2011年01月03日

KAGEROU 齋藤智裕 

KAGEROU 齋藤智裕 ポプラ社

 ページ数236ページ、しかし原稿用紙換算だとずいぶん少ない。2時間コースか。午前8時44分、読み始めました。
 臓器移植が素材です。読み始めは、ドナー募集活動をしている団体から抗議がくるのではないかと心配しましたが最後は上手にまとめてあります。書き出しのシーンはわたし好みです。廃屋となったデパート屋上の遊園地が舞台です。昭和時代の残り香がします。墓標のたとえがいい。大東泰雄(おおひがしやすお)40歳が主人公です。バブル景気で採用されおそらくリーマンショックでリストラされた自殺志願者です。彼は忍耐の限界値が低い。「下流の宴(うたげ)」林真理子著で登場する19歳福原翔の未来の姿と受け取りました。相方となる京谷貴志(きょうやたかし)若者は、デス・ノートに登場する悪魔を想像させてくれます。京谷の登場シーンを読んで、スパイダーマンを想像する。次のページで「スパイダーマン」の文字が出てきました。中高生の頃、深夜放送で聞いていた星新一氏のショート・ショートを思い出す展開です。物語の設定はGoodです。
 KAGEROUとは昆虫の蜻蛉(かげろう)を指すものであり、自然現象の陽炎(かげろう)ではないと解するのですが、作者は両者を意図しているのかもしません。
 人体の部分が中古車の査定方式で金銭に換算されていく。ケータイ、パソコン、現代的な記述です。幼稚さは否(いな)めない。理屈をセリフで引っ張る手法に魅力はない。パソコンが市場に出回りだした頃の巨大なデスクトップパソコンを分解、部品を交換する作業のような記述が続きます。脳みそがハードディスクとかメモリであり、心臓はCPUなのでしょう。
 「100万回生きたねこ」佐野洋子著がぽつりと書いてある。その絵本作品がこのKAGEROUを意味していることに読者は気づけるか。
 無駄な文章が目立ちます。省略したほうがいい。「説明文」は不要です。小説に理屈はもちこまないほうがいい。小説は「感情」です。
 洋画「ゴースト」の要素がとりこまれている。もうひとつ洋画になったアメリカ小説「私の中のあなた」も拾いこまれている。それでもかまわない。
 別れは別れとして厳しく描いたほうがいい。午前10時14分に読み終えました。途中に休憩をはさんで1時間30分コースでした。最後の部分、読み手は仕掛けを理解しますが、あいまいな記述があり気になりました。この部分は、「秘密」東野圭吾著の冒頭付近がヒントになっているのでしょう。いろいろありますが、わたしは、この調子で小説を書き続けていける方だと判断しました。

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