2018年02月17日

百年泥 石井遊佳

百年泥 石井遊佳(いしい・ゆうか) 新潮社

 思い出したくない過去が、泥から出てくる。瓶のふたがとれて中身が飛び出してきたようです。精神世界のありようが文字で表現されていました。むずかしい。泥は、百年に1回起こる洪水の泥です。インド、チェンナイにある大河にかかる橋の下をいま泥の河が流れている。

 日本語教師の野川さん女性が主役です。
 アダイヤール川氾濫、泥川の深さ1m
 
 前半(多重債務者、離婚経験者)から中盤、とても面白い。貧困がからんでくる後半は、むずかしい。
 前半の混沌とした様子が、川は異なりますが、ガンジス川のイメージで、インドという国が心に迫ってきます。
 
意図的な「ひらがな表記(インド人の発言を中心にして)」が、内容に合っています。文字の芸術作品の一面があります。です・ます調で小説を書けないだろうかと発想しました。
インドと日本のお国柄の違いもおもしろい。(成人男女分離の文化・制度)
仕事や勉強よりも、目の前の生活が大事(書中では「いまが好き」)。インド人は、未来に投資しないのだろうか。そんなことはあるまい。

ものをしゃべらない母、人に対するこだわりあり。話せるのに、口をきかないこどもは見たことがあります。どうすることもできない。

80ページなかばから読んでいてさびしくなってくる。

調べた言葉。「果報者:幸せ者。仏教からの言葉」、「孕み:花をはらみ。子を宿す。」、「飛翔通勤:インド。作者の想像なのだろうか。たとえば、エンジン付きパラグライダーを使用して通勤する。」

印象に残った言葉。「目ぢから」、「ジャーンディス、黄疸のこと」、「火葬して遺骨をガンジス河に流すと魂は天国へいく。」、「お金は貸さない。あげる。」

 カバーの絵が、内容と合っていないような気がします。絵は観光客のカップルがインド訪問という内容に見えますが、実際は、日本語学校の日本人先生と、インド人生徒でしょう。

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