2023年07月21日

じごくのそうべえ 上方落語・地獄八景より

じごくのそうべえ 作・たじまゆきひこ 桂米朝・上方落語・地獄八景より 童心社

 今年二月に訪れた大分県別府温泉で『温泉地獄めぐり』をしました。
 青森県の恐山(おそれざん)にも『地獄』があるそうです。
 それから、長崎県の雲仙温泉にも『地獄』があります。
 人間は『地獄』に対して興味が強い。
 昔は、人が悪いことをすると『地獄に落ちるぞ』と警告したものですが、最近はそういった言い方は聞かなくなりました。

 さてさて、夏の風物詩である遊園地やお墓での『おばけ屋敷』や『肝試し(きもだめし)』風の(ふうの)絵本を読み始めてみます。

(1回目の本読み)
 文字は読まずに絵だけ見て最後のページまでめくります。
 地獄を扱っているにしては、優しい感じがする絵です。

 鬼は、二種類いますな。
 赤鬼と青鬼です。
 名作『泣いた赤鬼』を思い出します。
 友情物語です。
 赤鬼のために青鬼が犠牲になるのです。
 青鬼の行為をどう思うか。
 考える価値はあります。
 意味合いは深い。

 やわらかいけれど、ち密な絵です。(ち密:細かくて込み入っている)

(2回目の本読み)
 表紙をめくると、赤鬼・青鬼以外の鬼もたくさんいて驚きました。
 緑鬼、オレンジ鬼、紫鬼、緑鬼、肌色鬼なんかがいます。鬼たちのすき間で、ちいさな体の人間が逃げまどっています。人間たちは悲しそうな顔をしています。

 されど、次のページをめくると、鬼と人間たちが仲良しの絵です。
 どういうこと?
 鬼のために働く人間がいるということだろうか?

 時代は江戸時代です。
 『そうべえ』というサーカス芸をやるような人がいたそうな。綱渡り芸です。
 文章に音楽があります。
 三味線(しゃみせん)の音にのせながらの曲芸(きょくげい。アクロバット、バランス芸、見世物、離れ業(はなれわざ))です。
 ぺペン ペンペン ペーン
 (このカゴの中にオゼゼ(お金)を入れてくださいな。(大道芸(だいどうげい)ですな))

 えッ?! 綱渡りの綱から、そうべえが、転落しました。
 (ちょっと、芥川龍之介作品『蜘蛛の糸(くものいと)』が脳裏に浮かびました。

 高い位置に設置されていた綱渡りの綱から転落して、打ちどころが悪くて、そうべえは、死んでしまうらしい……
 死後の世界への旅立ちです。
 
 どひゃー 火の車が出てきました。鬼が引いています。リヤカーの上に家型の箱があって、その箱が大きな炎に包まれています。(また。思い出しました。宮部みゆき作品『火車(かしゃ)』です。カードローンが事件の発端(ほったん。はじまり)になっていました)
 
 さあ、次はどうなる?
 そうべえに仲間ができました。
 しかい:歯医者です。「歯ぬきし」という職業の男です。
 ちくあん:医者だそうです。「いしゃ」と書いてあります。
 ふっかい:山伏(やまぶし)だそうです。
 そうべえを入れて登場人物が4人になりました。

 「しょうずかのばあさん」という白装束(しろしょうぞく。全身白い服)のおばあさんがいて、来る人来る人の服を脱がせます。
 はだかにさせられた人たちは、地獄・極楽の判定を受ける場所に向かうために、三途の川(さんずのかわ)を渡る渡し船に乗せられます。
 (訂正があります。はだかになっても、ふんどしと腰巻(こしまき。女性の下着)は、つけていていいそうです)

 木船(きぶね)は、えんま大王がいる地獄・極楽の行き先判定場所へ行く男女でいっぱいです。
 なんだか、地中海を進む、シリアやアフリカの難民船のようでもあります。
 船の沈没が怖いけれど、こちらの絵本では、いちおう、みんなすでに死んでいるはずの人たちです。
 赤鬼、青鬼、黄色鬼が、船の操作をしています。鬼にも労働があるのです。

 『えんま大王(だいおう)』登場です。
 髭の(ひげ)のような、髪の毛(かみのけ)のような感じで、顔は毛でおおわれています。
 船に乗せられてきた人たちは、えんま大王の質問に答えなければなりません。
 えんま大王のうしろには大きな鏡があって、えんま大王の質問に対してウソを言う者は、鏡が事実を映し出すそうです。ウソがばれるのです。

 人をだまして金もうけをした人間は地獄行きじゃ。(そういう人はいそうです)
 人を洗脳して(せんのう。マインドコントール。意識を操作する)利益を得たものは地獄行きじゃーー(いまどきの宗教界に多そう。信仰が理由で地獄に行くのか。本末転倒です(ものごとの結果が逆転している))
 
 どうも、えんま大王の仕事は、数少ない悪人をあぶりだして、その他おおぜいの善人はさっさと極楽(ごくらく。天国)へ行ってくれという仕事のしかたです。えんま大王の仕事量は多いのです。

 そうべえをふくむ四人は地獄行きが決定です。
 ふんにょうじごく:うんこしっこの穴に落とされた四人ですが、四人にはこたえていません。現実社会での自分たちのトイレのほうがきたなかったそうです。これぐらいどうってことない。

 じんどんき:鬼のこと。人を食う(くう)鬼だそうです。
 悪者はしたたかです。じんどんきをだまして、じんどんきが痛い目にあっています。
 (けっこうおもしろい。ちびっこはよろこぶと思います)
 まあ、下ネタもあって、下品な絵もありますが、なかなかいい。
 (きれいごとばかりを教えていたら、こどもの心はこわれます)
 
 ねっとうのかま:おかまに四人が入れられました。熱いぞーー
 おもしろい。
 熱湯ではなく、単なるおふろになってしまいました。

 はりのやま:トゲトゲの針(はり)がいっぱいです。
 ちょっと言葉が古くてわかりにくいのですが、いいたい気持ちは伝わってきます。
 
 オチがおもしろい。(話の締め(しめ))
 落語の世界でした。
 じょうずに絵本にしてあります。
 1978年(昭和53年)初版の絵本でした。

(この絵本を読んだ翌日に考えたこと)
 世の中には、人をだましてお金もうけをする人がいます。
 紳士淑女(しんししゅくじょ。礼儀正しい男女)のような善人の顔をして、じょうずに人をだましてお金をまきあげていきます。暗示をかけて、意識をコントロールして、お金を出させて、だまされていることに気づかせないで、うまく大金持ちになる人がいます。
 ようやくだまされていることに気がついた人の復讐心(ふくしゅうしん。しかえし)は強い。
 でも復讐しないでがまんする人は多い。
 そんな人たちの願いで『地獄』が誕生したのでしょう。
 あんた死んだら地獄に落ちてくれです。


(追記:2023年8月)
 うちに泊まりに来た親族の小学生低学年ちびっこたちに夜読み聞かせをしました。
 意外とこの絵本の内容に興味をもってくれました。
 とくに、えんま大王について、あれこれ聞かれました。
 アニメ『妖怪ウォッチ』の影響があるようです。
 わたしのこども時代は『ゲゲゲの鬼太郎』でした。

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