2023年12月06日

おとうさんの ちず ユリ・シュルヴィッツ

おとうさんの ちず ユリ・シュルヴィッツ作 さくまゆみこ訳 あすなろ書房

 同作者の『よあけ』を以前読んだことがあります。気持ちがしみじみとする絵本でした。
 作者は、1935年(日本だと昭和10年)ポーランド生まれで、第二次世界大戦を経て苦労をされています。ポーランドから、パリ、イスラエル、アメリカと転々と住居を変えておられます。

 きれいな表紙の絵です。少年が空中を飛んでいて、眼下に街(まち)があります。
 それは、空想の世界です。

 事実に基づいているのでしょう。
 お父さんの思い出です。
 この絵本は初版が、2009年(平成21年)で、2022年(令和3年)で19刷の発行です。
 
 ページをめくって、ウクライナとか、パレスチナガザ地区のような絵です。戦争があります。
 現代日本人の大半は体験したことがない戦争のことです。
 『ぼくの かぞくは なにもかも うしなって、いのちからがら にげだした』とあります。

 逃げのびた先の国の絵は、中東、サウジアラビアのような風景です。ラクダのいる国です。砂漠です。(作者の実際の体験は、旧ソ連現在のカザフスタンらしい)
 土でつくられた低層の家が並んでいます。北アフリカの光景のようでもある。
 ぼくの家族は、戦争難民のようです。

 あるひのこと、
 おとうさんは、パンを買いに行ったけれど、パンを買ってこなかった。
 パンの代わりに、大きな『世界地図』を買って来た。
 地図を食べることはできない。家族はがっかりしたが、お父さんは大喜びだったそうな。

 当時、『紙』がなかったことが、こどものころの作者の言葉で語られます。
 紙がなかったから、同じ紙に書き続けた。紙は真っ黒になった。当時、白い紙は、てもと(手元)になかった。

 お父さんの手で、家の壁にとても大きな地図がはられました。
 
 不思議な絵本です。
 地図に書いてある地名がJAPAN(ジャパン。日本)の地名なのです。日本人用に翻訳してあるのかもしれません。
 『フクオカ タカオカ …… フクヤマ ナガヤマ …… オカザキ ミヤザキ ……』
 オムスク:ロシア中南部の都市
 トムスク:ロシアシベリアにある都市
 ピンスク:ベラルーシ―にある都市
 ミンスク:ベラルーシ―の首都

 少年は、壁にはられた地図を見ながら空想にふけります。
 地図の中に入って旅をします。
 何もないところに何かをつくる。

 少年は空想をしながらいろいろな国に行くのですが、とにかく絵がきれいです。
 少年は幸せそうです。
 ひもじさも、まずしさも忘れることができたとあります。

 そういうことってあります。
 実際にできないことは、想像することでできたという気持ちになれることはあります。
 戦争を背景にして、人間のありようを表現した作品でした。
 とにかく、もうこれ以上人が死ななくてもいいように、戦いをやめてほしい。

 作者はあとがきに、ソ連で6年間暮らした体験があると書いておられます。現在のカザフスタンだそうです。現在は88歳で、アメリカ合衆国のニューヨークにお住まいです。  

Posted by 熊太郎 at 06:42Comments(0)TrackBack(0)読書感想文