2014年05月22日
ふたり 2014課題図書
ふたり 福田隆浩 講談社 2014課題図書
心やさしい、まじめな小説でした。よく練られた構成でした。後味がいい。さわやかです。
小学校6年3組にいるふたりの男女児童の恋を重ねながらいくつかのメッセージが発信されています。ひとつは、男女が助けあうこと、ふたつめは、自分の将来への夢をめざして勉強すること、みっつめは、いじめに負けないこと、あわせて、いじめてはいけないこと、よっつめは、障害者に対する気持ちのもち方、いつつめは、親子関係の絆、むっつめは、図書館を舞台にした読書への誘い(いざない)、ななつめは一期一会(いちごいちえ。会うは別れの始めなり。)です。
読書の経過をふりかえります。
学校ものを読むのは苦手です。「世界が狭い」ということが一番の理由です。学校にいた頃は、学校生活がすべてでした。でも、社会人になってみると、学校は、限られた範囲内の特殊な世界だったとわかります。もっとも違うのは、学生は働いて収入を得る活動をしていないことです。保護されていることが前提で主張ができる身分です。年齢を重ねていくと、学校はだんだん遠い世界になって、やがて忘れてしまいます。過去に学校で何があったかは、将来という位置に立ったとき、あまり意味がありません。小説のなかで、主人公のふたりは冒険をします。若い頃の思い出づくりです。学校周辺というエリア(範囲)を飛び出してみる。心の強い人間になるための訓練でもあります。
小説に書いてあるのは小学校6年生の10月から翌年卒業時期3月までの出来事です。小学生から中学生になる人生の「転機」です。ミステリー作家月森和のファンである転入生の小野佳純(おのかすみ。母親がろうあ者(障害者。言葉を理解できるが声をだせない。)。佳純は手話ができる。将来はろう学校の先生になりたい。)と村井准(むらいじゅん。おととし、小4のときに両親が離婚。母子家庭で母とふたり暮らし。母親は市役所職員。外車のディーラーをしている別れた父親は新しい恋人と再婚予定。さらに再婚相手には連れ子として中学生の娘がいます。准は私立中学校をめざして受験勉強中。将来は作家になりたい。)のひとり語りが交互に記述されていきます。
前半のふたりの出会いとか、気持ちのもちかたは清らかで新鮮です。物語のなかでこのふたりは、この先どうなってゆくのだろうと考えましたが予測できませんでした。ふたりは、覆面ミステリー作家「月森和」のペンネームに関するミステリーを共同で探索し始めます。共通の話題があると友だちづきあいは長続きします。
読み手も登場人物のふたりと一緒になって、「月森和」の正体を考える読書になります。わたしは、ふたりの両親とか、近くにいる人が月森和ではないかと推理しましたが見事はずれました。
小野佳純へいやがらせをして楽しむ女子グループの様子を読んでいたときに、<児童は教室の中で、本当の自分ではない別の個性の人物を演じているというような発想が生まれました。家庭の事情をかかえつつ、気持ちを整理できる年齢になっていないこどもたちが通うのが教室という場所>
96ページまできて、とある作家さんの名前が頭に浮かびました。本屋大賞の候補作を書かれた木皿泉さんという方です。これ以上書くとネタばれになってしまうのでここまでにしておきます。
心に残ったいくつかのシーンとかセリフがありましたのでご紹介しておきます。
・小野佳純のママは耳が聞こえないから始まる文脈の流れのあとで、村井准が手話を少し覚えて、指文字で小野佳純に励ましの気持ちを伝える67ページのシーン。
・「ママがしあわせならパパもしあわせ」
・担任の言葉「残りわずかだから思い出をつくろう」
・後半で小野佳純の「信じたいなあ(今の将来への気持ちがこれからも変わらないことを)」
心理的に濃密な関係になったふたりについて、読み手は、将来ふたりが結婚することを望みます。ただ、小学校6年生同士の恋が成就することは稀(まれ)です。将来就きたい職業に就ける人も少ない。年齢を重ねるにつれ、夢は徐々にしぼんでいきます。その過程のなかで、人の気持ちや態度は変わっていきます。嘘をたくさん重ねるようになります。初恋相手とは、現実には「別れ」を迎えることが多いのですが、読み手がつくるこの世にない1冊となるこの物語の続きは「結婚」であってほしい。日本の場合、男女間で長く友情を育むということはむずかしい社会風土があります。
最後にこれまで読んできた課題図書の特色として、九州出身の作家さんとか、舞台が九州にある県とかが複数あって、やはり九州には文化が生まれる風土があると再確認しました。
質のよい読みやすい小説なので、2~3回読んでから感想文を書き上げていくのもいいでしょう。
心やさしい、まじめな小説でした。よく練られた構成でした。後味がいい。さわやかです。
小学校6年3組にいるふたりの男女児童の恋を重ねながらいくつかのメッセージが発信されています。ひとつは、男女が助けあうこと、ふたつめは、自分の将来への夢をめざして勉強すること、みっつめは、いじめに負けないこと、あわせて、いじめてはいけないこと、よっつめは、障害者に対する気持ちのもち方、いつつめは、親子関係の絆、むっつめは、図書館を舞台にした読書への誘い(いざない)、ななつめは一期一会(いちごいちえ。会うは別れの始めなり。)です。
読書の経過をふりかえります。
学校ものを読むのは苦手です。「世界が狭い」ということが一番の理由です。学校にいた頃は、学校生活がすべてでした。でも、社会人になってみると、学校は、限られた範囲内の特殊な世界だったとわかります。もっとも違うのは、学生は働いて収入を得る活動をしていないことです。保護されていることが前提で主張ができる身分です。年齢を重ねていくと、学校はだんだん遠い世界になって、やがて忘れてしまいます。過去に学校で何があったかは、将来という位置に立ったとき、あまり意味がありません。小説のなかで、主人公のふたりは冒険をします。若い頃の思い出づくりです。学校周辺というエリア(範囲)を飛び出してみる。心の強い人間になるための訓練でもあります。
小説に書いてあるのは小学校6年生の10月から翌年卒業時期3月までの出来事です。小学生から中学生になる人生の「転機」です。ミステリー作家月森和のファンである転入生の小野佳純(おのかすみ。母親がろうあ者(障害者。言葉を理解できるが声をだせない。)。佳純は手話ができる。将来はろう学校の先生になりたい。)と村井准(むらいじゅん。おととし、小4のときに両親が離婚。母子家庭で母とふたり暮らし。母親は市役所職員。外車のディーラーをしている別れた父親は新しい恋人と再婚予定。さらに再婚相手には連れ子として中学生の娘がいます。准は私立中学校をめざして受験勉強中。将来は作家になりたい。)のひとり語りが交互に記述されていきます。
前半のふたりの出会いとか、気持ちのもちかたは清らかで新鮮です。物語のなかでこのふたりは、この先どうなってゆくのだろうと考えましたが予測できませんでした。ふたりは、覆面ミステリー作家「月森和」のペンネームに関するミステリーを共同で探索し始めます。共通の話題があると友だちづきあいは長続きします。
読み手も登場人物のふたりと一緒になって、「月森和」の正体を考える読書になります。わたしは、ふたりの両親とか、近くにいる人が月森和ではないかと推理しましたが見事はずれました。
小野佳純へいやがらせをして楽しむ女子グループの様子を読んでいたときに、<児童は教室の中で、本当の自分ではない別の個性の人物を演じているというような発想が生まれました。家庭の事情をかかえつつ、気持ちを整理できる年齢になっていないこどもたちが通うのが教室という場所>
96ページまできて、とある作家さんの名前が頭に浮かびました。本屋大賞の候補作を書かれた木皿泉さんという方です。これ以上書くとネタばれになってしまうのでここまでにしておきます。
心に残ったいくつかのシーンとかセリフがありましたのでご紹介しておきます。
・小野佳純のママは耳が聞こえないから始まる文脈の流れのあとで、村井准が手話を少し覚えて、指文字で小野佳純に励ましの気持ちを伝える67ページのシーン。
・「ママがしあわせならパパもしあわせ」
・担任の言葉「残りわずかだから思い出をつくろう」
・後半で小野佳純の「信じたいなあ(今の将来への気持ちがこれからも変わらないことを)」
心理的に濃密な関係になったふたりについて、読み手は、将来ふたりが結婚することを望みます。ただ、小学校6年生同士の恋が成就することは稀(まれ)です。将来就きたい職業に就ける人も少ない。年齢を重ねるにつれ、夢は徐々にしぼんでいきます。その過程のなかで、人の気持ちや態度は変わっていきます。嘘をたくさん重ねるようになります。初恋相手とは、現実には「別れ」を迎えることが多いのですが、読み手がつくるこの世にない1冊となるこの物語の続きは「結婚」であってほしい。日本の場合、男女間で長く友情を育むということはむずかしい社会風土があります。
最後にこれまで読んできた課題図書の特色として、九州出身の作家さんとか、舞台が九州にある県とかが複数あって、やはり九州には文化が生まれる風土があると再確認しました。
質のよい読みやすい小説なので、2~3回読んでから感想文を書き上げていくのもいいでしょう。
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