2023年07月21日

じごくのそうべえ 上方落語・地獄八景より

じごくのそうべえ 作・たじまゆきひこ 桂米朝・上方落語・地獄八景より 童心社

 今年二月に訪れた大分県別府温泉で『温泉地獄めぐり』をしました。
 青森県の恐山(おそれざん)にも『地獄』があるそうです。
 それから、長崎県の雲仙温泉にも『地獄』があります。
 人間は『地獄』に対して興味が強い。
 昔は、人が悪いことをすると『地獄に落ちるぞ』と警告したものですが、最近はそういった言い方は聞かなくなりました。

 さてさて、夏の風物詩である遊園地やお墓での『おばけ屋敷』や『肝試し(きもだめし)』風の(ふうの)絵本を読み始めてみます。

(1回目の本読み)
 文字は読まずに絵だけ見て最後のページまでめくります。
 地獄を扱っているにしては、優しい感じがする絵です。

 鬼は、二種類いますな。
 赤鬼と青鬼です。
 名作『泣いた赤鬼』を思い出します。
 友情物語です。
 赤鬼のために青鬼が犠牲になるのです。
 青鬼の行為をどう思うか。
 考える価値はあります。
 意味合いは深い。

 やわらかいけれど、ち密な絵です。(ち密:細かくて込み入っている)

(2回目の本読み)
 表紙をめくると、赤鬼・青鬼以外の鬼もたくさんいて驚きました。
 緑鬼、オレンジ鬼、紫鬼、緑鬼、肌色鬼なんかがいます。鬼たちのすき間で、ちいさな体の人間が逃げまどっています。人間たちは悲しそうな顔をしています。

 されど、次のページをめくると、鬼と人間たちが仲良しの絵です。
 どういうこと?
 鬼のために働く人間がいるということだろうか?

 時代は江戸時代です。
 『そうべえ』というサーカス芸をやるような人がいたそうな。綱渡り芸です。
 文章に音楽があります。
 三味線(しゃみせん)の音にのせながらの曲芸(きょくげい。アクロバット、バランス芸、見世物、離れ業(はなれわざ))です。
 ぺペン ペンペン ペーン
 (このカゴの中にオゼゼ(お金)を入れてくださいな。(大道芸(だいどうげい)ですな))

 えッ?! 綱渡りの綱から、そうべえが、転落しました。
 (ちょっと、芥川龍之介作品『蜘蛛の糸(くものいと)』が脳裏に浮かびました。

 高い位置に設置されていた綱渡りの綱から転落して、打ちどころが悪くて、そうべえは、死んでしまうらしい……
 死後の世界への旅立ちです。
 
 どひゃー 火の車が出てきました。鬼が引いています。リヤカーの上に家型の箱があって、その箱が大きな炎に包まれています。(また。思い出しました。宮部みゆき作品『火車(かしゃ)』です。カードローンが事件の発端(ほったん。はじまり)になっていました)
 
 さあ、次はどうなる?
 そうべえに仲間ができました。
 しかい:歯医者です。「歯ぬきし」という職業の男です。
 ちくあん:医者だそうです。「いしゃ」と書いてあります。
 ふっかい:山伏(やまぶし)だそうです。
 そうべえを入れて登場人物が4人になりました。

 「しょうずかのばあさん」という白装束(しろしょうぞく。全身白い服)のおばあさんがいて、来る人来る人の服を脱がせます。
 はだかにさせられた人たちは、地獄・極楽の判定を受ける場所に向かうために、三途の川(さんずのかわ)を渡る渡し船に乗せられます。
 (訂正があります。はだかになっても、ふんどしと腰巻(こしまき。女性の下着)は、つけていていいそうです)

 木船(きぶね)は、えんま大王がいる地獄・極楽の行き先判定場所へ行く男女でいっぱいです。
 なんだか、地中海を進む、シリアやアフリカの難民船のようでもあります。
 船の沈没が怖いけれど、こちらの絵本では、いちおう、みんなすでに死んでいるはずの人たちです。
 赤鬼、青鬼、黄色鬼が、船の操作をしています。鬼にも労働があるのです。

 『えんま大王(だいおう)』登場です。
 髭の(ひげ)のような、髪の毛(かみのけ)のような感じで、顔は毛でおおわれています。
 船に乗せられてきた人たちは、えんま大王の質問に答えなければなりません。
 えんま大王のうしろには大きな鏡があって、えんま大王の質問に対してウソを言う者は、鏡が事実を映し出すそうです。ウソがばれるのです。

 人をだまして金もうけをした人間は地獄行きじゃ。(そういう人はいそうです)
 人を洗脳して(せんのう。マインドコントール。意識を操作する)利益を得たものは地獄行きじゃーー(いまどきの宗教界に多そう。信仰が理由で地獄に行くのか。本末転倒です(ものごとの結果が逆転している))
 
 どうも、えんま大王の仕事は、数少ない悪人をあぶりだして、その他おおぜいの善人はさっさと極楽(ごくらく。天国)へ行ってくれという仕事のしかたです。えんま大王の仕事量は多いのです。

 そうべえをふくむ四人は地獄行きが決定です。
 ふんにょうじごく:うんこしっこの穴に落とされた四人ですが、四人にはこたえていません。現実社会での自分たちのトイレのほうがきたなかったそうです。これぐらいどうってことない。

 じんどんき:鬼のこと。人を食う(くう)鬼だそうです。
 悪者はしたたかです。じんどんきをだまして、じんどんきが痛い目にあっています。
 (けっこうおもしろい。ちびっこはよろこぶと思います)
 まあ、下ネタもあって、下品な絵もありますが、なかなかいい。
 (きれいごとばかりを教えていたら、こどもの心はこわれます)
 
 ねっとうのかま:おかまに四人が入れられました。熱いぞーー
 おもしろい。
 熱湯ではなく、単なるおふろになってしまいました。

 はりのやま:トゲトゲの針(はり)がいっぱいです。
 ちょっと言葉が古くてわかりにくいのですが、いいたい気持ちは伝わってきます。
 
 オチがおもしろい。(話の締め(しめ))
 落語の世界でした。
 じょうずに絵本にしてあります。
 1978年(昭和53年)初版の絵本でした。

(この絵本を読んだ翌日に考えたこと)
 世の中には、人をだましてお金もうけをする人がいます。
 紳士淑女(しんししゅくじょ。礼儀正しい男女)のような善人の顔をして、じょうずに人をだましてお金をまきあげていきます。暗示をかけて、意識をコントロールして、お金を出させて、だまされていることに気づかせないで、うまく大金持ちになる人がいます。
 ようやくだまされていることに気がついた人の復讐心(ふくしゅうしん。しかえし)は強い。
 でも復讐しないでがまんする人は多い。
 そんな人たちの願いで『地獄』が誕生したのでしょう。
 あんた死んだら地獄に落ちてくれです。


(追記:2023年8月)
 うちに泊まりに来た親族の小学生低学年ちびっこたちに夜読み聞かせをしました。
 意外とこの絵本の内容に興味をもってくれました。
 とくに、えんま大王について、あれこれ聞かれました。
 アニメ『妖怪ウォッチ』の影響があるようです。
 わたしのこども時代は『ゲゲゲの鬼太郎』でした。  

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2023年07月20日

昆虫の惑星 アンヌ・スヴェルトルップ=ティーゲソン

昆虫の惑星 虫たちは今日も地球を回す アンヌ・スヴェルトルップ=ティーゲソン 小林玲子・訳 丸山宗利・監修 辰巳出版

 昆虫の話です。
 まず、思い浮かべるのは先日読んだ本です。『中村哲物語(なかむらてつものがたり) 大地をうるおし平和につくした医師 松島恵利子 汐文社(ちょうぶんしゃ)』
 中村哲さんは小さいころから昆虫に対する興味が強く、こどものころは、将来昆虫を研究する人になりたかったという記憶です。
 次に思い出すのはタレントの井上咲楽(いのうえ・さくら)さんです。番組『新婚さんいらっしゃい』の司会進行を藤井隆さんといっしょにされています。
 井上咲楽さんは、昆虫食をされる人です。びっくりしました。以前、太川陽介さんと村井美樹さんの路線バス対鉄道対決旅で、たしか、場所は北海道で、村井さんの鉄道チームの一員としてゲスト出演されました。そのとき、道を歩いていたのですが、虫を見つけると立ち止まり、虫を食べようとするような言動をし続けられたのです。ほんとうにびっくりしました。美女であり、とてもそのような趣向があるとは思えません。ただその後、ほかの番組で昆虫食のことを知り、気持ちが悪くなるようなことではないということを知りました。カルチャーショックです。(自分の常識とはかけはなれた異文化のありように不安をもつ)

(1回目の本読み)
 最初から最後まで全部のページをゆっくりめくりながら、なにが書いてあるのかを把握します。(はあく:内容を理解する)

 自分にとっては不思議な本です。
 目次に『自然界の“掃除人” 死骸と糞の分解』とあります。昆虫を人のようにたとえてある本です。

 いい感じの出だしです。
 『わたしは昔から外で過ごすのが好きで、とりわけ森の中にいると心が安らぐ……』熊じいさんも、朝、森の中を散歩しています。動植物たちがいる自然に触れていると心が安らぎます。

 13ページ、(昆虫は)恐竜より前からいたらしい。(そうだろうなあ。ゴキブリが最強の昆虫という思い込みが自分にあります)昆虫は、約4億7900万年前に現れたそうな。わたしが自作した歴史ノートでは、恐竜は地球上に紀元前2億年前ごろに登場しています。
 
 翅(はね):この単語がキーワードになるらしい。昆虫が生き延びることができた能力が飛翔能力なのでしょう。(ひしょう:空中を飛ぶ)

 なるほど『小さな体は高性能 足は6本 翅(はね)は4枚 触角は2本』すばらしい体格、仕組みです。人間以上かも。

 昆虫の血の色は? とあります。
 わたしは長いこと生きてきましたが、昆虫の血を見たことはありません。透明なお汁のようなものは見たことはありそうです。
 蛇足(だそく。むだばなし)ですが、小学生の時に観た邦画『ガメラ対バルゴン』では、怪獣の血の色は緑色でした。映画館でクイズに答えてなんとかをもらおう!というクイズ問題でした。ああ、あのころ、お酒飲みでろくでもないオヤジとふたりでよく映画館に邦画を観に行きました。クレイジーキャッツのいいかげんなサラリーマンの映画も見ました。オヤジはたいてい客席でイビキをかいて寝ていました。クレイジーキャッツの植木等さんもうちのオヤジもとうの昔に亡くなりました。ちょっとわびしい。

 40ページ『ダンシングビー』踊るハチでいいのでしょう。ハチが発情しているのか。
 わたしは中学生の時に小鳥のジュウシマツをたくさん飼育していました。ジュウシマツは発情期になると、枝の上でしきりにダンスをします。「クルクルクルクルクックッピン!」というような鳴き声を出していました。
 中学生のわたしは、ジュウシマツがたくさん生まれると、百貨店のペット売り場に売りに行っていました。たしか一羽140円ぐらいで引き取ってもらえました。ペットショップでは一羽780円ぐらいでわたしが売った鳥を売っていました。

 49ページ『昆虫たちの”婚活”事情 ― 生殖と繁殖』(そうか、虫の世界もたいへんだ)

 60ページ『ビヨンセは正しかった』
 ビヨンセ・ノウルズ:1981年生まれ41歳。アメリカ合衆国の女性シンガーソングライター、ダンサー、女優、音楽プロデューサー(新種のアブの名前が『スカプティア・ビヨンセアエ』と名付けられた。1981年ビヨンセが生まれた年と同じ年に発見された。あわせて、ビヨンセのように「美尻」だったそうです。虫のお尻のことです)

 62ページ『父はいないが祖父はいる』(なんのことだろう?)

 66ページ『イクメン昆虫』(やはり人間界のようだ)

 68ページ『食べて、食べられて』(なかなか厳しいものがあります。自然界の食物連鎖ですな)

 72ページ『ツチハンミョウの賭け(かけ)』
 ツチハンミョウ:昆虫。同じようなタイプの虫の総称

 ここまでページをめくって、最初はとっつきにくさを感じたのですが、なかなかおもしろそうな内容です。読む興味が湧いて(わいて)きました。
 
 85ページ『ワニの涙をすする』(そんな虫がいるのか)

 97ページ『農耕のベテラン』(昆虫は農民のイメージがありますな)

 99ページ『ペットはアブラムシ』(人間的です。いや、人間のほうが、昆虫的なのかも)

 106ページ『虫なんて気持ち悪いから、いなくてもいい』(そう思う人は多い)

 121ページ『一杯のコーヒーのかげで』(なんのことについて書いてあるのだろうか?)

 129ページ『昆虫食は普及するか』(また、井上咲楽さんの笑顔が脳に浮かびました。彼女は「ハイ!」とごきげんな返事をするでしょう)

 212ページ『何が昆虫をおびやかしているのか?』(人間による自然破壊でしょうな)

 234ページ『昆虫とヒトの未来のために』(そこがだいじです)

 236ページ『おわりに』
 まだ読んでいないけれど、先にここを読みます。

 240ページ『監修者あとがき』
 昆虫博士の方だろうか。

(2回目の読書)

 著者:ノルウェー生命科学大学の教授をしている。研究者、教員、科学コミュニケーター
 論文の検証や自分の研究発表を行っている。

 昆虫学者であることをばかにされることがある。そんな学問が、何の役に立つのだと。
1 昆虫は、魚、鳥、コウモリなどのエサとして欠かせない。昆虫がいなければ、命をつなぐことはできない。
2 昆虫が、ヒトの病気を治す材料、素材、原料になることがある。たとえば、抗生物質
3 昆虫には生きる権利がある。生まれてきた生き物にはすべて生きる機会(チャンス)が与えられる。

 昆虫が、この地球を支えているそうです。説得力があります。
 昆虫という存在があるから、地球は回り続けている。

 前半は、昆虫の話。体の仕組み、知覚の方法、種としての多様性、分類など。
 後半は、ヒトと昆虫との関りについて述べる。昆虫は人間界で危機に陥っている。(おちいっている)

 昆虫は体が三つの部分に分かれている。
 「節足動物門」に属している。
 「頭」「胸」「腹」に分かれている。
 骨はない。外骨格が全身を包んでいる。
 外骨格が古くなると脱皮する。
 
 トンボの眼の優秀さについて書いてあります。
 トンボは有能な狩人(かりゅうど)なのです。
 
 アリのことについて書いてあります。
 本能とはいえ賢い。
 社会性昆虫:ミツバチ、スズメバチ、アリ

(つづく)

 ハンス:ドイツ生まれの馬。愛称『賢馬ハンス』。1900年代前半に活躍した。馬なのに、数を数えられるし、計算もできた。飼い主は数学教師のヴィルヘルム・フォン・オーステン。(じっさいは、馬に人間の表情を読み取る能力があって解答することができていた)
 ハチ:ハチは、数字を4まで数えることができる。(これは事実だそうです)ハチは色を識別できる。ダンスで場所を仲間のハチに伝えることができる。
 以降、ハチの能力の高さについての説明があります。(そうか。2年前にわたしの自宅にハチの巣ができて、わたしはハチと戦ったことがあります。なかなか手ごわい相手で、わたしは恐怖感をもちました。ハチは、わたしの顔を認識していて攻撃してきたのです)

 クモは昆虫の仲間ではないそうです。
 では何なのか。「ダニやサソリに近い生き物」だそうです。よくわかりません。昆虫は足が6本、クモは足が8本、昆虫は、頭・胸・腹の組み合わせでできている。クモは、(頭・胸でひとつ)・腹の構造になっている。

 昆虫の性生活について詳細に書いてあります。
 子孫を残すことに全力を注いでいます。
 オスもメスも真剣です。
 
 昆虫は環境への適応能力が高いそうです。
 
 シロアリの女王は、一生ずっと、3秒に1個のペースで卵を産んでいるそうです。おそるべし、シロアリ

 本の中身は、無限に続く昆虫の世界のありようについて熱く語られていきます。かなり広い世界です。

 ワニの涙をチョウとハチが吸う。右眼と左眼に分かれて吸う。貴重な塩分をワニの涙から摂取するそうで、ありふれた光景だそうです。たいていの人間が知らない昆虫の世界があります。

 昆虫が養殖をするような記述が90ページにあります。もちつもたれつです。やりすぎると、相手が絶滅してしまうから、ある程度のところで踏みとどまり、共生をめざすのです。お互いに次世代に命をつなぐのです。昆虫たちは子孫を残すために必死です。

 本では、ショートエッセイの連続で、昆虫の生態を浮き彫りにしていきます。
 昆虫の種類は多種多様で、さまざまな昆虫としての生き方があり、本を一度読んだだけではすんなり理解できないこともあります。興味があれば、何度でも読む本です。

 マナ:旧約聖書に登場する驚異の食物が『マナ』だそうです。著者によると、マナというものは、樹液を食べる昆虫が排泄した甘い露(つゆ)の結晶で、名称は『マナコナカイガラムシ』ではないか。
 
 エコな健康食。昆虫は栄養価が高いそうです。牛肉に負けないたんぱく質がある。脂肪は少ない。コオロギの粉末は、牛乳よりカルシウムが多い。鉄分はホウレンソウの二倍ある。昆虫食は体によく、環境にもやさしい。世界の人口増加による食糧不足を救うのが昆虫食と読み取れます。
 先日読んだ『中村哲物語(なかむらてつものがたり) 大地をうるおし平和につくした医師 松島恵利子 汐文社(ちょうぶんしゃ)』では、中村哲さんがアフガニスタンの乾燥した土地で食べ物を育てるために乾燥に強い作物を選んだ経過が書いてありました。『乾燥に強い農作物を植える。なんでも研究です。サツマイモ、ソルゴー(イネ科の一年草。モロコシ)、お茶、蚊を退治するための除虫菊(じょちゅうぎく)など』それが、こちらの本では、昆虫食という方向性です。

 昆虫食の普及について書いてあります。(ふきゅう:一般社会に広くゆきわたること)
 昆虫の姿が丸見えのまま昆虫料理として出すのは抵抗感が強い人が多い。(ああ、飲み屋さんでゲテモノ料理という位置づけで出している料理を思い出しました)
 読んでいて、ガソリン車→電気自動車、肉料理(牛)→バッタ、寿司→ムシ(虫)というようなイメージで先々(さきざき)食生活の一部に変化がありそうです。
 虫を家畜としてとらえる。人間が食べるための動物として扱う。
 1885年頃に、ホールトという人が『昆虫食はいかが?』という本を出しているそうです。未来は本当にそうなりそうです。昆虫食は気持ち悪いと否定できない世の中が訪れるのでしょう。なにせ食べなければ死んじゃうのですから。そして、食べてみると、あんがいおいしかったりもするのです。

 134ページ、なんとなく理解できる項目です。『第6章 自然界の“掃除人” -死骸と糞の分解 』です。
 
 蜜蝋(みつろう):ミツバチが巣をつくるための材料として使用するロウ。ミツバチの腹部の分泌腺(ぶんぴつせん)から分泌する。保湿性と光沢がある。化粧品に使われる。

 カイコ以外にも糸を出す昆虫はいる。

 没食子インク(もっしょくしインク):タマバチという昆虫から生まれるインク。タマバチは『虫こぶ』という突起を植物につくる。
 
 虫は色をつくる:赤い色は、カイガラムシの仲間「コチニールカイガラムシ」からとる。
 
 マジックテープ:植物がヒント

 ドローン:トンボがヒント

 都市部でも昆虫は生きている。

 ゴキブリは人よりも放射能に強い。

 プラスチックを食べる虫がいる。ミールワーム(チャイロゴミムシダマシの幼虫)
 この部分を読んでいて思いついたのが、認知症の薬で『レカネマブ』です。自分は、製薬会社への株式投資をしているので知ったのですが、アルツハイマー型認知症の原因となっているアミロイドβ(べーたー)というたんぱく質を取り除く性質がその薬にあるそうです。
 虫がプラスチックを食べるように、認知症の原因になっているたんぱく質を薬が食べていくようすが重なるイメージがわきました。

 203ページあたりの記述内容は不思議で奇妙です。虫が逆に戻っていくのです。おとながあかちゃんに戻っていくのです。なんというか種の生存への執念が強い。
 
 209ページに『この100年ほどのあいだに、地球の生態系はかつてないほど急激な変化を遂げた……』とあります。同感です。100年前ですから、わたしが生まれたころに近くなります。たしかにわたしがこどものころには、身近にたくさんの虫がいました。
 『昆虫がダメージを受ければ、ヒトもダメージを受ける……』とあります。同感です。生態系を壊したら最終的にはヒトも滅びます。

 昆虫をおびやかすものです。
 1 土地開発
 2 気候変動
 3 農薬使用、遺伝子操作
 
 住み家を守る。
 夜も明るい街は昆虫には生きにくい環境にある。
 昆虫たちは快適な環境を求めて移動している。
 
 昆虫の保護が、地球の保護につながる。

 236ページある『おわりに』の部分を読みました。
 日曜日の午前中に放送されるNHKラジオ番組『こども科学電話相談』を思い出しました。昆虫を好きなこどもたちがいます。昆虫を大切にすることは、ヒトを大切にすることにつながるというような文脈で文章が書いてあります。

 238ページに謝辞があります。(しゃじ:お礼(おれい))
 ここで初めてわたしは、著者が女性であることを知りました。著者には、夫とこどもたちがいます。
 『……やさしい夫チェーティルはすばらしい忍耐心の持ち主で、夜遅く励むわたしにお茶とバターつきのパンを持ってきてくれた……』とあります。いいご主人です。

 240ページ、監修者のあとがきでは、森の中に虫がいなくなったと嘆いておられます。(なげいて:悲しみ、怒り(いかり)、満たされない思い)

 どうしたらいいのだろう……
 むずかしい。

(この本を読んでいたとき、朝早くのテレビニュースで聴いたことです)
 福島県の田村市役所に『昆虫課』という部署ができたそうです。
 観光交流課というところの所属で『ムシムシランド』への誘客を指導するそうです。
 バーチャル組織だそうです。(バーチャル:仮想的な空間)
 いろいろな取り組みがあります。
 職員はいませんが『カブトン課長』がいるそうです。
 田村市は、カブトムシが有名らしい。  

Posted by 熊太郎 at 06:16Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2023年07月19日

タガヤセ! 日本 白石優生

タガヤセ! 日本 「農水省の白石さん」が農業の魅力教えます 農林水産省大臣官房広報評価広報室 白石優生(しらいし・ゆうせい) 河出書房新社(かわでしょぼうしんしゃ)

 「農水省の白石さん」とあります。むかし『生協の白石さん 東京農工大学の学生さん 白石昌則 講談社』という本を読んだことがあります。なかなかいい本でした。けっこう売れた本です。その本にあやかっている(自分も同じようになりたい)ような紹介のキャッチフレーズです。(目にとまるようにする手法)

 本の帯にある「全力で“推す(おす。推薦する)”……」という表現も、べつのところから引っ張ってきてあるだけで安易です。(努力していない)。工夫(くふう)がほしい。
 帯には、ほかにも「AI」とか「スマート」「ドローン」「A5ランク」「“ばずる”というような表現」、どこかで目にしたことがあるような単語が続きます。この本を売りたいという気持ちは十分伝わってきます。
 さて、内容はどうなのだろう。心配です。(ものまねではなかろうか)

(1回目の読書)
 まず、最初から最後までゆっくりページをめくりながら目をとおして、なにが書いてあるのかを見ます。わたしが実用書を読むときの読書法です。
 農業のことが書いてあります。
 わたしのお気に入りのブログに農業をしている方のものがあります。ときおり、今どんな農作業をしているかを写真付きで掲載されていて、そのページを観ることを楽しみにしています。農家はなかなかたいへんです。
 この本の最初のほうに写真が固めてあります。
 先日読み終えた本『中村哲物語(なかむらてつものがたり) 大地をうるおし平和につくした医師 松島恵利子 汐文社(ちょうぶんしゃ)』を思い出しました。アフガニスタンで暮らす農民を救うために用水路を引いて、砂漠のような土地を緑の農地に変えた中村哲さんは偉大な人でした。惜しい人を悲しい事件で亡くしてしまいました。

 頭にかぶりものをしている著者は、なんだかタレントの『さかなクン』みたいです。だいじょうぶだろうか。

 目次の項目が細かすぎて量が多いように感じます。
 役所が出す文書を見るようです。

 17ページに、著者は鹿児島市出身とあります。
 たまたま、自分たち夫婦は、秋に鹿児島市内見物をしに行こうと先日から話をしています。本の内容とのつながりを感じました。
 著者は、生まれてからずっと22年間鹿児島県で暮らしてきたそうです。
 思うに、人生には大まかに分けて二種類あって、ずーっと同じ地域で生活して人生を完結させるパターンの人と、各地を転々としながら人生を終えるパターンの人がある。そのことで、職業において、その人にとって、向いている業種とそうではない業種がある。
 大企業や大きな組織で働く人には、幅広く豊かな人生経験が求められています。自立・自活の苦労体験がないまま広い世界で働くことになると精神的にゆきづまります。自分が働いていた時、そう思ったことがあります。いくら学業成績が優秀でも、社会や職場の環境に適応できない人はいます。

 50ページに『A5ランク=おいしいお肉とは限らない? 国内外で大人気の牛肉―和牛』とあります。見出しだけを見てですが同感です。自分は、食事をして、ランクが高いお肉なのにと、首をかしげる味だったことが数回あります。

 67ページに『……熊本の九州農政局で働いているとき……』とあります。わたしの父方祖父母宅が熊本県にあって、こどもの頃、数か月間祖父母と同居暮らしをしたことがあります。肉牛ではありませんが、田んぼ仕事をさせるための役牛(えきぎゅう)を飼っていていました。もう60年ぐらい前のことです。

 120ページあたりを読んでいて感じたことです。
 こちらの著者さんは、農林水産省の広告塔の役割を果たす位置づけで、動画投稿サイトユーチューブや出版による広報活動を仕事とされているようです。
 さらに、161ページで国家公務員の仕事をPRされています。国家公務員になるための手法が紹介されているようです。

 167ページに『農水省職員=真面目な人……じゃない!』とあります。
 自分の体験だと、優秀な人は変わった人が多い。ことに役所の人は不思議な人が多い。民間企業では働けないから役所で働いているという感じの人もいます。まあ、適材適所で自分の進路を決めるのがいいのでしょう。

 183ページに食材の豆知識があります。クイズ本のようなつくりでもあります。

 186ページ『おわりに』で『日本の食べ物は本当においしいですから!』とあります。
 先日観た旅番組『東野・岡村の旅猿』で、ゲストのメッセンジャー黒田有(くろだ・たもつ)さんが、漫才師で料理人なんですが、旅先のシンガポールで、料理は、日本が世界一おいしいと、東野幸治さんと岡村隆史さんに説いて(といて)おられました。同感です。

(2回目の読書)
 巻頭の写真で、日本の農業はおもしろいと表現してありますが、わたしは農作業をおもしろいと思ったことはありません。農作業はつらいと思ったことはなんどもあります。(本書では76ページ以降で農業の機械化で体力的には楽になったというようなことが書いてあります。機械化で楽になるということは、機械を利用するためのお金がかかるということです)

 日本における農作物の質のことについて強調してあります。
 役所の人らしい考え方の優先順位です。
 ふつう、人がまっさきに考えるのは『お金(おかね)』のことです。
 高品質で高価なものを用意しても売れなければ生活していけません。

 農家のこどもに生まれると不思議な体験をすることがあります。
 ただで、農作物や果実を大量に食べることができます。
 成長して、それらのものが都市部では高価な価格で少量しか売られていないことを知ったときにはカルチャーショックを受けます。(生活習慣の違いでびっくりする)
 たとえば、ビワやスイカが店先(みせさき)に並べてあると、農家での成育歴があるこどもは、ビワやスイカは、買って食べるものなのかとびっくりします。

 鹿児島県甑島(こしきじま):小学生の時に『孤島の野犬』という椋鳩十さん(むく・はとじゅうさん)の児童文学を読んだことがあります。その舞台です。おとなになってから、甑島出身の人といっしょに仕事をしたことがあります。本を読んでいたので、その人が身近に感じました。

 著者自身(自分)をアピール(主張。訴え)する力(ちから)が強い文章です。

 この本の読み手は農家の立場の人よりも消費者の立場の人が多いでしょう。
 そばとうどんの話があります。
 『地域特性』の分析と説明です。
 東のそば、西のうどんです。うどんは、小麦粉と塩。(香川県)
 たまねぎは、北海道、佐賀県、兵庫県
 
 サプライチェーン:生産、加工、製造、管理、配送、販売という流れ。

 『九州は、日本一の畜産供給基地』
 以前、鹿児島・宮崎・熊本あたりの高速道路をレンタカーで走ったときに、道路やサービスエリアで和牛を積んだトラックをよく見かけました。

 社会科の教科書を読むようです。
 内容はやわらかい。

 本では、高速道路のおかげで、東北ではくだもの農家が増えたという分析があります。

 『品種改良』の話です。
 『突然変異』を利用します。
 『交雑育種』という言葉があります。お米の品種「コシヒカリ」の説明があります。(コシヒカリの由来が越の国(こしの国(北陸のこと))の光(ヒカリ)輝く品種ということは初めて知りました。なるほど)
 本にあるお米の『農林1号』という品種名は、自分が小学校一年生の時に父方祖父の口から出た単語で記憶にあります。農協の人が祖父宅をたずねてきて、米の種類を次回は何にするかねという問い合わせに対して祖父が『農林1号がいい』と返答していた記憶があります。
 47ページに『日本のお米の作付面積ベスト10と主な生産地』の表があります。うちは、第10位北海道の『ゆめぴりか』を食べています。1位は『コシヒカリ』で、2位から10位まで『コシヒカリ』の親戚だそうです。
 いちごの『博多あまおう』のことが書いてあります。大粒でおいしいいちごです。
 お肉のことが書いてあります。和牛です。『A5ランク』だからおいしいというものではないそうです。おいしい基準ではない。「A・B・C」はおいしさの順番ではない。
 ABCのアルファベットは:肉の歩留まり等級(ぶどまりとうきゅう)のこと。牛1頭からどれだけお肉がとれるか。Aがお肉をたくさんとれる。
 1から5の数値:肉質のこと。数値が大きいほど脂肪が多い。肉の色がいいほど数値が大きくなる。肉のしまりがいいと数値が大きくなる。脂肪の色が白に近いと数値が大きくなる。
 (「A5」だけがお肉じゃないのです)

 『有機農業』のことが書いてあります。
 化学物質である農薬を使ってあるからその作物はだめということはないのです。
 農業のことを知らない人は、有機農業のほうがいいと手をあげます。(似たようなパターンはほかのことでもよくあります。専門分野に素人(しろうと。経験がない者)はあまり口を出さないほうがいい。無知な権力を持っている人が感情で誘導すると、あるべき方向が変なほうへ向かっていってしまいます。とかく人間はイメージ(先入観)に影響されやすい)

 お金と命のからみについて書いてあります。
 動植物の命を売って生活費にあてるのが農業です。
 たくさんできすぎても、逆に不作でも困ります。物の値段の動きが関係してきます。
 『生産調整』のことが書いてあります。
 まあ、なんといいますか、どんな仕事でも苦労はつきものです。

 66ページあたりを読んでいてふと思い出したことがあります。
 わたしは旅番組が好きで、東野&岡村の『旅猿』を観ているのですが、平成ノブシコブシの吉村崇さん(よしむらたかしさん)をゲストに迎えての長崎ロケで、地元のふつうの食堂をめぐりながら、地元の食材が使われたそれほど高くもない定食類を食べていたときに吉村崇さんが、本音(ほんね)をつぶいたのです。
 そのときの感想メモが残っています。
 『三人は、朝食に貝汁定食を堪能されました。(たんのう:十分に楽しみ満足した)おでんとして、厚揚げ、牛すじもありました。貝汁は映像を観る限り、一般の家庭でつくる形態のもので、九州地方にあっては、ふだんの生活で食べる食べ物に見えました。
 吉村崇さん『(自分は)なんで東京になんか住んでいるのだろう。こんなおいしいものが地方にはいっぱいある』おいしい食べ物を食べて、美しい景色に包まれて暮らしを送る。
 働いて、ある程度お金が貯まったら地方で暮らすのも人生を楽しむ手法です。
 三人は『100点の朝』と満足されました。』
 大都市にある高級料理店で高いお金を出して食べる料理よりも、ふだんの生活の中で手ごろな値段で食べることができるごはんのほうが心の温かみがあっていいと感じることもあります。

 79ページに、農業用機械の自動運転について書いてあります。『スマート農業』です。
 一般的には、車の自動運転化の技術が進められています。人や車や壁にぶつからないとか、目的地までボタンを押すだけで行けるとか。たぶん何年か後には一部地域でできるようになるのでしょう。今はそういう時代の流れにあることは確かです。
 農薬散布はドローンです。模型みたいな小型飛行機で農薬を散布しているのは見たことがあります。(現実の現場ではなく、テレビだったかもしれません)

 昔でいうところの『兼業農家』の話です。農業だけでは食べていけない農家が多い。

 話し言葉の文章です。著者が語りかけてきます。
 うーむ。録音して文章化したのだろうか。
 なにかしら、現代農業のいいことばかりが、次々と列記されている本です。

 体が資本の仕事です。まあなんでもそうですが。農業はとくにそういう印象があります。
 心と体の健康がだいじです。
 そして、大きなお金が動きます。北海道での農業の説明があります。大規模です。機械化です。機械を使ってひとりで広大な農地を管理する仕事をします。体を壊したら代わりがなかなか見つかりません。我が家で食べているお米『ゆめぴりか』もつくっているそうです。

 自分なりに昭和40年ぐらいから50年ぐらいの農地のことを思い出してみます。(1965年から1975年ぐらいのことです)
 大都市にですね、人が集まっていったのです。
 集まってきた労働者たちの住む場所がないから宅地開発をしたのです。
 多くの農地が宅地化されるなかで、地価が高騰(こうとう。ものすごく値上がりした)したのです。
 土地成金(とちなりきん。先祖伝来の農地を売却したり、賃貸マンションを建てて土地活用をしたりして億万長者になる)の誕生です。それまで、百姓仕事をしていた農家の人たちは、不動産会社や建築会社の札束攻勢にあって、なんというか、生活が一変した農家の人たちがおられました。そのことで、いい思いをした人もいたし、そうでなかった人もいました。
 それまであった自然の動植物がいた風景は、コンクリートとアスファルト、金属とガラスの世界に変わっていったことは事実です。

 農業は地味な仕事です。
 太陽のもとで春や秋の日ざしにあたりながらの軽作業は、心にいい効果があります。気持ちがいい。無心に同じ手作業を続けます。植物を育てるという人間らしい行為です。

 118ページに、食べることを楽しむ習慣が消えつつあるというような話が出ます。
 学校では勉強すること、仕事ではお金をかせぐことに追われて、衣食住を楽しむ余裕がありません。

 120ページからは、農林水産省が管轄する動植物について書いてあります。
 『カイコ』むかしの小学生向けの学習雑誌には付録として、カイコの白い繭(まゆ)がついていたことがあります。カイコは、家畜扱いで、数を数えるときは、一頭(いっとう)、二頭(にとう)と数えるそうです。(なるほど)
 『飛ばないテントウムシ』アブラムシを食べてくれる。遺伝の組み合わせで、飛べないテントウムシをつくったそうです。
 まあ、なんにしても、お金がかかることです。
 『いぐさ』畳の材料です。熊本県が98%の産地ということは知りませんでした。

 『地産地消(ちさんちしょう。その土地でできたものを地元の人たちで食べる)』ぽい話です。第3章が『日本で食べるものは日本でつくろう!』です。
 日本の食料自給率が下がってきているということは、もうずいぶん前、何十年も前から話題になっていることです。2020年で37%とあります。
 これはもうしかたがないような気がするのです。そういう生活をめざすような動きを日本社会は歴史の中でしてきました。日本人の米離れ(こめばなれ)があります。
 農作物を外国に頼る。輸入です。
 日本以外の国でも食糧確保に苦しい国もあります。日本はまだ恵まれていると感じるのです。
 
 『食品ロス』のことが書いてあります。さきほどは、食材を輸入に頼る話だったのに、こんどは、食べ物があまる話です。バランスをとることがむずかしい。

 156ページ、小間切れ肉と切り落としの違いの説明が良かった。
 小間切れ肉:いろいろな部位の切れはし
 切り落とし:特定の部位の切れはし

 第4章は、国家公務員や農家になりましょうの勧誘の章でした。
 国会とかのテレビ中継を見ていると、公務員とは政治家のごきげんとりがおもな仕事ではなかろうかと感じるのです。政治家に気に入ってもらって、人事で上の地位につけてもらえるように働きかけてもらう。
 政治家が議会などで話すときのための原稿づくりが、公務員の仕事に見えます。テレビを見ていると日本の政治家は、まあ、ご自身のご了解はあるのでしょうが、自分ではない公務員たちがつくった文書の朗読をしています。(こちらの本でも、このあと政治家さんたちの紹介があります)
 なんとなく、なれあいに見えないこともない。(なれあい:もちつもたれつ。利害関係者同士のあまり好ましくないつきあい)

 文章を読みながら、著者は目立ちたがり屋だなと考えていたら、173ページに『でも、目立ちたがり屋でお調子者だったことが……』という文章にあたり笑いました。
 ずーっと読んでいて、この人(著者)は、いずれ農林水産省の職員を離れるのではないかという予感がありました。独立して自営の立場でなにかをやられるかもしれません。政治家になる道もあるでしょう。  

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2023年07月18日

ちいちゃんのかげおくり あまんきみこ・作 上野紀子・絵

ちいちゃんのかげおくり あまんきみこ・作 上野紀子・絵 あかね書房

 ちょっと気の毒で、読むのがつらい絵本でした。
 事実が下地になっているのでしょうが、脚色(きゃくしょく。より印象を強くするために事実ではないことものせてある)もあって、読んでいるとかなり悲しい気持ちになります。
 太平洋戦争での戦災孤児である女児のお話です。ちいちゃんは、最後は、亡くなってしまいます。小学生のころ読んで涙したアンデルセンの『マッチ売りの少女』を思い出しました。あんな感じです。

 「かげおくり」:こどもの遊び。戦死した父親がちいちゃんに教えてくれた。太陽に照らされてできる自分たちの『影』を十秒間ぐらい見つめつづけたあと、空を見上げると、空に、自分たちの影が見えるそうです。残像ですな。目の錯覚でしょう。
 
 墓参りの話が出てきます。
 わたしが社会に出て驚いたことがあります。
 わたしは、日本人は全員がお墓参りをするものだと思っていました。
 違っていました。
 家族のうちの長男とか次男、長女とか次女あたりの人はお墓参りの習慣があるのですが、兄弟姉妹のうち、下のほうにいくにつれて、お墓参りの習慣がなくなるのです。
 祖父母との交流も、長男、長女あたりの続き柄の人は濃厚なのですが、下になるにつれて、祖父母との交流は薄くなります。
 ちょっとしたショックでした。
 兄弟姉妹というものはだいたいが、上の世代は親戚づきあいが濃厚ですが、下のほうは希薄になっていきます。
 お墓のことですが、こどもの数が減って、お墓の管理をすることができにくい時代になりました。
 うちも自分たち夫婦の親、自分たちも含めて、お墓をもつことはやめることにしました。
 お寺さんに供養してもらって、お寺さんにある納骨堂に納骨してもらうようにしました。
 先日、テレビで、死んだら夫の墓には入りたくないという女性たちの希望が紹介されていたのですが、これからは、お墓自体がなくなっていくと思うので、そういった心配や不満ごとは少なくなっていくと思います。

 ちいちゃんには、おとうさん、おかあさん、おにいさんがいます。
 先日読んだアフガニスタンの人たちのためにがんばった中村哲さんの本を思い出しました。
 『中村哲物語(なかむらてつものがたり) 大地をうるおし平和につくした医師 松島恵利子 汐文社(ちょうぶんしゃ)』
 その本に書いてあったことです。
 中村哲さんの言葉です。
 『どの場所、どの時代でも、一番大切なのは命です』
 そして、アフガニスタン人が願うことです。
 『一日3回食事ができること』
 『家族といっしょに暮らすこと』
 その本を読んだ時に感じたことですが、戦後の昭和時代の生活とアフガニスタンの生活が似ています。昭和時代の体験者ならわかります。
 戦争はどの土地であっても同じような状況を生み出します。

 絵本の絵は無彩色です。(色鮮やかではない。(いろあざやか)。白と黒と灰色の色調です)

 父親が列車に乗って戦争へ行きました。
 昭和20年以前(1945年)のことですから蒸気機関車でしょう。
 戦争は残酷です。
 空襲で空にアメリカ合衆国軍の爆撃機が集まってきます。
 空に『かげおくり』をする遊びが、戦闘機が飛んでくるからやりにくい。
 空は、そのとき地上にいる人間を攻撃してくる空間に変わってしまった。
 制空権(せいくうけん。戦争において、空からの攻撃を支配する力)を奪われているということは、戦いが劣勢にあるということです。
 
 東京大空襲のことを思い出させるような記述です。
 おおぜいの人たちが逃げまどいパニックになって、焼死していきます。
 火災がまちに広がり、川にかかる橋の上で逃げる人同士が両方向から来てぶつかり、橋から降りられなくなり、川に飛び込んだり、落ちたりする人もいます。そんなようすで、たくさんの人が死んでしまいます。たしか東京墨田川にかかる橋でじっさいにそういう出来事があったとなにかの本で読んだことがあります。
 そして、ちいさなこどもは、逃げるているうちに手をつないでいたはずの親からはぐれます。

 まちは破壊されます。
 いまのウクライナのようです。
 ロシアはたいへんなことをしでかしました。
 ロシアには壊したものを全部もとにもどす責任があります。
 
 戦争で親を亡くしたこどもはつらい。
 こどもを亡くした親もつらい。

 食べ物や水がないと、こどもは死んでしまいます。

 こんな世の中なら、死んだほうがましだという気持ちになります。
 ちいちゃんは、餓死してしまいます。(がし。食べるものがなかった。おなかがすいて死んでしまった)

 先日リリーフランキーさんの名作小説を映画化した『東京タワー』をテレビで見たのですが、母親というものは、いつも、こどもがちゃんとごはんを食べているか気にしているそうです。(樹木希林さん(きき・きりんさん)が母親役でした)
 ごはんさえ食べていれば、(自分のこどもは)だいじょうぶだと考えるのが、母親がもつ『母性(ぼせい。こどもを育てる生まれつきの性質)』なのです。

 1982年(昭和57年)初版の絵本でした。  

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2023年07月13日

ゆらゆらばしのうえで きむらゆういち・文 はたこうしろう・絵

ゆらゆらばしのうえで きむらゆういち・文 はたこうしろう・絵 福音館書店

 きむらゆういちさんの作品では、『あらしのよるに』が有名で、自分はそのシリーズのファンです。
 話の筋立ては一貫しています。(いっかん。つらぬいてある一本)
 食べるほう(動物)と食べられるほう(動物)が、お互いに会話をするなかで、仲良しになっていくのです。

 こちらの絵本は、2003年(平成15年)の初版です。
 できて、もう二十年ぐらいが経過しています。

 大雨で川の水があふれています。
 たまたまこの絵本を読んだ日が大雨でした。
 九州からと関東にかけて、ところにより、線状降水帯が発生しています。
 絵本の絵とニュースの報道の映像が重なります。
 絵の中の川の流れは速い。
 『面(めん)』で色塗りや形が描いてある絵です。
 面描き手法が、特徴的です。
 見開き2ページの左上にねずみときつねの姿があります。
 きつねがねずみを追いかけています。

 ページをめくって、きつねに追いかけられているのは、ねずみだと思っていた動物は、うさぎでした。
 やっぱり、きつねが獲物(えもの)を追いかけているパターンです。
 二匹は、丸太(まるた)1本の橋を渡ろうとしています。
 橋の下は、大雨で水かさが増した川が轟音を(ごうおんを)たてながら流れています。激流です。川に落ちたら流されて、水没して、息ができなくなって、死んでしまいます。

 『ドンッ』
 うさぎを追いかけるきつねが丸太橋に飛びのりました。
 おもしろい!
 丸太1本の橋が、橋げたをまんなかに置いて、「やじろべえ」みたいになりました。
 (まだ読んでいる途中ですが、この絵本を親戚のちびっこにプレゼントすることを決めました。きっと喜んでくれます)

 橋が、ぎっこんばったん、シーソー状態です。おもしろい!
 
 (自分なりにこの先を予想しました。大雨がやんで、川の流れが静かになったころ、二匹は無事に(ぶじに)、川へ降りることができました。チャンチャン。(ところが、そうはなりませんでした))

 ページをめくって、おもしろい!
 大量のカラスが登場しました。
 だけど、カラスの群衆はふたりの助けにはなりません。
 カラスには翼があります。(つばさ)
 二匹も自分に翼があったらと、ないものねだりをする気持ちだったことでしょう。

 二匹は、シーソー状態になった橋の上で、橋が落下しないようにバランスをとって夜を迎えます。
 静かな夜です。
 対立する者同士が仲良しになるパターンです。
 きむらゆういちさんのパターンです。
 お互いに思っていることを正直に話します。
 お互いにお互いのことを知らないからケンカになるのです。
 お互いの脳みその中にある世界を言葉に変えて相手に伝えることは大事(だいじ)です。
 お互いを理解しあって、妥協点(だきょうてん。これならお互いに相手を許せるという位置)を見つけるのです。
 きつね『おれって、こわいおもいをするとさ、すぐ、おしっこがしたくなっちゃうんだ』この言葉が伏線になっていきます。(伏線:ふくせん。後半で感動を呼ぶしかけ)
 二匹の身の上話(みのうえばなし。生い立ち(おいたち)、境遇(きょうぐう)の話)が続きます。
 
 葉っぱのオバケの絵が怖い(こわい)。

 きつねがうさぎに強くメッセージを送ります。
 『…… いのちを だいじにしろ!!』
 (このとき同時進行で読んでいた本にも同じことが書いてありました。『中村哲物語(なかむらてつものがたり) 大地をうるおし平和につくした医師 松島恵利子 汐文社(ちょうぶんしゃ) 中村哲さんの言葉として『どの場所、どの時代でも、一番大切なのは命です』』がありました。
 読書が二冊合わせて一冊の本になるという偶然が重なりました。中村哲物語の場合には、背景に戦争があります。

 絵がいい感じです。
 今年読んで良かった一冊です。

 橋が回転しているように見える絵ですが、シーソーのように上下動(じょうげどう)している絵がそう見えるのです。

 なるほど。きつねのあしが、岸にある草にからまりました。
 うさぎが岸に上がった瞬間、橋が川に落ちました。
 うさぎが川に落ちそうになっているきつねの前足2本をつかんで、きつねを川岸に引っ張り上げます。

 意表をつかれました。(予想外の展開になった)
 助けられたきつねは、基本に返って、うさぎを追いかけ始めました。
 アニメ『トムとジェリー』みたい。『仲良くけんかしな』です。
 そして、きつねのおしっこシーンがラストシーンです。
 ああ、おもしろかった。  

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2023年07月10日

中村哲物語 松島恵利子

中村哲物語(なかむらてつものがたり) 大地をうるおし平和につくした医師 松島恵利子 汐文社(ちょうぶんしゃ)

 アフガニスタンの人のために働いていたのに、アフガニスタンの人に殺されてしまった日本人医師の方です。世界事情は複雑です。悪の根源は『貧困』でしょう。貧困から脱出するために『教育』が必要です。
 わたしはこの方をほとんど存じ上げません。これから読んでみます。自分と同郷の福岡県出身者であることはニュースで知っています。福岡県出身の有名人は多い。文化や芸術創造、スポーツ活動のエネルギーが強い地域だと住んでいたころは感じました。ドラマチックに生きる。ゆえに、うまくいかなくなることもたまにある。理屈よりも気持ちで生きる土地柄です。

 写真で見る限り、華(はな。はなやか、あでやか、オーラ(引き寄せる力))のあるような方には見えません。年配の小柄そうなおとなしい、口数が少なそうな、引っ込み思案(じあん。おどおど、そわそわ)そうなおじいさんです。優しそうな表情です。

 中村哲:1946年。福岡県生まれ。2019年73歳没

 ペシャワール会:1983年(昭和58年結成)医療活動を行う非政府組織

 まず1ページずつゆっくりめくりながら最後までいってみます。

 巻頭にある何枚かの風景写真をながめながら思うことです。
 『水』と『緑』がある風景は大事(だいじ)です。
 命が生まれ、育まれます(はぐくまれます)。
 生き物を育てていくためには、優しい心もちが必要です。
 中村哲さんグループの努力で、砂漠が緑の大地に変化しました。
 (砂漠のようなところにも『水』があるのかと、不思議です)

 目次です。
 第一章 昆虫博士に憧れた(あこがれた)少年
 第二章 動き出した運命の歯車
 第三章 ハンセン病と闘う日々(名作邦画『砂の器(うつわ)』を思い出しました。誤った差別があります)
 第四章 ある患者との出会い
 第五章 アフガニスタンに診療所をつくる
 第六章 乾ききった大地 水を求めて
 第七章 アフガニスタンへの攻撃
 第八章 緑の大地計画
 第九章 よみがえる大地

 中村哲さんの伝記です。(伝記:個人の生涯の業績記録)

 ご親族に有名な作家がおられるそうです。
 明記はしてありませんが、『火野葦平(ひの・あしへい)さん1907年(明治40年)-1960年(昭和35年)52歳没』でしょう。作品として『麦と兵隊』、『花と竜』が思い浮かびます。兵隊小説で、兵隊であることを勧める内容だったので、終戦後世間から責められています。(このあと、2回目の本読みで、32ページに「火野葦平」さんのお名前を見つけました。自死されています)

 139ページ『乾燥に強い農作物の研究』とあります。なるほど、大自然に限界はない。自然の力はすごい。

 174ページ、巻末付近になりますが、お仲間の寄せ書きがあります。
 『ありのままの中村哲』 -中村哲物語・刊行によせて-
 自分たちの世代は、医師であったシュバイツァーと野口英世の影響を受けた。
 中村哲さんは『調和』を求めていたそうです。自然、宗教、文化、貧しさとの調和だそうです。
 (バランスがだいじなのです。てんびん座生まれのわたしにはわかります。どっちか片方だけというのは無理なのです。お互いによく話し合って、妥協点(許しあえる状態)を探すのです)
 
 中村哲さんは、寡黙(かもく。くちかずが少ない)な人だったそうです。
 半面、人からは慕われ、ユーモアもあった。
 みんなからは『てっちゃんと呼ばれていたそうです。(出川哲郎さんみたいです)』
 
 本には、ウクライナのことが書いてあります。
 戦争の戦地では無法地帯になります。残虐行為が起きる場所です。それが、戦争です。
 中村哲さんの意志として『戦わない』という姿勢があるそうです。できるだけ死者を減らす。
 以前読んだ本『塞王の楯(さいおうのたて) 今村翔吾(いまむらしょうご) 集英社』では、大津城の城主である京極高次(きょうごく・たかつぐ)が戦(いくさ)をしていて、『……儂(わし)はもう誰も死んでほしくない』と言葉を発します。なかなかそういうリーダーはいません。勝つにしても負けるにしても、全軍の何パーセントかが死んでしまうのはしかたがないと考えるリーダーばかりです。
 中村哲さんは、自分は死んでしまうかも(殺されてしまうかも)しれないけれどかまわないという覚悟をもって自分の人生における夢をかなえた人だと思いながら二回目の本読みに入ります。

(2回目の本読み)

 巻頭の写真に、『用水路を引く前の砂漠化したスランプール地区(2005年5月)』とその同じ場所の2009年5月の写真があります。
 4年がんばれば、土地が緑になる。水が引けて、作物を育てることができる。4年間コツコツと作業を続けていく。なんだか、感動しました。
 人間だって、4年間コツコツと勉強や練習をしていけば、今はできないことでも4年後には、だれでもある程度のレベルまでは到達できる証拠です。説得力がある写真です。

 中村哲さんのお言葉です。
 『どの場所、どの時代でも、一番大切なのは命です』
 (死んだら終わりです。人生でとりかえしがつかないことは、自殺と殺人です)

 中村哲さんは、35年間、パキスタンやアフガニスタンで医療に従事して、人の命を救ってきたそうです。
 医療だけではなく、井戸を掘り、水路をつくり、地元の人たちに『水』を届けた。
 人は水がなければ生きていけないと書いてあります。先日読んだ本『ライスボールとみそ蔵と 横田明子・作 塚越文雄・絵 絵本塾出版』には、人が生きていくためには『塩』が必要ですとありました。血液や消化液、リンパ液などの体液の中に塩の成分がとけこんでいるそうです。
 
 『日本ではどこにいても蛇口をひねるだけで、簡単に清潔な水が手に入ります』
 意外に思われるかもしれませんが、わたしがこどものころには、家に水道がありませんでした。1965年(昭和40年)ころのことです。
 地面を深く掘った井戸を利用していました。桶(おけ)で汲み上げた(くみあげた)水を使用していました。
 地域によっては、手押し式ポンプが多用されていました。取っ手を持って何回も上下させると管から(くだから)水がほとばしるように出てきました。
 それから、山へ行くと清水(しみず)が湧いている(わいている)ところがあって、山でくんだみずを自宅の台所にあるコンクリート製の甕(かめ。箱型の正方体をしている)にためて使っていました。
 中村哲さんも同じような時代に日本でこども時代を過ごされているので、井戸使用の体験はあられたと思います。

 アフガニスタンでは、薬よりも先に、『水』が必要だった。

 アフガニスタン:日本から西に6000kmぐらいの位置にある国。海に面していない内陸国。(海を見たことがない人が多そうです)。国土の四分の三が山になっている。標高が高い。4月-11月が乾季、12月-3月が雨季。人口がだいたい3890万人(日本はだいたい1億2570万人です)。20以上の民族がいるそうです。ゆえに、イスラム教をつうじてつながりあっている。
 
 アフガニスタン人が願うことです。
 『一日3回食事ができること』(ということは、一日三回食べることができないということか)
 『家族といっしょに暮らすこと』(ということは、家族といっしょに暮らせないということか)

 中村哲さんのグループは、11の診療所をつくり、無料で診療を行った。(寄付とか補助が原資だったのでしょう。たぶん)
 2000年から2006年にかけて、1600ぐらいの井戸を掘った。(すごい)
 2003年から7年かけて、約25kmの用水路をつくった。
 中村哲さんは不幸な亡くなり方をされましたが、中村哲さんの意思と事業を引き継ぐ人たちがいます。

 20ページから中村哲さんの生い立ち話が始まりました。
 1946年(昭和21)年は、第二次世界大戦終戦の翌年です。
 まだテレビはありませんでした。(昭和28年放送開始)ラジオはありました。
 中村哲さんは、虫取りが好きだったそうです。
 このときの発見として、『人は見ようとするものしか見えない』
 英語の授業で、『Look(ルック。注視)』と『See(シー。見る)』の違いを学んだ時を思い出ました。Lookは、脳みそを使って、一生懸命観るのです。
 思うに、このころの人たちは本をよく読んだと思います。娯楽は、映画ぐらいでしょう。
 この本にある『ファーブル昆虫記』とか『シートン動物記』を読んだ少年は多い。
 
 北九州の若松港が出てきます。
 『若戸大橋(わかとおおはし)』という赤い橋を何度か見たことがあります。そのあたりを若松港というのでしょう。
 中村哲少年の祖父母の家があったそうです。
 この時代のこどもは兄弟姉妹が多いので、順番が下のほうになると親に育てられたというよりも祖父母や年上の兄、姉、親の姉妹(おばさん)に育てられたという人も多い。自分もそんな感じでした。親族づきあい、人付き合いが濃厚でした。
 北九州の工場地帯では、筑豊(ちくほう)の炭鉱もからんだ事業が主だったので、まあ、荒っぽい気性(きしょう。性質)がありました。外国人労働者も多かった。
 本では、中村哲さんの祖母の教えがあります。
 『…… 職業で人を差別してはいけない。どんなちいさなものの命も大切にしなくてはいけない』
 
 中村哲さんは、目が見えない人との出会いを通じて、人と人が『信頼しあうことの重要さ』を学ばれています。
 
 学歴のことが書いてあります。
 昔は、大学はなかなか行けませんでした。
 高校も行けませんでした。
 九州だと、中学を卒業すると、集団就職の列車に乗せられて、大都市へ労働力として送られました。『金の卵』という言葉がありました。中学を卒業したこどものことです。みんなつらい思いをしました。都会でうまくいかなくて、その後帰郷した人もけっこういると思います。

 九州大学医学部を出て、佐賀県で精神科医になる。
 精神科なら、ひまそうだから、昆虫採集に行ける。(なんと安易な(あんい。軽はずみ))
 もうひとつの理由は、ご自身が赤面症ではずかしがりや。人と気楽にお話しできない。同じ悩みをかかえる人の手助けをしたい。(こちらの動機は正しい。精神科医に関して言えば、どちらが患者かわからないというような事例もありそうです)
 精神科の患者の話は長いです。聴くのも体力と根気(こんき。忍耐。気力)がいります。
 
 延命治療のことが書いてあります。
 退院して家庭に戻ることができない状態でも生かすのです。
 わたしはやめてくれと家族には言ってあり、エンディングノートにも書きました。
 
 1978年に仕事を頼まれる。
 パキスタンとアフガニスタンの境界あたりの区域にある山(7690m)に上る登山隊に同行する医師となる。ヒンドゥークシュ山脈というそうです。
 中村哲さんが医療行為を提供する相手は登山隊に属するメンバーなのですが、現地で暮らす人たちから、その人たちの助けも求められます。
 現地には医師も薬も存在しません。そして、治療費もありません。
 
 1984年(昭和59年)5月、日本キリスト教海外医療協力会からパキスタンにあるペシャワール・ミッション病院へ医師として派遣される。アフガニスタンとの国境近くにあるまちにある病院だそうです。
 その年に中村哲さんを応援する会『ペシャワール会』が結成されて活動がスタートしました。
 その後会員は1万6000人にもふくれあがったそうです。

 ハンセン病(日本では昔らい病と呼んでいた。ひどい差別があった):らい菌による感染症。皮膚、末梢神経を壊す。感染力は弱い。パキスタン内の患者は2万人以上。専門医師は3人しかいないそうです。ゆえに中村哲さんは、ハンセン病治療担当の意思になることを希望します。
 ルース・ファル医師:ドイツ人女性医師。パキスタンで、ハンセン病の治療に20年間従事する。
 
 何もないところで、病気が良くなった患者たちが、こんどは医療従事者になっていきます。感動的です。

 足底潰瘍(そくていかいよう):足の裏が切れてばい菌が入って荒れる。ひどい履物(はきもの)が原因だから、中村哲さんは、ちゃんとした履物をつくるために『サンダル工房』をつくる。健康には清潔な環境が必要です。
 『治療よりも予防を考える』(なるほど)
 手先の器用な患者たちが、サンダルづくりの作業に従事してくれるようになる。(やはり、人にやってもらうのを待っているのではなく、自分たちのことは自分たちでやるんだという意識がだいじです)
 そのことが、自分たちで自分たちのための『水路』をつくることにつながっていきます。

 ハンセン病にかかった女性三人家族との出来事が書いてあります。
 老いたおかあさんと娘さんふたりです。三人ともがハンセン病です。
 皮膚が死んでいます。

 難民について書いてあります。
 戦争が起きると、そこに住んでいた人たちは、国境を越えてその場を逃げ出します。
 たとえば、もし北朝鮮が戦場になれば、同国の人たちは、陸続きの中国とか、ロシアへ移動する人もいるでしょうが、日本海を船で渡って日本列島の日本海側に流れ着く人たちもいるでしょう。混乱します。だから戦争はしちゃいけないんです。

 病気の三人家族は、中村哲さんが働く病院で救われます。そして、病気が良くなった娘さんはそこで労働奉仕します。働きます。元気になったら立場が変わるのです。

 アレルギー反応(はんのう):通常は無害な物質に対して体が異常な反応を示すこと。

 『無駄口と議論はもうたくさんだ!』
 なかみのない会議をくりかえすのは時間と労力のムダです。
 ムダな会議は、仕事をしているふりをして、給料をもらっているだけです。
 
 おいしいものを食べる。
 甘いものを食べる。
 笑顔が生まれる。
 おいしいものは、だいじです。

 イスラム社会は女性の地位が低いとあります。まるで、日本では女性の地位が高いような表現ですが、日本も含めて、たくさんの国での女性の地位は低いです。
 女性差別について書いてある本をこれまでに何冊か読みました。
 『マチズモを削り取れ 武田砂鉄 集英社』マチズモとは、マッチョ(筋肉質な男)で、男性優位社会をさします。
 『説教したがる男たち レベッカ・ソルニット ハーン小路恭子・訳 左右社』アメリカ合衆国の女性が書いた本でした。
 『私たちにはことばが必要だ -フェミニストは黙らない- イ・ミンギョン すんみ・小山内園子 訳 タバブックス』韓国人女性が書いた本でした。
 テレビの映像で、中国や北朝鮮の会議のようすを見ると、男ばかりがずらりと並んで座っていて異様です。ロボットみたいに全員で同時に拍手をします。とはいえ、日本の議会も似ています。女性議員の数は少ない。

 中村哲さんひとりでなせる偉業ではないので、中村哲さんを支えるまわりの人たちのことが書いてあります。
 看護師として、藤田千代子さんの紹介があります。

 マザー・テレサ:1910年(日本だと明治43年)-1997年(平成9年)。87歳没。カトリック教会の修道女。インドの貧しい人たちのために貢献した。1979年ノーベル平和賞受賞。

 トイレのことが書いてあります。
 もう昔のことですが、昔の日本と似ています。
 60年ぐらい前、1965年(昭和40年)ころ、わたしがまだこどもだったころ、父方の祖父母宅が農家で、人糞(じんぷん)を肥料で使用していました。まだこどもだったわたしは、肥え桶(こえおけ。うんこ・しっこが入っている桶)を背中にかついだ祖母と畑へ行き、祖母がひしゃくで、畑に人糞をまく姿を見ていました。
 日本の近代化は、相当むかしからあったものではありません。日本は短い期間に急速に生活様式が変化しました。

 アフガニスタンでの戦争。ソ連がアフガニスタンに攻め込んだ。結局ソ連(15の共和国。ソビエト連邦)は撤退した。
 1978年(昭和53年)-1989年(平成元年)200万人が亡くなった。600万人が難民になった。
 1991年(平成3年)ソ連は崩壊した。
 
 ハンセン病だけではありません。
 腸チフス:感染症。便と尿が感染源。全身性疾患。発熱、下痢、皮膚炎、腸出血など。
 マラリア:マラリア原虫が原因。赤血球内に寄生する。貧血、呼吸困難、しばしば死に至る。
 結核(けっかく):結核菌に感染。肺炎ほかの症状が出る。
 アメーバ赤痢(せきり):赤痢アメーバという原虫が原因。大腸炎。腹痛

 現地の人と同化する。(同化:まねをしてとけこむ)
 ひげを生やす。(はやす)
 つばのない帽子をかぶる。
 ここにも日本人気質と共通するアフガニスタン人の生活があります。『もったいない』です。ものを大切にします。捨てません。

 写真を観ていて不思議なことがあります。
 アフガニスタンの人たちはどうやって生活の糧(かて。食べ物。お金。収入)を手に入れているのだろう。
 荒涼とした山岳地帯とか平地の風景写真が多い。
 ふつうなら第一次産業(農林水産業)、第二次産業(鉱工業、製造業)、第三次産業(サービス業)に従事して収入を得ます。写真を見ると日本では多いサラリーマンの姿がありません。農業の人はいそうです。(99ページに「国民の8割が農業で食べていけるのも……」という文章がありました)

 病院の中庭にある緑の風景写真があります。
 先日NHKのテレビ番組『72時間』で、東京のお茶の水にある病院の屋上庭園が紹介されていました。病院ですから、病気についての重たい話もあります。
 患者さんたちは緑の植物や植物によって来る昆虫(生きているものたち)に心を許し、気持ちをいやされます。余命宣告を受けた人もいるし、メンタルを病んでいる人もいます。『緑』はだいじです。

 アフガニスタンは国土の四分の一が山だそうです。
 かなり高い山で、冬は雪が積もる。何万年もかけてつくられた氷河があるそうです。
 雪はとけて水になって、川を下って農業用水として利用されます。
 (読んでいて、いろいろと昔の日本に似ていると思いました。わたしがこどもだったころの60年ぐらい前の日本です。1965年(昭和40年)ころまでの日本です)
 
 2000年にすさまじい干ばつがあったそうです。(雨が降らない。水不足)
 人口の半数以上、約1200万人が干ばつの被害にあい、400万人ぐらいが食べるものが不足して栄養が足らず、100万人ぐらいが食べるものがなくて死んでしまいそう。
 おなかがすいて、体力が落ちて病気にかかって死んでしまいます。
 医師である中村哲さんは心が苦しかったことでしょう。
 『水、水、水』が必要なのです。きれいで清潔な水を飲んで体調を整える。植物も人間も生き物には水が必要なのです。
 『井戸を掘る(地下水をくみ上げる)』
 ワーカー:労働者のこと。
 2000年(平成12年)10月までに:井戸を274か所掘った。
 翌年9月までに:660か所掘った。
 掘れば、水が出てくるわけです。きっとみんなうれしかったと思います。

 108ページにまちへ出稼ぎに行く農民のことが書いてあります。
 やはり60年ぐらい前の日本でも、地方の農民は、稲刈りが終わる秋からたんぼでの農作業が始まる春にかけて都会へ出稼ぎに出ていました。わたしの父親もわたしがこどもだったころ、大都市へ働きに行きました。

 気候変動のことについて注意書きがしてあります。
 地球温暖化の防止です。
 もう何年も前から言われ続けていることです。
 化石燃料をやめようです。(石炭、石油などです)二酸化炭素が出て、地球をおおってしまって、地球の気温が上昇して、自然が破壊されていきます。
 二酸化炭素を出しているのは先進国と呼ばれる国々です。アフガニスタンは先進国ではありません。
 このあと、2001年9月11日のアメリカ合衆国同時多発テロ(民間航空機4機がのっとられ爆弾がわりに世界貿易センタービルほかに突っ込んだ。わたしたちの世代はリアルタイムでニュースを観ました。2977人が死亡。2万5000人以上が負傷)をきっかけにして、お金持ちの先進国(アメリカ合衆国、イギリス、カナダ、オーストラリア、インド、ロシアほか。多国籍軍。お金儲けをする国と言いかえてもいい)が貧乏農業国のアフガニスタンに総攻撃をかけます。アフガニスタンに住む農民は、テロの実行者ではありませんでした。
 2001年10月13日に中村哲さんは日本の国会で、アフガニスタンの平和維持を訴えておられます。むずかしい問題です。中村哲さんは、アフガニスタンの農民を中心とした庶民の味方です。結局、民主主義は『多数決』で決まります。(自衛隊を海外派遣する法案は国会で成立しました)
 中村哲さんは、日本のアフガニスタン戦争参加に反対、干ばつによる飢餓で苦しんでいるアフガニスタンの国民に食糧支援を訴えます。
 中村哲さんの国会での訴えです。『…… 一人の父親、母親としての皆さんに訴える。くりかえすが、大干ばつと(だいかんばつと)飢餓対策(きがたいさく)こそが緊急課題である』
 この本を読んでいたころ、晩ごはんどきに、家族と邦画『東京タワー』をテレビで観ていました。リリー・フランキーさんの名作小説の映画化です。中村哲さんと出身が同じ県、福岡県内から東京に出てきた産炭地(さんたんち。炭坑地域)の人間の物語です。
 お母さん役の樹木希林さん(きききりんさん)が熱演されていますが、お母さんが常に気にしていることは、(息子が)ちゃんとごはんを食べているだろうかということです。
 うちの家族から話があったのですが、母親というものは、いつでもこどもの食事のことを考えているそうです。こどもにごはんをたべさせる。それが、母親の一番の役目だそうです。それ以外のことは、あとまわしでいい。母親はこどもに何をつくって食べさせてやろうかといつも考えているそうです。母親の愛情が感じられる言葉でした。中村哲さんは男性ですが、アフガニスタンの人たちのことを母親のように心配されていたのだと受けとめるのです。
 この本のはじまりあたりにあった言葉を再掲します。
 アフガニスタン人が願うことです。
 『一日3回食事ができること』

 2002年(平成14年)『緑の大地計画』をつくり始める。
 農民が自力で食べていけるようにする。
 夢を追う。毎日少しずつ積み重ねていけば、夢はかなう。

 中村哲さんは、土木工学の勉強を始めます。
 用水路をつくるための勉強です。
 日本の川を参考にする。とくに出身地の九州を流れている川をアフガニスタンの川に重ねて参考にして研究してプランをつくる。
 最新技術を用いるのではなく、まだ重機(じゅうき。建設作業用大型工作機械)がなかったときの日本での時代に、どうやって、川から水を引いて用水路をつくったかという手法を調べて、アフガニスタンで同じようにやってみる。
 なんでも新しければいいというものでもなさそうです。
 コンクリートの壁はつくらない。
 『蛇かご』という江戸時代からの工法を用いる。鉄線のかごの中に石を詰めて用水路の両側に並べていく。
 用水路の両岸に柳を植えて、柳の根っこで岸を強化する。
 乾燥に強い農作物を植える。なんでも研究です。サツマイモ、ソルゴー(イネ科の一年草。モロコシ)、お茶、蚊を退治するための除虫菊(じょちゅうぎく)など。
 
 日本三大あばれ川:(関東)利根川、(四国)吉野川、(福岡県)筑後川(ちくごがわ)
 斜め堰(筑後川。山田堰(やまだぜき):右岸と左岸を斜めにせき止める。取水しやすくなす。防水の役割も果たす。

 中村哲さんが用水を名付けました。『アーベ・マルワリード(真珠の水)』

 細かな工夫がたくさんあります。
 中村哲さんは、用水を貫通させることをあきらめません。アフガニスタンの人たちの『命』がかかっている事業です。けして、自分のお金もうけができる事業ではなかったと思います。
 人生で大事なのは『お金』ではありません。自分が自分のしたいことのために使うことができる『時間の十分な長さ』です。中村哲さんは、自分のために(アフガニスタンの人たちのためですが、一番は自分のためです)自分がもっている時間を用水路づくりにそそぎこんだのです。
 たしか、以前読んだ本で、アフリカの地に井戸をつくるお話がありました。水が出ることで、住民の暮らしが良くなったとありました。
 記録をさがしました。出てきました。『みずをくむプリンセス スーザン・ヴァーデ・文 ピーター・H・レイノルズ・絵 さくまゆみこ・訳 さ・え・ら書房』
 アフリカで水道設備がないので、水がある場所まで水をくみにいく不便さを教えてくれる絵本です。
 ジョージ・バディエルさんという女性の体験がもとになってできたお話だそうです。
 ジョージ・バディエルさんは、現在は世界で活躍するファッションモデルですが、こどものころは、西アフリカのブルキナファソという国で、水くみの体験をしたことがあるそうです。
 ジョージ・バディエルさんは、水くみの作業がたいへんだったので、いまは、「井戸」をつくる運動をしているそうです。
 
 中村哲さんは、現地の人たちから『カカムラ』と呼ばれていた。親しみをもたれていた。
 2010年、アーベ・マリワールド用水路(真珠の水)が完成しました。
 作物として、小麦、サツマイモ、玉ねぎ、オレンジ、大根、スイカ、米…… たくさんできます。
 酪農(らくのう)と養蜂(ようほう)もできるそうです。よかった。
 動物や鳥、昆虫もいます。生き物の楽園です。
 まるで、地球誕生の歴史のようです。
 命は、水から生まれるのです。

 モスク:イスラム教の礼拝堂
 マドラサ:学校

 ガンベリ砂漠の中につくった芝生と緑と花の公園:ドクターサーブ中村メモリアルパーク

 自分の意に沿わない(いにそわない:自分のいうことをきかないので気に入らない)相手は殺してしまえばいいという思考をもつ人間がいます。間違っています。生まれるところからやりなおしたほうがいい。まずは、絵本を読むところから始めるのです。それからいろんな本を読むのです。自分の脳みそを自分で育む(はぐくむ)とか、育てる(そだてる)ことがだいじです。
 本のなかには、いろんな世界があって、読むことで、自分が体験したことがない世界を体験できるのです。考えるのです。人間は脳みそで考えて行動する動物です。  

Posted by 熊太郎 at 06:13Comments(0)TrackBack(0)読書感想文