2012年02月07日

舟を編む 三浦しおん

舟を編む 三浦しおん 光文社

 「舟を編む」は、大規模な国語辞典を編纂(へんさん、まとめる)することを指します。主人公馬締光也(まじめみつや、みっちゃん)の27才からスタートします。玄部書房荒木公平59才は定年をまぢかに控え、自分の跡を継いで辞書「大渡海(だいとかい)」を編纂してくれる社員を探します。冷静に考えると手遅れです。いまさらという気分もあります。後継者はもっと早くに育成しておくべきです。とはいえ、これは小説です。会社が倒産することはありません。最近は人事異動の周期が短くなりました。30年ぐらい前は、5年から7年選手がごろごろいました。この道一筋何十年、それこそ「生き字引」と呼ばれる社員がいて組織を支えていました。機械化の積極的な導入によって、職人が減りました。
 馬締(まじめ)君は、名前のとおり真面目(まじめ)です。本作品は「まじめ」その意味が一番大事な物語です。彼は言葉の意味にこだわります。言葉の成り立ちにもこだわります。国語学者さんのようです。舞台は東京神田神保町から東京ドーム方面です。物語の内容はマニアック・オタク(極端に熱中)です。そこまで考えていたら日常生活を遅れません。辞書編纂に関わるひとたちは奇人です。他人に危害を加えることはありませんが、常人の意識からはずれた生活を送っています。それでも健全であることは間違いありません。
 売れない本はつくらない。辞書は売れない。時間と労力がかかる。割に合わない。出版界の内情が書いてあります。筆者にとって身近な世界なのでしょう。以前読んだ同筆者の「風が強く吹いている」は傑作です。ところが、今回の作品ではとくに後半部分が漫画の原作風になってきます。本の装丁にもコマ漫画が描いてあります。どうしたのだろう。読者層の趣向に合わせて文体を軽くしている印象があります。これもまた売れる本をつくるためなのでしょう。しかたがありませんが、本人は不服でしょう。
 馬締君の恋話が登場します。恋情(れんじょう、淡くときには強く異性に気持を寄せる。)です。恋の対象は竹取物語のかぐや姫です。固有名詞のあれこれには純和風の名称が付けられています。馬締(まじめ)君と香具家(かぐや)さんとの関係をみながら、筆者は自分が体験できなかった人生を自分を主人公に置き換えて小説を執筆していると考えました。
 1日か2日あれば読み終えることができる文章量です。少ない文章量にもかかわらず、内容では数十年の歳月が経過します。文章量の少なさから、読み手は時間の経過についてゆけません。物足りなさと今後の作品に対する将来への不安が残りました。
 心に残った表現部分を書いて終わりにします。
 「どうかいい舟をつくってくれ」人は辞書という舟に乗り人生という海を渡ってゆくのです。
 愛される辞書をつくれば会社は長年安泰という表現。
 食べても食べても料理をつくる。まとめてもまとめても言葉は自由に変化してゆくという内容の表現。

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