2015年11月03日

傘をもたない蟻たちは(ありたちは) 加藤シゲアキ 

傘をもたない蟻たちは(ありたちは) 加藤シゲアキ 角川書店

 これからしばらくは、次回の本屋大賞の候補作になるかもしれない作品さがしのための小説読みになります。

 短編集で6本あります。

「染色」現在のことではなく、過去にあったことの「思い出」として書かれています。美術大学生橋本美優(みゆ)を中心に置き、市村文登(ふみと)にしゃべらせながら、美優の産みだす色彩世界を才能豊かに表現した佳作です。不思議な感覚、力(ちから)として、この作品を読みながら、あるいは読み終えると、この世にないもうひとつの別の作品を想像・創造することができます。美優は実はこの世に存在していなかった。市村文登(ふみと)の精神世界にだけいた人物だった。美優は幽霊のようでした。自分の心の中と、相手の様子と、周囲の環境を、精神世界の描写として文章化してありました。病的です。それから、色彩重視の展開は、宮沢賢治作品を意識してベースにおいてあるのかもしれない。読み始めの1本です。内容は、一見「深い」。他の作品にも目を通して本物かを判断してみます。

「Undress」タイトル英語は「裸」という意味だろうかと読み始めました。すごい筆力です。ストーリー構成が魅力的です。今年読んでよかった1本です。裸になるのは、脱サラ営業セールスマンの大西勝彦、年齢は32歳ぐらいです。男女関係の性、煙草、アルコールと不純なものに囲まれながら、策略、転落、どんでんがえしが続きます。この物語の鍵を握っているのが、仕事のできない社員、左遷された営業事務の石田です。からんでくるのがエンジェルナンバー(ゾロ目の数値)。かなり面白い。響いてきた一文(いちぶん)は、サラリーマン時代は土日も仕事か仕事の準備(同感・共感)、それから、大西は打ちのめされていったのひとこと。わからなかった言葉は「ジェンガ」。パーティゲーム、タワーから断片をタワーが壊れないように抜く。この物語ではタワーが壊れていきます。美しき風景として、雲間から光が下りてくる「天使のはしご」。エンドレス(終わりのない)な物語で、終わっても、継続していきます。たいしたものです。創作能力の高さに感嘆しました。

「恋愛小説(仮)」女性週刊誌から依頼されて、若い小説家は、これまでに書いたことのない恋愛小説を書き始める。内容は繊細です。夢で自分の理想の女性(外見が理想)、久米島ユキエに会う。辻村深月作品「ツナグ」を再び呼び起こす力量をもった濃い短編に仕上がっています。頬がこけて、死に近づいていく。どう決着をつけるのか、後半は興味津々でした。最後の一節、-悪くないな-が良かった。

「イガヌの雨」これは、イガヌが何かという疑問から始まるわけですが、それをここに書くわけにはいきません。全体を読み終えてみて、祖父のもつ心温まる理屈、そして食に対する愛着とこだわりが光っていました。もうじき18歳に達する美鈴という少女が主人公の物語です。ラストでは主題が見えないのですが、人間がもつ欲として食欲にゆき着きます。
ありえないシーンだけど、ありえたらいいナというシーンが続きます。ステキです。

「インターセプト」タイトルの意味は、横取りする、迎撃する(げいげき)、スポーツでは、合法的にパスを途中でとる。読んだあと、タイトルと内容はぴったりこないもののその筆力にまたもや驚異をもちました。以前読んだなんとかラブという小説の類似物ですが模倣ではありません。女性の名前は中村安未果、言い寄る上司が新婚間もない林さん。舞台は社員の結婚式です。ふたりの共通点はアメリカンフットボール。ラストはこわーい。怖すぎて、おもわず微笑んでしまいました。

「にべもなく、よるべもなく」ぐんと質が落ちた。うーむ。なぜだろう。前半は若い。後半老化。落ち着いた。ちょっとこれは…。何かに満足して創作意欲にかげりが出たのか。一時期だけの才能開花だったのか。
先輩のゲイ、同級生のゲイを扱った作品です。ポルシェでの首都高速疾走シーンがあります。首都高ではないけれど、高速深夜単独走行の体験は何度かあるので雰囲気はわかります。妄想と男性同士の同性愛の記述です。ちょっと受け入れがたい。ゆえに、にべもなく、よるべもなくなのか。「全部、東京のせいだった」のフレーズが良かった。


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