2022年01月14日

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 若林正恭

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 若林正恭 文春文庫

 小説だろうと思って手にしたら、旅行記でした。
 評判がいいので、読んでみます。

(つづく)

 旅の行き先は、『キューバ』『モンゴル』『アイスランド』です。日本人にとっては、一般的な旅先ではないような。

「キューバ」
 2014年2月初め。ニューヨークロケから始まりました。
 金(カネ)、金、金、ニューヨークは金を産む街です。金もうけで、心を興奮させる勢いに満ちた街という文脈で、著者はうかれつつも、胸に疑問をかかえています。

 2016年6月。旅行会社の手続きではホテル、利用する航空機は、満室・満席でしたが、コツコツスマホを操作して、旅行会社を通さずに、運よく予約が取れました。行き先はキューバの首都ハバナです。(三泊五日の短い旅ですが、全体を読み終えると内容は濃い。本作品が、斎藤茂太賞(さいとうしげた・しょう。日本旅行作家協会主催。斎藤茂太氏は、精神科医。随筆家)を受賞した意味がわかります)
 都内にあるキューバ共和国大使館領事部へツーリストカードをとりにいく。調剤薬局のようなところだったとあります。読んでいて、「ふーん」と、関心というか、意外性に当たりました。そういうものなのか。
 
 著者について、小学生時代(私立中学受験)から青年期(就職先)において比較(著者が下)という苦しみがあります。

 文章を読んでいて、ふと気づけば、民主主義について考えていました。
 議会制民主主義だから議員がいます。
 世のため人のためと言いながら、法令や制度制定の経過において、特定の人やグループのために積極的に動いている人が議員という職にある人、あるいは、利益があるメンバーや集団に操られている(あやつられている)人のポジションという印象しかありません。
 本当にこれでいいのだろうか。民主主義国家は、胸を張って、全体主義国家を否定できるのだろうか。疑問が生まれました。だから、著者は、社会主義国家であるキューバ行きを決めたのか。

 案外と言っては失礼ですが、この本はいい本ではなかろうか。
 著者だけのひとり旅です。
 飛行機は、日本を出て、カナダトロントで乗り換えです。
 
 以前テレビ番組「旅猿」でキューバに行った東野・岡村コンビを観たことがあるので、そのときの映像を思い出しながら本を読んでいます。街中にあふれるクラッシクカーの話はこの本とも重なります。

 「革命博物館(以前はバティスタという親米政権時の大統領官邸)」1953年から1959年キューバ革命。米国からの離脱。カストロ、ゲバラの勝利があった。
 フィデル・カストロ:1926年-2016年11月25日。90歳没
 チェ・ゲバラ:1928年-1967年。39歳没
 ラウル・カストロ:1931年-存命。90歳。フィデル・カストロの弟
 カミロ・シエンフェーゴスゴリアラーン:1932年-1959年27歳没
 
 タイトルにある「表参道のセレブ犬」は、競争に明け暮れて、上下の格差にこだわる人間たち。人間にABCD……のランク付けをして、Aの人間としか付き合わない人間のことのたとえに思えてきました。
 「カバーニャ要塞の野良犬」についてはまだピンときません。今は70ページ付近を旅するように読んでいます。(78ページに出てきました。キューバにあるカバーニャ要塞は1763年に建造された。著者が旅をしたとき、そこに、死んでいるかのような野良犬がいた。野良犬は飼われていないので腹をすかせていた。腹をすかせていたけれど「自由」を保有していた。いっぽう東京都内ブルジョアの犬は飼育されていた。資産家の犬は、空腹体験はなかった。ただし、資産家の犬には『服従』があって『自由』はなかった)

 ふと思い出しました。
 キューバ―といえば、野球が強い国だ。

 「革命広場」というところを過ぎます。文章を読むと、単なる広場の印象です。
 「アルマス広場」へ移り昼食へ。
 ひとり旅の不安があります。著者だけではなくて、現地ガイドの男性マルチネスも人見知りです。(知らない人を見て、照れたり、恥ずかしがったり、嫌がったりする)

 心に響いた文節などとして『仕事の関係(の人間)が好きな理由として、お互いに「良いもの」を作るという共通目標がある関係性には意外と白々しさがない』『この国は(キューバは)最新の輸入車を受け入れない代わりに守ってきたものがある(クラッシクカー)<意志とか気持ちとかを守ってきたという意味>』『笑いはどこの国でも強い(現地にて、チップがらみで笑い話があります)』『社会主義国なので広告看板がない(東京との比較話あり。ないほうが心には良い)』『東京だと行きたいところがなくひきこもるが、ここ(キューバ)だと、今日はいろんな所にいった。明日も楽しみだという気分になれる』『ぼくは夜間大学を出て芸人になり、20代はバイトをしながら食いつないだ』『家族って楽しいんだろうなあ』『(ここでは)バス停はあるが、バス停の立て看板はない(時刻表もない)』『物が少ないキューバでは古い物を何度も修理して使う』『3日間、日本のニュースはなにも知らない』『これまで見たかったのは、競争相手ではない人間同士が話している時の表情だったのかも……ぼくが求めていたのは血の通った人間関係だった(先日読んだ「スマホ脳」という本を思い出しました)』

 ruta:ルート(スペイン語)
 モヒート:ラムベースの冷たいカクテル。キューバのハバナが発祥地(はっしょうち)ミント(葉っぱ。シソ科ハッカ属)が入っている。
 ダイキリ:ラムベースのショートドリンク。砂糖、氷入り。
 ヘミングウェイ:米国の小説家。1899年(日本だと明治32年)-1961年(昭和36年)61歳没。1954年ノーベル文学賞受賞。作品として「老人と海」「武器よさらば」「日はまた昇る」「誰がために鐘は鳴る(だがためにかねはなる)」など。
 マリコ:キューバ在住の日本人ガイド
 ボン・ジョヴィ:米国のロックバンド
 兌換ペソ:だかんペソ。銀行券や政府紙幣を正貨と取り換える。ペソはスペインの通貨の単位。兌換ペソと現地のキューバ人が使用する国民ペソがある。

 「カテドラル広場」でモヒートを飲む。

 「サラトガ(ホテルの名称)」
 観光地としてのホテル・ナルシオナル・デ・クーパー。
 ジャズ・バーで雰囲気を楽しむ。クラブやジャズ・バーは、社会主義国なので国営となっている。
 
 「福岡詐欺」キューバ人が詐欺目的で日本人に近づいてくる時の口実。「福岡が好きです」東京が好きですだと日本人観光客に警戒されるそうです。お金目的ではなく、飲食代をおごって欲しいときに使うらしい。

 ドラマ『おしん』がこの地でも人気だそうです。たしか、イランでも大人気でした。

 副業をする人が多い。例として、医者や教師が、空き時間で、観光客用のタクシーの運転手をしている。

 「コッペリア(アイスクリーム店)」アイスクリーム5個で、8円から10円は激安です。

 ラテンアメリカはアミーゴ社会:アミーゴは友とか親友とか。友だち関係が濃厚な社会。コネ(縁故えんこ。血族・婚姻による姻族などの知っている者同士のつながり)で利用される。

 「サンタマリアビーチ」ビーチ行きのバスは中国製だったそうです。バスの利用は日本国内でも勇気がいります。地名はよくわからないし、ルートもそうです。バス旅はたいへんだと思います。人の親切が頼りです。
 キューバのバスには車掌さんがいて切符を買って、一日乗り放題のチケットだそうです。そういえば、昭和40年頃(1965年頃)の日本の路線バスには女性の車掌さんがいて車内で切符を売っていました。
 海水浴場で著者はトラブルに巻き込まれますが、まあ日本人観光客がひとりで場違いなところにいたからしかたがないような気がしました。
 
 文章を読み続けて、162ページの海と砂浜の海水浴場の写真を見ていると、人間の先祖は海から来たという実感が湧いてきます。
 
 日記というよりもリポート(報告)を目的とした日誌を読むようです。

 現地で人に声をかけるときの言葉が「オラ!」です。なんだかけんかを売っているようで反発が怖い。でも、相手の返答は「ウノ、ウノ」でほっとします。お金を支払えば「グラシアス!」の言葉が返ってきます。

 この当時のキューバには、スマホをはじめとしたSNS社会はありませんが、直接人間同士がふれあう交流があります。著者はそのことにこだわります。とくに『家族、親子関係。病死した父親と自分との関係を』深く探求します。自問自答です。『自分はこれまで幸せだったのか』著者にとって自分の父親は、著者を支え続けてくれた感謝に値する(あたいする。価値がある)人物だったそうです。恩人です。ずっと味方だったとあります。

 「マレコン通り」
  父上は2015年春から余命宣告を受けて入院していた。2016年4月14日に逝去されています。(せいきょ。あの世へ旅立った)
  仕事中は分人が違う(ぶんじんがちがう):対人関係において、自分がさまざまに態度を変える。

 キューバ行きの理由が明らかにされます。キューバは、亡くなったお父さんが行きたいと言っていた国です。
 胸にぐっとくるものがあります。
 『現にぼくはこの旅の間ずっと親父と会話をしていた』あたりから不思議な感覚が生まれてきます。
 海が見えるマレコン通りには人がたくさん集まってきますが、なにか有名なものがあるわけではありません。
 人と話をするために人が集まってくるのです。
 キューバのまちには、Wi-Fi(ワイファイ)が飛んでいないので、みんな会って話す。本心はモニターの中の言葉や文字には表れないと著者は強調します。
 
 新自由主義:経済思想。小さな政府、規制緩和、市場原理主義の重視。1980年代に登場した。

 弱者切り捨て:だれが「弱者」なのだろう。弱者を指定するときは、何が基準なのだろう。

 イノベーション:新しいことの発明。これまでの常識が一変する。

 先日読んだタクシー運転手の日記本を思い出しました。(六本木あたりで活動する人たちの中には、クレイジーな人がままいますというような雰囲気でした)

 後半部の記述手法として、( )かっこ内に書いてある幻想的な文章が詩的で良かった。
 今年読んで良かった一冊になりました。

「モンゴル」
 おもに大相撲の力士ぐらいしか思い浮かばない国です。
 あとは、ジンギスカンとか草原とか、移動テント暮らしの生活とか。(遊牧民)
 ずいぶん昔のことですが、愛知県犬山市にあるリトルワールドというテーマパークで、モンゴルサーカスというようなパフォーマンスをこどもたちと観たことがあるのを思い出しました。
 大柄で力持ちの男性が集団の中心におられました。
 さて、本を読み始めます。

 「チンギスハーン国際空港」
  飛行機は韓国で乗り換えです。
  首都ウランバートル。
  ゲル:移動式住居
  羊がいて馬がいる。
  グランドキャニオンは5分で飽きるが、草原はいつまでも飽きない。
  モンゴルでは15歳以下のこどもも働いている。(日本も過去はそうだった)
  シャーマン:霊魂と接触して交渉する人
  承認欲求:認められたい。

 日本にはないものがモンゴルにはあり、その逆もあるという話が生まれます。

 夫婦仲の良いモンゴル人カップルを見て自分も結婚したいと思う。
 馬を乗り回して草原を駆け回る。番犬に吠えたてられて、馬で逃げる。
 なかなかない体験です。

 文章は、短く、短時間で読み終えました。


「アイスランド」
 洋画「ライフ」で観たアイスランドの景色を思い出しました。雪とか氷壁とか絶景の連続でした。されど、人影は少なかった。
 旅行記はこれから読み始めます。
 こちらも短い文章です。
 「ケープラヴィーク国際空港」地図で見ると北極に近い。アイスランドの人口は約35万人。
 かなりきついスタートです。
 日本人はひとりもいないというつもりだったのに、全員が日本人のツアーに入ってしまいました。(あとで全員がロンドン在住のファミリーとかカップルだとわかります)
 タレントさんのひとり旅でのツアー参加は場違いです。
 著者は仮病を使ってツアーの夕食時に、丸テーブルから抜けます。著者は人見知りで心の壁が厚い。(その後、翌日以降、みなさんと打ち解ける(うちとける)ことができました。著者の沈んだ気持ちは救われました。人情は大事です)
 
 時期は大みそかです。アイスランドでは、各個人で、威力の強い花火を上げる風習があるそうです。文章を読むと花火のシーンは、かなり激しい。花火大会のようすを見ることが今回の旅の目的だそうです。掲載されている写真を見ながら、そういうものがあるのかと驚きました。
 とても楽しかったそうです。

 けっこう危険な旅行です。(見学地で事故にあいそうという意味で。花火が激しい。滝の見学で道が凍結していて斜面が急で滑りやすいとか、温泉の噴き出した湯が熱湯だとか)
 『自分の身は自分で守ってください』というガイドからの注意喚起が何度も出ます。
 
 オードリーのコンビで、ツアー客のみなさんの関心は、目の前にいる若林さんよりも、相方の春日さんのほうにあるのはしかたがないのでしょう。

 「また、テレビ見て応援しますね」のみなさんの声援がありがたい。

 最後のほうは下ネタでしたが、それでもいい。

 
 「あとがき」
 かなり、熱い思いが込められたあとがきの文章です。
 長すぎるのではないかと感じられるほどの長文です。
 コロナで非常事態宣言が出たときの東京銀座の風景が、社会主義国であるキューバに似ている(目に入る商品が少ない。店が閉店している)
 「コロナ後は、消費の目的が、モノからコトへ変わる」
 2016年に亡くなったお父さんの人生が重ねてあります。
 「競争」とか「比較」に関する反発があります。
 読んでいて、勝負で負けた元オリンピック選手の言葉が思い出されました。『金メダルよりも大切なものがあることに気づきました』
 著者は、キューバとモンゴルとアイスランドに行って、もう行きたい国はないと言っています。もう行く必要がないのでしょう。三か国を旅して、人間にとって大事なものを見つけたのでしょう。
 テレビ映像ではわかりませんが、「解説」にもあるとおり、人生を生々しく生きている人です。
 この本と、ここ最近読んできた本を通して、資本主義国家は、今は、行き詰まりの時期を迎えているという印象をもちました。

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