2012年08月24日

理由 宮部みゆき

理由 宮部みゆき 新潮文庫

 宮部みゆき著新潮文庫。宮部さんの作品を読み始めるのには勇気がいります。まず長い。この本は700ページぐらいあります。かつ、ページにびっしりと文字が詰まっています。さらに話がなかなか始まらない。事件が起こらない。100ページを過ぎたあたりから事が始まる。それまでは日常生活の描写が克明にかつ説得力と迫力をもって綴られていきます。
 この作品の読み始めは驚きました。いきなり事件が勃発したからです。しかし、以降は前記したとおり日常生活の描写が続きます。作者はまるでレポーターのポジションで、すでに終わったこととして、今回の殺人事件を伝えていきます。1週間ぐらいで読み終えることができるかなあ。
(つづく)
 「家族」がテーマです。結婚、親戚づきあい、マンション購入、こどもの教育などを経験されたことがある皆さん向けの内容です。結婚というのはふたりだけのことであればわずらわしさは少ない。お互いの親、きょうだい、職場の人間、趣味の仲間、同窓生などがからんでくる。金の貸し借りややりとり、保証人、競売、宗教、政治、こどもの学業成績・素行、近所づきあい、病気、いろいろなものがからんできて、うまくいくことがうまくいかなくなる。物語の前半で登場
人物女性のひとりが夫の親族に対して「私は死んだことにして」もう親戚づきあいはしない。この世にいない存在として扱ってと主張します。
(つづく)
 法律事務所の事件記録の集大成のようです。後半は福祉事務所のケース記録のようでもあります。さて、作者が登場人物の個性設定をしていく。ひとりひとりの履歴書を作成して、登場人物のコントロールをしていくのが通常です。ところがこの作品の場合、登場人物が作者に乗り移っているように感じるのです。作者はキャラクターの魂にあやつられるように著述していくのです。人がこの世に生まれてきた「理由」を問うために、この作品はできあがったのです。

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