂の記録 生きる意味を教えてくれる91人の「最期の言葉」 文春ムック 平成29年12月11日発行 2017年11月27日電子版発行 Kindle Unlimited 電子書籍

 胸にぐっとくるものがありました。
 読書メモを残しておいた方がいいと思ったので、いくつかをピックアップして感想を添えます。
 最初は、もうずいぶん前に亡くなってしまった人たちが遺した(のこした)言葉であり、もう済んでしまったことと、今はいない人たちのことを未来に向かって、なにかをどうすることもできないと、消極的な気持ちで読み始めました。各自の年齢は死没時のものです。

『手塚治虫』 1989年2月9日(平成元年) 60歳 胃がん
 なんというか、仕事の鬼です。仕事中毒でもある。
 娘さんの本を読んだことがあります。『ゲゲゲの娘、レレレの娘、ラララの娘 水木悦子 赤塚りえ子 手塚るみ子 文藝春秋』
 ご本人の日記の最終ページに「……仕事をさせてくれ」という叫びのような文字が残されています。

『美空ひばり』 1989年6月24日(平成元年) 52歳 間質性肺炎
 東京ドームでのコンサートにかける気迫がすごい。
 5万人の観客の前で熱唱されています。
 死期が近づいて、栄光の時が遠ざかっていくというように書かれています。

『逸見政孝(いつみ・まさたか)』 ニュースキャスター 1993年12月25日(平成5年) 48歳 がん
 人気者のアナウンサーの方でした。
 息子さんに気持ちを伝えておられます。
 ママのことを気にかけてやってくれ。

『青島幸雄』 東京都知事・タレント・作家 2006年12月20日(平成18年) 74歳 骨髄異形成症候群
 ママ(奥さん)のことを慕っておられました。


*長寿社会と言われていますが、短命で亡くなる方も多い。体力・精神力の限界線を超えて働きすぎて、体が壊れたのだろうか。


『田中好子』 歌手キャンディーズメンバー 2011年4月21日(平成23年) 55歳 乳がん
 もっと生きていたかったという思いが切々と伝わってきました。

『川島なおみ』 女優 2015年9月24日(平成27年) 54歳 胆管がん
 だんなさんに向けて、再婚はしないでねとお願いされています。
 重松清小説作品『その日の前に』では、がんで亡くなる奥さんが『(わたしのことは)忘れてもいいよ』と言葉を遺して亡くなります。『忘れないで』ではなくて、遺されるご主人のこれから先の幸せのために『忘れてもいいよ』(再婚してもいいよ)と表現したとわたしは受け止めました。そして『忘れてね』(再婚してください)ではないのです。本当は、忘れてほしくないのです。
 どちらがどうなのか、他人が判断することはむずかしい。
 夫婦のことは夫婦にしかわかりません。

『色川武弘(いろかわたけひろ)』 作家 1989年4月10日(平成元年) 60歳 心臓破裂
 わたしは、別名、阿佐田哲也としての雀士(プロ麻雀士)としてのご本人の本をよく読みました。
 若い死です。
 ご本人は、うまく死ねるように、死に方を研究したいと記されています。

『寺山修司』 劇作家、歌人 1983年5月22日(昭和58年) 47歳 敗血症
 自分のお墓はいらないと意思表示をされています。お仲間たちも短命だったようです。7名の知人の死が列挙されています。

『湯川秀樹』 ノーベル賞受賞物理学者 1981年9月8日(昭和56年) 74歳 肺炎・心不全
 死んだ後のことはわからないというような悟りを開かれています。

『梨本勝』 芸能レポーター 2010年8月21日(平成22年) 65歳 肺がん
 恐い(こわい)と言われ、奥さんにありがとねと感謝され、その後お亡くなりになっています。

『筑紫哲也』 ジャーナリスト 2008年11月7日(平成20年) 73歳 肺がん
 最後にご本人が、ボールペンで紙にメモされた言葉は『Thank you』

『井上ひさし』 作家 2010年4月9日(平成22年) 75歳 肺がん
 戦争や災害でおおぜいといっしょに死ぬよりも、ひとりひとりがそれぞれの死に方で死ぬというのは、幸せなことなんだよと奥さんにお話されています。

『杉原輝夫』 プロゴルファー 2011年12月28日(平成23年) 74歳 前立腺がん
 インタビューで、一生懸命やることがファンサービスなのだと力説されています。

『五味康祐(ごみ・やすすけ)』 小説家 1980年4月1日(昭和55年) 58歳 肺がん
 ご本人は、自分は長生きできる。自分は長生きしなければならないとアピールされています。

『佐野洋子』 絵本作家、エッセイスト 2010年11月5日(平成22年) 72歳 乳がん
 絵本『100万回生きたねこ』の作者さんです。
 余命宣告を受けて文章を遺されています。思い残すことは何もない。こどももいない。楽に死にたい。自分はものすごく貧乏をした。貧乏からすべてのことを学んだ。一番大事なものはお金では買えない。自分にとって一番大事なものは『情(じょう。気持ち。思いやり)』だったと結んでおられます。

『鶴田浩二』 俳優 1987年6月16日(昭和62年) 62歳 肺がん
 わたしは、当時の水谷豊さんとか桃井かおりさんがいっしょに出演していたNHKドラマ『男たちの旅路』のファンでした。
 最後の言葉は、男とはこういうものだということが色紙に書かれています。主題は『忍耐』です。
 (追記:この文章を作成後、ドラマ『男たちの旅路』が5月12日金曜日夜にNHKBSプレミアムで再放送されることを知りました。観てみるつもりです。最近は、朝は、岩手県三陸鉄道がらみ、じぇじぇじぇの『あまちゃん』を観て、火曜日の夜はBS日テレで、昔の太川陽介さんとえびすよしかずさんの路線バス乗り継ぎ旅の再放送を観て、今回この本を読んだことがきっかけで、この、「男たちの旅路」を観て、自分はいったい今、いつの時代に生きているのだろうかと不思議な気分になります。日曜日のお昼にNHKの「のど自慢」も観ているのですが、自分が若かったころのなつかしい昔の歌が流れることが多く、やはり、昔の歌のほうが歌いやすく気持ちをこめやすいとうなずくのです)

『円谷幸吉(つぶらや・こうきち)』 オリンピックマラソンランナー 1968年1月8日(昭和43年) 27歳 自死
 フォークソングの歌にもなった人です。悲しい結末でした。
 親族への感謝と「(がんばりすぎて)もう走れません」という切ない内容のお手紙が遺されています。みんなのそばで、みんなと一緒に暮らしたかったと結ばれています。悲劇です。必勝優先の孤独な位置に追い込まれています。

『尾崎豊』 ミュージシャン 1992年4月25日(平成4年) 26歳 自死
 共働きで子育てと仕事の両立に追われる生活をしていた頃なので、自分はあまり知らない人なのですが、職場の若い人が熱狂的なファンでした。
 文章には、宗教的な記述もあり、なにかしら、なにかに憑(と)りつかれていたのではないか。(とりつかれて:のりうつられた)

『田宮二郎』 俳優 1978年12月28日(昭和53年) 43歳 自死
 こどものころよくテレビで拝見した俳優さんです。
 奥さんに言葉を遺されています。お子さんはおふたりおられます。
 死の理由がわかりません。

*自死の有名人が続きます。気が滅入ってきたので自死者の感想はとばします。
 死なないでほしい。うまくいくときもあれば、うまくいかないときもある。それが人生です。
 会社の秘密を守るために自死した商社の幹部がいます。『会社の生命は永遠です』とあります。違います。不祥事から会社の秘密を守るために56歳で会社のビルから飛び降りて亡くなっています。犯罪を立証するための生き証人だったのでしょう。

『向田邦子』 脚本家、作家 1981年8月22日(昭和56年) 51歳 飛行機墜落事故(台湾にて)
 遺書というか遺言書を遺されています。1979年(昭和54年)に財産分与等についての遺言書を作成されています。
 
『金子光春』 詩人 1975年6月30日(昭和50年) 79歳 心不全
 わたしが高校生のときに心酔した詩人です。東京吉祥寺にあったご自宅で亡くなったことは、この部分を書きながら調べて初めて知りました。吉祥寺駅(きちじょうじえき)の北です。今年3月末に同地を訪れたばかりなので縁を感じました。
 遺される奥さんへの感謝と、財産はすべて奥さんに渡すというような内容の遺言になっています。死の二か月前ぐらいの時期に書かれています。

『河口博次(かわぐちひろつぐ)』 大阪商船三井船舶神戸支店長 1985年8月12日日航ジャンボ機墜落事故の犠牲者 墜落していく間、社員手帳に書かれた家族あての遺書 52歳没
 (要旨として)こどもたちに対してママを頼む。パパは残念だ。きっと助からない。原因はわからない。もう飛行機には乗りたくない。神さま助けてください。ママに対して、こどもたちを頼む。
 (胸を突かれるような記述です。これを読んで自分が思い出したことがあります。わたしの父が病気で死ぬ前々日ぐらいにわたしに『(自分が死んだら)お母さんのことを頼む』と言いました。当時中学生の反抗期だったわたしは、父親とたいていケンカをする毎日であり、なに言ってるんだ! と怒っていました。(おこっていました)。40歳で病死した父の遺体を見た時は「(自分たち家族は)これからどうやって生活していくんだ!」と、やっぱり怒っていました。今思うに、父は気が短い人間でしたが、自分も気が短い人間でした。

 そのあとのページには、第二次世界大戦で散っていかれた方々の遺書や手紙が続いて掲載されています。戦争は異常です。だれのために、なんのために命を落としていくのか。不明朗です。人間全体が、錯覚という世界につかっているようです。

 一昨年の秋に、高齢だった義父を亡くし、翌月に義母も亡くし、たて続けのお葬式の段取りやその後の手続きで忙しく、あっという間に月日が過ぎました。
 義父母は遺言書を遺してくれていたので、それに従ってその後の手続きをしていきましたが、なかなかたいへんな作業でした。

 ひと息ついたところで、九州に住むもう九十歳近い実母に何回か会いに行き、実母の死後のことについてまじめに話をしました。なにをどうするのかを聞き、どこに何があるのかを聞き、計画をまとめ終わるまでには、かなり時間がかかりました。遺言書の話をしたら『(弟に向かって)あんたが書いてくれればいい』みたいなことを言うので、しかたがないなと笑いながら、きょうだいと、葬式は、こんな感じでとか、財産はこんなふうに分けようと相談して話がまとまりました。

 自分自身もきちんとしておかなければならないと考えて、公証人役場に行って、公正証書遺言の手続きをしました。あわせて、家族へのメッセージも残しました。
 こどもには、まだ早いのではないかと笑われましたが、今書いても数年後に書いても内容は変わらないと説明して、内容はこんなふうにしてあると伝えました。
 すっきりしました。
 あとは、長生きするだけです。  

Posted by 熊太郎 at 06:44Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2023年05月04日

うまれてくるよ海のなか 高久至 かんちくたかこ

うまれてくるよ海のなか しゃしん・高久至(たかく・いたる) ぶん・かんちくたかこ アリス館

 熊じいさんは、毎週日曜日午前10時から始まるNHKラジオ番組『子ども科学電話相談』を楽しみにしていて、いつも聴いています。(きいています)
 ぺらぺらとじょうずにお話ができるこどもさんもいますが、たいていは、途中で言葉が続かなくなって、自分の頭の中にあることをうまく言葉で表現できないちびっこのほうが多いような気がします。
 どうなるのだろうかと聞いているほうは心配になるのですが、女性のアナウンサーさんが根気よく、ゆっくりと時には言い方を変えるなりして、こどもさんに優しく話しかけておられます。
 質問に答える先生方は、たぶん、科学好きだった自分がこどもだったときのことを思い出しながら、苦労しながらも答えをこどもさんに教えてあげています。
 こどもさんとアナウンサーさんと先生という組み合わせのコンビネーション、それから、声は聴こえませんが、番組を支えている裏方のスタッフさんたちの姿勢がとてもいい番組です。

 こどもさんの質問は『恐竜』『昆虫』『草花』『生きもの』など多彩です。
 好奇心旺盛なちびっこたちには、知りたいことがいっぱいあります。
 活発な会話のやりとりがあって、活気がある雰囲気のときもあります。

 この写真絵本の表紙をながめながら、そんなことを考えました。
 
 表紙をめくります。
 きれいな小魚たちがいっぱいです。
 水中が、銀色に光っています。
 名古屋港水族館では『マイワシのトルネード』というマイワシが渦巻きになっているところを見学する機会があります。その光景に似ています。同館の水槽にはマイワシが3万5000尾(び)もいるそうです。すごいなあ。

 さらにページをめくりました。
 かわいいカニの写真です。
 ちょっと変わったカニです。シマシマもようの足とオレンジ色の体です。
 『がんばれー』って、カニの声が言葉にしてあります。
 ほんとうにそう言っているみたいです。

 次のページをめくって、さいしょは、なんの写真だかわかりませんでした。
 写真に添えられている文章を読みました。
 おさかなである『クマノミ』が正面を向いて2匹います。(なるほど)
 二匹のクマノミのおなかの下にはオレンジ色のちいさなツブツブがいっぱい広がっています。
 卵です。そうするとクマノミは、ご夫婦ですな。若夫婦です。
 最初はなんの写真かわかりませんでしたが、しっかり見ると、そうなのかと納得できます。
 被写体の構図が一般的でないところが、おもしろみにつながって成功しています。魚の正面からの構図です。
 クマノミ夫婦と、ふたりのこどもといってもいい卵です。家族です。表現手法が秀逸です。(優れていて抜きんでている)

 さきほどのクマノミファミリーの物語が始まります。
 夫婦は若いパパとママです。
 卵の中に目が現れて、小さな細長いあかちゃんの姿が見えてきます。
 お魚の子育ては、卵からあかちゃんが産まれるまでなのでしょう。
 生まれてきたあかちゃんたちは、自力で海の中で生き抜いていくのです。がんばれーー
 この写真絵本の最初のほうのページにいたカニが応援していました。『がんばれーー』
 
 次の卵は『アイナメの卵』だそうです。
 アイナメは体が大きい魚です。写真にあるアイナメの顔は怖そうです。(こわそうです)
 アイナメの口は大きいので、食べられてしまいそうです。恐怖感があります。
 アイナメの顔を撮影した時の被写体の角度がいい。独特です。
 アイナメの母性本能が強い。(もしかしたらパパかもしれませんが)
 卵を食べようと近づいてきたヒトデをパクっと自分の口の中に入れてしまいました。(やっぱり怖い)
 自分のこどもたちが生きるために、親が、こどもたちを食べようとするほかの生き物を食べます。
 (人間もそういうことってあるのでしょう。自分のこどもを守ることが親の役目です)

 写真に出てくるお魚の名前は『サビハゼ』『カモハラビンポ』『チャガラ』『ウバウオ』『シモフリタナバアウオ』初めて聞く名前ばかりです。
 みんないっしょうけんめい生きています。いっしょうけんめい卵を育てています。

 魚の卵を食べる生き物から卵を守るために親はいろいろ工夫します。
 シワイカナゴ:細長いメダカみたいな魚です。擬態です。(ぎたい。真似まね)卵を海藻にくっつけて、卵が海藻の一部に見えるようにします。
 ホシカゲアゴアマダイ:親魚の口の中に卵を入れて保管する。口の中で命を守る。親が卵を食べているように見えるけれどじっさいは違うのです。
 卵から小魚が生れる時には、親の口の中からどーっと、ちっちゃなオタマジャクシみたいな姿のあかちゃんさかなが湧きだしてくるのです。昔洋画で観た『グリーンマイル』のシーンを思い出しました。あれは、卵じゃなかったけれど(たしか、難病の原因になる悪いばい菌みたいなものでした)

 キンセンイシモチ:ママが卵を産むとパパが卵を口に入れました。口にくわえて卵を守るそうです。ごはんはどうやって食べるのだろう? 卵がかえるまで食べないのかもしれません。やせてしまいます。

 タツノオトシゴの親子の写真が出てきました。
 親のおなかにある袋からこどもの顔がちょこんと出ています。
 オーストラリアにいるカンガルーのこどもみたいです。有袋類(ゆうたいるい)です。
 この写真絵本には『学び』があります。
 へー タツノオトシゴのママは、パパのおなかのふくろに卵を産むそうです。初めて知りました。そうなんだ。

 甲殻類(こうかくるい)です。カニです。
 エビもそうです。
 かたい殻(から)の間にたくさんの卵をくっつけるそうです。
 ベンケイガニ。ママのおなからちびっこカニがいっぱい出てきます。

 ワレモドキ:初めて見ました。宇宙人みたいな姿をした生き物です。
 親子の話。種の継続(しゅのけいぞく。子孫をつないでいく)を意識します。
 『美』があります。文章と写真で表現する『美』があります。
 なんだか、夜空に輝く星のようでもあります。

 タコのママ:卵を産むのは一生に一回しかないそうです。初めて聞きました。つまり、産んだら死ぬということです。自然の厳しさがあります。産んで、何も食べずに卵の世話をして、タコのあかちゃんが生まれる頃に亡くなるのです。おかあさんありがとう。おかあさんからしてみれば、こどもたちに対して、命をつないでくれてありがとうです。

 『ゴブダイ』『ミヤケテグリ』『カエルアンコウ』たくさん卵を産んで、たくさん赤ちゃんがかえるけれど、ずっと生き残れるのはごく少数のようです。たくさんの中から生き残るためには『運』が必要です。

 親たちは自分を犠牲にしながら卵を守ります。
 『ギンポ(卵にうなぎのような体を巻き付けて卵を守る)』『ムシャギンポ(自分より大きな貝のなかに隠れる夫婦です)』『アオスジテンジクダイ(口の中に卵を入れる)』『ルリホシスズメ(卵の前で敵を威嚇する(いかくする)』いろんなパターンで、親はこどもを守ります。
 写真絵本の中で、ちっちゃな命がたくさん生まれてきます。
 人間よりも愛情が深いのではないか。(そもそもの理由は、生物の本能(ほんのう。生まれもった性質)なのでしょう)
 いろんな魚類がいます。『クマノミ』『アイナメ』『サビハゼ』『シワイカナゴ』『タツノオトシゴ』『ミヤケテグリ』『ルリホシスズメ』『フリンデエビ』『ヤリイカ』『ベニワモンヤドカリ』『キツネベラ』『カモハラビンポ』『シモフリタナバタウオ』『チャガラ』『ヒメダンゴイカ』『カエルアンコウ』『コブダイ』『モンガラカワハギ』『マダコ』『オビアナハゼ』『ミナミハコフグ』『キンセンイシモチ』みんな、いまはまだ小さいけれど、無事に成長して、大きなおとなになって、また、卵を産んでほしい。ちびっこたちを新しい未来に送り届けてほしい。
 みんなで共存。戦争反対。地球を大切にしよう。自然環境を守ろう。そんなメッセージが聞こえてくる写真絵本でした。
 最初のほうのページにもどってカニさんが『がんばれー』
 生き物の世界では、こどもが育つには、パパとママの協力が必要です。人間も同じですが、人間の場合は、パパとママがうまくいかないこともあります。そのときは、ちびっこが自分でがんばるしかないときもあります。がんばれーー
 自分が大きくなったら自立と自活で、新しい自分の家族をつくりましょう。
 
 写真絵本では、海の生き物たちの卵の色と形がきれいでした。
 裏表紙の手前の写真は、ミノカサゴの仲間の卵でした。ブルーに輝いています。  

Posted by 熊太郎 at 06:34Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2023年05月02日

スクラッチ 歌代朔

スクラッチ SCRATCH 歌代朔(うたしろ・さく) あかね書房

 タイトルの『スクラッチ』は、『剥ぐ(はぐ)』とか『削って中身を見る』というような意味だろうと思いながら読み始めます。(読んでみないとこの物語のテーマはわかりません)ネットで調べたら、「ひっかく」とか「こする」とかそんなことが書いてありました。
 
 本の帯に書いてあることです。
 コロナ禍:新型コロナウィルス感染症の流行によるさまざまな災い。行動制限などの規制。予防接種の実施。経済活動の停滞。心理の落ち込みなどのことです。帯には『何もかもが中止・延期・規模縮小……』と書いてあります。あわせて、おもな登場人物は4人らしい。
 登場人物として、
 岡田鈴音(おかだ・すずね。中学生女子でしょう):バレーの「総体」が中止になった。
 吉村千暁(よしむら・かずあき。中学生男子でしょう):出展するはずの「市郡展」の審査がなくなったそうです。たぶん千暁は、美術部員なのでしょう。(あとで、美術部長であることがわかりました)出展作『カラフルな運動部の群像』だそうです。

 思い出してみれば、わたしも中学のとき美術部員で、郡部の風景画コンテストに応募して受賞したことがあります。ああ、そんなこともあったと、はるか昔のことを思い出しました。
 いまのこどもに『郡(ぐん)』の意味がわかるだろうか。市町村合併が進んで『郡(ぐん)』が減りました。「○○群××町」という表記・住所が、昔はたくさんありました。
 千暁の絵画作品に、鈴音がまちがって墨を飛ばしてしまったそうです。(美術というのは評価がわからないもので、わたしは、びっしりと色を塗りこんで描いた水彩画を、ほかの美術部員とふざけながら美術室の水道水で洗い流しました。その作品をコンテストに出したら表彰されました。あんがいタイトルの「スクラッチ」の意味に通じるのかもしれません)

 千暁(かずあき)の性格です。千暁は怒らない。千暁のモットー(信条。心がけていること)は『平常心』成績は学年トップクラスらしい。メガネをかけたガリベンタイプでおとなしく暗いイメージです。体も細くてひょろりとしているのでしょう。ドラえもんののび太くんの感じで、背は高く勉強はできるという姿を想像します。

 わたしは、本のつくり手の立場で本を読むので、変な本の読み方をします。最初に全部のページをめくって、物語の構成(起承転結とか)を把握します。(はあく:全体像をつかむ)
 ページをめくって、千暁(かずあき)という名前が出てきて、(ああ、この物語は、語り手を変えながら進行していくのだな)と予測しました。
 次に千暁の最初の言葉が『僕は何色だろう。』と出てきたので、登場人物の個性(キャラクター)を色で表現していくのだろうなあと予測しました。(あとで、千暁が美術部員だということがわかって、千暁は人を色で考えるのだろうと分析しました)(97ページに色の表現の言葉が出てきました『……僕があざやかな色で塗りつぶしてふさいできたその内側には、一体どんな色たちがうごめいていたんだろう』人の心の裏の色をさすような言葉でもあります)

 それから、ゆっくりと、中身は読まずに1ページずつページをめくっていきます。最後のページまでめくります。
 岡田鈴音(おかだ・すずね)の語りが始まりました。
 吉村千暁(よしむら・かずあき)にしても鈴音(すずね)にしても、ずいぶんむずかしい登場人物の名付けをするのだなあと感じました。千暁が男子で、鈴音が女子だろうと予想しました。

 ページをめくりながら、人の名前が多い。
 中学校の教室にいる生徒たちでしょう。

 75ページで、千暁が美術部員であることが判明しました。

 99ページで、鈴音が謝っているので(あやまっているので)、岡田鈴音が吉村千暁の描いた絵に墨を飛ばしたのでしょう。習字の墨だろうか。

 144ページに『スクラッチ』のことが書いてあります。
 『削り出し技法』と書いてあります。
 やはり、美術の絵画作成時の手法があるのでしょう。

 159ページに『起立性調節障害』とあります。
 今はまだ、なんのことかわかりません。

 184ページあたりまでページをめくりました。
 本の中を旅する気分でページをめくっています。

 最初は、たくさんの登場人物が、順番を変えながら、ひとり語りをして、物語を進めていくのかと予想しましたが違っていました。
 千暁と鈴音のふたりだけで、物語を語り継ぎます(かたりつぎます)

(つづく)

岡田鈴音(おかだ・すずね):千暁(かずあき)の近所に住んでいる。おてんば娘。すらっとしているが勢いはブルドーザー。パワー女子。バレー部部長。昔話に出てきそうな木造平屋に住んでいる。家の中はごちゃごちゃしている。

岡田鈴音の母:介護ホームで働いている。
岡田鈴音の父:介護ホームで事務職役職者
岡田初音(はつね):鈴音の姉。いつもは、大阪に住んでいる。(どうもコロナに感染していた気配がある。うーむ。読み直しました。感染はしていないけれど、都会から郷里に来たので、病原菌をもってきているかもしれないと思われている。自主的に自宅待機を二週間して発病しないことを確認するらしい)

吉村千暁(よしむら・かずあき):16ページ。鈴音に言わせると『ヘタレひょろ眼鏡』白い外壁のきれいなモデルハウスみたいな家に住んでいる。おしゃれな庭には美しい花が咲いている。家の中ではおだやかな音楽がかかっている。本人は陰キャラと自分のことを言う。(陰キャラ:見た目が地味。性格が暗い)

清瀬:同級生男子生徒。野球部員。お調子者でうるさい。

尾上健斗(けんと):同級生。体がでかい。背が高い。美術部所属の幽霊部員。もと校外空手チームの強化選抜メンバー。親と対立している。親の干渉がうっとおしい。起立性調節障害がある。吉村千暁は、尾上健斗がにがて。暴力的な怖さを感じるらしい。尾上健斗は、親が離婚していて母子家庭。母親は看護師。コロナ病棟担当

文菜(ふみな):女性バレー部のセッター(パスをあげる人)で副部長。生徒会長。鈴音の幼い頃からの知り合い。文菜の祖母が、鈴音の母親が働いている介護ホームに入所している。ポジションと役割として、鈴音が『猛獣』で、文菜が『猛獣使い』

二宮みのり:クラスメート。目がクリクリで小さくてリスみたいで、後ろでふたつに結んだ髪もリスのしっぽみたい。美術部員

玲奈:クラスメート。コロナ休校のあと、学校に来れなくなった。メンタル(心理状態)面がその理由

泉仙(いずみ・せん):美術の先生。仙ちゃん。女性。白髪交じりのやせ気味猫背。生徒に説教はしない。絵を描くことについての教え方はうまい。生徒を教え導く一般的な教師像はもっていない先生
エッシャー:オランダ人版画家。1898年-1972年。73歳没
マグリット:ベルギー出身の画家。シュールレアリスム(奇抜、現実離れ、幻想的)
野村先生:鈴音と千暁のクラスの学級担任。32歳。小太り大柄独身男性。
綾(あや):鈴音の隣のクラスのバレー部員
香澄(かすみ):鈴音の隣のクラスのバレー部員
高橋先生:数学教師。愛称タカッチー
進藤先生:厳しい数学教師
高瀬先生:学年主任。体育祭担当
種田山頭火(たねだ・さんとうか):俳人。1882年-1940年。57歳没
増田:217ページ。鈴音の母親が勤めている高齢者介護施設の職員。鈴音の母親より少し年上のおばちゃん。

 2020年(令和2年)のお話だそうです。思い出してみれば、日本でのコロナ禍が始まった年でした。
 新型コロナウィルス緊急事態宣言。地域によって期間の差あり。
 1回目:2020年4月7日(令和2年)-同年5月25日
 2回目:2021年1月8日(令和3年)-同年3月21日
 3回目:2021年4月25日(令和3年)-同年9月30日

 コロナ対策で全国一斉休校(地域で違いあり)
 2020年2月27日(令和2年)首相から要請あり。
 2020年3月2日(令和2年)-5月末まで。

 ユトリロ:フランスの画家。1883年-1955年。71歳没

(つづく)

 さて、登場人物の名前をだいたい把握(はあく)できたので、最初のページから読み始めます。

 2023年4月の今読むと、過去になりつつあるコロナ禍(コロナウィルス感染拡大による制限・規制など)のことです。バレーボール大会とか美術コンテストが中止になるのです。
 そんなことを中学美術部員の千暁(かずあき)が、色にたとえようとしています。白と肌色、あるいは灰色。まあ灰色でしょう。
 
 登場人物たちは、中学三年生です。
 自転車がパンクして道に倒れている女子中学生が鈴音ですが、太い神経をもつ女子らしく、倒れいることを気にしていません。コロナで総合体育大会が中止になって腹を立てています。

 マゼンダの鈴(すず):明るくて鮮やかな赤紫色の鈴
 アクリルガッシュ:ツヤなし不透明の絵の具。むかし中学生の美術部員だったわたしは、ポスターカラーというものを使ってポスターの絵を描いていました。そのことだろうか。別物のようです。

 三密(さんみつ):密閉、密集、密接
 
 なにやら大型台風の話があります。
 2015年(平成27年)だろうか。7月17日台風11号岡山県倉敷市に被害。(最後まで、どの台風のことをさしているのか、よくわかりませんでした)

 千暁(かずあき)のひとり語りが続きます。
 小学校四年生の時にこちらへ引越してきたそうです。
 厭世的(えんせいてき):世の中を嫌う。生きることがイヤになる。

 小学校四年生の時に千暁が出会った鈴音は、道路のまん中で、大の字になって寝ていたそうです。鈴音とはそういう豪快な女子なのです。
 鈴音と千暁のラブはありそうで、なさそうです。ふたりとも中学三年生です。
 色気づくころです。(異性に関心が湧く)

 ナツグミ:植物。赤い実がなる。
 551の豚まん:中華レストランの名称。551蓬莱(ほうらい)
 
 登場人物「千暁」をかずあきとは読みづらい。つい「ちあき」と呼んでしまいます。そのせいか、本には、ふりがなが、うってあります。どうして、こんな読み名を設定したのだろうか。

 クラスター:そんな言葉があったことを思い出しました。1か所5人以上のコロナ感染者というような意味。もう今はぜんぜん聞かなくなりました。
 ホルベインのオイルパステル:絵の具ほか絵画材料の製造販売企業の油性固形描画剤。クレパスのようなもの。

 人はなぜ絵を描くのだろう。(かくのだろう)
 描きたいから描く。
 それ以外の理由はない。

 クロッキー帳:速写。素早く、おおざっぱに対象の形を描くノート
 サルバトーレ・ダリの『記憶の個室』:木の枝に時計がだらーんとたれさがってかかっている絵。ダリはスペインの画家。絵は、ニューヨーク近代美術館にある。
 アザラシ:バレー部のペナルティ。うつぶせになって、手だけで前進する。

 みどり:バレー部の後輩
 のん:バレー部の後輩
 チート:ごまかし、ずる。いかさま

 千暁も鈴音もコロナ禍の規制でストレスがたまりにたまっています。
 行事中止。感染予防対策。体育祭は規模縮小か中止。飛沫が飛ぶ応援合戦はなし。無観客短時間開催。夏休み縮小。補習授業開催
 生徒さんには、そういったストレスがありました。

 女子中学生の心理描写が、鈴音のひとりつぶやきで続きます。

 美術の授業で墨絵があります。
 墨流し:マーブリング。水に浮いた墨を写し取る。
 ドリッピング:墨を含ませた筆を振って墨をはね落とす。
 吹き流し:ドリッピングで落としてたまっている墨を息でふうっと吹きかけて流す。
 アマビエ:今となってはなつかしい。半魚人の体。妖怪。疫病(えきびょう)による災い(わざわい)よけ。
 沙織(さおり):バスケ部

 鈴音から千暁に対する片思いになるのかなあ。

 鈴音の動きで、墨汁が千暁の絵にかかってしまいました。

 なんというか、千暁の力作の絵は、行事の中止で、もともと展示されることがない絵になっていました。

 国語教科書の『少年の日の思い出』:ヘルマンヘッセの短編小説。中学一年生の国語の教科書に掲載されている。過ち(あやまち)を許してもらえないという内容。見損なったというような表現があります。(みそこなった:きみは、人としてだめだ)

 千暁から水害の話が出ます。
 避難所でタンポポの絵を描いたそうです。
 千暁が小学校4年生の7月大型台風が来て自宅が風水害で被災したそうです。
 父親は、病院で、システムエンジニアとして待機しています。
 人生に災難はつきものです。
 病気やケガ、事件や事故、自然災害などで、人生の途中で、無念にも命を落とす人たちがいます。
 五十代になって同窓会名簿を見るとわかるのですが、小中学校、高校で同級生、先輩、後輩だった人が何人も亡くなっています。今、中学や高校の教室にいるメンバーが、この先ずーっと長寿でいられる保証はないのです。

 ハチャトゥリアンの『剣の舞』:楽曲

 台風の被害で、千暁の母の知人がひとり亡くなった。おかあさんはショックで、表情がなくなった。
 千暁ファミリーは、自宅の再建に年数がかかることであきらめて、千暁が小学四年生のときに母親の実家があるところへ引越すことになった。
 それから5年が絶って、千暁は、中学三年生で今いる。

 墨で汚れた絵をどうするのか。
 (絵というものの製作に終わりはありません。いかようにもどのようにも創作は続けられます)
 千暁の心理として『まだなんとかなる』
 
 黒のアクリルガッシュ:アクリルガッシュは、ツヤなし不透明の絵の具(このあとアクリルガッシュ絵の具を剥ぐの(はぐの)です。タイトル『スクラッチ』につながりました。スクラッチ技法です。削れ、削れ、削り出せ)

 『……僕はもう何年も嘘の絵ばかり描いていた気がする。』(世の中は、うその世界を表現する世界が多い。みせかけだけの形だけの世界です。ものごとをきれいごとに加工することが、世間のありようです)
 
 ネイビーブルー:濃紺
 ピカソの泣く女:ピカソの浮気で泣く女性
 アリーナ席:スタンド席ではなく、通常は席がない区域に設置された席のこと。
 脈絡(みゃくらく):一本の筋道
 帆布(はんぷ):キャンバス生地(きじ)

 ときおり出てくる音楽の曲は、聞いたことがない人間にとってはピンとこない。
 エンターティナー:洋画「スティング」の曲。スティングは「だます」という意味でした。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが出ていました。
 スッペの軽騎兵(けいきへい):これから、なにかのものごとが、はじまるぞーみたいな感じの曲。トランペットから始まる。
 シュトラウスのツォラトゥストラはかく語りき:ドンドンドンドンという夜明けの感じ。洋画「2001年宇宙の旅」で使われた曲

 170ページまで読んできて、中盤の話のなかみがわかりにくいです。
 もうひとつ。千暁(かずあき)をかずあきと読みにくいまま読んでいました。
 先日、自分がいつも見ているテレビ番組「東野&岡村の旅猿23」で、旅先は京都・大阪、ゲストは吉本興業の小藪千豊(こやぶ・かずとよ)さんでした。『千(かず)』が重なって、千暁(かずあき)を素直にかずあきと読めるようになりました。

 芽衣(めい):鈴音のバレーボール部の後輩
 総体はなくなった。

 203ページまで読んで、内容を理解できていないので、最初のページからゆっくりめくりなおすことにしました。わたしは読解力がない人間なので手間がかかります。

 通称「総体」とは:中学生運動部員によるスポーツ大会のこと。夏の初めにある。(6月下旬ぐらいから始まるのでしょう)市郡の総合体育大会。勝てば、県総体、さらに全国総体と上がっていく。ただし、今回コロナ禍で開催がなくなった。こちらは岡田鈴音のコロナ禍被害関係です。

 美術部に関して。「市郡こども美術展」がある。:各中学校内の校内審査を経た作品が出展され、次に市郡審査にかけられ、特選か入選か選なしに判定される。特選ならば、高校受験の内申点が良くなる。ただし、今回コロナ禍の影響を受けて、校内審査を通った絵を集めて飾るだけで終わりとする。市郡規模での審査はなし。こちらは吉村千暁のコロナ禍被害関係です。

 2020年4月(令和2年)に岡田鈴音と吉村千暁は、中学三年生に進級した。しかし、5月末ころまでは、コロナ禍の規制「全国一斉休校」のために通学することができなかった。
 ゆえに、総体の中止、市郡こども美術展の審査の中止は2020年のことになる。(令和2年)
 
 吉村千暁の自宅は、小学四年生の夏に大型台風の被害にあい、家が損壊し、やむなく、被災地から当地へ両親とともに転校してきた。当地は、母方の実家のそばである。
 吉村千暁が被災した大型台風とは、台風何号なのかとかは、明記はされていない。それとも架空の設定だろうか。

 吉村千暁が製作している絵:市郡の展覧会に出展するつもりだったが、展覧会がなくなった。大きなパネル。キャンバス地。オイルパステルで書いた。(油性の柔らかいクレヨンみたいなものか)
 絵は、毎年夏休み明けの体育祭で飾られたあと、市郡の展覧会に出展される。
 絵には、野球部の清瀬、バスケットボール部の沙織、テニス部の水野、バレーボール部の鈴音の絵が描いてある。

 岡田鈴音のふとした体の動きで、手に持つ筆に含まれていた墨汁が落ちた。
 あわてた鈴音が、墨汁をぞうきんでふいたら、墨汁の汚れが絵に広がった。
 鈴音は吉村千暁にあやまったが、見損なったというような態度をとられて、鈴音の気持ちは落ち込んだ。
 絵の中の鈴音の顔は墨汁で黒く汚れている。

 アクリルガッシュ:ツヤなし不透明の絵の具。バーガンディ(暗くて紫みのある赤。ワイン色)、クリムゾン(濃く明るい赤)、ブラウン、オーク(ベージュ色、木の色)、レモンイエロー、黒
 
 暗闇の牛:暗闇から黒い牛を出す。物事の区別がつかない。

 吉村千暁は、台風に被災したときから、ウソの絵を描いてきた。最初に描いたウソの絵が『タンポポ』だった。(きれいごとの絵ということでしょう。見た人が喜ぶ絵(タンポポは母親が見ました)。自分の正直な気持ちが表れていない絵。人からの評価を気にする絵)
 97ページ『あれからずっと、僕があざやかな色で塗りつぶしてふさいできたその内側には……』(内側に本物の色があった。目には見えないけれど、自分の本心がこもった色があった)
 
 岡田鈴音が、吉村千暁によって、真っ黒に塗りつぶされた自分が墨汁で汚した絵を見て大泣きした。ショックを受けた。
 吉村千暁は、キャンバス地のパネル絵のアクリルガッシュで真っ黒に塗った部分を、パレットナイフを使って削り出し始めた。(スクラッチ。削り出し技法)
 削った下地に、もともと描いてあった岡田鈴音の顔が出てきた。美しい岡田鈴音の顔の絵だった。そのあとがはっきりしないのですが、岡田鈴音の顔は鼻をたれている絵となった。黒い絵の具を削った時に鼻をたれていたのではなく、岡田鈴音が大泣きをしたことをきっかけにして、吉村千暁が鼻たれの絵にしたと自分は受けとりました。それからほかのメンバーの顔や姿もあったと思うのですが文章には出てきません。絵には、野球部の清瀬、バスケットボール部の沙織、テニス部の水野、バレーボール部の鈴音の絵が描いてあるのです。
 その絵を『県展』に出展することになった。審査に通ると(特選、入選、選外出展認可、出展不可の区別あり)、県立美術館に作品が展示される。

 サティの『ジムノペディ』:ピアノ独奏曲。聴くと、ああ、どこかで聞いたことがあると感じます。
 パウチ:ラミネート加工。両面をフィルムではさむ。
 ハイスペ陣:ハイスペック(能力が高い)成績、運動

 最初のページからめくりなおして、194ページ付近まで戻ってきました。
 内容を理解しようとするとけっこうむずかしい本です。
 198ページ前後のページは読むのがたいへんです。
 
 高齢者介護施設のお祭りで、お話を締めるのだろうか。
 無理な進行ではなかろうか。
 この部分がいるのかなあと思うようなお祭りと花火の話です。
 話の種はいくつかまかれているのですが、はっきりとした回収がなされていません。
・玲奈がコロナ禍の休校後、中学校へ登校できなくなっている話
・岡田鈴音の姉である岡田初音のコロナ禍がからんだ帰郷話
・介護施設で働く岡田鈴音の両親の仕事の話
・岡田鈴音と吉村千暁のほのかな恋愛っぽい話
・吉村ファミリーの大型台風被害の話

(つづく)

 読み終えました。
 いくつか理由があるのですが、わたしには合わない作品でした。
 読みにくかった。

 今となっては『コロナ禍』も過ぎてしまったことです。
 いつまでも過去のことにしばられて、負の感情(ふの感情。へこんだ気持ち)にひたっていたくはありません。不幸をひきずっていては、明るい未来は来ません。どうしたって、過去を変えることはできないのです。
 204ページあたりから最後までを読みながら思ったことをぽつりぽつりと書いてみます。

①登場してくる人物たちの名前の扱いがぞんざいでした。(ぞんざい:注意深さや思いやりが足りない)鈴音(すずね)は読めますが、千暁(かずあき)は読めません。ふりがなをふって表記するぐらいなら、最初からすんなり読める名前を付けて欲しかった。加えて、苗字(みょうじの)設定がよくわかりませんでした。基本的に下の名前だけで物語を流してあります。登場人物たちは苗字があったり、なかったりのバラバラで、読んでいて気持ちが落ち着きませんでした。創作の荒さを感じました。19ページの文末に『……この辺の地区は親戚でなくても苗字がかぶっている家が多いから名前で呼び合うことが多いんだ』とあるのですが、「親戚だから」ならわかりますが、親戚でなければ苗字がかぶることはないと思うのです。

②237ページあたりを中心に、マンガのコマ割り(絵が描いてある区画単位)を見ているような会話が続きます。絵がないので場面をイメージできず苦痛です。

③読み手にすんなり理解できなかったり、連想できなかったりする単語の羅列(られつ。並べてある)があってわかりにくいです。音楽や楽曲の曲名だったり、絵の具の種類や色だったりです。

 サコッシュ:肩掛けの小さいかばん、袋。自転車のロードレースで使うのが起源
 ネイビーブルー:濃紺
 
 中学生の夏休みの職場体験みたいなことが書いてあります。施設内のお祭りです。模擬店(ヨーヨー釣り)とか。

 花火の話が出てきました。「疫病退散花火」です。
 
 サモトラケノニケ:背中に翼が付いた形をした女神像。頭の部分、両手の部分はない。フランスパリにあるルーブル美術館に保存されている。1863年にエーゲ海で発見された。(そのころの日本は江戸時代末期。1868年が明治元年。米国ではリンカーン大統領が奴隷解放宣言をしたころ)
 
 なぜ、めざす職業が『医師』なのだろう。
 安直な感じがしました。人助けなら、ほかにも医療職、福祉職はあります。(あんちょく:考えが浅い)
 以降も、学歴偏重、職業偏重(へんちょう。いっぽうばかりへのかたより)が感じられるような記述内容でした。(めざすのは、医者、弁護士、大学教授…… 高校は有名大学難関学部をめざす特別なクラスに入る。上層部をめざす特定少数のこどもに向けて書かれた作品なのだろうか)

 後半部は、なにかしら権威主義的圧力で圧迫感がありました。
 そこまで一生懸命にすると、メンタルが壊れます。(心が崩壊)
 中学校の中だけの世界です。
 社会に出たらいろんな人がいて、いろんな空間があります。
 そしてけっこう、いいかげんな人がいっぱいいます。
 こどもさんには、柔らかく順応していってほしい。  

Posted by 熊太郎 at 06:41Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2023年05月01日

方舟(はこぶね) 夕木春央

方舟(はこぶね) 夕木春央(ゆうき・はるお。男性) 講談社

 方舟(はこぶね)で思い出すのは、ノアの方舟です。洋画を観たことがあります。
 帆船のような進む船ではなくて、まさに『箱の舟』で、生き残るために、ただ海に浮かんでいるだけの船でした。
 こちらの本では、表紙をめくって数ページあとに旧約聖書の記事が出てきました。

 本の帯を読むとホラー(恐怖)小説のようです。
 本屋大賞の候補作でもあります。(大賞は別の作品が受賞しました)
 友人がいて、従兄(いとこ)がいて、柊一(しゅういち)がいる。
 山奥に地下建築物がある。
 地下建築物に家族がいる。
 地震が起きる。
 扉がふさがれる。
 水が地下建築物に流れ込み始める。
 地下建築物である『方舟(はこぶね)』はいずれ水没する。
 殺人が起きる。
 だれかを生贄(いけにえ。犠牲ぎせい)にすればほかの人たちは脱出できるそうです。
 タイムリミットは1週間だそうです。
 なんだか、恐ろし気な(おそろしげな)物語が始まりそうです。
 301ページあります。
 さあ、読むぞ!
 自分は、いけにえとして、だれも死なないという展開を予想しました。(はずれました)

(つづく)

 地下建築物です。(貨物船のような地下建築物)
 地下1階なれど、地下1階が地下10m近い位置にある。
 建物には、地下2階と地下3階がある。
 地下1階にある部屋は120号である。(1階の20号室だろうか(当たっていました。28ページにあるレイアウト図を見つけました))
 地下3階から水の音が聞こえる。(水がたまって、やがて水槽のように水がたまって皆殺しだろうか)

 登場人物です。メンバーは、翔太郎を除いて、都内の大学の登山サークルでいっしょだった。
① 絲山隆平(いとやま・りゅうへい):レスラータイプの体。スポーツジムのインストラクター

② 絲山麻衣(いとやま・まい):絲山隆平と夫婦(しかし、夫婦には見えない)。幼稚園教師

③ 高津花:女子。蛍光色の登山服を着用。事務職。小柄でボブカット(おかっぱの髪)

④ 越野柊一(こしの・しゅういち):スマホを持っている。この物語の語り手。主人公。システムエンジニア

⑤ 西村裕哉:裕哉が父親の別荘をみんなに提供した。地下建築物は別荘から歩いていける距離にある。裕哉がなにかをたくらんだのではないかと自分は思う。裕哉は、アパレル(服飾)関係の仕事をしている。

⑥ 野内さやか:女子。ウォームブラウンの髪(明るい茶褐色。暖色系)。ヨガ教室で受付担当

⑦ 篠田翔太郎:柊一のいとこ。五年前に叔母から相当の遺産を相続した。無職。投資家。縦じまのセットアップスーツを着ている。(上着とパンツが異なる)ほかのメンバーより三歳年上。身長は高い。

 ここまで読んできて、おもしろそう。
 読んでいるわたしには、今いる7人が、近ごろよく耳にする闇バイトのメンバーに思えます。
 地下建築物の中から、特殊詐欺(とくしゅさぎ)の電話をかける『かけ子』のバイトではなかろうか。
 (違っていました。特殊詐欺闇バイトのメンバーなら、おもしろいのに)
 こちらのメンバーは、大学時代の友人たちによる同窓会のようなものらしい。
 午後4時48分、地下建築物を発見しました。

(つづく)

 地下建築物の出入口は、直径80cmぐらい。マンホールみたいなふたがある。
 穴はたて穴、はしごのようになっている。
 途中に大きな岩がある。岩には、太い鎖が巻かれている。(いざというときに、地下1階の扉をふさいでバリケード(防壁)になることがあとでわかる)
 発電機がある。
 地下1階に複数の部屋がホテルのように配置されている。合計で20部屋ある。
 地下2階にも20部屋がある。
 (読んでいて、核シェルターのようだと思いました)
 (昔あった、赤軍派のあさま山荘事件を思い出しました。1972年2月(昭和47年)人質立てこもり事件)
 209号室に拷問道具あり。(ごうもんどうぐ)
 地下3階は水がたまって水没している。水の中に、鉄筋や鉄骨が見える。
 (こどものころに遊んだ山に掘られた横穴式防空壕(ぼうくうごう)を思い出しました)
 地下建築物の図面あり。タイトルは『方舟(はこぶね)』
 構築物において、出入口の反対側に『非常口』あり。出入口と同じく、上げふた方式。出入口と非常口の間は100mぐらい。
 (本には、新興宗教の修行施設ではないかと書いてあります。ノアの方舟(はこぶね)からきているのでしょう)
 
 外出したい。穴から出て、外部と連絡をとりたい。花と裕哉とさやかが外に出ました。
 3人が6人になって戻って来ました。
 3人連れの親子が加わりました。
 父 矢崎幸太郎:五十代。白髪交じりの角刈り。太い黒縁メガネ。電気工事士。地元住まい
 母 矢崎弘子:小太りでショットカット
 息子 矢崎隼人(はやと):中学生ぐらい見えるが、高校一年生
 家族はきのこ狩りに来て道に迷った。
 メンバーは10人になりました。

(つづく)

 三人の矢崎ファミリーが地下建築物に泊まるそうです。
 (変です。地元の人ならなおさら、自宅へ帰ります)

 登場人物がたくさん出てきました。
 ようやく、みなさんの名前ほかを把握しました。
 まだ42ページ付近にいます。
 以前読んだ『硝子の塔の殺人(がらすのとうのさつじん) 知念実希人(ちねん・みきと) 実業之日本社』の雰囲気と似ています。硝子の塔(ガラスのとう)が、密室殺人事件の場所でした。

 午後9時すぎ。
 花とさやか寝る。西村裕哉寝る。絲山隆平と絲山麻衣寝る。
 食堂に残ったのは、越野柊一、篠田翔太郎
 
 トランシーバーアプリ:スマホ同士でトランシーバーのように会話ができる。越野柊一と絲山麻衣の間でできる。昔、みんなでアプリをスマホに入れた。今も入れているのは、ふたりだけのもよう。

(つづく)

 地震が起きるわけですが、ふつう、地下構築物は地震の揺れに強いと聞きました。
 こちらの方舟は、(はこぶね)壊れません。
 しかし、地下1階出入口付近に置いてあった大きな岩が地下1階の扉をふさいでしまいました。
 非常用の出入口につながっている通路は、水没している地下3階にありますし、メンバーが出られません。ピンチです。

 205号室:資材置き場
 207号室:倉庫。工具が置いてある。のこぎり、金槌(かなづち)など。
 209号室:拷問道具が保管してある。
 
 午前6時13分。
 西村裕哉がいない。
 地下水が少しずつ上昇してきていることがわかる。(絶体絶命のときに湧水がストップするという結末が瞬間的に頭に浮かびました。さて、当たるだろうか?)(はずれました)
 そして、もうひとつ『方舟の配置図(構造図)』は、正しいのだろうか。(正しくない。誘いのしかけが隠されているかもしれないと思いつきました)(正しかった)
 
 ひとり死にました。(殺害されているそうです)

(つづく)

 68ページまで読んで、設定として、いろいろ不自然な話がある内容だなという気分です。
 人間はそのようには動かない。

 殺された人間の死因は絞殺でした。絞殺:物で首を絞める。扼殺(やくさつ):手で首を絞める。

 犠牲者とか生贄(いけにえ)の意味:助かるためには、誰かが出入口をふさいでいる大きな岩を地下二階に落とす作業をしなければならない。しかし、作業をした人間は、地下二階にある空間から脱出ができなくなる。そういう意味だということがわかりました。立候補がなければくじ引きです。地下水が上昇してきて脱出ができなくなるまでの猶予は1週間弱です。さしあたって、ひとりの人間を殺した犯人がいけにえの候補です。
 (読みながらの結末として、全員が助かるのではないかという予想が自分に生まれました。そして、殺人犯人は、いままで登場した人間のなかにはいないのではないか)

 探偵役は、主人公越野柊一(こしの・しゅういち)のいとこ篠田翔太郎です。
 
 読み手の自分は、殺人の動機がわかりません。
 うらみが動機なのか。

 205号室にビニールテープがあった。
 215号室に工具箱があった。

 ダイビング機材が見つかったが使用できない状態になっている。タンクを背負えない。

 ベンチレーター:換気装置

 117号室:絲山夫婦の部屋

 殺された人間がもっていたポテトチップスがほしくて、もめる人間がいます。

 不思議な状態です。
 自分たちが、一週間後に水没する地下構築物のなかで死ぬかもしれないというのに、睡眠時間をきちんととるメンバーです。
 ふつう、眠らずに、脱出するためのなんらかの作業を続けます。ここで、死んでもいいと思う人はいません。

 矢崎三人家族になにか秘密があるのか。

 野内さやかが、この建物の写真をスマホで見たことがあったそうです。
 115号室にいた野内さやかと高津花だが、野口さやかがその部屋を出て、108号室に引っ越した。高津花がひとりのほうが落ち着くという言う。
 108号室の前で、野内さやかが高津花に黒っぽいものを渡した。

 チリコンカーンの缶詰:ひき肉玉ねぎ炒め。インゲン豆、トマト、チリパウダーなどを混ぜる。メキシコ起源のアメリカ合衆国料理

 殺されないために集団でいたほうがいいのに、個々に別れるということは、自分は殺されることはないという自信があるということなのではないだろうか。
 数人がグループになっていて、ひそかに、うらみをもつ相手をこの世から消去しようとしているのではなかろうか。動機は何?

(つづく)

 読み終えました。
 なかなか良かった。
 とりあえず、121ページ以降の感想を順番に書いてみます。

 死体の数が増え続けます。
 殺人の動機がわからない。(最後の最後までわからない)
 『方舟(はこぶね)』のイメージをどうとらえるのか。
 スマホのことがいっぱい書いてあります。
 スマホを探すメンバーのなかに殺人者がいる。
 
 レギュレーター:ダイビングの機材。呼吸するための機材
 ウェーダー:胴付長靴
 パスコード:パスワード
 
 現実味のない設定なので、推理だけを楽しむ本です。
 犯人はだれか、殺人の動機はなにか、殺人の手法はどのようにやったのか、そして、地下からの脱出はどうなるのかです。

 256ページ付近の記述では、『君』とか『ちゃん』の敬称はないほうが読みやすいです。

 ふむ。そういうことか。犯行に使用した道具から犯人をあぶりだしていく。

 迂遠(うえん):遠回り。道が曲がりくねっている。

 なんというか、犠牲者をひとり決めるわけですから、関係者全員が人殺しみたいなものです。
 見殺しです。

 蹲る:うずくまる

 そうか。傑作です。
 気持ちがスカッとしました。
 たいしたものです。
 うまいなあ。
 人間の本心をじょうずにあばきだしてあります。
 妥協を許さない姿勢が良かった。
 人間というのは、自分の幸せしか考えていない生き物である。自分がこの本を読んで感じた、つくり手からのメッセージです。
 人間が個々の深層心理の奥にもつ『悪意』をあぶりだす作品でした。  

Posted by 熊太郎 at 06:54Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2023年04月29日

じい散歩 藤野千夜

じい散歩 藤野千夜(ふじの・ちや) 双葉社

 なんだかテレビ番組みたいなタイトルです。『ちい散歩』とか『じゅん散歩』です。

 ふたり合わせてもうすぐ180歳とあります。
 高齢者ご夫婦です。

明石新平(あかし・しんぺい):89歳。男5人女4人の長男として生まれた。長身でがっちりした体、若い頃は見た目のいい青年だった。戦争体験者。召集令状が来て、軍人として訓練を受けた体験あり。現在は、年金収入と不動産賃貸収入で生活している。70代まで、自営業「明石建設」社長だった。いまはもう明石建設はない。

明石英子(あかし・えいこ):88歳。明石新平の妻。夫とはご近所さんだった。お互いに顔見知りだった。新平が17歳、英子が16歳のときから交際を始め、いろいろ経過があって、7年後の昭和24年に結婚した。体格は豆タンクのようなおばあさん。

長男 明石孝史:52歳。未婚。高校中退後、無職。両親と同居。ひきこもり。

次男 明石健二:50歳。未婚。よそで暮らしている。オネエ。女装していている。

三男 明石雄三:48歳。未婚。両親にお金の無心をしている。(むしん。せびる。ねだる。たかる)体重は100キロオーバー。グラビアアイドル撮影会のような仕事をしている。ぬいぐるみが好き。

 第一話から第十話まであります。すべてのタイトルの冠に(かんむりに)『秘密』という言葉が付いています。なんだかおもしろそうです。

『第一話 秘密の部屋』
 マイペースな老いた夫と妻です。夫は夫のやりたいことをやり、妻は妻のやりたいことをやります。
 もうおふたりとも九十歳近い。
 
 読み手としてですが、地方で暮らしていて思うのは、東京で生まれて、東京で育って、東京で人生を完結させる人は『東京=日本』という意識なのでしょう。
 狭い世界で過ごす人生なのですが、実感はないのでしょう。
 いいとかわるいとかではなく、そのような人生の人もいます。

 主役のじいちゃん明石新平89歳は、東京都豊島区椎名町の自宅から池袋まで25分ぐらいかけて歩きます。思い出散歩です。
 明石新平はじいちゃんですが、孫はいません。男三人兄弟の息子は、いずれも未婚です。なんだかさえないけれど、明石新平夫婦はめげていません。ただ、最近、奥さんがわけもなく朝、涙を流しているらしい。認知症の気配が近づいてきているようなようすがあるそうです。

 散歩しながらの明石新平さんの思い出話の部分を読んでいると、これまで生きてこられたのは、主人公もそうですが、自分自身も奇跡だと思うのです。
 人生には、命を落とす危険がいっぱいあります。病気やケガ、事件や事故、自然災害もあります。もしかしたらこの先、戦争もあるかもしれません。
 人にはあまり言いませんが、自分もこれまでに何度か死にそうな体験をしてきました。ほかの人たちも同様だと思います。生き続けていくためには『運(うん)』が必要なのです。世の中で起きている命を失いそうな驚くようなニュースは、実は、他人(ひと)ごとではないのです。日常茶飯事のこととして自分自身に起きそうな気配はあるのです。油断は禁物です。

 書中にある長老になった明石新平の人生のふりかえりである文章、文脈にしみじみさせられます。
 なかなかいい本です。
 
『第二話 秘密の女』
 女優さんが出てきます。準主役クラスの女優さんです。たまたま明石新平宅のお向かいにご夫婦で引っ越してきました。
 明石新平が70歳すぎのころからお向かいに女優のご夫婦が暮らしています。
 女優さんにあこがれる明石新平です。あこがれだけです。
 でも、明石新平にとって、あこがれだけではすまない女性の存在もあります。秘密の女です。
 明石新平はエロ写真が好きで集めています。
 昭和24年当時の昔話が重なります。
 
 文章が読みやすい。

 そうか。中絶か。
 自分の親の世代は、こどもが多く、兄弟姉妹がたくさんいる世代なのですが、昔はよく中絶することがあったと、90歳近い自分の親世代から話を聞いたことがあります。
 養子に行くとか、養子に出すとかいう話もよくありました。
 
 明石新平の伝記です。建築士の資格をとって、昭和29年に自分の家を持ちました。
 昭和30年夏、明石新平は29歳です。『明石建設』を始めました。
 英子35歳で長男孝史をさずかる。昭和37年8月生まれです。

『第三話 秘密の訪問』
 なんというか、息子は三人いるものの、昭和37年生まれの長男は高校中退、無職引きこもり(テレビ・ラジオ・クロスワードパズル解きで時間をつぶす)、昭和39年生まれの次男はオネエで、自称自分は長女(おかっぱ頭で、裏声で話す。スカートのようなズボンをはいている。胸がふくらんでいる。娘のような次男である)、昭和41年生まれの三男は借金男で、三人とも未婚です。明石新平がつくった自営業の明石建設という会社がありましたが、息子が三人いても後継ぎはいません。まあ、これが現実かもしれません。奥さんはどうも認知症です。

 読んでいると、胸にしみじみと広がってくるものがあります。
 落語のようでもあります。
 九十歳近い夫婦にとっては、(人生においてやることが)もう終わったんだなあ。
 極楽行き待ちで、あの世にいくまでのひとときを、思い出にひたる世界ですごしているのです。
 もうあの人もこの人も、お先に極楽へ行かれて、極楽で待ってもらっているような状態なのです。
 
 昭和53年椎名町(しいなちょう)に住居を構える:東京都豊島区内
 この物語には、モデルとなる家庭があるのだろうか。

『第四話 秘密の調査』
 味わいのある作品なのですが、この第四話を読み終えて、少し飽きてきました。
 89歳になる明石新平さんの昔の浮気話が主線になって、88歳になる奥さんの認知症が進行していくのですが(夫が今も浮気をしているとしつこく夫や周囲にからみつく認知症の症状がある)、老夫婦のことであり、物語の中の話としては長くなってきたかなあと飽きてきたのです。このあと、奥さんの治療なり、ご逝去へと向かっていくではなかろうか。(違っていました)

 タイトルにある「秘密の調査」は、夫の浮気調査です。
 親族関係において、八十代の世代は兄弟姉妹間のつきあいが濃厚です。
 兄弟姉妹親族同士が都市部に出て、いっしょに住んで助け合っていた時代がありました。
 明石一族五男四女、それぞれの配偶者も含めて、おおぜいでの一泊二日慰安バス旅行があります。
 行き先は伊豆の温泉です。東京住まいのメンバーとして、明石夫婦、末娘のはるえ夫妻、養子に出た定吉夫妻が参加しています。
 明石新平さんの奥さん英子さんの夫に関する浮気話が旅先で止まりません。
 でもみんな承知しているからだいじょうぶです。認知症であることもわかっておられるのでしょう。
 あと、新平さんの浮気は過去のことであることも。
 明石新平さんの過去の浮気相手のひとりが大衆割烹店(かっぽう。日本料理)で働く田丸屋の冨子さんです。(とみこさん)
 嫁、姑(しゅうとめ。新平さんの母親。和菓子屋の娘)の仲が悪かった。姑が嫁の英子さんを嫌っていた。嫁の英子(えいこ)さんには、いろいろご苦労があったようです。

 明石夫婦は、うまくはいっていないようですが『平和』があります。
 お金と時間という余裕があって、いろいろあったという思い出があります。
 高齢者の脳みその中の風景です。

『第五話 秘密の話』
 明石新平さんは浮気をしたバチが当たったのでしょう。
 毎日毎日、認知症になった奥さんから、あなたは大衆割烹(かっぽう。日本料理。芸者は呼ばない。芸者を呼べるのは「料亭」)田丸屋の冨子と浮気をしていると責められます。
 いい文章がありました。『……女というのはおかしなことですぐ感情的になり、きーきー、わーわー騒ぐ生き物だった。それが受け入れられなければ、今度はふて腐れる。かと思えば……ケロッとしているのだから……』
 
 わたしがこれまでに知っている九十歳近い夫妻は、たいてい病気持ちです。
 この物語の夫妻は伊豆旅行にも行けるし、体を十分動かせることが意外です。
 歩行が不自由な人が多い中でたいしたものです。
 九十歳近くなると、親しかった人たちがもう死んでしまったという話ばかりです。
 明石英子さんはプライドが高い。
 東京の女学校を出たということが自慢だそうです。
 娘時代は、高嶺の花(たかねの花。手が届かない存在)と言われていたそうです。

 広田先生(医師):明石家のかかりつけの医者。広田病院の医師。89歳

 奥さんの嫉妬心が強烈です。(しっと。やきもち。うらむ。ねたむ)
 奥さんが叫びながら新平さんのパンツを引きずりおろします。
 奥さんが認知症でこわれちゃってます。

『第六話 秘密の思い出(一)』
 奥さんの明石英子さんはおふろに入らないらしい。
 最近は、おふろにしっかりつかって入らない女性が増えました。
 シャワーだけとか、毎日は入らないとか。
 清潔にして、体をリラックスさせて休めたほうがいいと思います。

 ご主人の明石新平さんは、奥さんをだますようにして、認知症の検査を受けさせます。
 健康診断が誘い出しの名目です。
 結婚して65年、たどり着いた先は、脳力の衰えです。
 ときに、奥さんは凶暴になって、だんなのパンツを脱がせてひきはがそうとするのです。
 だんなの新平さんは相当数浮気をされたようです。
 五十代のころまで、複数の浮気相手がいたそうです。奥さんにうらまれてもしかたがありません。

 娘道成寺(むすめどうじょうじ):娘が大蛇になって、愛する男を焼き殺す。
 踵(きびす):かかと

 映画にするとおもしろそうな内容です。(映画になるかもしれません)

 トイレのスイッチの下にある妻が書いたという張り紙『わたしを忘れないで』
 
 さなえ:英子の姉(すみれ姉ちゃん)の娘。新平の姪(めい)。昭和49年都内の高校卒業後、明石建設で事務員として働く。当時、長男孝史が小学6年生、次男健二が小学5年生、三男雄三が小学二年生だった。彼らからみて、さなえはいとこ。さなえは、もう60歳近い。ドイツ車のベンツに乗っている。

 ちいこ:雑種犬の名前

 手かざしの道場:霊能力をもつ人間が悪いところに手を当てると良くなるという宗教的な行動。病気が治る。

 鰯(いわし)の頭も信心から:いったん信じてしまえば、どんなものでもありがたく思えるということ。

 明石英子さんは、とにかく新平さんの浮気が気になる。
 新平さんを愛しているから気になるのか、新平さんを自分の所有物と思っているのか。

『第七話 秘密の思い出(二)』
 新橋演舞場へ、明石英子さんとさなえさんが演劇を観に行く。新平さんは送迎をする。
 水谷八重子さんが二代目で、娘の水谷良重(みずたに・よしえ)さんが、あとを継いだということは、この本を読んでいて知りました。(この文章をつくったあと、テレビ番組『徹子の部屋』で、ゲストとして水谷八重子さんが登場されたのでびっくりしました。縁を感じました)
 近藤正臣さん(こんどうまさおみ)は、自分がこどものころ日曜日夜7時だったと思いますが、テレビ番組『柔道一直線』で知りました。ピアノの鍵盤の上にのって、足の指でピアノを弾いていました。

 バブル経済崩壊時の会社経営者の苦慮について書いてあります。従業員のクビを切らねばなりません。新平さんは、相当うらまれています。まったく怒らない(おこらない)仏のなんとかさんといういつも笑顔だった年配従業員男性が、リストラされるときに、新平さんに罵詈雑言を浴びせています。(ばりぞうごん:荒っぽい悪口での攻撃)雇われている人が仏でいられるのは、お金がもらえるからだと思いました。そんな読書感想話をうちの家族に話したら(これまで社長や会社のためにがまんして尽くしてきたのに、どうして自分がリストラ(解雇)の対象になるのかという理由で激高したのだろうという話でした。社長の指示に従わなかった働きが悪かったほかの人間をリストラの対象にすべきだという主張です。公平・不公平の話です。組織の維持に十二分に貢献した社員は解雇するな!です。納得しました。雇っているほうも雇われているほうも同様の苦労を体験した人は多い。

『第八話 秘密の思い出(三)』
 新平さんの浮気話のくり返しが読んでいて飽きる理由なのですが、さらに、別の男性が浮気をしていました。けれど、もうその人は、2年数か月前に亡くなっています。
 物語の中では、夫が亡くなった病室で愛人が泣いています。関係者にとっては修羅場(しゅらば。激しい闘争。痴情のもつれ)です。

 明石新平さんは、まだ小学生6年生だった次男の建二くんを連れて、なんと愛人の冨子さんの家へ行き、三人でドライブしてボウリングもしています。冨子さんは、新平さんと結婚できると思っていた節があります。

 ここまで読んできて思ったことです。
 自分もそうですが、人間も歳をとってくると『ああ、もう終わったな』と思うことがあります。
 やりたいことはだいたいやれた。やれなかったこともあるけれど、すべてのことがやれるわけでもない。
 うまくいったこともあったし、うまくいかなかったこともあった。
 自分が迷惑をかけた人もいたし、逆に自分が迷惑をかけられた人もいました。ただ。その人たちの多くは、すでにお亡くなりになりました。相手に対して、いまさら、どうこう思うこともありません。
 先日テレビ番組『月曜から夜ふかし』中国ロケの映像で見た、椅子に腰かけておられた中国人高齢女性へのインタビューが良かった。
 どうしたら長生きできるのですか? という質問に対して高齢の女性は『生きているんじゃない。死んでいないだけだ』と返答されました。名言です。
 老齢になると、死ぬまで生きているだけの時間を与えられている状態になるのです。『(死んでないけど)もう終わったな』

『第九話 秘密の交際』『第十話 秘密の旅路』
 「清美さん」という名前が出てきました。絵画教室の生徒さんです。明石新平さんは女性に気が多い。個体が生まれ持った性質なので変われないのでしょう。女好きです。脳みその病気ですな。配偶者はあきらめるしかありません。配偶者は、ほかに生きがいを求めたほうがいい。

 夫婦そろって九十代に近づいて、こんなに長生きをするとは思っていなかったという明石新平です。
 わたしの知る九十代に近い年齢の夫婦は、ふたりとも歩行が不自由で、最後はふたりとも障害者手帳をもらいました。
 この物語のなかにいる明石夫婦はお元気すぎます。
 人は八十代なかばを過ぎると、ペンギン歩きのような歩き方をするようになります。なかなか前に進めません。
 ちょっと、この物語の設定は、スーパーマン過ぎます。
 ゆえに最後の明石新平さんの福島県会津へのひとり旅は無理なのです。付き添いが必要です。

 平和と言えば平和です。
 知能能力が衰えた老母は、もうかなり歳がいった息子にお年玉を渡します。次男が飼っているネコのみーちゃんのために使ってくれだそうです。三男が、自分が愛しているぬいぐるみのプーさんにもお年玉がほしいとねだります。平和です。次男なのに自称長女は、スカートをはいていて、どうも男がいるらしい。平和です。長男は引きこもりです。脳梗塞で倒れた老母の介護はできないと息子三人が意思表示します。九十代になる老母の夫である明石新平が老母の介護をするべきだという三人息子の意思表示です。なんとも…… されど、いまのところお金があるから平和です。

 夫婦のこの世で最後の別れというものは、超高齢者の場合は、片方が、長期入院になったり、施設入所になったりしたときに、もう会えなくなるというのが、わたしが知った体験です。夫婦両方が生きていても、もう会えないのです。コロナ禍のこの三年間で自分の親族で体験しました。
 自分の配偶者がすでに死んでいることを知らずに死んでいく人もいます。頭の中では生きている配偶者のことを思いながらこの世とサヨナラです。

 次男がこどものころ、車にひかれそうになった話が出ます。
 人が生きていくためには『運』が必要です。『幸運』です。
 子育てをしていると、ヒヤッとすることがあります。助かって良かったとほっとすることがあります。
 
 胃婁とか(いろう)、中心静脈栄養(ちゅしんじょうみゃくえいよう)とか、そんな延命措置を、わたしは拒みます。
 これまでに何度か自分自身入院体験がありますが、身動きができなくて、二十四時間天井を見上げていたときのことを覚えています。そんな姿勢が何か月も続いたら、わたしは発狂するでしょう。

『エピローグ』
 2020年(令和2年)です。
 未婚の三男(借金まみれ)が、結婚相談所をやるという。
 保険を解約して金を融通してくれと94歳の父明石新平に頼んでくる。
 (こどもってなんだろう。こんなことなら、こどもはいないほうがよかった。息子三人ともおかしなふうになったのは、浮気ばかりをしていた明石新平さんの行いが原因のひとつなのでしょう)
 93歳の妻はまだ死んではいない。次男が飼っているネコのみーちゃんを次男のこどもだと思っている。老妻の頭の中では、みーちゃんは、小学生らしい。
 ちょっと現実離れした終わり方でした。
 うむ。なんともいいようがありません。人生をコントロールすることはむずかしい。  

Posted by 熊太郎 at 08:10Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2023年04月28日

あるかしら書店 ヨシタケシンスケ

あるかしら書店 ヨシタケシンスケ ポプラ社

 有名な絵本ですが、読むのは初めてです。
 絵本のなかに、いろんな本屋さんが出てくると聞きます。
 たまたまこの本を読んだ日の夜に、テレビ番組『アメトーク』で「読書芸人」をやっていました。
 この絵本となにか関連のあることがらが出てきたらおもしろいのになあと期待しながら読み始めました。(ざんねんながら関連するような事項は出てきませんでした)

(1回目の本読み)
 中身を精査せずに、ざーっとページ全体をめくってみます。
 絵本とはいえ、かなりのページ数があります。

 ページをめくる前に本のカバーの両ふちを見ました。おもしろい。
 『バタ足入門の本』本をたたむと、本が、水泳プールでのビート板に変わります。
 もうひとつ『ちょっと大きくなれる本』本をイスの上に置いて、その上にちびっこが腰かけます。なるほど。

 さて、厚い表紙をめくります。
 本屋に対する愛情が深い本という予想があります。
 電子書籍が浸透してきた世の中ですが、ちびっ子は、紙の絵本が好きです。紙の本じゃなきゃだめなんです。だから、紙の絵本は未来永劫(みらいえいごう。ずっと)なくならないのです。

 本がいっぱい収納された本棚の絵があります。
 たしか以前、フランスの本修理職人の本を読んだことがあります。
 読書メモの記録を探してみます。
 二冊見つけました。
『ルリユールおじさん いせひでこ 講談社』
 本をつくる職人が『ルリユール』で、フランスパリでのお話です。
 ルリユールは、本をつくる職人ですが、本の修繕(しゅうぜん)もしてくれる。
『ルリユール 村山早紀(むらやまさき) ポプラ社』
 本を愛する物語です。
 本を読む人には、本を読まねばならない事情があるのです。

 ページをめくります。
 小舟に乗って、ひとり旅をしているような男子の絵があります。
 読書は、本の中の世界を旅するようなものです。

 ぼくたちは、ひとりひとりが本のようなものだとあります。
 人間は、見ただけではわからない。
 互いに会話をすることで、相手のことがわかる。
 そんな表現があります。なるほど。

(2回目の本読み)
 はげちゃびんの本屋のおやじさんが、ちりとりとほうきをもって出てきました。
 本屋の玄関前でおそうじです。

『世界のしかけ絵本』
 いいなと思ったのは「ほめ出す絵本」です。
 スマホのようです。
 スマホに語りかけると返答してくれるアンサー型AIのようです。(質問に返答してくれる人工知能)
 「すっごくかわいいネ!」とか「今までで一番よ!」などと、読み手のことをほめてくれるそうです。

『2人で読む本』
 きゅうくつそうです。わたしはにがてです。
 複数でくっついて、同時じゃないと読めない本です。

 どのページも絵の色がきれいです。

 うーむ。理屈っぽいかなあ。
 
『文庫犬(ぶんこけん)』
 いくつか例示があって、犬ではありませんが、「文庫鳩(はと)」の紹介があります。鳩が不便な土地に住む人のために首に本をぶら下げて届けてくれるのです。
 そういえば、以前、昭和時代のなくなった仕事という本で伝書鳩のことが書いてあったのを思い出しました。
 『昭和の消えた仕事図鑑 澤宮優(さわみや・ゆう) 原書房』で、「新聞社伝書鳩係」という仕事がありました。担当者と鳩は、編集局機報部鳩室に所属していたそうです。1945年(昭和20年)を過ぎて機械化が進み、昭和30年代なかばで使われなくなったそうです。仙台-東京間約300キロを4時間40分で飛んだ。5・6羽をひとつの単位として同じニュースの通信管を付けた。(途中で道に迷う鳩もいるので保険のために複数の鳩を飛ばす)昭和15年三宅島噴火の記事は、伝書鳩が運んだそうです。

 この絵本を、まんなかあたりまで読んできて、いいにくいのですが、自分には合わない内容だと感じます。
 理屈っぽいところが、どうも、自分に合いません。
 読んでいても「楽しさ」が自分の胸に伝わってこないのです。
 作者はまじめな方であろうと思います。
 
 一番気に入ったのは『本が四角い理由』です。
 となりの国のお姫さまに恋した王さまが失恋するのです。
 物語は、うまくいかないほうが、いい感じのときもあるのです。

 後半はなんだか、お金の話になります。
 本がたくさん売れて、お金がたくさん入ってきてほしい。
 『大ヒット』にこだわりつづけます。
 (この本は大ヒットしました)
 
 いいオチ(話の締め(しめ))でした。
 あるかしら書店でも、ない本はあるのです。  

Posted by 熊太郎 at 06:33Comments(0)TrackBack(0)読書感想文