2022年04月19日

夜が明ける 西加奈子

夜が明ける 西加奈子 新潮社

 久しぶりに西加奈子作品を読みます。
 先日読んだ『ナナメの夕暮れ 若林正恭 文春文庫』で、お笑いコンビオードリーの若林正恭さんは、西加奈子さんと加藤千恵さんとお酒を飲むことがあるそうです。加藤千恵さんの本はこのあいだ1冊読んだので、今度は、西加奈子さんのこの本を読んでみます。

 勢いのある出だしの文章です。久しぶりに西加奈子さんが書いた文章を読みます。
 アキ・マケライネン(フィンランドの俳優。身長194cm。40歳で酔って死去。映画『男たちの朝』に出演)という人物が、唐突に登場します。(とうとつ。だしぬけに。やぶからぼうに)
 さらに、アキ・マケライネンの人物像と重なる高校一年生男子が出てきますが、ふたりには何のつながりもありません。

次が、アキ・マケライネンに風貌が似ている人物です。
 深沢曉(ふかざわ・あきら。1982年冬の生まれ。高校一年生。身長191cm。老けていて、おどおどしている。でかい。ただし、見た目だけ。目が悪い。吃音(きつおん。どもり)あり。
 家庭に恵まれていない。母親が19歳で産んだこども。父親は人物・所在ともに不明。祖母や母親以外の人間に育てられた。母親は心を病んだ(やんだ)。
 彼は、本書中では『アキ』と記されます。

 主人公(とりあえず25ページまで読みましたが、まだ名前は出てきません。父親が雑誌・書籍デザイナー。趣味人で、家に大量のVHS映画テープあり。なお、主人公は、1998年で、15歳、高校一年生の設定です。高校2年生のときに42歳の父親が交通事故死します。単独事故、されど、自死の判定あり。
 母は高卒後、出版社の事務員。20歳で結婚。22歳で主人公を出産しています。

 文脈からいくと、どうも、アキ・マケライネンは、もう死んでいるようです。そして、主人公は成長して、いまはおとなになっている気配があります。
 アキ・マケライネンは日記を書いていた。その日記を主人公男子が今ももっている。日記はほとんどが、ひらがなで書いてある。

 26ページ。どうもこの物語は、貧しい家に生まれたこどもの話のようです。
 アキには、孤独があります。アキの友だちは『雪』です。
 かなり暗い内容の小説になりそうです。
 
 遠峰(とおみね):ガソリンスタンドでアルバイトをしている女子生徒(主人公が心を寄せている)一重の目がつり上がっている。

 中島弁護士:主人公の亡父の友人。父は多額のカードローンが残っていた。相談にのってもらった。中島氏には離婚歴あり。引きこもりの21歳の息子と同居しているが、同じ家に住んでいるのに、長い間息子と会ったことがない。

 読みながら、半世紀以上昔、自分がこどものころに、債権者が差し押さえのために、近所の家にすごい勢いで乗りこんで行く姿を見たことを思い出しました。
 家財道具に赤い紙をぺたぺた貼っていました。
 差し押さえの風景だったのでしょう。

 59ページまで読んで、アキというのは、主人公にとっての、もうひとりの自分。別人格の自分なのだろうかという思いが生まれました。(実際は違っていましたが、同じだと考えても物語が訴えるメッセージの解釈に間違いはないでしょう)

 親が精神病だったら、こどもは、どうしたらいいのだろう。
 昔は、親父がアル中だという話はよく聞きました。
 親がお酒飲みだと、こどもは苦労します。

 読んでいると、悪い方向へ向かっての一方的な書き方なので、こんなひどいことばかりでもあるまいに、という疑心暗鬼(ぎしんあんき。疑い。不満)が生まれます。極端すぎやしないだろうか。
 読者の脳みそは、作者に、暗いイメージを植え付けられそうです。
 暗示です。読者が作者に暗示をかけられそうです。

 モデルとなる少年なり、母子家庭があるのだろうか。
 奨学金の話が出ます。
 自分も貧乏な母子家庭で育ったので、奨学金をもらいながら学校で学びました。
 借りた奨学金は、結婚した時に残り全額をまとめて返済しました。
 変な話ですが、結婚式のご祝儀の残りと貯金で返済しました。たくさんお祝いをいただいて、お返しもしましたが、それでもあまりました。助かりました。ありがとうございました。
 その後、奨学金を返さない人がいるというニュースを聞いて驚愕しました。(きょうがく。ひどく驚いた)こどものころから、借りたお金は利子を付けてきちんと返済するのだと教育されてきました。返せないお金は最初から借りないと教わりました。恩を仇(あだ)で返すとバチがあたります。(恩人に害を与える)
 次の世代の人たちに貸し付けができるように、返済することが原則だと思うのです。この本では、返せないものは、返さなくていいのではないかという文脈で書いてあるので不可解でした。

 物語は、劇団の話になります。
 先日観た昔の映画『青春の門 自立編』のような展開です。
 映画では、主人公は劇団に入って、北海道巡業に出発するところで終わっています。
 深沢曉とまだ、名前のわからない主人公の関係は、お笑いコンビをつくるふたりのような雰囲気もあります。
 プウラの世田谷:劇団名。劇団員が12名。主宰者が、演出家の東国伸子(ひがしくに・のぶこ)。華奢で背が低い。少女のよう。父は著名なCMディレクター。
 アキ(深沢曉)が入団しました。

 学校では弱い者やついていけない者はいじめられます。
 学校は、人間の標準化が求められる世界です。
 社会に出たほうが、自由です。しばりがなくなります。
 良かったセリフとして『負けちゃダメだ』俺は自分に言い聞かせた『負けちゃダメだ』
 一人称、ひとり語りの記述が続きます。

 こどもの世界からおとなの世界へとお話は進んでいきますが、おおざっぱな進行のようにみえます。

 主人公は、テレビ局の下請けをしているテレビ番組の制作会社に就職しました。6人採用。AD職(アシスタントディレクター。小間使い)
 社長は50代男性。高校卒業後、苦労して、製作会社を立ち上げた。社長によるパワハラあり。
 主人公の教育係が、田沢という女性。短髪。物言いがきつい。『絶対辞めんなよ』

 アキ(深沢曉)は、劇団活動を熱心にやっているけれど、報われて(むくわれて)はいない様子です。
 彼のアルバイトが治験。(新薬の実験台)
 劇団活動をしながらのアキが好きな言葉として『みんな家族なんだから』

 主人公は、25歳からひとり暮らしを始めて、今は、34歳独身になっています。
 テレビ局製作会社のアシスタントディレクターの悲哀に満ちた日常生活が描写されています。
 この小説はどこをめざしているのだろうか。読み手である自分は、現在、全体で407ページあるうちの136ページ付近にいます。人間ドラマや映画の原作本をめざしているのだろうか。

 どんな仕事にも苦労はあります。
 お金のために働きます。
 物語の内容は、社会派の記述です。(現代社会の問題点を鋭く突く)
 この本では、書き手として、取材したこと、資料集めをしたことが、一覧のように列挙されていきます。

 ダンさん:お酒依存の生活保護受給中の高齢者男性。
 生活保護制度のシステムに対する疑問点の提示が試みられていますが、思うに、高齢者、障害者、ひとり親家庭、傷病者の人たちなどが生活保護を受けるわけですが、ボーダーライン上にいる人が微妙な立場になります。
 人は、働かなくてお金がもらえるようになると、働かなくなります。どうやって、働かなくてもお金がもらえる環境を維持していこうかと考えるようになります。

 テレビ局の番組は、つくり物の世界です。
 意図があって、形式があって、完成がある。
 冷めた目で見れば、お金で動いている。
 箱の中の世界です。広がりが限られています。

 2歳児の虐待の話になります。
 大麻所持でタレントが逮捕されます。
 高齢者のようすが書かれています。
 話題が多方面で広がりすぎています。
 タレントの高齢化の話が出ます。
 外国人労働者(タクシー運転手)の話も出ます。
 読みながら思うのは、今自分が読みたい物語ではないということ。

 文章に勢いはあります。
 テレビ番組制作会社でアシスタントディレクターとして働く主人公は、働きすぎて顔に表情がない人間になっていきます。
 本の中を旅するように文章を読みます。今、186ページ付近にいます。

 自殺企図(きと。くわだてる)。
 すさんだ生活。
 仕事だけの人生。人生とは、仕事をして、お金を稼ぐだけなのか。
 盗作騒ぎがあります。
 底なしの貧乏暮らしだったこども時代があります。

 遠峯(主人公の高校の同級生で、貧困暮らしゆえに、学生時代にガソリンスタンでバイトをしていた女性)の名言として『私は笑うようになった』『絶対に恨まない(うらまない)って決めた』『これが私の戦い方なんだよ』
 
 生き方として『アキは、「無害」でいることを選んだ』

 田沢(女性):テレビ番組の編集者。男尊女卑の扱いをされることに対して、強い対抗心をもっている。

 救いようがない状況が続きます。
 うーむ。
 これでいいのだろうか。
 誇張がありすぎるような。
 人間はここまで悪いものではないと思いたい。

 印象に残った言葉として『逃げなさい』『おかあさんは、かみさまはいるといっていた。』『勝ち負けが全てでした。負けたら死ぬ、くらいの感じだった。』人に助けを求めることは「負け」という定義が提示されます。

 フィンランドの「夜が明ける」とは、どういう状態だろうか。
 白夜を思い浮かべてしまいます。
 それでも日の出はあるに違いない。

 主人公がこれまで働いてきて、稼いだお金はどこに消えたのだろう。

 うーむ。解決には至っていないような終わり方です。
 消化不良でした。
 自分の読み落としかもしれませんが、最後まで、主人公の名前は出てこなかった記憶です。
 どうなのか。主人公の氏名は出した方がいいし、そのほかの登場人物については、氏(名字みようじ)だけで、下の名前がなかったりして、読みながら、人物を身近に感じられませんでした。

 自分でがんばらなきゃ、だれも助けてくれないのが、人間界の基本です。
 努力しているから、助けてやろうという人が現れるのです。
 
 規定の『枠(わく)』の中にいないと人生が不幸になるという書き方がしてあります。そうだろうか。
 自分は老齢者なので、若い人たちとは考えが異なります。経験で物事を考える年齢です。
 同じ事象でも、受け止め方で、悲劇にも喜劇にもなります。気持ちの持ち方次第です。
 自分がこどもだったころの祖父母や両親の生き方が思い出されます。戦争体験者です。貧困体験者でもあります。たくましかった。畑を耕して、自給自足をするように衣食住の生活を送っていました。トラブルやハプニングが起こっても、くそくらえ!というガッツでのりきっていました。困難を困難と思わない人たちでした。
 貧乏とか貧困であることは、全面的に『不幸なこと』ではありません。
 『自分が自由に使える時間が少ないこと』が不幸です。

(その後)
 今、2022年4月27日水曜日なんですが、今、読んでいるのが、『バカのすすめ 林家木久扇(はやしや・きくおう) ダイヤモンド社』で、その本の感想文をつくりつつ、感想文の一部をここに転記しておくことにしました。
 戦争体験者の心のもちようです。

 (「バカのすすめ」の)36ページに、第二次世界大戦のとき、(林家木久扇(はやしや・きくおう)さんが)小学校一年生の時の東京大空襲体験が書いてあります。
 一晩で10万人の人たちが空襲で亡くなったそうです。悲惨です。
 夜空にはアメリカの爆撃機、空襲警報が鳴って、大火災が発生して、夜なのに空が明るい。
 自分も若い頃に、空襲体験者の話を聞いたことがあります。爆弾が落ちてくる中をぴょんぴょん飛び跳ねながら逃げたということでした。驚いたのは、空襲が終わったあと、落ちていた爆弾を拾った。今、庭にその爆弾があるよということを聞いて爆弾を見せてもらいました。爆弾の中身はからっぽで空洞でしたが、何本もありました。また、その人だけではなくて、別の複数の人たちの庭にも大小いろいろな形の爆弾が置いてあって、たいそうびっくりしました。みなさん、たくましい。人間はばかになって、開き直れば強い。悲劇が喜劇にすら転換します。大切なことは、生きていることです。
 37ページに『何が起きても、あの空襲のときに比べたら、こんなものは何でもないという思いがあったから、(癌になったとき精神的に)落ち込まずに済んだ』とご本人の言葉があります。

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