2024年03月26日

もうじきたべられるぼく はせがわゆうじ・作

もうじきたべられるぼく はせがわゆうじ・作 中央公論新社

 たべられるのは牛くんです。
 おぼろげな色調の絵が渋い。(地味だが味わい深い)

 最初の絵にある文句が、『ぼくはうしだから もうじきたべられるのだそうだ。』
 この一行を見て、思い出す文学作品と邦画があります。
 『食堂かたつむり 小川糸 ポプラ社』
 『ブタがいた教室(DVD) 日活㈱』
 小説、『食堂かたつむり』小川糸著では、言葉を失ったシェフの倫子(りんこ)さんが、エルメスと名付けた豚ちゃんを愛情込めて育てて、最後に自分でエルメスを捌(さば)いて食べます。
 『ブタがいた教室』は、実話の映画化です。本は、『豚のPちゃんと32人の小学生 命の授業900日 ミネルバ書房』です。その本をもとにつくられた映画、『ブタがいた教室』では、小学生26人がPちゃんと名付けた豚を同じく愛情を込めて育てたのですが、倫子さんのようにはいきません。食肉にすることがそうそう簡単にはできません。こどもたちは、迫真の演技でした。

 絵本では、牛の擬人化があります。
 牛は、お肉になる前にお母さんに会いたい。
 ありえない流れです。
 牛に感情をもたせます。
 牛は、列車に乗って、母親がいる牧場を目指します。
 絵本です。
 母と子がいます。親子です。
 どうして、母子は同じ牧場にいないのだろう。(読み手であるへんくつなおとなのわたしです。偏屈:性格が素直ではない)
 お肉になるのは、黒毛和牛です。絵本の絵は、乳牛です。(ヘンです)
 う~む。つっこみどころが多そうな絵本です。
 ペットになる愛玩動物と、人間が食べる食材になる商業用動物がいる。
 メッセージは、牛肉を食べないということではなく、食材になる生き物に感謝するということだろうか。
 牛の親子の愛情シーンというのは、イメージがわきません。
 牛の母は、牛の息子のことなんか考えてはいないでしょう。
 
 自分がお肉になると母親に言ったら、母親は悲しむだろうと考えて、牛君は、母親に会わずに帰ろうとします。電車にのって、帰ろうとします。
 (感情に流され過ぎではなかろうか。ふつう、こどもがお肉になる前に、親が先にお肉になるのではなかろうか)
 母牛が息子牛に気づいて、息子牛が乗った列車を、ものすごい勢いで走りながら追いかけてきます。
 (ああやっぱり)『……ぼくをたべた人が 自分のいのちを 大切にしてくれたらいいな。』
 お話は終わりました。
 
 (本づくりとして)う~ん。どうかなあ。もっと自信をもってほしい。
 強気でいかないとメンタルがつぶれてしまいます。(心が折れる。メンタル:精神。精神力)
 悲しみではなく、人間に向かって、お~れを食べるのなら、最高においしく食べてくれ! ぐらいの気概がほしい。(きがい:強い気持ち)  

Posted by 熊太郎 at 06:45Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2024年03月21日

ぼくの死体をよろしくたのむ 川上弘美

ぼくの死体をよろしくたのむ 川上弘美 新潮文庫

 短い文章が18本並んでいます。短編集です。そのうちのひとつが、本のタイトルと同じです。
 この作家さんで、以前読んだ本があります。『神様 川上弘美 中公文庫』でした。この世にない世界という世界観、この世にない空間、人間(のようなもの)を書く人だという記憶が残っています。

『鍵』
 男の後ろ姿に惚れた(ほれた)。
 男は、筋肉質の体で、右の手のひらに、ダンベルを持って歩いていた。男の後ろ姿を見て恋をした。男は神社の境内に住むホームレスだった。
 語り手は32歳の未婚女性です。これまでに男性とつきあったことはあるけれど、『好き』という言葉を言われたことも言ったこともないそうです。(つまり、恋ではなかった。なんとなくなりゆき。男女の体の関係はあった)
 そんな話が続きます。
 読んでいて、不思議な感覚が自分に広がります。語っている女性の実体が感じられないのです。
 恋した相手であるホームレスの男の年齢は、65歳です。
 詩的な内容でした。

『大聖堂』
 大聖堂というのは、語り手の知人の部屋にある本のタイトルです。本棚の飾り目的だけの本です。異性が来た時に本をみせびらかして、自分に惚れ(ほれ)させるのです。その部屋の住人がどこかで拾ってきた(ひろってきた)本だそうです。
 これもまた、不思議な設定です。
 アパートがあります。家賃は格安ですが、条件として、大家が提供する動物のいずれかを飼って世話をしなければならないのです。動物を死なせると賃貸借契約は打ち切りです。(動物の自然死はOK。事故死は状況次第(しだい))
 語り手は、男子大学生です。
 アパートの家賃は、2万円で、二階建て、二階が大家宅で、一階に4部屋あります。

 作者の文章書きの特徴として、ひらがな表記があります。『案外→あんがい』とか、『関する→かんする』とか。
 
 語り手の男子大学生は、中学時代いじめにあっていた。

 男子大学生は、動物を選びましたが、この世に存在する動物ではないようです。四つ足で、背中に小さな羽がある。オコジョとかテンに似ている。
 動物の分類としての名称がない動物です。大学生は、その動物に『つばさ』と名付けて可愛がります。
 アパートには、住人がいます。
 1号室:カーヴァー(最初不明だった住人に大学生が付けた仮想の名前。カーヴァーは、アメリカの小説家でアル中)。この部屋の住人は、アルコールの瓶と缶のゴミを大量に出す。(あとで、二十代の若くてきれいな女性だということが判明します)
 2号室:ウェストミンスター(1号室に同じ。不明)。三十代ぐらいの男らしい。
 3号室:主人公の大学生
 4号室:河合。男性。フェレットを飼っている。

 読み終えました。なんだかわからない。表現したい言葉は、『虚無(きょむ。からっぽ)』だろうか。

『ずっと雨が降っていたような気がしたけれど』
 静香:語り手の若い女性。同じものをふたつ買う女性です。同じブラウスを二枚買いました。コーヒーカップとかも同じものをふたつ買うのです。そして、買ったあと、ひとつは、壊すのです。ブラウスは、布を切ってバラバラにしました。静香は、アパートでひとり暮らしをしている。
 慶太:静香の兄。親に対して、自分は死んだ兄の代わりではないと思っている。実家で暮らしている。
 草太(そうた):慶太の上の兄。2歳のときに死んだ。慶太は草太が死んでから10年後に生まれた。静香はその翌年に生まれた。
 
 繰り返しになりますが、同じものをふたつ買う若い女性です。同じブラウスを2枚買いました。『喪失(そうしつ。失う)』に備えるためにふたつ買うのです。だけど、自分で、もう片方を壊すなりして喪失するのです。語り手の女性は、変な人です。

 慶太は、草太の代わりに生まれたということで、両親が慶太を可愛がった。
 静香は、慶太の陰に隠れて、『二の次(にのつぎ)』扱いであった。
 こういった事情が、本編に反映されています。(同じものをふたつ手に入れて、ひとつを壊してなくす)

 読んでいて、静香は、よく言えば、『繊細(せんさい。傷つきやすい)』、悪く言えば、『めんどくさい人』です。

 静香に光月(みつき)というカレシができますが、もうひとり、光月と同じスペアがほしい。(でも、壊すんだ)

 短い文章にたくさんの情報を入れてくる作者さんです。

 不気味で怖い(こわい)ショートストーリーでした。
 『欲しいものは、なに?』に対して、『快楽』という返事があります。
 殺人の匂いが(においが)します。

『二人でお茶を』
 いとこ同士の女性のお話でした。ふたりはいっしょに暮しています。
 相手のいとこは、外国暮らしが長くて、帰国後も、国籍は日本人だけど、頭の中は外国人の考え方の人です。日本人のあれこれを不思議に思う人です。
 外国暮らしが長かったいとこのファッションは奇抜です。そして、いとこはお金持ちです。ケチりません。豪華な食事、部屋の暖房もしっかり入れます。
 相手のいとこの年齢は43歳、名前は、トーコさん。5歳から40歳まで外国暮らし。離婚歴1回ですが、話が始まってから結婚して、また離婚します。外国では×1(バツイチ)とか×2とか言わないらしい。(そのような表現は外国では、人権侵害にあたるそうです)。〇1とか〇2とかは言うらしい。(本当かどうかはわかりません)
 この物語を語るのは、トーコさんと同い年のミワさんですが、彼女も離婚歴1回で、今はひとり者です。
 なんだかんだと話は進んでいきます。おもしろい。
 
 珍味佳肴(ちんみかこう):めったに食べられないおいしいごちそう。

 ふたりの関係です。
 お互いにキライじゃないけれど、好きとは言いにくい。
 いっしょに暮していて、楽しいとは思う。

 天性のものを感じる作者の文章です。

『銀座 午後二時、歌舞伎座あたり』
 タイトルの場所は、以前散策をしたことがあります。歌舞伎座内の見学もしました。そんなことを思い出しながらの読書が始まります。

 不思議な話でした。宇宙人みたいな人間の姿をしたものが現れるのです。
 体長は15cmぐらい。髪は薄茶色、白いシャツにジーンズをはいているのです。
 人間の顔をしています。
 生きています。しゃべります。東京武蔵野(むさしの)の集落で暮らしていたそうです。天敵が猫だそうです。

 結婚相手がなかなか見つからない女性が出てきます。叔母の紹介でお見合いを重ねています。両親はすでに亡くなっています。女性は40歳で、地味な外見で、趣味は読書です。周囲からは、かわいそうという目で見られているそうです。
 その女性、歌舞伎座あたりで、背の高い男性とぶつかったときに、さきほどの小さな人間みたいなものに、ふたりが出会います。
 女性にとって背の高い男性は当たり(結婚相手にしたい)なのです。

 星新一氏のショートショートを読むようでもあります。

 偶然出会った男女は、宇宙人みたいな男の願いをききます。彼の恋人を猫から救い出すのです。

 寧子(やすこ):女性のお名前です。
 ななお:男の名前ですが、苗字か下の名前かは、わかりません。ななおは、寧子の質問に、もうあなたと会うことはないと首を振りました。『当たりだったのに』寧子の気持ちです。

 男と女の出会いの話でした。
 それでもまだ寧子は、男との再会をあきらめてはいません。

『なくしたものは』
 女ふたり、男ひとりの三角関係の話です。女たちは女子短大生です。
 『起きたらすぐに、おまじないを唱える』から始まります。
 語り手を変えながら進行していくショートストーリーです。
 作者は、狭い世界のことを深く書く人です。

 「なりちゃん(女子。成田)」の語り:自分となるちゃん(鳴海)は、女子短大の同級生。成田は、顔はかわいくないが、色気はあるそうです。

 「なるちゃん(女子。鳴海)」の語り:なりちゃん(成田)は、ともだちだけど、いっしょにいるといらいらする。でもいっしょにいたい。鳴海の顔はかわいい。色気はない。うるさいことは言わない。高校時代から、渚(なぎさ。男)と付き合いがある。

 「渚(男です。鳴海のカレシのようなものだが、渚は鳴海を恋人とは思っていない。成田とも会って付き合いがある)」:渚は、鳴海を気楽な遊び友だちだと思っている。渚は、両親と弟と4人家族で実家に住んでいる。愛犬の小太郎(実はメスだった。母親が性別を間違えて付けた名前)が3年前に死んだことをいまだに引きずっている。小太郎を思い出すと泣けてくる。ラブ:ラブラドールレトリバーという犬種だった。(だけど、犬のほうは、渚をきらっています)

 91ページ、奇想天外です。(きそうてんがい。思いもよらない。奇抜(きばつ))。今度は、死んだ犬の霊(小太郎)がしゃべります。世界一好きだったのが、飼われていた家のお母さんで、次が満(みつる。渚の弟)、その次がお父さんで、ビリが渚。お母さんと満が、自分の食事や散歩の世話をしてくれた。父は仕事だからしかたがない。渚は、わたしを避けていたと主張があります。

 自分が相手を思っているほど、相手は自分のことを思ってくれてはいないということはよくあります。逆に迷惑に思われていたりもします。

 こちらの短編は楽しい小品です。(しょうひん。ちょっとした作品)

 「満(みつる。渚の弟):家を出ることを考えている。父も兄もキライ。母もキライになった。母は兄が好きだ。兄の顔は父に似ているから、母は兄が好きだ。父も兄も顔がキレイだ。自分は背が低い。もっさりしている。見た目はかっこよくない。女にもてたことがない。いちばん好いてくれたのは(すいてくれたのは)、メス犬の小太郎だった。満は、考古学者のような仕事をする人になりたいそうです。

 「(たぶん思うに)邪馬台国の卑弥呼の霊魂」が語ります:小太郎の霊魂と語り合います。

 成田は渚をつまらない男だと評価しています。当たっています。まあ、いろいろあります。
 独特な雰囲気がある文章です。

『儀式』
 天罰を与える儀式を行う女性がいます。見た目はおばさんです。
 女性は、昼夜逆転の生活を送っています。
 夕方6時半ごろ起きて食べる食事が女性にとっては朝食です。
 新聞を読んで(夕刊、朝方に朝刊を読んでから寝る)、記事の切り抜きのようなことをして、天罰を与える人物を選び出すのです。
 天罰にはランクがあるらしく、レベル一(いち)とかレベル三とかの記述があります。
 天罰を与える仕事をしているのかと思いましたが不確かです。
 天罰は一日十件を限度にしているそうです。
 儀式は、長い衣を着て行います。
 
 生活費には困らない精神の病(やまい)がある人だろうか。

『バタフライ・エフェクト』
 蝶がでてきます。英語で、バタフライです。バタフライ・エフェクトは、『バタフライ効果』で、最初は小さなことが、やがておおごとになるということです。

 ふたりの手帳に、それぞれの手書きで、見ず知らずの相手の氏名が書き込まれているのを、ふたりが発見します。でも、ふたりとも自分で書いた記憶がありません。
 二階堂理沙(にかいどう・りさ):27歳未婚。自分の字で手帳の9月1日(未来の日付)に、『後藤光史(ごとう・こうじ)』の氏名が書いてあります。
 後藤光司:ひとり暮らしを始めて5年が経過している。恋人と暮らしたい。二階堂理沙と同様に、後藤光司の手帳の9月1日のページに、二階堂理沙の氏名が書いてあります。自分の筆跡なのに、書いた記憶がありません。

 そんな話です。
 ミステリーです。
 人と人の縁が素材です。
 あれこれあって、ふたりは、五年後に出会うそうです。
 そうか。不思議なストーリーでした。

『二百十日(にひゃくとうか。立春(りっしゅん。2月2日ころ)から数えて210日目。9月1日ころ。台風警戒日)』
 あたし:女性。40歳。離婚歴あり。ひとり暮らしをしている。こどもは好きじゃない。こどもは、嫌い。出産経験はない。職業は、『カウンセラー』
 萩原の叔母(おば):萩原は、新潟の地名
 萩原の叔父(おじ):病気で死にかけている。寝たきり状態にある。
 るか:こども。男の子。小学生ぐらいだが、学校は行っていないそうです。少し、魔法を使えるらしい。人型のぬいぐるみをひとつもっている。魔法で、時間の流れを変えることができる。変身もできる。ちょっとだけだけど。

 このパターン、『寄居虫女(ヤドカリオンナ) 櫛木理宇(くしきりう) 角川書店』(ホラー作品)に似ていますが、その後の展開は違っていました。

 出窓のところに置いてあった人型の人形が落ちた。
 叔父が亡くなった。
 叔父は、死ぬ前に、大事な人に会いに来たらしい。

『お金は大切』
 お金で人を買うお話です。
 『僕』が女性に買われます。以前類似の本を読みました。『余命一年、男をかう 吉川トリコ 講談社』、がんの宣告を受けた未婚女性がホストと期間限定で契約するのです。四十歳独身女性である、あと一年ぐらいで、がんで死んでしまうらしき片倉唯(かたくら・ゆい)が、病院待合所で、偶然出会ったホストクラブのホスト(片倉唯よりだいぶ年下)瀬名吉高(せな・よしたか)ひとりに、気持ちを入れ込む内容になっています。お金はある。寿命はない。そんな設定でした。

 さて、こちらの短編の話です。
 買われた若い男のほうの話です。
 別れたカノジョの知人女性から、お金を払うから(12万円)、自分と一緒にいてくれと頼まれるのです。
 
 変わった女性です。午前0時にワルツを踊り出します。お金をもらう男もいっしょに踊ります。ふたりは、朝まで踊り続けます。男は、女性と一体化するような体感を味わいます。

 さらに、時が経過します。若かった男は四十歳にまでなりましたが未婚です。
 そして、12万円を返せという話になるのです。
 でも、男は言います。『払えません』
 呪い(のろい)の話でした。

『ルル秋桜(こすもす)』
 死体の話です。
 本物ではなく、人が寝ている写真を切り抜いて、緑色の缶の中に入れてあります。それぞれに名前が付けてあります。また、変な少女が主人公として出てきました。
 う~む。ホラー(恐怖話)か。

 ひとみ:主人公少女。死んだ祖父に似ている。祖父は少し変わった人だった。ひとみは、祖父の生まれ変わりみたいな雰囲気があります。
 みのり:ひとみの1歳年上の姉。見た目がきれい。顔が母親に似ている。かわいがられている。
 隼人:ハーフ、母子家庭の男の子
 杏子(あんこ):ひとみの親友。おとな。絵画教室の先生。ちょっと不気味な女性。
 
 ごうもん(拷問)の話が出ます。
 先日観た阿部サダヲさん主演映画、『死刑にいたる病(やまい)』を思い出しました。
 こちらの短編話は、なかなか独特です。

 標準ではない、少数派の意見があります。
 生まれつきそうなのです。(標準ではない)
 ひとみにとって、姉のみのりは、不快なライバルです。
 
 あとさき長い人生を考えて、『絶望』という悲しみに浸る(ひたる)少数派の気持ちを表現してありました。
 (変わり者と言われる人にとって)ちょっぴり喜びがあったりもします。共感してくれる人の登場です。

『憎い二人』
 旅行のお話です。しゃべるのは、女三人旅の女性です。くみちゃん(語り手)とマコちん、すずです。三人とも、もうすぐ三十歳になる。
 なんとなく、同じルートをたどるのが、男ふたりの旅人です。(同性愛者ではないかとの疑惑がありますが、純粋な友人同士です。30歳過ぎのメガネの男と40歳すぎの目つきがきつい男です)
 新幹線で、東京からとある温泉地へ向かいます。
 
 スカジャン:背中に大きなししゅうがあるスタジアムジャンパーのような上着。30歳過ぎメガネの男が来ている。描かれている絵が、ナスカの地上絵に似ている。
 モッズコート:米軍で使用されていた上着。40歳過ぎの男が来ている。

 『友だち、わたしも、ほしいな』
 読み終えて、う~む。なんだかわかりませんでした。

『ぼくの死体をよろしくたのむ』
 黒河内璃莉香(くろこうち・りりか):ミステリー作家。この短編の語り手女性の亡父親の知り合い。年に2回語り手の女性と会う。父の遺言にそうしてくれと書いてあった。語り手が中学生のときから続いている。
 黒河内璃莉香は、男を変えながら恋愛を続けた。
 黒河内璃莉香は、語り手女性の父親にたくさんお金を貸した。父親とは、同級生になる。
 
 語り手である女性の父親は弱い人間だった。
 父親は、何度か自殺未遂をして、最後に自殺で死んだ。
 父が黒河内璃莉香にあてた遺言がある。
 父の死体と晴美とさくらをよろしくたのむ。(語り手の母親と語り手本人の名前です)
 
 味わいがある内容の文章です。
 
 実は、語り手女性にも自殺願望があります。
 黒河内璃莉香の問いに、『死にません』が良かった。

 娘を死なせないための父親の遺言なのか。

『いいラクダを得る』
 わたしたちは、中華料理屋に集合する。夢見という名前の女性の語りです。
 大学生の集まりです。男子大学生の父親が自営している中華料理店です。
 サークルの名称が、『逆光サークル』です。時代に逆行することを行って楽しむ。
 第二外国語のアラビア語のクラスで知り合いになった。
 メンバーは、5人です。
 
 なんだか、大学生たちが、ヒマをもてあましているような内容です。
 
 日文(にちぶん):大学で、日本文学の略。
 偶蹄目(ぐうていもく):この物語では、ラクダのこと。草食、ヒズメあり。哺乳類。

 サヨナラ。一時的な(大学での)付き合いということか。

『土曜日には映画を見に』
 日曜日のお昼は、そうめんを食べるということが、最後まで貫かれます。
 人生を表現してあります。

 男にもてない、デートにだれも誘ってくれない市役所勤務の35歳未婚女性が、伯母さん(おばさん)の紹介で、47歳の未婚男性とお見合いをします。男性は、マンガオタクです。仕事はダンボール製造会社の総務課長です。太っています。丸顔で眉毛(まゆげ)が濃い。汗っかきで、早口です。
 女友だちに男性の写真を見せたら、みんなが沈黙しました。忍び笑いをしました。
 『今なら、まだやめられるのよ』
 伯母からそう言われますが、女性は結婚します。
 
 長い時間が経過して、後半に、現在の話になることが、この作家さんの文章づくりの特徴です。
 ふたりに、こどもはできません。
 男性は定年を迎えました。ふたりは、ふたりの両親を見送りました。(逝去された)
 女性も定年退職しました。
 ふたりは、淡々と老後を送ります。
 日曜日には、そうめんを食べます。(にゅうめん。あたためたそうめん)
 結婚は、見た目の良しあし(顔やスタイル)でするものではなくて、性格の相性が合う人とするものという含みがあります。(ふくみ)
 結婚と恋愛は違います。結婚においては、まず経済力がなければ、結婚生活は続けられません。

『スミレ』
 こちらも不思議なお話です。
 実年齢と精神年齢の話があります。未来のことなのか、宿舎にいるときは、精神年齢に応じた顔かたちに変化します。
 精神年齢で入る宿舎があります。宿舎にいるときは、精神年齢で動きます。
 精神年齢18歳、実年齢53歳:市役所勤務の女性(この短編での語り手)
 精神年齢33歳、実年齢14歳:村松(男子)
 ふたりは、恋愛中だそうです。
 
 精神年齢15歳、実年齢非公開:女性。殿山(とのやま)さん。
 殿山さんが、村松さんを好きになった。
 
 『時間』というものが、意味のない世界にいる。

 語り手の女性は、仕事のストレスで、精神年齢が18歳から40歳になります。外見が40歳に変化して、宿舎にいられなくなりました。
 そして、今は53歳になって、これからは、ゆっくり生きて行くそうです。
 
 う~む。そうですか。おだいじにとしか言いようがありません。

『無人島から』
 とらお:弟。ふみちゃんと同棲していたが、ふみちゃんはアパートを出て行った。
 みはる:姉(この短編の語り手)。自宅アパートはあるけれど、(フロなしアパート)、親族宅を転々としている。
 
 恒子:ふたりの母親。わたしを「おかあさん」とよばないでくださいという発言があります。「恒子さん」と呼んでください。
 新吉:ふたりの父親。山師だった。(やまし)。山の中を歩き回って、金属の鉱脈を見つけてお金につなげる。(わたしは、若い頃、父親が山師だったという人と親しかったことがあります。その人から、自分がこどもの頃は、ものすごい貧乏生活を味わったと話を聴(き)きました。おもしろおかしくてちょっぴり悲しいお話でした)

 パイレックスの皿:耐熱ガラスの皿

 お笑いコンビ麒麟の田村さんの、『ホームレス中学生』みたいです。
 とらおが二十歳になったとき、両親がこどもふたりに言いました。
 『家族、今月でおしまいにするから』
 たしか、田村さんのほうは、オヤジさんが、『解散!』と言った記憶です。
 こちらのお宅の方は、戸建ての自宅を売却してしまいました。家を売ったお金をこどもたちにも分配しました。だから、とらおは、大学の授業料を払えます。アパートも借りることができました。

 家族って何だろう。
 なるべくいっしょにいるものという概念を否定する斬新な(ざんしんな)作品でした。

『廊下』
 男と別れた話です。
 男はバイオリンを弾きます。
 
 朝香(あさか):語り手の女性。30歳で飛夫と出会い付き合い始めた。飛夫と1年間同棲した。
 飛夫(とびお):朝香の年下のカレシ、20歳で、朝香と付き合い始めた。
 摩耶(まや):朝香の祖母。85歳ぐらいで亡くなる。
 山田:祖母である摩耶のカレシ。祖母より10歳年下。
 
 飛夫は、1年前にわたしの前から姿を消した。
 飛夫は、『ちょっと、時計台に行ってくる』と言って、家を出たまま、帰ってこなかった。

 タイムトラベルものです。

 中性脂肪値:空腹時30~149mg/dL
 辛気くさい(しんきくさい):じれったい。重苦しい。

 時間が経ちます。(たちます)。10年後に飛びます。
 
 幻視が見えます。
 死んだ人と会う話です。
 『もう、ここに来るのは、やめなさい。時は戻らないのよ』(過去を変えることはできません)

 認知症の人の脳内にある世界を表現してあるのだろうか。
 少女の頃の朝香さんが出てきます。
 
 う~む。この本の全体をとおして、独特な世界観がありました。  

Posted by 熊太郎 at 07:09Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2024年03月15日

青空のむこう アレックス・シアラー 金原瑞人・訳

青空のむこう アレックス・シアラー 金原瑞人(かねはら・みずひと)・訳 求龍堂(きゅうりゅうどう)

 死んでしまった少年の話らしい。
 イギリスの小説家の児童文学作品です。児童冒険小説というジャンルのようです。
 日本語訳者は、先日読んだ、『アンソーシャルディスタンス』の作者金原ひとみさん(「蛇にピアス」で芥川賞を受賞された)のお父さんです。これから読む本が家のダンボール箱に入れてあるのですが、たまたま偶然、こちらのお父さんの本にあたりました。
 
ハリー・デクランド:交通事故死した少年。サッカーが好き。10歳から12歳ぐらいに見える。死ぬ前に姉のエギーとけんかをしていたことを、死んでから後悔している。とても後悔している。捨てゼリフを姉にぶつけて家を出て、そのあと交通事故にあって死んでしまった。自転車に乗っていて、10トントラックにひかれた。
 『…… お姉ちゃんなんか大嫌い! …… 帰ってくるもんか。もう二度と会いたくない』、姉のエギーが、『じゃあ帰ってこないで』と言い返したのがこの世の姉との会話の最後だった。(つらい話です。現実でも起きることです。家から出かける時は、ケンカしないほうがいい。本当に、それが最後になることがありえます)

エギー・デクランド:ハリーの姉。ハリーより3歳年上。本名は、エグランティーン・デグランド。エギーは愛称。みんなは、『ティナ』と呼んでいた。

ハリーとエギーのパパとママ

ジェリー・ドンキンス:ハリーの同級生。でかい。太い。いじめっこ。プレハブ小屋で、ハリーを殴った。(なぐった)

ピート・サルマス:ハリーの親友

オリビア・マスターソン:女子。ハリーの同級生

オルト:猫

アーサー:150年前の死者。葬儀屋だった。死んだ母親を探している。みすぼらしい服を着ている。つぎはぎだらけ。大きなシルクハットをかぶっている。死んでから歳をとっていない。<死者の国>では、人は歳をとらない。アーサーは、施設で育った。母親はアーサーを産んだときに死んでしまった。父親は不明。

スタンさん:50年前に死んだ老人。幽霊。愛犬ウィンストンを探している。

ウグ:原始人。「死者の国」をさまよっている。「うぐっ」しか言えない。

グラムリーのおばあちゃん:あの世の人。少年ハリーが生きていたころの記憶にある女性。おばあちゃんはハリーを覚えていない。ハリーがまだあかちゃんぐらの幼かったころに亡くなったらしい。

タイトル『青空のむこう』には、死後の世界があるということだろうか。(14ページにそれらしき記述があります)
読み始めます。

1 受付-The Desk
 『…… ママはまだ生きている。ぼくが先に死んじゃったんだ』(自転車に乗っていて、トラックにひかれたらしい)
 <家> <この世> <あの世> <死者の国・入り口> <現在地> <彼方の青い世界へ(かなたのあおいせかいへ)> <死者の国> <太陽は傾いているのに(かたむいているのに)、沈むことはない。>
 男児のこども言葉で、話が続きます。
 自分がまだ小学校低学年、少年だった時に読んだマンガ本のようでもあります。
 
 『…… 登録を待つ人たちの列がえんえんとつづいていた。犬や猫もいる……』

 チャールズ・ディケンズ:イギリスの小説家。1812年-1870年。58歳没。

 <彼方の青い世界(かなたのあおいせかい)>

2 死者の国-The Other Lands
 良書です。まだ途中ですが、今年読んで良かった一冊でした。

 今一度、会いたい。ハリーは、姉や家族や友人に会いたい。

3 生者の国-To The Land of The Living
 洋画『ゴースト ニューヨークの幻(まぼろし)』を思い出します。
 死んだ少年ハリーのひとり語りが続きます。児童文学ですから読みやすい。日本語訳も読みやすい。

 ノーマンおじさん、ベリル大おばさん

 ハリーが、150年前に死んだアーサーと、幽霊(ゴースト)の状態で、自分がいた現世(げんせい。人が生きている時代の空間)へ行きます。
 現世で、知っている人たちを見て、知っている人たちに話しかけて、相手は気づいてくれなくて、それなりにハリーの気持ちがへこみます。

 現世へは、崖から落ちるように転落していきます。
 『助けて! だれか、助けて! 死んじゃう!』(きみは、もう死んでいる)

 『ぼくたちは落ちているんじゃなかった。飛んでいた。』(素敵な文章です)

4 下の世界 Back Down
 トゥルーリー:死んでいる人の霊
 現世では、死んでいるのに死にきれない人の霊が複数ただよっています。
 
 『悪魔』のことが出てきます。
 わたしが思うに、まずもって、『悪魔』というものは存在しない。
 人間が勝手に、『悪魔』をつくりだした。
 自分が悪いのに、悪魔のせいにする。
 以前、外国人の殺人犯が、殺人の動機は、悪魔がそうさせたと述べていてびっくりしました。日本人にはない発想と文化です。

5 学校 School
 自殺した人の言葉に思えるセリフがあります。
 『死ぬと疲れることはないんだ。』

 ハリーのクラスメートとして、テリー、ダン、ドナ、サイモン、ジェリー・ドンキンス(いじめっこ)、ピート・サルマス
 ダイヤモンド先生:背が高く、口ひげが長い。
 
 この本は、「死んじゃだめだ」と訴えているのだろうか。
 ハリーは、さみしい思いをします。

 転校していったクラスメートとして、フラン、チャズ、トレバー
 
 ハリーには、これから死にそうな人がわかる能力があります。
 ダイヤモンド先生が、死にそうです。先生自身であるご本人は、まだ気づいていません。

6 コート掛け The Peg
 ハリーの近所の人たちで、ハリーのお葬式に来てくれた人たちとして、チャーリーおじさん、ペグおばさん。

 ハリーの教室で、ハリーのコート掛けが、ボブ・アンダーソンになっていた。ハリーはボブを知らないから、新しく来た転校生だろうとのこと。
 校長が、ハレント先生。
 ハリーのクラスは、五Bだから、ハリーは、アメリカ合衆国の小学校の学年で、5年生で、年齢は、10歳ぐらいでしょう。
 入学は9月です。

7 教室 In Class
 幽霊になったハリーが、自分がいた教室を訪れます。
 マーティーナ:図工が得意
 グレアム・ペスト:字がじょうず。
 オリビア・マスターソン:ハリーのことが好きだった。
 ティリー:オリビアの友だち
 ペトラ:クラスメート
 スロッギー先生
 
 『人が死んでも、ほかの人の人生はつづく(死んだ人の人生は終わっている。いなくなったらおしまい)』

8 ジェリー Jelly
 ハリーと仲が悪かった。J・ドンキンスの作文が紹介されます。
 ハリーは、太っているぼくを(ドンキンスを)ばかにし続けていた。ハリーにばかにされて、ぼくは、ハリーがキライになった。
 ときどきハリーと仲直りをして友だちになりたいと思うことがあった。でも、ハリーは死んでしまった。後悔している。ごめんよ、ハリー。

 洋画、『ゴースト ニューヨークの幻(まぼろし)』のように、幽霊が念力のようなものを使って、ドンキンスが持っていたボールペンを動かします。ハリーの念力です。

 人間は簡単に死んでしまいます。
 病気、事故、自然災害、事件などで命を落とします。
 わたしも長い間生きてきて、死にそうになったことが複数回あります。たぶん、だれしも口にはしないけれど、そういうことってあると思います。
 人間が生き続けていくためには、『運(うん)』が必要です。たとえば、あと5分ずれていたら、あんな事故にはあわなかったのにということはあります。めぐりあわせです。

 読みながら、志(こころざし)なかばで死んでいった、自分の人生で出会った早世(そうせい。平均寿命よりも早く亡くなった。若くして亡くなった)した人たちを思い出しました。
 突然がんの宣告をうけて、泣きながら亡くなっていった人も複数います。しかたがないのです。それが、現実です。

 アーサーがハリーに言います。『あんまり期待するな。人にあまり期待しないことだ。そうすれば、がっかりすることもない』
 
 オーク:樹木の種類。ブナ科コナラ族の木

 命を考える本です。今生きている自分のことを考える本です。そして、自分のまわりにいる人たちに思いやりをもつことを学ぶ本です。

9 映画館 The Cinema
 映画館の座席に幽霊たちがいっぱい座って映画を観ています。満席です。
 どこもいくところがないと、人間も幽霊も映画館に行くようです。
 フレイザー:ハリーのママの友だち。
 ゲームボーイ:任天堂
 ドリームキャスト:セガ。SEGA
 プレイステーション:ソニー

 ノーマン・ティール:デイブ・ティールの兄。デイブ・ティールは、ハリーの学校の上級生で、兄のノーマン・ティールは、卒業して旅行会社に就職したばかり。
 ハリーがノーマンに話しかけたら返事が返ってきたのでびっくりしました。ノーマンは最近突然高熱が出て病死したそうです。
 
 スタン:スーツを着た幽霊。70歳ぐらい。
 ウィンストン:スタンが飼っていた犬(だと思ったら、別の犬だった)
 
 <死者の国への近道>が現れました。虹のアーチ(橋)です。

10 家 Home
 ゆうれいのハリーは自宅に行って、両親と姉を見ます。三人とも、ハリーを失って気持ちが落ち込んでいます。
 
ここまで読んできて、一冊、電子書籍を思い出しました。
『週刊文春 シリーズ昭和④哀悼篇 昭和の遺書 魂の記録 生きる意味を教えてくれる91人の「最期の言葉」 文春ムック 平成29年12月11日発行 2017年11月27日電子版発行 Kindle Unlimited 電子書籍』
 胸にぐっとくるものがありました。
 キャンディーズのスーちゃんの気持ちがせつなかった。そして、川島なお美さんもがんで亡くなりました。

『田中好子』 歌手キャンディーズメンバー 2011年4月21日(平成23年) 55歳没 乳がん
 もっと生きていたかったという思いが切々と伝わってきました。

『川島なおみ』 女優 2015年9月24日(平成27年) 54歳没 胆管がん
 だんなさんに向けて、再婚はしないでねとお願いされています。
 重松清小説作品『その日の前に』では、がんで余命宣告を受けた奥さんが、『(わたしのことは)忘れてもいいよ』と言葉を遺して亡くなります。『忘れないで』ではなくて、遺される(のこされる)ご主人のこれから先の幸せのために『忘れてもいいよ』(再婚してもいいよ)と表現したとわたしは受け止めました。そして『忘れてね(再婚してください)』ではないのです。妻は、本当は、自分のことを夫に忘れてほしくないのです。

 ハリーは、自分のお墓も見に行きます。ていねいに整備されているお墓です。ご家族がお墓の世話をされています。
 ハリーの言葉で、ハリーのお墓の世話をしているパパのことが語られます。10歳ぐらいの年齢の男子で、パパが好きな息子というのはなかなかいません。もう反抗期の入口にいます。

 『それから三人は、さびしそうな顔で座っていた……』
 パパとママと三歳年上の姉です。

 モノポリー:ボードゲーム。すごろく。不動産ゲーム
 スクラブル:ボードゲーム。盤上に、アルファベットを並べて、単語をつくって得点を競う
 トリヴィア:雑学を競うゲーム

 読んでいて、涙がこぼれそうです。
 『ママ、かっこいい墓石をありがとう……』
 突然ですが、児童虐待について考えました。
 どうして自分のこどもを虐待して殺すのか。
 わけがわからない。
 こどもを虐待する親は、気が狂っています。(くるっています)

11 二階 Upstairs
 オルト:飼い猫ですが、動物は、幽霊が見えています。オルトはハリーを認識します。オルトの名前の由来は、パソコンのキーボードの『Alt(オルトキー)「どっちか」という意味』からきているそうです。パパが名付けました。

12 エギー Eggy
 ハリーの姉エギーとの再会(ハリーはゆうれいですが)は、せつない気持ちにさせてくれます。(せつない:悲しくて胸がしめつけられる)

 『(家族写真に)ぼくがいた。家族と一緒に。もう二度と四人が一緒になることはない。』

 (僕には使命がある)自分が交通事故で死ぬ直前に、口喧嘩(くちげんか)をした姉と話して、お互いを許さなくちゃいけない。
 このあと、ハリーは、困難を成し遂げます。(なしとげます)
 『文字』のありがたみが伝わってきました。

 『だけどぼくのやり残したことは、今、終わった。ごめんねって言うことができた……』
 <彼方の(かなたの)青い世界へ旅立つことができる。>
 
 メンバーが、それぞれいい人だったから、ハリーはこう思える。(思うことができる)

13 彼方の青い世界 The Great Blue Yonder(向こうという意味)
 さわやかな終わり方でした。
 良かった。

 主人公の年齢から、自分が小学二年生のころの給食の時間を思い出しました。
 給食を食べているときに、校内放送で、短い物語の朗読がされていました。彦一とんちばなしだったことを覚えています。
 当時は、給食を食べるためと、校内放送の物語を楽しみに聴く(きく)ためだけに小学校へ行っていました。勉強の成績はぼろぼろで、通知表には2と3がたくさん並んでいました。それでもなんとか生きてきて、老後を迎えることができました。この物語を読みながら、そんなことを考えました。

 物語の中で、長い間お母さんを探し続けていたゆうれいのアーサーは、ゆうれいのお母さんにようやく会うことができました。
 
 いいお話でした。  

Posted by 熊太郎 at 07:09Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2024年03月06日

沈黙のパレード 東野圭吾 文春文庫

沈黙のパレード 東野圭吾 文春文庫

 映画のほうは、先日、動画配信サービスで観ました。
 出川哲朗さんの充電バイクの旅にゲストで出ていたずん飯尾和樹さんが、劇中で、殺された娘さんの父親役を好演されていました。なかなか良かった。

 もう筋書きは知っているので、文章を楽しみながらの読書になります。東野圭吾さんの文章は読みやすいので、スムーズにページが進んでいきます。

 並木祐太郎・真智子夫婦とこどもさん:犠牲者が長女沙織当時19歳(頭蓋骨陥没で発見される)、次女が夏美三歳歳下です。

 戸島修作(とじま・しゅうさく):並木雄太郎の幼馴染で親友。白髪混じりの五分刈り頭(1.5センチぐらい)。

 宮沢摩耶(みやざわ・まや):大型書店『宮沢書店』の跡継ぎ娘。三十代前半。町内会の理事。パレードの実行委員長。

 新倉直紀・留美夫婦:代々医者の家で、資産家。音楽家。歌手を目指していた並木沙織の歌の先生。

 高垣智也:殺された並木沙織の交際相手。

 草薙:容疑者を捕らえたものの、証拠不十分で無罪にしてしまった刑事
 間宮:警察の管理官
 内海薫:女性刑事
 多々良:捜査一課。昔は、管理官をしていた。今は課長の次の位のポストの人
 岸谷:警視庁警部補。40歳前後。穏やか(おだやか)。武藤の上司
 武藤警部補:色黒。顔の彫りが深い。北国生まれ。岸谷の部下

 湯川学:帝都大学で物理を教えている教授

 本橋優奈ちゃん事件(もとはし・ゆうなちゃん):12歳の少女が行方不明になって殺された。19年ぐらい前の出来事です。山中で骨が発見された。

 蓮沼寛一:ふたつの殺人事件の犯人。犯行を完全否認して無罪になった。(この点が、理不尽(りふじん。人の道の道理に合わないこと)として強調されます。被害者家族、そして、映画や本を観る者に、怨み(うらみ)とか、復讐心が芽生えます。無罪確定の代償として、刑事補償金1000万円以上を要求して受け取ったもよう。(本当は有罪なのに)。父親は警察官で、息子の寛一は、父親を見て、自白しなければ罪に問われにくいことを学んだようすがある。本人が黙秘権を行使した動機に、死んだ父親の言動があります。

 蓮沼芳恵:蓮沼寛一の継母。高齢で死去。ごみ屋敷で暮らしていた。年金生活者だった。

 冤罪(無実の罪)というのがありますが、本件事件の場合は、冤罪の反対で、犯人なのに、証拠不十分で無罪になっています。殺人事件の犯人がのうのうと暮らしています。(のうのう:心配なくのんびりと)

 映画を観ましたが、小説は、やはり、情報をち密に書いてあります。

 死体遺棄の時効を過ぎているから逮捕できない。(遺棄行為から3年)

 キクノ・ストリート・パレード:もともとは、静岡県にある菊野商店街秋祭りパレード。コンテスト形式で全国から参加がある。(仮想のイベントです)。参加者は、予選を経て、10月に行事を開催している。

 被害者の父親の言葉として、『犯人扱い? 俺はあんたを犯人だと思っているよ』

 増村英治:70歳前後の男。小柄。蓮沼寛一の同居人。傷害致死の前科あり。

 映画を観て、もう中身がわかっているので、読んでいても、なんとはなしにつまらない。
 映画の台本を読んでいるような感じです。
 原作に忠実に映画がつくられていることがわかります。

『検察審査会』について書いてあります。
 自分の印象としては、検察審査会は、正義の味方という位置づけの組織ではないというものです。
 検察審査会の話し合いで、不起訴になった事件を起訴できたとしても、やっぱり不起訴になることが多いような印象があります。
 この制度は、無念を晴らしたい人へのあきらめへの時間稼ぎにしか思えないのです。
 もう昔の話ですが、知っている人が検察審査会のメンバーに選ばれたことがあります。メンバーは、衆議院選挙の有権者の名簿から選挙管理委員会のくじ引きで選ばれるのです。なんとなく、裁判員制度に似ています。ご指名があるのです。あなたはクジにあたったのです、よろしくと。

 ユダの窓:推理小説。密室が素材(そざい)。

 森元:自動車修理工場の自営業者

 磁気物理学研究部門の第一研究室・第二研究室の磁気物理学研究部門主幹室

 23年前の事件:本橋優奈ちゃん事件(12歳の少女が行方不明になり4年後山中にて、遺骨で発見された)。事件は、東京都足立区内で起きた。

 クミコ:並木沙織の同級生

 ヤマダ:腹痛を訴えた女性

 沢内幸江(さわうち・さちえ):本橋優奈の父親である亡本橋誠二の妹

 本橋由美子:本橋優奈の母親。旧姓藤原。本橋優奈が不明になって1か月後に自殺した。24歳で、32歳の本橋誠二と結婚した。本橋誠二は歳をとったあと亡くなっている。

 岡野勇:増村英治が6歳のときに離婚した生き別れの父親。
 (おそらく岡野)貴美子:増村英治の母親。貴美子は再婚している。
 
 島岡:鑑識課員主任

 拘る:こだわる。

 塚本:高垣智也の上司。課長。
 田中:高垣智也の後輩。
 佐藤:高垣智也の会社の新人女子社員。

 349ページ付近を読んでいて思ったことです。
 証拠不十分で無罪になった容疑者に復讐しても、死んだ被害者は生き返ってはこない。
 割り切れるか、割り切れないかで、生きている人の未来が変わってきます。(わりきる=あきらめる)

 ブラフ:はったり。うそに近いことを言って、相手の言動をおびきだすための手段。

 『…… 懸命に沈黙を続けてくれている人たちに顔向けができません』

 『…… この男は人間ではない。人間の皮を被った(かぶった)邪悪な生き物だと思った。』

 『国が裁いて(さばいて)くれないならこの手で……』、それから、家族のことは考えなくていいから(復讐、仇討ち(あだうち))をやってくれという流れになっていきます。なんだか、大石内蔵助(おおいしくらのすけ)、赤穂藩(あこおはん)の忠臣蔵(ちゅうしんぐら)のようでもある。

 黙っていた人が、今度は、ウソを並べる。愛する人をかばうためにウソを並べる。

 『…… だから最後まで彼は黙秘を続けられたのです』

 良心の呵責(かしゃく):悪いことをした自分について、良心から自分を責めて悩むこと。

(全部を読み終えてびっくりしたこと)
 読み終えたとき、おかしいと思いました。
 映画の最後に出てくる犯人と、小説の最後に出てくる犯人が違うのです。
 (こんなことがあるのだろうか)
 小説は、読み終えたばかりなので、本当は人を殺していて有罪なのに、黙秘権を行使して、証拠不十分で無罪になった犯人を殺害したのは、Aという人物であることは確実だと納得がいきましたが、映画でのその人物は、Bという人物だった記憶なのです。
 もう一度、動画配信サービスで映画を観ました。
 わかりました。
 わたしの勘違いでした。
 犯人を憎んでいる人が複数いるので、AもBも眼鏡をかけていたことから、人間を勘違いしていました。そうかと、腑に落ちました。(ふにおちる。はらにおちる。納得する)
 ただ、また老化(加齢)を実感することになりました。アルツハイマー型認知症の新薬であるエーザイのレカネマブを、さきざき投与してもらわなければならなくなるかもしれないと心配になりました。トホホ…… 最近物忘れや勘違いや錯覚、記憶力の衰えが著しくなりました。(いちじるしくなりました)

 映画では、事故が起きたときに、すぐに救急車を呼べば、こんなにおおごとにはならなかった出来事です。
 救急車のピーポー音が聞こえてきたことが、紛らわしい(まぎらわしい)勘違いです。(劇中の関係者にとって)
 とはいえ、『うまくできている推理小説』です。たいしたものです。

 映像を観ながら、映像に出ているのは、役者であり、本物の警察職員ではないという感想をもちました。
 こちらの映画には、女優の檀れいさんが出ておられました。
 二年前、長野県松本市を旅した時に、たまたま市内で檀れいさんをお見かけしました。たいへんおきれいな方で、輝いておられました。旅は思い出の一里塚です。(いちりづか。めじるし。ランドマーク。江戸時代に4キロおきぐらいに街道に置かれためじるし)  

Posted by 熊太郎 at 06:40Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2024年02月29日

アンソーシャル ディスタンス 金原ひとみ

アンソーシャル ディスタンス 金原ひとみ(かねはら・ひとみ) 新潮社

 本の帯に、『ずっとそうだった、コロナは世間に似ている』と書いてあります。文章の意味はわかりませんが、コロナ禍が関係しているから、「アンソーシャル ディスタンス」なのでしょう。「新型コロナウィルス感染症拡大防止対策として、対人距離の確保(をしない)」と読み取れます。アンソーシャルで、否定形ですから。
 いったいコロナ禍(か)ってなんだったのだろう。発生地の中国は何の補償もしてくれない。まわりも補償を求めない…… まるで、そんなことは、なかったかのごとく過ぎ去ってしまっています。

 短編5本です。

『ストロングゼロ』
 飲み物だろうか? ストロングゼロ:調べました。チューハイだそうです。(わたしは飲んだことはありません)

ラ・カンテーヌ:レストランらしい。昼食を食べに行くところ。

セナ:彼氏はSE(システム・エンジニア)

(私)ミナ:桝本美奈。主人公OL(オフィスレディ)。出版社の新書編集部勤務と読みとれます。彼氏はイケメンであればいい。人間の中身にあまりこだわりはなさげです。

行成(ゆきなり。元バンドマン。今はフリーター、ミナのヒモ状態あわせて、うつ状態)。ミナは行成と3年間同棲していますが、ほかの男とも寝ます。イケメンならだれでもOKみたいです。

吉崎:セナとミナの同僚OL。面食い(めんくい)。

裕翔(ゆうと):吉崎の彼氏だが、ミナの彼氏でもある。ふたまたかけていたが、三週間前に吉崎と別れたもよう

松郷(まつごう)

職場でミナの向かいの席に座っているのが、真中(まなか)さん。
販売担当部署の三瀬さん。
奥滋さん(おくしげさん)のトークショー:奥滋美津子×村松勝トークショー

 社食の話から始まりました。(会社の食堂)
 彼氏の話が出ます。なんというか、「カレシ」とか「カノジョ」とか、所有物のような扱い、形だけの付き合い相手、言い方に、そんな軽いイメージがあります。

(読み終えました)
 アルコール依存症になっている若いOLさんのお話でした。
 女性が読む短編集でのようです。女心を表現してある作品群のようです。
 ちょっとわたしは、場違いです。少し、流し読みをするような感じで読みました。
 怯む:ひるむ。
 校了(こうりょう):印刷してもよい状態になる。校正終了の略。
 スマホで、ストラテジーゲーム:戦略。策略。ゲームで与えられたミッションをクリアする。
 
 文章に勢いがあります。すさまじいパワーです。文字数が大量です。
 よきフレーズ(言い回し)として、『(男にとって女であるわたしは)自動販売機のような存在なのかもしれない……』、男にごはんを用意して与えている。男は鳥かごのなかにいる鳥のようなもの。

 読んでいる自分は、相当まじめなのでしょう。読んでいて、主人公女性のミナがだらしなく思えます。
 本人は悩んでいるようなのですが、同情する気持ちにはなれません。ミナは、はっきりしない人です。自分の未来に向かって、自分がどうなりたいのかの志(こころざし)がない人です。アル中の人です。たくさんStrong Zero(ストロングゼロ)というチューハイを飲みます。しょっちゅう飲みます。

 新書:新刊の書物。気楽に読める教養ものや小説。

 仕事のようすが書いてあるのですが、なんでもかんでもメールです。昔はちゃんと相手に会って話したり、電話したりで口頭で会話をしたものです。なんだかなあという気分で読んでいます。無言で接客する人が増えました。人間じゃなくて、AIロボットのようです。(人工知能ロボット人間)。人間が、人間ではない、人間のようなものになっています。

 リマインド:思い起こさせる。

 ミナは、アルコールに依存するけれど、男にも依存する。男から、『まだ飲むの?』と問われてしまいます。とうぜん、まだ飲み続けます。心の病気です。
 複数の男と交渉をもっているので、そのうち、男の名前を言い間違えます。めちゃくちゃですな。

 アルコール依存症ですから、夢と現実が交錯(こうさく。入り混じる)します。
 同僚からは、『…… 酒臭いよ』と言われてしまいます。

 わたしは長いこと生きてきて、アル中の人を何人か見たことがありますが、アル中の人は、体力があるうちは、威勢(いせい。元気。勢い)がいいのですが、体力が落ちてくるとぼろぼろになります。思うに、アル中の人は、内臓がぐちゃぐちゃになって、排尿・排便のコントロールが自分でできなくなって、オムツをつけて、汚物まみれで死んでいくイメージがあります。苦しい死に方です。

 アイラ島のウィスキー:スコットランドの島。ウィスキーが有名。

 得る(える)ものはなく、失うものばかりのアル中の女性の話でした。


『デバッガー(Debugger。コンピュータープログラムの不具合を探し出して、修正する作業をする人)』
 読み終えましたが、自分には、合わない小説です。この本は、まじめさとか、一生懸命さがない女性が主人公になる短編群です。

 35歳のOLが、同じ職場の24歳の男性とカップルになってのあれやこれやです。
 まわりの同世代が、結婚して、出産して、子育てをしての中で、取り残された女性です。自分で自覚があります。自分は、時間が止まっているという表現があります。
 かといって、仕事で大成功しているようすはありません。

 主人公の女性は、理由はあいまいですが、美容整形に多額のお金をつぎ込みだします。
 そして、整形の結果がうまくいきません。あせります。そんな流れのお話でした。

森川愛菜(もりかわ・まな):27歳のときに3年間付き合った男と別れて3年がたった。付き合い始める前、その男は複数の女性と付き合っていた。アイドルとか、元モデルの美人とか、おまえよりレベルが高い女性だったと言われたとあります。(こんなところで、まじめな話で申し訳ないのですが、同時に複数の異性と付き合うような人間とは距離を置いたほうがいいです。誠実な人ではありません。ただ、この話の場合、森川愛菜も同時に複数の男と関係をもつ女性なのです)

優花(ゆうか):同僚OL。かなり年上の既婚男性と不倫をしている。不倫相手の男性は、離婚したいができない状況にあるらしい。秘書課で働いている。

大山くん:24歳。森川愛菜よりも8歳年下だが、森川愛菜との結婚を真剣に考えている。森川愛菜とつきあっている。いっぽう、同期の山岡という24歳の女性が、大山に好意をもっている。

 ブリオッシュ:フランスの菓子パン

 失礼かもしれませんが、読み手の自分からみれば、くだらない世界のことが書いてあります。セクハラ、モラハラの会社内のようすです。女性蔑視のようすです。(べっし。女性を下に見る)
 この短編を読んで共感する女性もいるだろうなあ。
 高学歴の人たちが働いている会社に見えます。

 以前考えたことがあります。結婚しない。こどもがいない。孫もいない。そして、高齢の親を亡くして、年寄りのひとり暮らしになるって、どんな感じなんだろうなあと。
 子どものいない夫婦、孫のいない夫婦の友だちがいるので、雑談の中でそんな話をしたことがあります。彼らの返事は、『わからない(子どもや孫がいることの実感が湧かない)』というものでした。
 結論としては、未婚であれば、18歳ぐらいの意識のまま、心身が老いた状態になるというものでした。結婚生活の苦労とか、子育ての苦痛とか、高齢の親や義父母の介護などの苦悩体験がなければ、家族関係のあれやこれやがあったという人生を実感することはないのです。
 こちらの短編の主人公女性のようすと重なります。

 大山くんが言います。
 『ペンギンになりたいなあ』(飼育員にエサをもらって生きていけるのはサイコーなこと。飼育員=8歳年上女性の主人公だろうか。年上女性に養ってもらいたい)

 哀しい(かなしい)話です。
 自分としては、やはり、年齢に応じたポジション(人生の立ち位置)にいたい。(このあとの短編、『コンスキエンティア(Conscientia。意識。共犯関係。良心)』115ページに関連する文章があります。計画的に人生を送る人は、コントロールフリーク(仕切り屋)だと、見くだすように表現されています)(う~む。そうかなあ。若い時にはわからないのです。50年も経つと、顔も体もだれしもが心身ともにヨロヨロになります。健康優良児的なイケメンとか美人ではいられません。労働者としての現役リタイアの時期が近づいてきたら、老後の備えは大事です)
 
 病気でもないのに、美容整形外科という医療機関に行く。
 働いたお金を、『自分の顔』につぎ込む。(結婚しない。こどももいないとなると、働いていれば、たくさんお金が残るからかけられる費用なのでしょう)

 小説に出てくるどの恋愛も、顔とかスタイルとか、見た目だけの愛情です。性格とか、資質とか、気が合うとか、そういった基準がありません。

 ボトックス:シワ対策のために、薬を注射する。(この物語では、主人公が思ったような効果がえられません。失敗して、10歳ぐらい老けて(ふけて)見えるようになります。35歳が45歳に見える。みじめです)

 なんだか、大山くんという男も変な男です。(年上女性のヒモになりたい。結婚が永久就職のようです)

 主人公女性の言葉です。
 『…… 私は一体、誰と恋愛していていたのだろう。そもそもこれは恋愛だったのだろうか……』
(うーむ。35歳ならまだやり直しができますと励ましたいけれど。うーむ。なんともいいがたい)


『コンスキエンティア(Conscientia。意識。共犯関係。良心)』
 主人公 小路茜音(しょうじ・あかね)。30歳。不倫中(相手はひとりとは限らない)。
夫:奏(そう)。31歳。無気力。妻のヒモ状態。(この本では、ヒモみたいな男がよく出てきます)
 
 由梨江:小路茜音の友人。デキ婚。育休中。

 龍太:由梨江の弟。小路茜音の不倫相手のひとり。

 宗岡

 美梨(みり):小路茜音の同僚

 原田悦司(はらだ・えつし):51歳ぐらい。有名服飾デザイナー。小路茜音の新しい不倫相手の男性になるであろう人。

 お化粧をしているようすから話が始まります。
 自分は男なので、男の生活とはあまり縁のないお化粧の内容について、細かい記述が続くのですが、理解できないので、流し読みをします。
 お化粧をする女性が読むとピッタリくるのでしょう。

 表向きだけの仲良し夫婦です。中身はありません。すでに夫婦関係は破たんしています。
 『今考えなければならないのは、離婚のことだ……』(でも離婚しません)
 
 外資系化粧品メーカーのBA:ビューティーアドバイザー

 夫は、朝4時に二十連投で、妻のラインにメッセージを送ります。(異常です。妻は女ともだちの家で普通に寝ていました)

 主人公の母親は、現実を知っています。『あなたの(娘の)結婚生活は続かない。』
 
 娘は、ブルドーザーみたいな勢いで結婚したけれど、今は離婚したいそうです。

 ラインのラリー(連投)が異常です。ラインの着信音が続きます。

 こんなことで、悩まなければならないのだろうか。
 依存しあう夫婦です。
 自立とか自活という言葉がありません。

 ふたりの肉体的な交渉は、『何か人間ではない生き物に犯されたような気分だった。』そうです。
 腐れ縁です。
 
 外連味(けれんみ):はったり、ごまかし。

 なんだか、虚しい(むなしい。中身がない)暮らしぶりです。
 何のために生きているのだろう。
 夢がありません。
 妻も夫も、心を病んでいます。(やんでいます)。
 夫婦は、夫婦になる努力をしないと夫婦にはなれません。
 親子も同様です。
 書き手は何を表現したいのだろうか?
 『虚無(きょむ。なにもない。むなしい)』と『孤立感』。人間のもつ闇(やみ)でしょう。

 NTR:寝取られ。パートナーが奪われる。

 厨二病(ちゅうにびょう):『中二病』が、ネット上で、『厨二病』に変化した。思春期のありがちな背伸び行為・言動。

 ナチョス:メキシコ料理。薄いパンに具材をのせて食べる。

 DV:夫婦間の暴力があります。夫から妻に対するものです。まあ、めちゃくちゃですなあ。

 読み終えました。
 なんだろう。主人公の身になってみると、『自分』という人間が、失われていく感覚があります。
 

『アンソーシャル ディスタンス Unsocial Distance 社会的距離がない。非社会的距離』
 読み終えました。これまでの作品を含めて、途中で、もう読むのをやめようかと思う読書が続いています。
 エロい下ネタ記述が続きます。高校生の頃に読んだ村上龍作品『限りなく透明に近いブルー』を思い出しました。
 荒廃した若い男女の関係です。
 なんというか、人間って、そんなものではないのです。内容は、受け止め方にもよりますが、読者を喜ばせようとするためのつくり話です。
 人間の体というのは、だれしもが病気をもっています。健康優良児タイプの体は少ない。夢のような行為の体験なんて、やっぱり夢なのです。それぞれいろいろハンデをかかえていて、お互いに人に見られたくないところをさらけだして、助けあっているのが愛情の現状です。行為そのものについては、人間って、どうしてこんなことをするのだろうかと思うこともあるのです。子孫を継続させるための行為です。愛情の確認だったら抱き合うだけで十分だという人も多いのです。一定の線を超えると異常な性癖になります。

 まあ、物語の流れに沿って、感想を書いてみます。
 女性の指輪のことが書いてあり、なにか意味がありそうでした。
 
小嶺沙南(「こみね・さな」でいいのでしょう):10歳、13歳で自殺企図あり。リストカットあり。16歳で脱法ドラッグを使用して、高校を中退した。大検に合格後大学に進学した。

幸希(こうき):小嶺沙南とカップルの男性。小嶺のゼミの1年先輩。小嶺を妊娠させて、堕胎させた。

 まあ、このふたりに家庭を築けるわけがないというカップルです。

 松永絢斗(まつなが・けんと):小嶺沙南に言い寄る男

 ハンザップ:音楽バンド

 妊娠したこどもを強制的に体の外に出して命を奪います。
 平然とカップルはその行為を医療機関で行います。
 読んでいてイヤな気持ちになってきます。赤ちゃんの命の大切さというものはない。
 目的も目標もない生活です。
 親への隠し事はありです。(堕胎(だたい)のこと)
 中身のない男です。
 命をモノ扱いする男と女です。こんな人はこどもをつくらないでほしい。
 
 なんでもネットで買うのか。(さだまさしさんの歌を思い出しました。『買い物ぐらい体動かせ』です。たしか、『関白失脚』という歌で、歌詞では、テレホンショッピングでした)
 
 ペシミズム:悲観主義。世界は不幸と非合理に満ちている。それ以外にない。
 HILDE:会社名。幸希が内定をもらった。パソコンメーカー。

 スマホ、メール、飲もうよ!(アルコールを)、スマプラ(スマホで楽しむ音楽・映像)、ネット、ゼミ、フラペチーノ(スターバックスの冷たいドリンク)、希死念慮(きしねんりょ。自殺プランづくり)、ライブハウス、メンヘラ、イヤホン、iPhone、ウォーターサーバー……

 読んでいて、しゃらくせぇ、とか、ばかばかしいという気分になります。(案外そういう気分になるのは、作者の術中にはまっているのかもしれません)
 人工的な世界の中にいる若い人たちに見えます。
 心が病んでいます。(やんでいます)
 暗い内容です。
 光が見えない。光を見たい。

 大学まで行って、何を学んだのだろうこの人たちは。
 法学部を出て、法律を守らない政治家みたいなものか。
 脳みその中にある誠実さは、幼児よりも低い。
 
 男女が交互に自分の心理状況を語る形式の文章です。
 
 母親と息子の関係はゆるい。母親も息子と似たようなものか。
 『俺の中でもう母親は関係ない人だから』
 
 重ねて、エロい言葉がたくさん出てくるのですが、生物の生態系の話を読んでいるようでもあります。人間の体は、書いてあるようには動けないのです。現実と夢にはへだたりがあるのです。世の中は誤解と錯覚でできあがっていると、だれかが言っていました。

 なぜ死にたいのだろう。そして、なぜ死なないのだろう。(小説家太宰治(だざい・おさむ)氏を思い出します)。彼は死にたいと言いつつ死にたくなかった。女に導かれて水の中で死んだ。本当は死ぬつもりではなかったとも思えます。
 こちらの作品は、背景とか底辺に太宰治氏の意思が置かれているのだろうか。

 惰性(だせい。これまでの流れ)で生きていく人たちのお話でした。
 

『テクノブレイク(Technobreak。過度な自分の行為による突然死)』
 まあ、過激なタイトルが続きます。
 短編集の最後の作品になりました。がんばって読みます。
 
(読み終えました。この短編部分の感想を書く前に、この本全体の感想を書いてみます)
 いくつもある〇〇文学賞のたぐいにおいて選ばれるためには、文壇で、これまでにない文章の書き方、これまでに見たこともないストーリーの展開があるという『個性』が必要だと思います。
 奇抜さを狙った文章書きです。(なかなか書けないやりかたです)
 著者は、若い頃、そのことに気づいてチャレンジして成功を収めた。(おさめた)。以来、こういう文体と内容で創作活動を続けることを決心した。(2004年(平成16年)芥川賞受賞「蛇にピアス」)
 そんなふうに思いました。

 本を読み終えたあとからのことですが、作者が、翻訳家の金原瑞人(かねはら・みずひと)さんの娘さんだということを知りました。金原瑞人さんは、ていねいで、繊細で、読みやすい翻訳をされる方です。
 これまでに、児童文学作品、『ジョン万次郎 「海を渡ったサムライ魂」 マーギー・プロイス 金原瑞人訳 集英社』と『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活 ニール・ゲイマン 金原瑞人・訳 角川書店』を読んだことがあります。

(では、この短編「テクノブレイク」のほうの感想です)
 大学生たちがいます。そのうち卒業して就職します。
 ナナちゃん
 ミナミン
 人間の位置がわかる位置情報アプリケーション「ゼンリー」(誰かと繋がって(つながって)いたい欲望を満たすためのアプリです)

 芽衣(めい):主人公若い女性。

 遼(りょう):ポジティブな男(積極的)。芽衣と付き合っていましたが、もともと性格が合わないのに付き合っていたことが災いして別れます。大手商社に勤務しています。

 蓮二(れんじ):遼と別れたあとの芽衣の新しい彼氏。まあ、体の相性がいいらしい。そのうち、コロナ禍が始まります。体を重ねるよりも、マスクが最優先の生活です。ふたりの関係が崩れ始めます。体の関係が中心の付き合い(愛情)は、コロナ禍で、ダメになりそうです。移る(感染する)病気の扱いはむずかしい。

 安岡(やすおか)
 谷原:蓮二の会社の同僚。

 まあ、エロい話が続きます。男も女もサル(えてこう)状態です。壊れます。
 あからさまな表現ばかりで、読むことが苦痛なので、流し読みです。
 
 濃厚接触者、自宅待機、消毒作業、感染発覚…… (そんな言葉が街中にあふれた時期がありました)

 芽衣は、心の病気です。
 ネットとか、LINE(ライン)とか、ウーバーイーツとか、スマホ、DVDプレーヤー、グーグルフォトに同期とか、ゴースト機能とか、シェルターとか、デジタルの言葉が満ちる世界での生活は、本来の人間の生活からは距離があります。
 でかいゴキブリが出てきました。ゴキブリは、なにかをゴキブリにたとえてあるのかもしれません。
 チャーハンとか、フライパンも出てきました。なんだか、不潔そうです。
 この女性は(芽衣は)、人間なのか?
 疑問が浮かびます。こういう人っているのかなあ?
 
 読み終えて思うのは、こういう小説を必要とする人は、いるのだろうなあ。


(2024年3月8日金曜日追加記載)
 後日たまたま読んだ本が、金原ひとみさんのお父さんの翻訳本でした。
 とても良かった。
 心が温まりました。(あたたまりました)
 以下は感想の一部です。
『青空のむこう アレックス・シアラー 金原瑞人(かねはら・みずひと)・訳 求龍堂(きゅうりゅうどう)』
 死んでしまった少年の話です。少年はゆうれいになります。
 イギリスの小説家の児童文学作品です。
 日本語訳者は、先日読んだ、『アンソーシャルディスタンス』の作者金原ひとみさん(「蛇にピアス」で芥川賞を受賞された)のお父さんです。
 これから読む本が家のダンボール箱に入れてあるのですが、たまたま偶然、こちらのお父さんの本にあたりました。

ハリー・デクランド:交通事故死した少年。サッカーが好き。11歳ぐらい。交通事故で死ぬ前に、姉のエギーとけんかをしていたことを、死んでから後悔している。とても後悔している。捨てゼリフを姉にぶつけて家を出て、そのあと交通事故で死んでしまった。
 自転車に乗っていて、10トントラックにひかれた。
 『…… お姉ちゃんなんか大嫌い! …… 帰ってくるもんか。もう二度と会いたくない』、姉のエギーが、『じゃあ帰ってこないで』と言い返したのが、この世の姉との最後のやりとりだった。(つらい話です。現実でも起きることです。家から出かける時は、ケンカはしないほうがいい。本当に、それが最後になることがあります)。  

Posted by 熊太郎 at 07:58Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2024年02月21日

大丈夫な人 カン・ファギル 小山内園子・訳

大丈夫な人 カン・ファギル 小山内園子(おさない・そのこ)・訳 白水社

 韓国人女性作家の短編集です。
 9本の短編作品がおさめられています。

『湖――別の人』
 う~む。1回読みましたが、なんだかよくわからない。

ジニョン:若い女性。物語の語り手。首に首を絞められた痣(あざ)がある。25歳のとき付き合っていた男に首を絞められた。(しめられた)。現在32歳。12歳からこれまで、アンジン市の近郊で暮らしている。パンツのポケットにピンセットが入れてある。(護身用?)。口癖は、『わかりません』。

ミニョン:若い女性で、ジニョンの友だち。酒癖が悪い。だから、酒は飲まない。性暴力の被害者。今、意識不明で、入院して3週間がたつ。
 湖のそばで遺体に近い状態でジョギング中の男性に発見された。(物語では、事故と表現される)。意識を失う直前の言葉が、『湖に、置いてきたの。湖に(だけど、周囲の人間にとっては、彼女がそ湖に、何を置いてきたのかがわからない)(釘抜きみたいなもの)(ヘアピンみたいな形)(重い。動かせない)』。事故にあう前、ミニョンの細い腕に青くて丸い痣(あざ)があった。

イハン:若い男性。ミニョンの恋人。性暴力の加害者らしい。(監視カメラの映像あり)。身長190cm。

ミジャ婆(ばあ):湖のほとりにいる高齢者女性。水辺で洗濯をしている。ミジャ婆は、家にいたくない。頭皮がはげている。夫から暴力を受けている。夫が、髪をつかんで引き回している。

 長いページ数ではないので、もう一度ゆっくり最初からページをめくってみます。
 翻訳もの(ほんやくもの)なので、ちょっとした読みにくさはあります。
 
 ミニョンに対する性暴力の加害者であることが疑われるイハンとジニョンが湖に向かっているところから始まります。ミニョンが湖に置いてきたものを探します。

 韓国は、男尊女卑の国で、女性差別、女性蔑視(べっし)がきついとほかの本で読んだことがあります。この本の題材もそういったものかもしれません。

『今日バスで、変な男を見たんだ』
 バスの中で、ひとりごとのように大きな声をあげる男がいた。乗客も運転手も知らないふりだった。

 二号さん(セカンド):この言葉の意味がわかりません。日本だと、妾(めかけ)とか、愛人とか、第二婦人となりますが、この物語では、13歳(韓国では小学生らしい)のミニョンに対して、同級生男子が、『おい、おまえだって二号(セカンド)さんだろ?』と声をかけています。『次女』ではないと思います。

 韓国の男性は、女性を自分の所有物だと思っているから、女性に対して、謝罪はしないのだろうか。

 肝心なことを隠しながら物語は進みます。

 別の名もなき女性が男に付きまとわれる話が出ます。

 二度目の読書が終わりました。内容は、詩的です。なんだろう。男に対する抗議を抽象的なイメージで表現してある作品だろうか。わかりません。感覚的です。具体的になにがどうしたのかの説明がありません。(う~む。この先の短編を読めばわかるのだろうか)


『ニコラ幼稚園――尊い人』
 う~む。この短編群は、ホラー小説(恐怖)という位置づけらしい。人間の心の奥に潜む『悪魔』を呼び起こすのです。闇から悪魔をおびきだすのです。

 教育キチガイママが登場してきます。こどもの教育に関して、過干渉な母親です。こどもに無理に勉強をさせているという噂(うわさ)がある。
 妻(母):ミホ。自分が、8歳のこどものころ、字を読めなかった。
 夫(父):存在感がありません。
 ミヌ:男児。有名私立幼稚園である『ニコラ幼稚園(1947年設立)』の入園に関して、補欠の2番目。入園受付日の9日前から並んだ。入園は、先着順が基本らしい。ミヌは本をたくさん読む。ミヌはその後、一人が退園したので、繰り上げ当選になった。
 ジノの母親:この人が、悪を運んでくるらしい。

 場所は、『アンジン』というところです。架空の地名のようです。

 この幼稚園に入れると、未来は、ソウルの大学に進学して、公務員、実業家、学者になれるらしい。『ニコラ幼稚園を出ると出世する』。
 初代園長は、日本留学して帰国した女性で、自分の女性の子孫だけが幼稚園を運営できるとした遺言を遺した。(のこした)。ニコラ財団がある。
 
 日本では、少子化でこどもの数が減ったので、親の子に対する過干渉が増加しました。
 自分の親の世代は、兄弟姉妹が7~8人いても不思議ではない家族構成でした。まんなかあたりのこどもは、祖父母との交流は薄いし、先祖のお墓参りの習慣もあまりなかった。いっぽう末っ子は案外大事にされました。

 ニコラ:ヨーロッパ系の男性名(宗教と関係があるのだろうか。わかりません)

 園長:40代なかばの女性。

 噂(うわさ):ニコラ幼稚園を悪く言う噂。54ページ付近まで読んできて、具体的になにということは書かれていない。(その後:園長が奇抜な洋服を着る(薄着)ことがあることから、園長の人としての人格が疑われていることがわかります)

 ヤン・スルギ:嘘つき女。手首に赤い火傷(やけど)のような痕(あと)がある。熱した丸い焼きごてをあてられたような形をしているような痕(あと)がある。

 国民学校一年生のときの思い出として、(今でいう小学一年生ぐらいです)担任のチン先生によると:ヤン・スルギは、同級生だった。父親がアンジンの警察署長だった。

 ハングルを学ぶ。できないと、先生が、自分の左の手首を自分で痛めつける。棒で、自分の左手首を叩く(たたく)。

 第10期卒園生の女(ニコラ幼稚園で働いている)

 う~む。何が起きているのかがわかりません。むずかしい。


『大丈夫な人』
 本のタイトルになっている作品です。ホラーなのでしょう。映画の台本のようでもあります。
 結婚を控えたカップルですが、女性の側に不安な心があります。男性が二重人格、二面性があります。もっとも、韓国社会というところは、女性は男性の所有物という思想が下地にあるのではないかと察せられる作品です。ゆえに、女性蔑視、女性差別に対する抗議が作品に内在されていると感じられる作品でした。
 男に従う。頭脳優秀でお金をもっている男に従っていれば、女は、『大丈夫な人』になれるのです。『大丈夫な人』でいられるために、女は、男から暴力を振るわれても、暴言を吐かれても、がまんしなければならないのです。
 男には変な性癖があった。鹿を捌く(さばく。内臓等を処理する)動画シーンが好きだった。夫となる男は、動物を殺して処理するシーンに快感を得るタイプの人間である。
 男には、鹿も女も同様に見えているようすであった。
 男は弁護士であり、米国での暮らしも長期間体験していた。大学までアメリカ合衆国だった。
 女は、平凡な家庭の娘で、弟二人がいた。一般的な暮らしで、裕福ではなかった。
 『私は、ひたすら大丈夫な人になりたかった……』
 男は、『屠畜場(とちくじょう。家畜を解体して肉にする)』が好きだった。
 
 恐怖小説(ホラー映画のワンシーンみたいです)現実味がありません。
 ミンジュ(若い女性)の命が、男に奪われるのではないかという恐怖があります。

 変な男だけれど、(女が)生きていくために、男に従うことにした。『大丈夫な人』になるために。


『虫たち』
 三人の女性が戸建てで同居して、ホラーのような状態になるという短編でした。場所はソウル市内です。
 イェヨン:女性。家の家主。両親が突然他界した。その後、部屋貸し収入で暮らしている。自分は、戸建ての2階に住んでいる。借家人は1階の部屋に住んでいる。

 (私:語り手)スジ:若い女性。短大生。1階の部屋を借りている。

 ヒジン:若い女性。1階の部屋を借りている。

 家の中に不潔な部分がある。臭いもする。虫もいる。

 三人の女性は、月に1回ぐらい、いっしょに食事をする。

 庭付き一戸建て。部屋は、5室ある。2階に2部屋ある。2階は家主のイェヨンが使用している。
 1階にヒジンとスジの部屋がある。台所と納戸、テラスと鍵のかかった部屋がある。
 
 読んでいると、韓国の女性は、気性が激しいのだろうかと思ってしまいます。スジとスジの妹、母親もからんでの対立があります。こどもに対する不公平な扱いがあります。

 ヒジンは、恋人からドメスティック・バイオレンス(暴力)を受けていた。顔に青あざがある。
 
 家主のイェヨンがふたりに、どちらかひとりにこの家を出て行ってほしいと言う。
 イェヨンとヒジンは仲がいい。
 イェヨンには、奇行があります。(奇妙な言動。魚の頭を15個一列に並べてあった)

 読みながら情景を思い浮かべようとするけれど、非現実的でわかりにくいです。ホラー(恐怖、嫌悪)です。


『あなたに似た歌』
 こちらの短編も読み終えましたが意味をとれませんでした。
 中年の母親がいる。末期がんの29歳の娘スジンがいる。スジンは、2年前に卵巣がんが見つかった。ステージ4(体内でがんが転移している状態をいう)。娘は、小説家になりたい。11歳のときに父が死んだ。

 母親は、趣味の教室で声楽を習っている。ソプラノを担当している。発表会に出たい。夫は交通事故死している。ある日の早朝に、夫は、飲酒運転の車にひかれた。
 母親は、若い頃、市の合唱団員だった。夫の死後、保険外交員をしていた。
 文化センター声楽講座の男性講師がいる。発表会に出る生徒は、金次第で決める。うまいへたは二の次という決め方をする。お金でポスト(地位。立場)を買う。

 母と娘は、アンジン市に住んでいる。
 母が運転して、娘が助手席に座って、アンジン最古の建物に向かっている。そこは、宣教師の私邸だった。今は、文化センターの教室代わりに使用されている。『生涯教育センター』という。

 次から次へと文章で情報の提供があります。把握することがたいへんです。

 ときおり、『母さんに似た』という文章が出てきます。がんになったことも、母さんに似たような含みがあります。

 『何事も確認しなければ気が済まない人の話を聞いたことがある。』(社交辞令(その場しのぎのほめことば)を信じない。表は良くても、裏で悪いことをしているだろうと推測する。なにかたくらんでいるのだろうと思う)

 末期がんの患者が車を運転していることが不思議でした。(妄想なのか)

 最後にちいさなこどもの姿が出てくるのですが、意味がわからない。

『部屋』
 こちらの作品も、う~むでした。わからない。
 私:ジェイン
 スヨン:ジェインの女ともだち。
 主の女:家主。首の左が長いそうです。(?です)
 教試院(こうしいん):もともとは、朝鮮半島の大学入試、公務員試験を受験する人が缶詰になって勉強する宿泊施設だった。現在は、大学生、地方出身者、日雇い労働者の安価な簡易宿所。
 チョンセの家。

 貧困について書いてあるようです。
 『風船が割れるように都市は爆発した』
 韓国映画『パラサイト 半地下の家族』みたいな雰囲気があります。
 『(半地下の)ここから窓のある部屋に移ろうとすれば、二年は軽くかかる……』
 設定が、SF(サイエンスフィクション)だろうか、未来都市の話だろうか。
 
 浮腫んでいる:むくんでいる。
 醤油煮(ジャンジョリム):韓国料理
 サンチュ:レタスの一種

 お金のことで、スヨンの体が病気になるのか、スヨンの体が肥大化して、変形、硬化していきます。ホラー(恐怖)話なのかなあ。よくわかりません。
 むずかしい。何が書いてあるのかわかりません。


『雪だるま』
 (僕)ギチェ:11歳

 社会福祉士:女性

 ギチェの兄:17歳。兄は、弟ギチェに暴力を振るってギチェを置き去りにした。兄本人は、11歳のときに骨折・打撲で入院した。13歳のときに交通事故に遭った。母親が、兄を殴って、車の後ろに押し込んだ。
 兄は将来なにかを研究する人になりたい。兄はコンビニで働いていたが、店主にだまされて、多額の借金を負った。

 ウニョン

 なにやらぶっそうな話が始まりました。

 ギチェは、本人が言うには、『閉じ込められている』

 ギチェと兄には共通の夏の思い出がある。

 キーワードは、『大丈夫だって。』という言葉のようです。

 兄による弟への暴力があります。
 父は母に暴力を振るっていたらしい。
 両親は離婚した。母は父の借金を肩代わりした。(かわりに払う。人の債務を代わって引き受ける)

 古紙回収のおばあさん
 古物商の店主のおじさん:背が高くて、顔が真っ黒で、目つきが鋭い。(するどい)
 兄のカノジョ(美容師):弟の髪を切って、丸坊主にしてしまった。

 どこからどこまでが本当で、なにがウソなのかわかりません。映像化すると、けっこう怖いホラー(恐怖)になるのでしょう。

 ときおり、『虫』が姿を現します。虫はなにかを暗示しているのですが、わたしにはわかりません。

 (僕)は、捨てられる。兄から暴力を振るわれて、耳を乱暴に引っ張られたり、背中を蹴(け)られたりする。おまえが、オレの負担になっているという趣旨で弟は兄から怒鳴られる。

 貧しさ、暴力、ホラー(恐怖)、狂気の世界です。

 廃品をお金に変える。

 社会福祉士と最後に会ったのは、22歳のときだった。

 主人公の記憶をたどる文章です。
 主人公はこどものころ、部屋の中で、死体みたいにころがっているところを発見された。タイトルにある、『雪だるま』の幻視があります。

 親を頼れないこどもの悲劇があります。


『グル・マリクが記憶していること』
 読み終えましたが、あいかわらず何が書いてあるのかを理解できません。

グル・マリク:インド人男性。インドでは、低い階級の人間。韓国に滞在していたが、インドに帰国して、火事で亡くなった。

タニ・カーン:インド人女性。グル・マリクと同じインドの村で、同じ日に生まれた。タニ・カーンは若いけれど、現地の60歳男性と婚約して結婚した。夫からDV(ドメスティック・バイオレンス。暴力)を受けた。グル・マリクとふたりで韓国に逃げた。その後、ふたりはインドへ強制送還されたような雰囲気があります。

彼女:韓国人。ハングル(韓国の言語)を教えるボランティア。教育学の大学院卒業。国語教師になりたかったが、採用試験に何度か落ちてあきらめた。

韓国人彼女のカップル相手の男:二十歳。(韓国は、満年齢ではなく、数え年で表記してあると、本のうしろの訳者あとがきにありました)。

ラム:インドの男性。健やか(すこやか)で、裕福な、高い階層の男。

 グル・マリクと韓国人男女三人は知り合いです。
 グル・マリクが、韓国人女性に遺品を送っていた。遺品が韓国人女性に送られてきたのですが、届かないので、女性と男性が荷物を探しに業者がいる『地域の保管センター』行くようすが書いてあります。なかなかイメージしにくい文章の内容でした。

 韓国の街中風景の記述を読んでいると、おととし2022年10月29日、ハロウィンのときに起きた事故を思い出します。群衆雪崩(ぐんしゅうなだれ)事故による圧死者多数です。154人も亡くなっています。

 インドのカースト制(身分制度)のことがからんでいます。女性差別もあります。

 あの人たち:インド人タニ・カーンから見て都市(韓国ソウル)に住む人たちのこと。やがて、『友人たち』と呼び始める。

 グリ・マリクは、『出入国管理事務所』にいたことがある。

 グリ・マリクの理解できない言葉として、『必要ない、と、代わりはいる』

 (グリ・マリクの遺品がどうして、韓国にいる女性のところへ送られてきたのかが不可解です)

 何のために自分は生きているのかを自問する内容です。
 裕福な男が言うには、自分は、人を助けるために生きていると思っていたが、人から必要とされる人間になりたいという承認欲求があった。自分を自慢したかった。そんなふうに意味をとれます。

 現実のことではない、脳内にある風景を再現してあるようです。

<あまりにもわかりにくいので、うしろにあった「訳者あとがき」を読んでみました>
 女性の日常について書いてある。女性の日常は、スリラーだ。(ぞっとするような感覚を与える)
 なにゆえスリラーかというと、女性は常に男性から差別を受けているからである。
 女性蔑視(じょせいべっし:みくだしてばかにする)がある。男性は不満があると女性に暴力を振るう。乱暴な言動をする。だから、スリラーでありホラー(恐怖)なのです。

 人間の奥底にひそむ暗い感情が、文章で表現してある。女の感情もあるし、男の感情もある。
 インド社会には、階級と差別が、世の中の制度として存在している。
 強い立場の者が、弱い立場の物から搾取する。(さくしゅ:利用して、利益をしぼりとる)
 身近に、不安、悪意、卑下(ひげ。見くだし)、怒り(いかり)、諦め(あきらめ)がある。
 短編『部屋』は女性同士の同性愛について書いてあるそうです。

『手』
 最後の短編作品になりました。ここまで、チンプンカンプンで、文字を追って来ただけです。
 
 嫁と姑(しゅうとめ。夫の母親)の諍い(いさかい。対立)話です。
 読み始めて、昔のことを思い出しました。
 ナゴヤドームに小学生だった息子とプロ野球の試合を観に行ったときに、自分たちの前の席におばあさんがふたり座っていました。ふたりのおばあさんは、試合の経過はそっちのけで、お嫁さんの悪口ばかりを延々としゃべり続けていてあきれました。ふたりは、球場へなにをしに来たんだろう? 招待券でももらったのでしょう。しかし、話題がお嫁さんの悪口しかないなんて、なんて、狭くて息苦しい世界で暮らしている人たちだろうかと、かわいそうになりました。

 さて、お話のほうです。

(私)キム・ミヨン:女教師。夫はインドネシアに単身赴任中。ミナという保育園に通う女児がいる。ミナの養育のために夫の母親の実家で、母親と自分と娘の三人で暮らしている。とてもいなかの環境で、担任しているクラスには児童が7人しかいない。姑(しゅうとめ)と同居したことを後悔している。

キム・ミヨンの姑(しゅうとめ。夫の母親):かなり、きつい人です。キム・ミヨンを責めます。言葉遣いが乱暴で、差別用語もポンポンしゃべります。孫娘のミナが祖母の真似をして、差別用語をしゃべります。

デジン:キム・ミヨンの教え子。いじめられている。ヨンジャ婆(ばあ)の孫。

ヨンウ:キム・ミヨンの教え子。いじめっこ。体が大きく学力優秀。表向きはいいこどもだが、実は悪人タイプの個性をもつ。陰で、陰湿にデジンをいじめぬいている。里長(さとちょう。韓国行政区の最小単位の末端の長だそうです)の孫。

 短編のタイトル『手(ソン)』は、『悪鬼(あっき。人間たちに悪をばらまく。性別は女)』のことです。
 主人公の助教師キム・ミヨンは、姑さん(しゅうとめさん)に攻撃されて、さらに、村組織の中で、教え子たちと村人たちにいじめられて、精神状態がおかしくなります。ホラー(恐怖)です。幻聴が聞こえるようになります。(「パンッ」という音が聞こえる。火の熱で、竹が、はじけるような音)

 狭い村組織には、社会的な法令意外に、掟(おきて。その場所だけでの決まり事(ごと))があります。よそ者は嫌われます。排他的です。だれかをいじめて、うさばらしをする空気があったりもします。人間はむずかしいし、人間なんてそんなものです。
 村の風習として:味噌玉麹(みそだまこうじ。蒸した大豆を成形して麹菌を生やす)をつくる。
 
 開発時代:韓国における経済成長至上主義の時代。1960年~70年代(日本だと、昭和35年から40年代)

 差別用語として、『あいのこ』。

 本の中では、おばあさんはつくりばなしをします。実際にはないことを、まるで本当にあったかのように話します。
 わたしは、以前、そういう高齢者女性を実際に見たことがあります。ウソつきおばあさんです。おばあさんの被害者妄想(もうそう)話を聞いた人は、おばあさんのつくり話を全部信じて、無実の人を攻撃したりもします。
 でもおばあさんの話は、全部ウソなのです。そんなことはありません。おかしいですとおばあさんに申し立てても、おばあさんは、ますますウソを重ねていくのです。
 どうしようもありません。おばあさんの話を聞いておばあさんの味方をした近所のおじいさんは、自分が被害者になるまで、だまされ続けます。コワイコワイです。(恐い(こわい))

 焚口(たきぐち):釜戸(かまど)、ストーブ、ボイラーなどの燃料を入れて火をつける口。

 ちょっと自分にはむずかしい本でした。  

Posted by 熊太郎 at 08:26Comments(0)TrackBack(0)読書感想文